聖女の幼なじみ

野原もな

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裏 騎士団長

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 執務室の中は思い空気に満たされ沈んでいた。

 俺の前に座っている騎士団長は顔色が悪く疲れているように見えた。表情は取り繕っているが、団長の様子を副団長が気遣っているのを感じた。

「今日ここに来てもらったのは、あの鍵について話しがあったからだ。申し訳ない。魔術師に魔力捜索して探してもらったがどうしても見つからない。痕跡が途切れてしまうんだ。こんなことは本来ないことなんだが」

 騎士団長は大きくため息をつく。

「それに付随することなんだが、君は魔力制限をされているにも関わらず、試合ではいい結果を残している。本来なら学園ではなく本部の方で訓練を受けてもらいたいのだが」
 
 そこでもう一度深いため息をついた。
 言いよどむ団長を補うように副団長が言葉を繋いだ。

「聖女様が嫌がるんです。誰かが聖女様に君が奴隷だと話したようで、それ以来君を排除しようとしているんです。奴隷から解放されていたはずだったと言っても、聞き入れてくれない」

 俺もこの耳で聞いている。
 奴隷には人権がない。だが、あの聖女は奴隷が同じ人間だと思っていないのだろう。

 どう扱ってもいい、何を命じてもいいただの道具。
 俺がそうされることでどう思うのか、聖女は考えることもしないのだろう。

「君は将来の勇者候補として学園に入園しているのだが、そう扱うことができなくなるかもしれない。今まで聖女と同様に特待生扱いで、学費が免除されていたんだ。他の費用は君の元義父が好意で支払ってくれていた。だが、彼に学費の面倒までみてもらうわけにいかない。このままでは学園に通うのは難しくなるだろう」

 俺は退学になるようだ。

 俺には家族も、帰る場所もない。
 ギルドに登録して、冒険者にでもなるしかないだろう。

 ある程度腹は決まった。

「わかりました。魔王討伐、頑張ってください」

 了承の意味と、ちょっとした嫌み、そして本当に頑張ってほしいという気持ちをすべて込めて言った。

 団長も副団長も虚を疲れたように目を見開き、それから盛大に顔をしかめた。

「なにをいってるんですか。嫌みですか?我々が討伐するのは凶暴になったドラゴンです。魔王じゃありませんよ」

 本気で言い切る副団長に驚いた。

「そのドラゴンが魔王ですよ。凶暴化するのは魔獣です。魔獣の被害が増えてるんじゃないですか?」

 彼らはさらに深く顔をしかめた。
 騎士団長の顔色は悪い。

 ああ、そうか。
 神託は澱みに隠されたか。
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