聖女の幼なじみ

野原もな

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教会

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 あれは4歳の頃だった。

「エレア、広場に遊びにいこう」

 フレイに手を引かれて右側にある噴水広場に向かう。
 
 フレイは最近ふてくされて家にいたがらない。次男のノアは6歳になってすぐに鍛冶見習いに入ったのに、8歳を過ぎてもフレイは仕事場に入れてもらえない。鍛冶見習いに入れるほど体が育っていないからだ。小柄なフレイとちびの私はやはり似ているのだ。

 自分ではどうすることもできないことにフレイはちょっとイライラしていた。
 遊ぶといっても四つも年が離れているからフレイは子守りのように私の遊びにつきあうだけだ。だが、フレイはエレアといると癒されると言う。
 ペットセラピーをしているように、子供の私で癒されていたらしい。

 それでも、それ以上の癒しを与えるべく幼い頭を回転させて考える。

 どうしよう、どうしよう。
 いっぱい、いっぱい、何日も森の中で考えた。

 私はこの近くにある一番きらきら光る場所に行くことにした。
 私はフレイの手を引き、きらきら光る教会へと向かう。

「エレア、どこに行くの?」

 優しいフレイは戸惑いながらも文句を言わず、私が引っ張るがままについてくる。一生懸命な私の様子を心配しながらもほほえましく笑う

 妖精も精霊もいるこの世界には当然のように魔力があり、魔法もある。といっても使える者は限られていて、王族や貴族、ごくごく一部の平民、それから、一部の聖職者。
 魔力持ちは自然と使えるようになるからすぐにわかるが、詳しい属性などは教会で調べてもらわないとわからない。そのため、教会の門はいつでも開かれている。

 きらきら光る教会の扉。中に入るとステンドグラスがあり、さらにきらきら輝いている。それらの輝きを身にまとった神父様が扉の近くに立っていた。
 フレイは戸惑うように立ち止まったが、私は小走りに近づいた。

「神父様」

 私が声をかけると壮年の神父様は背の低い私に視線を落としにこやかに微笑んだ。
 身分の低い者を見下す神父様も多いが、きらきら光る神父様は優しく私たちを受け入れてくれた。銀色の髪がステンドグラスの色に輝き、神父様を彩っている。
 
 私は神父様の手を取り、教会の裏側に向かう。ちょっと汚れて黒くなっている石があった。私は汚れるのも気にせずに石をぎゅっと抱きしめる。フレイは驚いていたが、私のすることを止めようとはしない。ぎゅうっと抱き締めたままでいると、黒く汚れていた石は神父様のようにきらきら輝きだした。
 きらきらしたことに満足し、私は神父様を見上げた。

「ねえねえ、神父様」

 私は聞きたかったことを問いかける。

「フレイは立派な鍛冶師になれますか?」

 フレイは黙って私の行動を見ていたが、いきなり問いかける私の口を慌ててふさごうとした。
 神父様はおやおやと笑みを浮かべてフレイの動きを押しとどめた。 

 私の目を紫の瞳がのぞき込む。

 私の目は神父様と違いありきたりな濃い茶色の目をしている。のぞき込んでもありきたりな目が見えるだけだろう。
 年若く見える神父様の服は高価な布でできていて、きらきらした刺繍で飾られている。

 神父様はフフフと笑った。

「君は鍛冶師になりたいのかね?」

 フレイは神父様に気圧されるように戸惑いながら頷いた。

「はい。兄は僕よりも幼いときに見習いになれたのに、僕はまだダメだって。僕は鍛冶師には向いていないのかな。母に似たから体も大きくないし。それに、僕は三男だから」

 泣きそうな顔で、悔しそうな声で呟いたフレイに神父様はフフフと笑った。

「大丈夫、君にも加護は与えられている。きっと立派な剣を造れるようになるよ」

 神父様の言葉を聞いて、フレイの目はきらきらと光った。

「それから、お嬢さんは鍛冶師ではなく、剣につける祈り紐を作るといい」

 思いがけない言葉に私は目を丸くした。大きな瞳がさらに大きくなる。

「祈り紐?剣の飾り紐のこと?」

「そうとも言うかな。お嬢さんが作ればきっと祈りも編み込まれるよ」

 神父様はにこにこと私の頭を撫でてくれた。

 目の前には先程まで暗く澱んでいた石がある。今ではきらきら輝いていた。

「ふふ、きらきら」

 きらきら輝く石に釘付けになる。

「…きらきらか」

 神父様が石をそっと撫でると金色のきらきらは神父様の方へ流れていき、神父様自信がきらきらになった。私も指でなぞってみたけど、きらきらは私の指には移らない。

「まさか、こんなところに」

 神父様は深い息を吐き呟いた。

 その後私たちは教会で作られたお菓子を貰った。教会のお菓子はきらきらはしていなかったけど、素朴でとても美味しかった。
 神父様は豪華な馬車で私たちを家に送ってくれた。

「どうして僕たちの家が分かったの?」

 フレイが聞いた。

「君たちはカルディアン家の子供だろう。あの家は特別だからね。一目でわかるよ」

 私とフレイは驚いて目を見合わせた。
 我が鍛冶店は教会にとっても特別な店だったらしい。

 なんだかとても疲れた私は馬車の揺れに身をまかせるように眠ってしまった。
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