888マイルの奇跡

かふぇもか

文字の大きさ
7 / 12

この世界の秘密

しおりを挟む

「お兄ちゃん、おはよ!」
 気付いたら、愛梨が隣にいた。
 教室に差し込む夕日に目を奪われていて、気づかなかった。

「あーごめん、全然気づかなかったよ」
「お兄ちゃんらしいね!」
 そう言って、愛梨は笑った。


「なー愛梨、1つ聞いてもいいか?」
「どうしたの、改まっちゃって」
「もし、知らない世界に飛ばされたとしたら、愛梨ならどうする? 元の世界に戻ろうとする?」
「もしかして、またちゅうにびょうってやつ?」
「いや、違うから……」
「お兄ちゃん、やっぱりそんな趣味が……」
「そんな趣味無いからね……」
 俺は呆れていたが、愛梨は笑っていた。

「まあ、冗談はこれくらいにしておいて」
「なんだ、冗談だったのか」
 愛梨は仕切り直しだと言わんばかりに、両手を叩いて、俺の目をまっすぐに見た。
 今までにない、真剣な表情で。

「お兄ちゃんはさ、“今、この状況のこと”を質問してるんだよね?」
 瞬間、全身に鳥肌が立った。

 それは、俺の予想していた返答とはかけ離れていたもので、愛梨は、いまだ真剣な表情で俺のことを見ていた。

「こ、この状況って、もしかして愛梨、この世界のことを知ってるのか?!」
「この世界のことどころか、この先起こることも、愛梨は全部知ってるよ」
 それが当然と言わんばかりに、愛梨は答えた。

「今すぐ教えてくれ、愛梨!」
 俺は、立ち上がって愛梨の肩に掴みかかった、しかし愛梨は俺の手を振りほどくことなく、少し目線を逸らして、暗い表情になった。

「ごめん。それは今すぐに教えることは出来ないんだ」
「出来ないって……。 どうしてだ?」
「それは、朱里さんの命令だから」
「姉貴の?! やっぱり、姉貴のせいなのか!!!」
「朱里さんのせい、っていうのは正解だけど、お兄ちゃんを陥れるために行ったことではないよ、それは私が保証する」
 愛梨は、逸らしていた顔を戻して、まっすぐに俺の目を見た。
 それだけで、愛梨は本当のことを言っているのだと、なんとなく理解した。

「つまり、どういうことなんだ、俺にもわかるように説明してくれ」
「詳しくは、愛梨の口からは説明できないんだ。でも、朱里さんはこの世界を、お兄ちゃんのために作ったんだよ」
「俺の、ために……? そうだ、現実世界の俺は今どうなってるんだ?!」
 話題がそれたが、気になってすぐに質問した。

「それは一切心配しなくていいよ、病院で生命維持はちゃんと出来てる。病院側もちゃんと、お兄ちゃんのことを理解している」
「じゃ、じゃあ、死ぬってことはとりあえずないんだな……」
 変な安堵感が俺の中に芽生えた。愛梨の肩を掴んでいた手を離した。
 愛梨の制服は、少し、掴みかかった時のしわの跡がついていた。

 とりあえず生きててよかったが、この世界に囚われているという現実は、いまだ俺の目の前に立ちはだかっている現実だった。


「そこは安心して、で、ここからが本題」
 愛梨は仕切り直した。


「お兄ちゃんの最終目標は1つだけ、この世界からの脱出だよ」
「だから、その方法が分からないんだよ……」
「脱出する方法は簡単だよ、ゲームをクリアすればいいんだ」
 愛梨があっさりとそういうから、俺は少し拍子抜けした。

「じゃあ、ゲームクリアの方法は?」
「そこは、ADVゲームと同じ、“TRUEエンドまでたどり着くこと”」
「そのTRUEエンドっていうのは……」
「それは、お兄ちゃん自身が見つけなくちゃならない」
「そんなの無理ゲーだろ……」
「お兄ちゃんならできるよ、私が保証する」
「いや、そんな言いきられても……」
 俺がそう言うと、愛梨は少し微笑んでいた。

「まあ、弱気なお兄ちゃんのために、ヒントをあげるよ!!」
 そこで一呼吸おいて、愛梨は再び口を開き、話し始めた。

「このストーリーで、重要なキャラ、それは、『水島秋人』、『堀宮悠』、『茅野風美かやのふうみ』、『比屋定夏織ひやじょうかおり』『水瀬佑香みなせゆか』、『種田心愛たねだここあ』、この6人だよ」
 秋人、悠の2人はすでに出会っている人物だが、他の4人は知らない人だった。
 そして、その中に愛梨の名前が入っていないことに気付いた。

「その中だと愛梨の名前が入ってないけど、どういうことなの?」
「愛梨は、この世界の観測者だから、本来はここにいないはずなんだ」
愛梨が言ったその返答は、正直よくわからなかった。

「よくわかんないけど、とりあえず姉貴の悪意でこの世界に連れてこられたってことじゃないんだな?」
「それはもちろん! それと、あと一つ、とても重要なこと」
 もう一度、愛梨は真剣な表情になった。

「その内容は?」

「この世界に飛ばされるとき、お兄ちゃんの記憶の一部分だけ、抜き出したんだ」
「それって結構やばい事なんじゃないの?!」
「いや、このストーリーの果てに、その記憶の欠片があるんだよ、お兄ちゃんはそこに辿りつけばいい」
「どういうことかさっぱり分からないんだけど……」
「それは、いずれわかるよ。とりあえず、何度も言ってるけど、お兄ちゃんは、この物語の最後までたどり着けばいい」
「最後、ねぇ……。 愛梨は、この後もそばにいてくれるの?」
「出来る限り、ね。さすがに四六時中そばにいることは出来ないけど、困ったことがあれば愛梨になんでも相談してくれていいよ!」
「じゃあ、物語の進め方を……」
「それはだーめっ!」
 言い切る前に、愛梨に怒られた。
 さすがにそれは禁じ手なのか、愛梨は物語の進め方に関しては、重要キャラ以外一切教えてくれなかった。

「じゃあ、この世界の俺の過去の設定については? 何の部活に入ってるとか、中学の時は何をしてたのとか」
「それも、まあ、いずれわかるかな」
 なんとなく、歯切れの悪い言い方を愛梨はした。

「じゃあ、今日はこれでおしまい! お兄ちゃん朝に玄関でセーブしたんでしょ、今からそこまで戻るの?」
「まあ、今日一日で色々と見逃したとことかあるしね、そういえばロードしたら記憶は引き継がれるの?」
「他の人たちは、記憶の引き継ぎは行われないけど、お兄ちゃんは玄関でセーブしたところから、今までの記憶は一切消えないよ!」
「それは良かった。ところで愛梨も一緒なの? たとえば、今すぐ玄関に遡っても、愛梨の記憶は引き継がれてる?」
「そこも心配しなくても、今までの記憶は愛梨の中に残ってるよ!!」
「それはよかった」
「じゃあ、とりあえず、玄関までもどろっか!!」
 愛梨はそう言って笑った。

 俺は、メニュー画面でロードのボタンを押し、『4月5日火曜 7時50分』の項目を押した。
 瞬間、目の前がブラックアウトした。
 やがて、徐々に光が見えてきて、気づいた時には、朝の玄関に立っていた。


 目の前では、愛梨が笑っていて、つられて俺も微笑んだ。


 ここまでが、俺と愛梨の物語の序章だった。


 そして、ここからは、すでに閉じた物語。
 この世界の、俺の失った記憶を探す物語の、本当の始まりだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...