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この世界の秘密
しおりを挟む「お兄ちゃん、おはよ!」
気付いたら、愛梨が隣にいた。
教室に差し込む夕日に目を奪われていて、気づかなかった。
「あーごめん、全然気づかなかったよ」
「お兄ちゃんらしいね!」
そう言って、愛梨は笑った。
「なー愛梨、1つ聞いてもいいか?」
「どうしたの、改まっちゃって」
「もし、知らない世界に飛ばされたとしたら、愛梨ならどうする? 元の世界に戻ろうとする?」
「もしかして、またちゅうにびょうってやつ?」
「いや、違うから……」
「お兄ちゃん、やっぱりそんな趣味が……」
「そんな趣味無いからね……」
俺は呆れていたが、愛梨は笑っていた。
「まあ、冗談はこれくらいにしておいて」
「なんだ、冗談だったのか」
愛梨は仕切り直しだと言わんばかりに、両手を叩いて、俺の目をまっすぐに見た。
今までにない、真剣な表情で。
「お兄ちゃんはさ、“今、この状況のこと”を質問してるんだよね?」
瞬間、全身に鳥肌が立った。
それは、俺の予想していた返答とはかけ離れていたもので、愛梨は、いまだ真剣な表情で俺のことを見ていた。
「こ、この状況って、もしかして愛梨、この世界のことを知ってるのか?!」
「この世界のことどころか、この先起こることも、愛梨は全部知ってるよ」
それが当然と言わんばかりに、愛梨は答えた。
「今すぐ教えてくれ、愛梨!」
俺は、立ち上がって愛梨の肩に掴みかかった、しかし愛梨は俺の手を振りほどくことなく、少し目線を逸らして、暗い表情になった。
「ごめん。それは今すぐに教えることは出来ないんだ」
「出来ないって……。 どうしてだ?」
「それは、朱里さんの命令だから」
「姉貴の?! やっぱり、姉貴のせいなのか!!!」
「朱里さんのせい、っていうのは正解だけど、お兄ちゃんを陥れるために行ったことではないよ、それは私が保証する」
愛梨は、逸らしていた顔を戻して、まっすぐに俺の目を見た。
それだけで、愛梨は本当のことを言っているのだと、なんとなく理解した。
「つまり、どういうことなんだ、俺にもわかるように説明してくれ」
「詳しくは、愛梨の口からは説明できないんだ。でも、朱里さんはこの世界を、お兄ちゃんのために作ったんだよ」
「俺の、ために……? そうだ、現実世界の俺は今どうなってるんだ?!」
話題がそれたが、気になってすぐに質問した。
「それは一切心配しなくていいよ、病院で生命維持はちゃんと出来てる。病院側もちゃんと、お兄ちゃんのことを理解している」
「じゃ、じゃあ、死ぬってことはとりあえずないんだな……」
変な安堵感が俺の中に芽生えた。愛梨の肩を掴んでいた手を離した。
愛梨の制服は、少し、掴みかかった時のしわの跡がついていた。
とりあえず生きててよかったが、この世界に囚われているという現実は、いまだ俺の目の前に立ちはだかっている現実だった。
「そこは安心して、で、ここからが本題」
愛梨は仕切り直した。
「お兄ちゃんの最終目標は1つだけ、この世界からの脱出だよ」
「だから、その方法が分からないんだよ……」
「脱出する方法は簡単だよ、ゲームをクリアすればいいんだ」
愛梨があっさりとそういうから、俺は少し拍子抜けした。
「じゃあ、ゲームクリアの方法は?」
「そこは、ADVゲームと同じ、“TRUEエンドまでたどり着くこと”」
「そのTRUEエンドっていうのは……」
「それは、お兄ちゃん自身が見つけなくちゃならない」
「そんなの無理ゲーだろ……」
「お兄ちゃんならできるよ、私が保証する」
「いや、そんな言いきられても……」
俺がそう言うと、愛梨は少し微笑んでいた。
「まあ、弱気なお兄ちゃんのために、ヒントをあげるよ!!」
そこで一呼吸おいて、愛梨は再び口を開き、話し始めた。
「このストーリーで、重要なキャラ、それは、『水島秋人』、『堀宮悠』、『茅野風美』、『比屋定夏織』『水瀬佑香』、『種田心愛』、この6人だよ」
秋人、悠の2人はすでに出会っている人物だが、他の4人は知らない人だった。
そして、その中に愛梨の名前が入っていないことに気付いた。
「その中だと愛梨の名前が入ってないけど、どういうことなの?」
「愛梨は、この世界の観測者だから、本来はここにいないはずなんだ」
愛梨が言ったその返答は、正直よくわからなかった。
「よくわかんないけど、とりあえず姉貴の悪意でこの世界に連れてこられたってことじゃないんだな?」
「それはもちろん! それと、あと一つ、とても重要なこと」
もう一度、愛梨は真剣な表情になった。
「その内容は?」
「この世界に飛ばされるとき、お兄ちゃんの記憶の一部分だけ、抜き出したんだ」
「それって結構やばい事なんじゃないの?!」
「いや、このストーリーの果てに、その記憶の欠片があるんだよ、お兄ちゃんはそこに辿りつけばいい」
「どういうことかさっぱり分からないんだけど……」
「それは、いずれわかるよ。とりあえず、何度も言ってるけど、お兄ちゃんは、この物語の最後までたどり着けばいい」
「最後、ねぇ……。 愛梨は、この後もそばにいてくれるの?」
「出来る限り、ね。さすがに四六時中そばにいることは出来ないけど、困ったことがあれば愛梨になんでも相談してくれていいよ!」
「じゃあ、物語の進め方を……」
「それはだーめっ!」
言い切る前に、愛梨に怒られた。
さすがにそれは禁じ手なのか、愛梨は物語の進め方に関しては、重要キャラ以外一切教えてくれなかった。
「じゃあ、この世界の俺の過去の設定については? 何の部活に入ってるとか、中学の時は何をしてたのとか」
「それも、まあ、いずれわかるかな」
なんとなく、歯切れの悪い言い方を愛梨はした。
「じゃあ、今日はこれでおしまい! お兄ちゃん朝に玄関でセーブしたんでしょ、今からそこまで戻るの?」
「まあ、今日一日で色々と見逃したとことかあるしね、そういえばロードしたら記憶は引き継がれるの?」
「他の人たちは、記憶の引き継ぎは行われないけど、お兄ちゃんは玄関でセーブしたところから、今までの記憶は一切消えないよ!」
「それは良かった。ところで愛梨も一緒なの? たとえば、今すぐ玄関に遡っても、愛梨の記憶は引き継がれてる?」
「そこも心配しなくても、今までの記憶は愛梨の中に残ってるよ!!」
「それはよかった」
「じゃあ、とりあえず、玄関までもどろっか!!」
愛梨はそう言って笑った。
俺は、メニュー画面でロードのボタンを押し、『4月5日火曜 7時50分』の項目を押した。
瞬間、目の前がブラックアウトした。
やがて、徐々に光が見えてきて、気づいた時には、朝の玄関に立っていた。
目の前では、愛梨が笑っていて、つられて俺も微笑んだ。
ここまでが、俺と愛梨の物語の序章だった。
そして、ここからは、すでに閉じた物語。
この世界の、俺の失った記憶を探す物語の、本当の始まりだった。
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