断食の聖

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出家

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ある村にアレンと言う一人の若者がいました。
彼は農家の3人の子供達の一番下の子でしたので、将来は、兄達の下僕として働く運命でした。
彼の様な境遇の者は、学問を修めて都で働く道もありましたが、ずるい兄達は自分達の下僕がいなくなる事を良く思わなかったので、アレンに勉強をさせませんでした。

一番上の兄がヒッポラ、真ん中がアドレ、一番下がアレンでした。
アレンは17歳になり、その年の収穫が終わった時、兄達を呼んで言いました。
「兄さん、僕はこれから山に入ろうと思います」
「坊主にでもなると言うのか?」
「はい」
ヒッポラとアドレは、アレンに勉強を禁じていたので、お坊さんになるなどとは言い出すまいとたかをくくっていましたので、威嚇を込めて返答しました。
「知らないのか?、坊主になる為には、役人になるのと同じく学問が必要だ、しかしお前は読み書きすら出来んのだぞ」
「いいえ、兄さん。僕は多少の読み書きが出来ますし、僕の特技を活かせる方法のある事を人から教えて貰ったのです」
「どういう事だ」
内緒にしていましたが、アレンは兄達が寝静まった後、街の友人から分けて貰った教科書で毎日勉強していましたので、多少どころか兄達よりずっと読み書きが出来たのです。
更に5年前彼等の父が亡くなってからというもの、ヒッポラとアドレは、自分達の食べる分を増やしたかったので、アレンに十分な食事を与えませんでした。
そして、ヒッポラとアドレがアレンに辛く当たるのには、もう一つ理由がありました。
父がアレンを贔屓して可愛がっていたので、アレンに対して憎しみを抱いていたのです。
見かねた母がアレンに食事を届けようとすると、ヒッポラかアドレのどちらかが気付きました。
「母さん、アレンは今日仕事で不正を働いたので夕食は抜きです」
下げさせた分は、ヒッポラとアドレで食べてしまいました。
毎日そんな調子でしたので、可哀想なアレンは、木の実を食べたり、川の水を飲んだりして空腹を癒やし、仕事と勉強に励みました。
夜中兄達に見つからずに、母が僅かな夕食を届けてくれる時がありました。
「ゴメンよ、アレン。母さんが弱いばかりにこんな酷い目に合わせてしまって」
アレンが仕事で不正など働くはずの無い事を良く分かっていた母は、差し入れを運ぶ度にアレンに詫びるのでした。
「母さん、何を言うのですか、そんな事は何でもありません」
「いいえ、兄さん達があなたにしている仕打ちを母さんが知らないと思っているのかい?」
「兄さん達は僕の忠実な下僕ですよ、彼等には全く感謝しているのです」
「可哀想な私の末の息子アレンよ、苦難で頭がイカれてしまったのね」
母は、呆然と悲しみに暮れて部屋へ戻ってゆくのでした。

「兄さん、僕は断食の聖に弟子入りします」
「フン、山のインチキ坊主か、まぁお前にはお似合いだがそうはさせん。お前が居なくなったら、金を払って人を雇わなければならん」
「兄さん、その醜く肥った身体を治すには、僕の分働いて、僕の分を食べない事が最善ですよ」
アレンは、ヒッポラとアドレにそう告げると、家を出ていこうとした。
「おい、待て!」
出ていこうとするアレンの肩を掴んだのはアドレだった。
そのままアレンのやつれた顔面に、アドレのたくましい拳が炸裂し、アレンの鼻と口から血がほとばしり、出入り口の柱に頭を強打して倒れた。
台所から様子を見ていた母が、この時ばかりは我慢ならなくなり、持っていた包丁を自分の胸に構えて叫んだ。
「アドレ、いい加減になさい! まだアレンを打つつもりなら、母さんはここで死ぬわ、それでもいいのね」
およそ平和であるべき家庭の中で、こんなハレンチな事が許されてよい訳がなかったので、母の叫びは当然であった。
ヒッポラとアドレはなるほど醜い兄弟ではあったが、そんな彼等にも愛情を注いでくれた母を失う事は考えられなかった。
アドレがひるんだ事を確認して、母は続けて叫んだ。
「アレンごめんなさい、あなたは今すぐこの家を出ていきなさい! この償いはいつか必ずします。本当にごめんなさい」
アレンは爽やかに立ち上がり、血を拭いて笑顔で言いました。
「母さんさようなら、今までありがとう」

アレンの姿が林に消えるまで、仕事仲間の動物達がお別れの歌を奏でました。

アレンの冒険の始まりです。



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