51 / 52
表裏 第1王子
しおりを挟む
エルとノアの剣を試すために訓練場に来た。
みんな興味津々だ。本物の勇者たちが使っているときには遠慮していたようだが、俺には遠慮など一切せず、好き勝手に試している。なんならエルもノアもみんなの意見を聞いて笑っている。
俺のための剣じゃなかったのか。
ひとしきり楽しみ、そのまま帰ろうとしたとき、なぜか来ていた第1王子に声を掛けられた。
エレアは隠さずに胡散臭そうに見ていた。俺も胡乱な目をしていたと思う。あまり話したくはない。彼は王妃の実の息子だ。
「まずは君に謝罪したいと思う。私の母が君やご家族に多大なる迷惑をかけた。本当に申し訳なく思っている」
第1王子はためらわずに頭を下げた。
俺たちは慌てて頭をあげてもらい、それから訓練場の端に場所を移した。
「謝っても許されることではないことはわかっている。本来なら聖騎士となり女神様に使えていたはずの君を奴隷にして、人に隷属させられる存在に貶めてしまった。この国に与えた被害も大きすぎた」
エレアは意外そうに第1王子を見ていた。こんな真摯なことを言うとは思っていなかったのだろう。
近くで見ると第1王子の金髪は少し赤みがかって見える。
「母は愚かだ。私は母が禁術を使用していることは知らなかったが、何も学ばず、全ての仕事を側妃に押し付け、ただ愛らしくあろうとする姿に嫌悪感を抱いていた。かわいければそれでいいのだと、本気でそう思う王妃などこの国に必要なのかと」
第1王子は少し歪んだ笑みを浮かべた。
「知っているか?討伐に参加した勇者たちは皆禁術に関わった者たちの子供だ。禁術を教えた魔術師の息子、母の言うがままに罪なき人々を犯罪者に仕立ててきた騎士の息子、そうとは知らず禁術の材料の依頼を受けた冒険者の息子。なのに母の息子である私は勇者に選ばれなかった。母が禁術を使い神託を隠した時に、私に課せられた使命をも弾いたからだ。私は贖罪の機会すら母に奪われた」
そう言って第1王子は視線を落とした。
「私は他の勇者と同じように、罰と同時に加護も受けとるはずだった。王族が持つべき女神の加護だ。先程も見ただろう。私は王族ならば扱えるはずの聖剣を使えない。私と対立していたアレックスが私の代わりに勇者になり、見事に聖剣を使いこなした。アレックスが次の王になることは決まっていたことなのに、要らぬ試練を押し付けてしまった」
第1王子と第2王子は妃たちと同様に反目しあっていると思われているが、実際は違うのかもしれない。
彼は第2王子を心から気遣っているように見えた。
「私はね、母が嫌いだ。憎んでいると言ってもいい。そして、メルは見た目も性格も母にそっくりだ。そんなメルと私は一生添い遂げることになる」
エレアが息を飲んだ。
えっ、バットエンド?と呟く。
第1王子はエレアの呟きには気がつかなかったようだ。
「それが私に与えられた罰なのだろう。思うところはあるがメルに非はない。私も政略とはいえきちんと家族になりたいとは思っている。だが、メルは不満なのだろう。だから君を奴隷として側に置きたがったのだ。何でも言うことを聞く、見目の良い男性である君を欲っした。その姿は私には禁術を使ってでも男を虜にしたがった母のように見えた」
彼はじっと俺を見た。
俺に対しては思うところなどないのだろう。俺を見る目になんの含みもなかった。
「君が奴隷から解放されたと聞いたとき私はほっとした。だが、メルは他の奴隷でもいいと、奴隷奴隷と騒いでいる。あんな聖女はあり得ない」
「ーああ」
エレアが同意ともとれない唸り声をあげていた。
「あの子ちやほやされるの好きだったからなぁ」
エレアは呟く。
メルには確かにそんな気質はあったと思う。
けれど、聖女でなくなったメルは絶対的な味方が欲しいのだろうと思った。腹の底では何を考えているかわからない王公貴族に囲まれて、聖女の魅了を無くしたメルは思い通りにいかない現実に恐怖を感じているはずだ。
「メルは、本当は君と結婚をしてこの町で暮らした方が幸せなんだろう。だけど、それはもう無理だ。メルは一生私と教会で過ごさなければいけない。メルには辛いものとなるだろう」
あれだけの試練を乗り越えた聖女の幸せとは思えない現状に、正直俺は驚いた。
メルは確かに聖女らしからぬ性格をしていると思う。それでも、騎士に地獄と言わしめた試練を乗り越え使命を果たして戻ってきたのだ。
俺だって不幸になって欲しいとは思っていない。
メルの幸せがこの王子にかかっていると思うと不安だ。
みんな興味津々だ。本物の勇者たちが使っているときには遠慮していたようだが、俺には遠慮など一切せず、好き勝手に試している。なんならエルもノアもみんなの意見を聞いて笑っている。
俺のための剣じゃなかったのか。
ひとしきり楽しみ、そのまま帰ろうとしたとき、なぜか来ていた第1王子に声を掛けられた。
エレアは隠さずに胡散臭そうに見ていた。俺も胡乱な目をしていたと思う。あまり話したくはない。彼は王妃の実の息子だ。
「まずは君に謝罪したいと思う。私の母が君やご家族に多大なる迷惑をかけた。本当に申し訳なく思っている」
第1王子はためらわずに頭を下げた。
俺たちは慌てて頭をあげてもらい、それから訓練場の端に場所を移した。
「謝っても許されることではないことはわかっている。本来なら聖騎士となり女神様に使えていたはずの君を奴隷にして、人に隷属させられる存在に貶めてしまった。この国に与えた被害も大きすぎた」
エレアは意外そうに第1王子を見ていた。こんな真摯なことを言うとは思っていなかったのだろう。
近くで見ると第1王子の金髪は少し赤みがかって見える。
「母は愚かだ。私は母が禁術を使用していることは知らなかったが、何も学ばず、全ての仕事を側妃に押し付け、ただ愛らしくあろうとする姿に嫌悪感を抱いていた。かわいければそれでいいのだと、本気でそう思う王妃などこの国に必要なのかと」
第1王子は少し歪んだ笑みを浮かべた。
「知っているか?討伐に参加した勇者たちは皆禁術に関わった者たちの子供だ。禁術を教えた魔術師の息子、母の言うがままに罪なき人々を犯罪者に仕立ててきた騎士の息子、そうとは知らず禁術の材料の依頼を受けた冒険者の息子。なのに母の息子である私は勇者に選ばれなかった。母が禁術を使い神託を隠した時に、私に課せられた使命をも弾いたからだ。私は贖罪の機会すら母に奪われた」
そう言って第1王子は視線を落とした。
「私は他の勇者と同じように、罰と同時に加護も受けとるはずだった。王族が持つべき女神の加護だ。先程も見ただろう。私は王族ならば扱えるはずの聖剣を使えない。私と対立していたアレックスが私の代わりに勇者になり、見事に聖剣を使いこなした。アレックスが次の王になることは決まっていたことなのに、要らぬ試練を押し付けてしまった」
第1王子と第2王子は妃たちと同様に反目しあっていると思われているが、実際は違うのかもしれない。
彼は第2王子を心から気遣っているように見えた。
「私はね、母が嫌いだ。憎んでいると言ってもいい。そして、メルは見た目も性格も母にそっくりだ。そんなメルと私は一生添い遂げることになる」
エレアが息を飲んだ。
えっ、バットエンド?と呟く。
第1王子はエレアの呟きには気がつかなかったようだ。
「それが私に与えられた罰なのだろう。思うところはあるがメルに非はない。私も政略とはいえきちんと家族になりたいとは思っている。だが、メルは不満なのだろう。だから君を奴隷として側に置きたがったのだ。何でも言うことを聞く、見目の良い男性である君を欲っした。その姿は私には禁術を使ってでも男を虜にしたがった母のように見えた」
彼はじっと俺を見た。
俺に対しては思うところなどないのだろう。俺を見る目になんの含みもなかった。
「君が奴隷から解放されたと聞いたとき私はほっとした。だが、メルは他の奴隷でもいいと、奴隷奴隷と騒いでいる。あんな聖女はあり得ない」
「ーああ」
エレアが同意ともとれない唸り声をあげていた。
「あの子ちやほやされるの好きだったからなぁ」
エレアは呟く。
メルには確かにそんな気質はあったと思う。
けれど、聖女でなくなったメルは絶対的な味方が欲しいのだろうと思った。腹の底では何を考えているかわからない王公貴族に囲まれて、聖女の魅了を無くしたメルは思い通りにいかない現実に恐怖を感じているはずだ。
「メルは、本当は君と結婚をしてこの町で暮らした方が幸せなんだろう。だけど、それはもう無理だ。メルは一生私と教会で過ごさなければいけない。メルには辛いものとなるだろう」
あれだけの試練を乗り越えた聖女の幸せとは思えない現状に、正直俺は驚いた。
メルは確かに聖女らしからぬ性格をしていると思う。それでも、騎士に地獄と言わしめた試練を乗り越え使命を果たして戻ってきたのだ。
俺だって不幸になって欲しいとは思っていない。
メルの幸せがこの王子にかかっていると思うと不安だ。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
悪役女王アウラの休日 ~処刑した女王が名君だったかもなんて、もう遅い~
オレンジ方解石
ファンタジー
恋人に裏切られ、嘘の噂を立てられ、契約も打ち切られた二十七歳の派遣社員、雨井桜子。
世界に絶望した彼女は、むかし読んだ少女漫画『聖なる乙女の祈りの伝説』の悪役女王アウラと魂が入れ替わる。
アウラは二年後に処刑されるキャラ。
桜子は処刑を回避して、今度こそ幸せになろうと奮闘するが、その時は迫りーーーー
聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。
「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」
と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる