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サンドラーチェの館
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女神サンドラーチェは、自室で自らの守護している森を水晶で覗いて点検していた。
見ていると、ガルバトスを渡ってこちらにやって来る一行の前見えたので、食事の準備をしていた下僕のウラハンを呼んで尋ねた。
「こ奴らは何者か?」
ウラハンは水晶を覗き込んでから頷いた。
「なるほど、東の国の琥珀の王子ですな」
「琥珀の王子? なかなか美しい若者ではないか」
「そうですね、私とは違う」
ウラハンはヤントスに嫉妬したが、苦々しい気持ちは隠した。
「何をしに来たと思う?」
「はい、大方国の飢饉を無くしてくれる様に、貴女に懇願に詣ったのでしょう。以前同じ事がありました」
「あゝ、そうか!」
サンドラーチェは、空を見つめて昔を思い出している風で続けてこう言った。
「ウラハンよ! 森の精霊をここに呼び出して参れ!」
「かしこまりました」
ウラハンは、何故森の精霊を呼び出すのか分からなかったが、悪い足を引きずりながら外へ出ていった。
「森の精霊よ! サンドラーチェ様がお呼びである、すぐに出仕するが良い」
こう森に呼びかけて、ウラハンは残した仕事に戻った。
間もなく、呼びかけに応じて鹿になった森の精霊が館に走って来たので、ウラハンが女神の間に案内した。
「サンドラーチェ様、御用でしょうか?」
「よく来てくれた森の精霊よ、一つ頼みたい事がある」
「何なりと」
「明日、東の国の琥珀の王子なる者達がこの館にやって来る。無事にたどり着けるように守護して欲しいのだ」
「はい、お安い御用です」
翌日、琥珀の王子一行は難なくガルバトスを渡り森に入った。
森の道のりは精霊によって保護されていたので、野獣その他の族も手出しすることが無く、その日の内に館に辿り着いてしまった。
ヤントス一行に気が付いたウラハンが言った。
「ようこそ! 琥珀の王子殿。女神は中でお待ちです」
「私が来る事を知っていたのですか?」
「もちろんです、大魔女ですから。ささ、どうぞ!」
ヤントスはその見事な館を見て、自分の携えてきた財宝など役に立たないだろうと悟った。
荘厳なしつらえの大扉を中に入るとまっすぐ廊下があり、ウラハンの手による美しい調度品の数々が飾られていた。
突き当りの扉を開けると立派な暖炉があり、大人になる一歩手前の少女が薪をくべていた。
「キャッ!」
少女は母によく似た美女だった。
「あっ、驚かせてすみません。サンドラーチェ女神様にお願いに伺いましたヤントスと申します」
「はじめまして、サンドラーチェです」
「あなたが?」
「ええ、お待ちしておりました、こちらへ」
恐ろしげなお婆さんを想像していたヤントスは、拍子が抜けてしまった。
テーブルに豪華な食事が用意されていた。
「すみません、私の他に従者がいるのですが」
「心配しなくていいわ、ウラハンが彼等の面倒を見るから、それから、」
「それから?」
「私の事はサンディーと呼んでいいわ。貴方の事をヤンと?」
「分かったよサンディー、僕の事はヤンと呼んでくれたまえ」
女神と王子はあっと言う間に打ち解けて友達になってしまい、楽しい食事で夜も更けて来た。
「サンディー、楽しくてすっかり忘れていたのだが、実は君にお願いがあって来たのだ」
「何かしら、ヤン?」
サンドラーチェはとぼけて聞き返した。
「空から星の欠片が落ちてきてからというもの、王国の作物がすっかり育たなくなってしまって困っているのさ。君の魔力で何とか出来ないだろうか?」
「出来るわよ」
「本当に?」
「ええ、本当よ。ただね、それをする事によってこの森の作物が減ってしまうの。それを踏まえて貰って私の願いを聞き入れてくれるなら、魔力を使って王国の飢饉を終わらせると約束するわ、どうかしら?」
「もちろん当然の事だ」
「その条件とは、貴方が私の夫となってここで暮らす事よ」
ヤントスは母との約束を思い出した、用事を無事に済ませて必ず帰ると言った事を。
が、美しい女神の夫になる事を母は喜んでくれるに違いないとも思った。
「サンディー、僕は約束を守る男だ。一度城に戻り父と母に別れの挨拶をしてきたい」
「良いわ、貴方が戻って来たら結婚式を挙げましょう」
ヤントスは母のガッカリした顔が浮かんだが、もはやヤントスはサンドラーチェの魅力の虜になっていたのである。
見ていると、ガルバトスを渡ってこちらにやって来る一行の前見えたので、食事の準備をしていた下僕のウラハンを呼んで尋ねた。
「こ奴らは何者か?」
ウラハンは水晶を覗き込んでから頷いた。
「なるほど、東の国の琥珀の王子ですな」
「琥珀の王子? なかなか美しい若者ではないか」
「そうですね、私とは違う」
ウラハンはヤントスに嫉妬したが、苦々しい気持ちは隠した。
「何をしに来たと思う?」
「はい、大方国の飢饉を無くしてくれる様に、貴女に懇願に詣ったのでしょう。以前同じ事がありました」
「あゝ、そうか!」
サンドラーチェは、空を見つめて昔を思い出している風で続けてこう言った。
「ウラハンよ! 森の精霊をここに呼び出して参れ!」
「かしこまりました」
ウラハンは、何故森の精霊を呼び出すのか分からなかったが、悪い足を引きずりながら外へ出ていった。
「森の精霊よ! サンドラーチェ様がお呼びである、すぐに出仕するが良い」
こう森に呼びかけて、ウラハンは残した仕事に戻った。
間もなく、呼びかけに応じて鹿になった森の精霊が館に走って来たので、ウラハンが女神の間に案内した。
「サンドラーチェ様、御用でしょうか?」
「よく来てくれた森の精霊よ、一つ頼みたい事がある」
「何なりと」
「明日、東の国の琥珀の王子なる者達がこの館にやって来る。無事にたどり着けるように守護して欲しいのだ」
「はい、お安い御用です」
翌日、琥珀の王子一行は難なくガルバトスを渡り森に入った。
森の道のりは精霊によって保護されていたので、野獣その他の族も手出しすることが無く、その日の内に館に辿り着いてしまった。
ヤントス一行に気が付いたウラハンが言った。
「ようこそ! 琥珀の王子殿。女神は中でお待ちです」
「私が来る事を知っていたのですか?」
「もちろんです、大魔女ですから。ささ、どうぞ!」
ヤントスはその見事な館を見て、自分の携えてきた財宝など役に立たないだろうと悟った。
荘厳なしつらえの大扉を中に入るとまっすぐ廊下があり、ウラハンの手による美しい調度品の数々が飾られていた。
突き当りの扉を開けると立派な暖炉があり、大人になる一歩手前の少女が薪をくべていた。
「キャッ!」
少女は母によく似た美女だった。
「あっ、驚かせてすみません。サンドラーチェ女神様にお願いに伺いましたヤントスと申します」
「はじめまして、サンドラーチェです」
「あなたが?」
「ええ、お待ちしておりました、こちらへ」
恐ろしげなお婆さんを想像していたヤントスは、拍子が抜けてしまった。
テーブルに豪華な食事が用意されていた。
「すみません、私の他に従者がいるのですが」
「心配しなくていいわ、ウラハンが彼等の面倒を見るから、それから、」
「それから?」
「私の事はサンディーと呼んでいいわ。貴方の事をヤンと?」
「分かったよサンディー、僕の事はヤンと呼んでくれたまえ」
女神と王子はあっと言う間に打ち解けて友達になってしまい、楽しい食事で夜も更けて来た。
「サンディー、楽しくてすっかり忘れていたのだが、実は君にお願いがあって来たのだ」
「何かしら、ヤン?」
サンドラーチェはとぼけて聞き返した。
「空から星の欠片が落ちてきてからというもの、王国の作物がすっかり育たなくなってしまって困っているのさ。君の魔力で何とか出来ないだろうか?」
「出来るわよ」
「本当に?」
「ええ、本当よ。ただね、それをする事によってこの森の作物が減ってしまうの。それを踏まえて貰って私の願いを聞き入れてくれるなら、魔力を使って王国の飢饉を終わらせると約束するわ、どうかしら?」
「もちろん当然の事だ」
「その条件とは、貴方が私の夫となってここで暮らす事よ」
ヤントスは母との約束を思い出した、用事を無事に済ませて必ず帰ると言った事を。
が、美しい女神の夫になる事を母は喜んでくれるに違いないとも思った。
「サンディー、僕は約束を守る男だ。一度城に戻り父と母に別れの挨拶をしてきたい」
「良いわ、貴方が戻って来たら結婚式を挙げましょう」
ヤントスは母のガッカリした顔が浮かんだが、もはやヤントスはサンドラーチェの魅力の虜になっていたのである。
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