聖女の幼なじみ

野原もな

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裏 話し合い

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 応接間は会議の場と化した。

「聖女という存在のあり方を、我々は誤解していたかもしれない」

 騎士団長の声は重々しい。

「精霊姫は一体なにを知っているのだろうか」

 騎士団長の問いにはクルトが答えた。

「エレアはわが一族の中でも特に精霊に好かれている。だが、エレアには精霊の愛し子である自覚がないんだ。魔力が無いから精霊を見ることもできないし、加護を自由に使うこともできない」

 クルトに続いてフレイが話し出した。
「僕はね、たぶんエレアは女神の神託を精霊から教えてもらっているんだと思ってる。本人は神託を受け取ったとは思ってないんじゃないかな。例えば、精霊の話す物語みたいな感じ。ヒロインとかハッピーエンドって言ってたしね」

 それに、と言いフレイは俺を見た。

「あの子は良くきらきらとか、眩しいって言うんだけど、ねえ、カイル、覚えてる?魔力測定の日に見た聖女の魔力って金色にきらきら輝いていたよね」

 俺は頷いた。
 覚えているし、なんなら今でも見えている。

 フレイは俺の腕を手に取り飾り紐をじっと見つめた。

「気がついてる?この魔石、カイルの魔力に染まっているんだけど、緑の中に微かにきらきらが混ざってる。カイルは聖属性の魔力を持っているんだよ」

 俺も自分の色を纏った魔石をじっと眺めた。たしかに緑の中に微かに金色のきらめきが見えた。

 ずっと昔、魔力を測ったときの記憶がよみがえる。聖女に出会い魔力に囚われる前から俺の魔力にはたしかに煌めく光があった。
 そして奇妙に納得した。

「だから、俺の神託は澱みに隠れないのか」

 俺は飾り紐をはずし、騎士団長の腕に結んだ。
 俺には魔力の制限がかかっている。だから聖属性のきらめきを意識して、ゆっくりと風を送るように魔石に流し込んだ。
 どうやら上手くいったようだ。魔石の色は俺の得意な風の緑のままだが、少し金色の瞬きが増えている。

 しばらくすると騎士団長の青白かった顔色に血色が帯びてきた。

「知っていますか?神託は澱みの中に隠されるんです。俺と一緒に神父の話しを聞いた館の支配人は澱みに犯されて、別れた時には腐ったような息を吐く病人のようになってました。団長もそうですよね。体に澱みが集まっていた。団長の中の神託を隠すために」

 騎士団長は真剣な面持ちで俺の話しを聞いていた。

「俺が聞いた神託の中には勇者という言葉はあったけど、エレアが言っていた王子とか騎士とか、そんな細かい指定はなかった」

「そうだ、なかった」

 愕然とした様子を隠せないまま騎士団長が言葉をつなぐ。
 彼も思い出したのだろう。

「勇者とはあったが、細かい指定はされていなかった。あったのは聖女と、君だ。落とされた子を見つけて聖騎士に育てろと、聖女を見つけて教育をしろと、そんな神託だった」

 誰かが息を飲んだ。

 俺を見て呆然としていた副団長が、急に取り乱したように話しはじめた。

「知ってますか?奴隷印の対になる鍵は魔力で作り上げて形にします。鍵は魔力の塊なんです。解除したら魔力が解けて霧散して消えます。彼の鍵は消えたけれど、印は残っているのですから解除はされていません。ということは、彼の鍵は神託みたいに澱みに隠されている可能性が高いと思われます」

「つまり、どういうことだ?」

 騎士団長は理解できなかったみたいだが、俺はすぐにわかった。

「つまり、澱んだ魔素に鍵が奪われた。じゃあ、俺の今の主は誰になるんだ?」

「隠されただけなら、彼の主は教皇様のままです。ですが、奪われて主の書き替えがされていたら、彼の主は魔王になります」

 これはもう笑うしかない。

「君はもう聖騎士にはなれない。奴隷の聖騎士はあり得ない。君は魔王討伐にも同行できない。澱みの強いところにいったらどんな影響を受けるかわからない。君は勇者にもなれない。魔王が主なら君は命令に服従するしかない。そんな危険なことは認められない」

 騎士団長が愕然とした様子を隠さず言う。

「手遅れだ」
 
 神託にあった言葉を思い出す。

「俺に関する神託はもう手遅れなんだ」
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