聖女の幼なじみ

野原もな

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裏 エレアの兄

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 その日、練習が終わっても二人の姿がベンチにはなかった。
 まだ図書館にいるのだろう。きっと聖女を残して二人でくだらない本の話しをして盛り上がっているのだ。

 放っておこうと思っていると、ベンチにエレアの兄が来た。
 ガタイのいい長男ではなく、よく広場で一緒に遊んでいた、エレアによく似た兄の方だ。
 
 この兄弟は髪色も顔立ちも、浮世離れした妖精のような印象もそっくりだ。彼は細く、優しそうに見えるが、彼の造る剣は習作であるにも関わらず人気があるという。
 俺と同じ年のはずなのに、彼は俺よりも一歩も二歩も先を歩いている。

「妹さんは、図書館に行っていて、まだ戻ってないよ」
 
 そっと彼に近づき声をかける。

 近くで見る彼からは不思議な魔力を感じた。汚れのない澄んだ魔力は聖女の魔力のように少し特殊で、魔力以外の力が混ざり込んでいる。これが精霊の加護を持つ者の魔力かと感心した

 彼は俺を見て目を見張り、にこりと微笑んだ。

「ああ、ありがとう。ここにいないから心配してたんだ。また、向こうに迷い込んだんじゃないかって」

「向こう?」

 彼は俺に顔を近づけると小さな声でそっと話した。

「エレアは精霊に好かれているからね。ふらっと精霊の地に入り込んで数日戻って来ないことがよくあるんだ。だから、目が離せない」

 なるほど、隠された姫か。
 正確には精霊に隠される姫なんだろう。

 納得している俺を深い焦げ茶の瞳がすべてを見通すかのように見ている。
 彼の手首には瞳と同じ色の皮を編み込んだ飾り紐がアクセサリーのように結ばれている。きれいな飾り紐から今まで感じたことがない強い力を感じた。

「ああ、これ?これはエレアが作ったんだ。どう?すごいでしょう」

「うん、すごいな」

 意味深な笑顔に素直に頷く。
 
「悪いけど、これは非売品なんだ」

 そうだろう。
 こんな力のこもった物を簡単に売り出せるはずがない。
 
 彼は笑顔を俺に向けた。

「気には魔力量がすごく多いね。質もいい。君も知っていると思うけど、僕は精霊の加護持ちで、妖精にも好かれているから、そういうのがよくわかるんだ。特に妖精はいたずら好きでね。いらないことまで教えてくれる」

 彼はフレイだと名乗った。
 俺も「カイル」だと名乗る。彼は少し首を傾げた。

 そのまま話しをしていると、自然と聖女も話しに加わってきた。
 聖女はフレイの話す剣やその装飾のことを興味深そうに聞いていた。聖女が剣に興味があると今まで知らなかった。確かにフレイの剣の話しは面白い。

「カイルは魔法と反発しないような剣を使った方がいいよ。カイルには俺の剣を使ってほしいな」

 フレイは長男と同じようなことを言う。
 俺がそう言うと彼は深く俺を見つめて続けた。

「うーん、ノアの剣でもいいのかもなぁ。でも、今のカイルには俺の剣の方が合ってる。ノアの剣は無理だよ」

 一瞬血の気が引いた。
 
 彼は何を見て、何に気がついたんだろう。

 そんな時、ユリアとエレアが戻ってきた。
 エレアは俺たちを見て、目をすがめた。その口から小さな呟きが漏れる。

「…フレイ、お前もか」

 ⋯ちょっと意味がわからなかった。
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