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無口な少女
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外は雨が降っていた。
放課後の教室は薄暗く、生徒がまばらで閑散としている。
「じゃあ、俺たちはもう行くわ」
裕貴が俺に向かって、そう言った。
裕貴の隣には、風香がいる。
2人は確か、去年から付き合っている。
裕貴はイケメンだし、風香は学年で一番可愛い。お似合いの2人だ。
「智也はまだ帰らないの?」
風香が、俺にそう聞いてきた。
「今日は沙織が掃除当番だから、沙織が終わるまで待ってることにするよ」
「そう……」
俺は、沙織のいるところを見た。
沙織はまだ、黒板に書いてある字を、黒板消しで丁寧に消していた。
時折、一番前の席に座っている春香に話しかけている。
「裕貴たちは、これからどうするの?」
「今日で1年だしな、少し寄り道してから帰るよ」
裕貴はそう言って俺に手を振り、風香と一緒に教室から出ていった。
そうか、今日で1年か。
沙織は背が低いから、まだ黒板を消すのに戸惑っていた。
俺は沙織から黒板消しを貰って、代わりに消してあげることにした。
「ありがと、智也くん」
沙織は微笑んだ。
「春香ちゃん、智也くんが黒板消してくれるからもう少し待っててね!」
沙織は元気な声で春香にそう言った。
俺は、黒板を消しているから分からないが、春香は頷いたのだろうか。
春香は、あまり感情を表に出さないし、無口だから友達があまりいない。
髪も長いし、少し不気味だと思われているのだろうか。
そんな春香に沙織はずっと話しかけてあげている。
沙織曰く、春香ちゃんを分かってあげられるのは自分だけらしい。
今も、沙織は春香に対してずっと一方的に話しかけていた。
俺が黒板を消し終わって、教室を見渡してみると、気付いたら教室の中は、俺と沙織と春香だけになってた。
「智也くんありがとね! 帰ろっか!」
沙織はそう言って、春香の手を握った。
春香の長い髪の毛が揺れる。
春香は目が悪いから、沙織がいつも手を繋いで歩いてあげてる。
廊下を一緒に歩いてると、クラスメイトに呼ばれた。
「ごめん沙織、先に玄関行っててくれ」
手を合わせて、申し訳なさそうに沙織に言った。
「うん!わかったよ!」
沙織は、春香の手を引いて玄関に向かった。
「どうしたの?」
俺は男子のクラスメイトに何の用か聞いた。
「もう、春香と関わるのやめろよ……」
明らかに不快な顔をして、クラスメイトはそう言った。
「ごめん、それは出来ない……俺は沙織がずっと前から好きなんだ……」
「じゃあ、せめてあいつをどうにかしてくれよ。不気味すぎてみんな春香のこと嫌ってるぞ……」
「うん、何とかしてみる……」
それだけ会話をして、俺はすぐに玄関に向かった。
靴を履き替えて外に出る。
まだ雨は止んでなかった。
春香は傘を持ってないから、沙織と手を繋いで相合傘をしていた。
「じゃあ、帰ろっか!」
沙織が笑顔でそう言った。
「うん……」
3人、並んで帰る。
下校する生徒が、刺すような目で俺たちを見てくる。
正直、もう慣れていた。
「沙織、今日は回り道して帰ろっか」
学校の校門を出て、真っ直ぐ行けば早く家に帰れる。
でも、今日は右の道を提案した。
「うん!いいよ!」
沙織は微笑んでくれた。春香は相変わらず無口。
傘を差して歩いてると、公園が見えてきた。
「あそこの公園の屋根があるとこで、少し雨宿りしてかない?」
俺は、沙織にそう提案した。
沙織はその提案に頷いてくれた。
屋根の下に入ると、俺たちは傘を閉じて、ベンチに座った。
3人並んで。
沙織は、ずっと春香に話しかけている。
「なあ、沙織……」
「どうしたの?智也くん?」
「もう、やめないか……?」
「やめるって、何を?」
不思議そうな目で、沙織は俺のことを見てくる。
「それは、春香じゃないんだよ……ただの人形なんだ……」
沙織の隣に座ってるのは、髪の長いボロい女の子の人形。沙織は、ずっとその人形を持っているから、人形の目は取れて飛び出していた。
「智也くん……何を言ってるの……? 春香ちゃんは春香ちゃんだよ……」
「春香は、ちょうど1年前に学校の前の道で車に引かれて死んだじゃないか……」
そう、春香はもう1年前に死んだ。
沙織はその事実が受け止められなくて、人形に春香を投影して、ずっと接してきている。
沙織は、1年前に壊れてしまったんだ。
それでも、俺はずっと沙織が好きだった。
俺は、横から沙織を抱きしめる。
「沙織、辛いかもしれないけど、現実は受け止めなきゃいけないんだ……」
「智也くん……」
沙織は、俺が突然抱きしめても、じっとしていた。
いや、俺の腕の中で震えている。
沙織は泣いていた。
「沙織、春香のお墓参りに行こう」
沙織は黙って頷いてくれた。
俺が立ち上がると、沙織は俺の手を握ってきた。
沙織の手を握り返す。
外は雨が降っていて寒かったけど、2人で繋いだ手はとても暖かかった。
沙織は傘を持ってたけど、俺の傘の中に入って一緒に歩いた。
「雨、濡れない?」
「大丈夫……」
そう言ったが、沙織はピタッと俺に引っ付いてきた。
やがて、2人で歩いていると、小さな霊園が見えてきた。
その霊園に入って、少し歩いて右に曲がると、裕貴と風香がお墓の前で手を合わせていた。
雨が降ってるのに、傘もささず。
風香が俺たちに気付いて近寄ってきた。
俺と沙織を見て少し笑った。
「じゃあ、私たちもう帰るね」
それだけ言って、風香と裕貴は霊園から帰って行った。
俺と沙織は、お墓の前に立つ。
西野春香之墓
縦文字でそう刻まれていた。
気付いたら雨は止んでいて、俺は傘を閉じた。
沙織は、隣で膝をついて静かに泣いている。
「ごめんね、春香ちゃん……今まで、ここに来てあげられなくて、本当にごめんね……」
絞り出すような声で、沙織は春香の墓の前で謝っていた。
俺は、沙織の肩に手を乗せた。
「きっと、春香も許してくれるよ」
出来るだけ、優しい声で沙織にそう言ってあげた。
雲の切れ間から、日が差してくる。
もう、言うならこのタイミングしか無いと思った。
膝をついている沙織の手を優しく握って、俺は覚悟を決めた。
「沙織、ずっと子供の頃から好きでした。俺と付き合ってください」
沙織は、驚いた顔をしていたが。やがて、顔を赤くして、頷いてくれた。
「うん。智也くんなら、いいよ……」
日の光が、お墓と俺たちを照らした。
まるで春香が、空から俺たちを見ていてくれてるような、そんな気がした。
俺たちは、小さい霊園で2人ぼっち。
止まっていた時間が動き出した。
放課後の教室は薄暗く、生徒がまばらで閑散としている。
「じゃあ、俺たちはもう行くわ」
裕貴が俺に向かって、そう言った。
裕貴の隣には、風香がいる。
2人は確か、去年から付き合っている。
裕貴はイケメンだし、風香は学年で一番可愛い。お似合いの2人だ。
「智也はまだ帰らないの?」
風香が、俺にそう聞いてきた。
「今日は沙織が掃除当番だから、沙織が終わるまで待ってることにするよ」
「そう……」
俺は、沙織のいるところを見た。
沙織はまだ、黒板に書いてある字を、黒板消しで丁寧に消していた。
時折、一番前の席に座っている春香に話しかけている。
「裕貴たちは、これからどうするの?」
「今日で1年だしな、少し寄り道してから帰るよ」
裕貴はそう言って俺に手を振り、風香と一緒に教室から出ていった。
そうか、今日で1年か。
沙織は背が低いから、まだ黒板を消すのに戸惑っていた。
俺は沙織から黒板消しを貰って、代わりに消してあげることにした。
「ありがと、智也くん」
沙織は微笑んだ。
「春香ちゃん、智也くんが黒板消してくれるからもう少し待っててね!」
沙織は元気な声で春香にそう言った。
俺は、黒板を消しているから分からないが、春香は頷いたのだろうか。
春香は、あまり感情を表に出さないし、無口だから友達があまりいない。
髪も長いし、少し不気味だと思われているのだろうか。
そんな春香に沙織はずっと話しかけてあげている。
沙織曰く、春香ちゃんを分かってあげられるのは自分だけらしい。
今も、沙織は春香に対してずっと一方的に話しかけていた。
俺が黒板を消し終わって、教室を見渡してみると、気付いたら教室の中は、俺と沙織と春香だけになってた。
「智也くんありがとね! 帰ろっか!」
沙織はそう言って、春香の手を握った。
春香の長い髪の毛が揺れる。
春香は目が悪いから、沙織がいつも手を繋いで歩いてあげてる。
廊下を一緒に歩いてると、クラスメイトに呼ばれた。
「ごめん沙織、先に玄関行っててくれ」
手を合わせて、申し訳なさそうに沙織に言った。
「うん!わかったよ!」
沙織は、春香の手を引いて玄関に向かった。
「どうしたの?」
俺は男子のクラスメイトに何の用か聞いた。
「もう、春香と関わるのやめろよ……」
明らかに不快な顔をして、クラスメイトはそう言った。
「ごめん、それは出来ない……俺は沙織がずっと前から好きなんだ……」
「じゃあ、せめてあいつをどうにかしてくれよ。不気味すぎてみんな春香のこと嫌ってるぞ……」
「うん、何とかしてみる……」
それだけ会話をして、俺はすぐに玄関に向かった。
靴を履き替えて外に出る。
まだ雨は止んでなかった。
春香は傘を持ってないから、沙織と手を繋いで相合傘をしていた。
「じゃあ、帰ろっか!」
沙織が笑顔でそう言った。
「うん……」
3人、並んで帰る。
下校する生徒が、刺すような目で俺たちを見てくる。
正直、もう慣れていた。
「沙織、今日は回り道して帰ろっか」
学校の校門を出て、真っ直ぐ行けば早く家に帰れる。
でも、今日は右の道を提案した。
「うん!いいよ!」
沙織は微笑んでくれた。春香は相変わらず無口。
傘を差して歩いてると、公園が見えてきた。
「あそこの公園の屋根があるとこで、少し雨宿りしてかない?」
俺は、沙織にそう提案した。
沙織はその提案に頷いてくれた。
屋根の下に入ると、俺たちは傘を閉じて、ベンチに座った。
3人並んで。
沙織は、ずっと春香に話しかけている。
「なあ、沙織……」
「どうしたの?智也くん?」
「もう、やめないか……?」
「やめるって、何を?」
不思議そうな目で、沙織は俺のことを見てくる。
「それは、春香じゃないんだよ……ただの人形なんだ……」
沙織の隣に座ってるのは、髪の長いボロい女の子の人形。沙織は、ずっとその人形を持っているから、人形の目は取れて飛び出していた。
「智也くん……何を言ってるの……? 春香ちゃんは春香ちゃんだよ……」
「春香は、ちょうど1年前に学校の前の道で車に引かれて死んだじゃないか……」
そう、春香はもう1年前に死んだ。
沙織はその事実が受け止められなくて、人形に春香を投影して、ずっと接してきている。
沙織は、1年前に壊れてしまったんだ。
それでも、俺はずっと沙織が好きだった。
俺は、横から沙織を抱きしめる。
「沙織、辛いかもしれないけど、現実は受け止めなきゃいけないんだ……」
「智也くん……」
沙織は、俺が突然抱きしめても、じっとしていた。
いや、俺の腕の中で震えている。
沙織は泣いていた。
「沙織、春香のお墓参りに行こう」
沙織は黙って頷いてくれた。
俺が立ち上がると、沙織は俺の手を握ってきた。
沙織の手を握り返す。
外は雨が降っていて寒かったけど、2人で繋いだ手はとても暖かかった。
沙織は傘を持ってたけど、俺の傘の中に入って一緒に歩いた。
「雨、濡れない?」
「大丈夫……」
そう言ったが、沙織はピタッと俺に引っ付いてきた。
やがて、2人で歩いていると、小さな霊園が見えてきた。
その霊園に入って、少し歩いて右に曲がると、裕貴と風香がお墓の前で手を合わせていた。
雨が降ってるのに、傘もささず。
風香が俺たちに気付いて近寄ってきた。
俺と沙織を見て少し笑った。
「じゃあ、私たちもう帰るね」
それだけ言って、風香と裕貴は霊園から帰って行った。
俺と沙織は、お墓の前に立つ。
西野春香之墓
縦文字でそう刻まれていた。
気付いたら雨は止んでいて、俺は傘を閉じた。
沙織は、隣で膝をついて静かに泣いている。
「ごめんね、春香ちゃん……今まで、ここに来てあげられなくて、本当にごめんね……」
絞り出すような声で、沙織は春香の墓の前で謝っていた。
俺は、沙織の肩に手を乗せた。
「きっと、春香も許してくれるよ」
出来るだけ、優しい声で沙織にそう言ってあげた。
雲の切れ間から、日が差してくる。
もう、言うならこのタイミングしか無いと思った。
膝をついている沙織の手を優しく握って、俺は覚悟を決めた。
「沙織、ずっと子供の頃から好きでした。俺と付き合ってください」
沙織は、驚いた顔をしていたが。やがて、顔を赤くして、頷いてくれた。
「うん。智也くんなら、いいよ……」
日の光が、お墓と俺たちを照らした。
まるで春香が、空から俺たちを見ていてくれてるような、そんな気がした。
俺たちは、小さい霊園で2人ぼっち。
止まっていた時間が動き出した。
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