聖女の幼なじみ

野原もな

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表裏 教皇1

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 仕事から帰ると、赤い魔力をまとった魔法便がふわふわと飛んできた。
 フレイの魔力をまとったその手紙にはすぐに鍛冶点に来て欲しいと書いてある。
 俺とエレアは二人で鍛冶店へと向かった。

 鍛冶店の貴族専用応接室に教皇が座っていた。
 このきらびやかな部屋に相応しいお方だ。
 
 教皇の銀色に輝く髪と紫の目を見て、エレアが首をかしげている。

「どこかで会ったような?」

 ボソッとした声が聞こえた。
 え、教皇の姿を知らないのか?
 そっと元国王の弟で今の教皇だと教えた。目茶苦茶驚いていた。

「聖女が君の鍵がなくなったと騒いでいる」

 前置きを終えるとすぐに教皇は本題を切り出した。
 彼はとても疲れた顔をしている。体に巣くっていた澱みは浄化されているはずなのに顔色も悪い。

「俺の奴隷印は解除されたみたいなんですが、そちらで解除したんじゃないんですか?」

 俺の言葉に教皇は驚愕していた。
 どうやら解除はしていないらしい。それならば、あれは精霊の力による解除だったのか。

「君には何度謝っても、謝り足りない。少し、話しを聞いてもらえないだろうか」

 教皇は遠くを眺める様な表情を浮かべ在りし日の話を始めた。


 全ては教皇が少年だった頃に始まった。
 元国王である兄が学園に通い始め、そこで現在の王妃、当時の男爵令嬢と出会ったのだ。
 それまで、婚約者である現在の側妃とは仲睦まじく過ごしていた。それにも関わらず、彼は男爵令嬢に惹かれ、そのまま無理を通して男爵令嬢を王妃に据えた。
 もちろん議会は紛糾した。
 側妃とは政略的な意味のある、きちんと契約を結んだ上での婚約だったからだ。
 どうしてもと譲らない彼に新たな誓約を課すことで、男爵令嬢を王妃とすることを認める事とした。
 元婚約者を側妃とし王太子となるのは側妃との子供のみとする事が決められ、女神に誓う神聖契約で約束が結ばれた。
 王妃の生んだ第1王子はただの王族で王位継承権は持たない。
 次期国王は第2王子がなる。
 そう決められた。

「私はずっと第1王子が次期国王だと思ってた」

 エレアが言う。俺もそう思っていたし、そう学校で習っていた。

「そう、私もそう思い込んでいた。知っていたはずなのに忘れていたんだ」

 教皇は俺たちの顔をしっかりと見つめた。

「これは知っているかな。魔法には禁術と呼ばれるものがある。その内の一つに人を魅了する魔道具がある。この道具はすぐに壊れるし、魔法が解けたらすぐに元の状態にに戻るため、人の感情を操ってはいけないという人道的な意味での禁術だ。これを王妃が使って、兄だけでなく、私を含め周りにいた男性たちをも虜にしていたんだ」

 エレアは澄んだ目を教皇に向けている。

「そう、私は魅了されていた。王妃は魔道具が壊れる度に新たな魔道具を用意して使い続けていた。そうしているうちに禁術への忌避感はなくなったのだろうな。第1王子に王位継承権が無いと知った王妃は神聖契約を禁術でなかったことにしたのだ。これは、やってはいけない、まさに禁じられた術だ。女神への誓いを破り、ずべてを歪める」

「そして、歪みから魔素は澱んでいき、そのうち魔王が生まれる」

 エレアが言うと教皇は儚い笑みを浮かべて頷いた。
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