聖女の幼なじみ

野原もな

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表裏 第1王子

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 エルとノアの剣を試すために訓練場に来た。
 みんな興味津々だ。本物の勇者たちが使っているときには遠慮していたようだが、俺には遠慮など一切せず、好き勝手に試している。なんならエルもノアもみんなの意見を聞いて笑っている。
 俺のための剣じゃなかったのか。

 ひとしきり楽しみ、そのまま帰ろうとしたとき、なぜか来ていた第1王子に声を掛けられた。
 エレアは隠さずに胡散臭そうに見ていた。俺も胡乱な目をしていたと思う。あまり話したくはない。彼は王妃の実の息子だ。

「まずは君に謝罪したいと思う。私の母が君やご家族に多大なる迷惑をかけた。本当に申し訳なく思っている」
 
 第1王子はためらわずに頭を下げた。
 俺たちは慌てて頭をあげてもらい、それから訓練場の端に場所を移した。

「謝っても許されることではないことはわかっている。本来なら聖騎士となり女神様に使えていたはずの君を奴隷にして、人に隷属させられる存在に貶めてしまった。この国に与えた被害も大きすぎた」

 エレアは意外そうに第1王子を見ていた。こんな真摯なことを言うとは思っていなかったのだろう。
 近くで見ると第1王子の金髪は少し赤みがかって見える。

「母は愚かだ。私は母が禁術を使用していることは知らなかったが、何も学ばず、全ての仕事を側妃に押し付け、ただ愛らしくあろうとする姿に嫌悪感を抱いていた。かわいければそれでいいのだと、本気でそう思う王妃などこの国に必要なのかと」

 第1王子は少し歪んだ笑みを浮かべた。

「知っているか?討伐に参加した勇者たちは皆禁術に関わった者たちの子供だ。禁術を教えた魔術師の息子、母の言うがままに罪なき人々を犯罪者に仕立ててきた騎士の息子、そうとは知らず禁術の材料の依頼を受けた冒険者の息子。なのに母の息子である私は勇者に選ばれなかった。母が禁術を使い神託を隠した時に、私に課せられた使命をも弾いたからだ。私は贖罪の機会すら母に奪われた」

 そう言って第1王子は視線を落とした。

「私は他の勇者と同じように、罰と同時に加護も受けとるはずだった。王族が持つべき女神の加護だ。先程も見ただろう。私は王族ならば扱えるはずの聖剣を使えない。私と対立していたアレックスが私の代わりに勇者になり、見事に聖剣を使いこなした。アレックスが次の王になることは決まっていたことなのに、要らぬ試練を押し付けてしまった」

 第1王子と第2王子は妃たちと同様に反目しあっていると思われているが、実際は違うのかもしれない。
 彼は第2王子を心から気遣っているように見えた。

「私はね、母が嫌いだ。憎んでいると言ってもいい。そして、メルは見た目も性格も母にそっくりだ。そんなメルと私は一生添い遂げることになる」

 エレアが息を飲んだ。
 えっ、バットエンド?と呟く。
 第1王子はエレアの呟きには気がつかなかったようだ。

「それが私に与えられた罰なのだろう。思うところはあるがメルに非はない。私も政略とはいえきちんと家族になりたいとは思っている。だが、メルは不満なのだろう。だから君を奴隷として側に置きたがったのだ。何でも言うことを聞く、見目の良い男性である君を欲っした。その姿は私には禁術を使ってでも男を虜にしたがった母のように見えた」

 彼はじっと俺を見た。
 俺に対しては思うところなどないのだろう。俺を見る目になんの含みもなかった。

「君が奴隷から解放されたと聞いたとき私はほっとした。だが、メルは他の奴隷でもいいと、奴隷奴隷と騒いでいる。あんな聖女はあり得ない」

 「ーああ」

 エレアが同意ともとれない唸り声をあげていた。

「あの子ちやほやされるの好きだったからなぁ」

 エレアは呟く。

 メルには確かにそんな気質はあったと思う。
 けれど、聖女でなくなったメルは絶対的な味方が欲しいのだろうと思った。腹の底では何を考えているかわからない王公貴族に囲まれて、聖女の魅了を無くしたメルは思い通りにいかない現実に恐怖を感じているはずだ。

「メルは、本当は君と結婚をしてこの町で暮らした方が幸せなんだろう。だけど、それはもう無理だ。メルは一生私と教会で過ごさなければいけない。メルには辛いものとなるだろう」

 あれだけの試練を乗り越えた聖女の幸せとは思えない現状に、正直俺は驚いた。
 
 メルは確かに聖女らしからぬ性格をしていると思う。それでも、騎士に地獄と言わしめた試練を乗り越え使命を果たして戻ってきたのだ。
 俺だって不幸になって欲しいとは思っていない。
 メルの幸せがこの王子にかかっていると思うと不安だ。
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