聖女の幼なじみ

裏 母

　この世は澱み汚れている。

　
　俺の母は犯罪奴隷だった。
　
　元々は高位貴族の社交界の花とも呼ばれた令嬢だった。　
　女神に選ばれし聖騎士と恋に落ち、女神の祝福を受けて結婚をした。
　そのまま幸せに暮らしていくはずだった。

　だが結婚して数年後、聖騎士が急に亡くなった。
　何が起きたのか誰もわからなかった。

　夫の死を嘆き悲しんでいた母はなぜか夫殺害の罪で捕まった。
　母は裁判にもかけられず、いきなり犯罪奴隷に落とされ、娼館に売られた。

　私はなにも悪いことなどしていない。
　この世に正義などない。
　この世に神などいない。

　母はそう嘆きながら死んでいった。
　
　犯罪奴隷に対する扱いは酷い。
　奴隷には人権が無く、犯罪奴隷は人ですらない。
　貴族で、神に仕える聖騎士の妻であったにも関わらず、母は娼館の最底辺に落とされたのだ。

　奴隷は子供を産めないように魔術で処理される。
　それなのに、母は俺を妊娠し出産した。
　ずっと客の相手をし、身も心もボロボロになっていた母から俺は五体満足で生まれた。
　奇跡だと娼館の支配人ですら言ったという。

　本来なら生まれるはずのなかった俺は、普通の奴隷と同じ扱いを受けることになった。
　奴隷印を押され、魔力を制限され、奴隷印の鍵を持つ主に服従するよう魔術をかけられ、買われてきた子供の奴隷と同じように育てられた。

　娼館で生まれた女の子はそのまま娼婦となる。男の子なら男娼か用心棒、だめならなんでもやらされる下働きだ。
　俺たち奴隷の将来はさらに暗い。
　少し育ったら、子供好きの変態の相手をさせられる。すぐに死ぬことになるだろう。

　高級娼館のきらびやかな世界の裏側、欲望や嫉妬や苦しみの蔓延る汚れたここが俺のいる世界だ。