リズの冒険日記

輝安鉱

文字の大きさ
1 / 28

ホラ吹きは冒険のはじまり

しおりを挟む
 私の生まれた村は、巨大な遺跡のほとりにあった。

 よその人たちには迷宮ダンジョンとも呼ばれる。地表に露出している部分も城のように大きいが、その地下にはさらに迷路のような広い空間が広がっており、何十年かかっても調査が終わらない。

 そこで回収された遺物の洗浄作業や、その他にも埋まっている周辺建築物の基礎の発掘作業などは、村人たちのちょうど良い小遣い稼ぎになっており、私も物心つく頃から考古学者たちの仕事を手伝っていた。

 迷宮内の調査は学者たちに依頼された【冒険者】という、特別な資格を持っている人々が請け負い、普通の村人は立ち入りを禁じられている。
 なぜなら内部には、謎の古代魔術(と思われるもの)により今なお稼働し続けている罠が無数にあり、また太古からの姿を残している特別な魔物が、独自の生態系を形成しているらしい。
 よって腕の立つ専門家しか探索を許可されていない・・・・・・のだけれど。

 うちの元気なじい様は、何度注意されても遺跡の中に押し入ろうとして、しょっちゅう騒ぎを起こしている。

 じい様に悪気はない。だってじい様がほんの子供の頃には、遺跡に入ってはいけない決まりはなかったんだ。
 それに何よりも――じい様は、その遺跡は我が家のものであると言い張っていたから。

 じい様曰く、私たちの祖先は【アーデイティシル】と呼ばれる古代人の王族で、遺跡は王の宮殿なのだという。

 その古代人はかつて世界を支配していたが、ある時、歴史から忽然と姿を消した。原因は疫病だとか大災害だとか言われているが、はっきりとはわからない。なにせ軽く千年以上は前のことだから。
 現代で彼らの存在を証明するのものは、迷宮を孕んだ各地の遺跡のみ。

 しかし王家はひっそりと生き残っていた。血脈は今も絶えていない。どんなに薄まろうがまだ続いている。
 だから遺跡は我が家の所有物。
 よそ者が勝手に入るなと。

 こんなことを権威ある学者相手に怒鳴り散らす老人を、周囲がどう扱うか。
 それは説明するまでもないだろう。

 じい様はホラ吹きボケ爺の称号を手に入れた。

 子供にまで馬鹿にされ、じい様が骨張った肩を震わせ、「嘘じゃない」と言い返す小さな姿。私は胸が痛かった。

 じい様は本当に嘘つきなのか?
 それは私の人生の命題になった。

 じい様の話を支持する証拠の一つは、我が家の変遷が古代文字で綴られた伝記。
 考古学者に見せたが偽造だと言われてしまった。
 内容も定説と異なるし、伝記の紙質や素材が当時の時代にそぐわないそうだ。

 前者はひとまず置いといても、後者については我が家の人々が記録を失わないよう、新しい紙に書き写していったからこそなのだが、それを偽造でないとする証拠は持ってない。原本はとうに朽ちて失われているのだ。

 もう一つの証拠としては、我が家が全員、古代語の読み書き発音を完璧にできること。でもこれは弱い。

 それよりさらに微妙な証拠は、私。

 家族は他の民族とすっかり血が混ざって茶や黒といった色が多い中で、私の生まれながらの白髪と金色の瞳は、先祖返りだそうだ。私が生まれた時、じい様は飛び上がって喜び、変なふうに転んで足の骨を折ったらしい。

 実際、古代人にはそういう容姿の特徴があったとする説もある。アーデイティシルは私たちが今住んでいる国の古い言葉で【白金に輝く人】という意味。それが髪と瞳の色のことを指している、のかもしれない。
 ただ、こういう色味の人が他の民族にまったくいないわけではないし、単なる偶然と言えばそうとも言える。証拠にはなり得ない。

 じゃあ、じい様はやっぱり嘘つき?
 ――ううん、その結論は早い。

 実は、証拠というほどではないけれど、私はもう一つ秘密を持っている。
 それは迷宮から引き上げられた遺物の洗浄作業を手伝う中で、見つけた。
 私が、謎の魔術で他民族を圧倒した古代人の、先祖返りかもしれない証拠の欠片。

 だからもっと、探してみたいと思った。
 最終的に嘘だったという証拠が見つかっても構わない。
 本当のことを知りたいと思った。

 つまり、私は冒険に出たくなったのだ。
 


 ⛏



 掘り返した土の匂い。時折、風にまじる砂。

 古ぼけた土壁の家を出る。
 振り返れば私を見送る家族が勢ぞろいしている。

 じい様とばあ様、お父さんとお母さん、兄さんと兄さんのお嫁さんと、やっと歩き始めた甥と、姉さん。狭い家はいつもぎゅうぎゅうだ。

「忘れ物は?」
「矢は足りるのか?」

 両親とも心配性。お母さんはポンチョをめくって、私のリュックの中身を何度も確認し、お父さんは腰の後ろに吊るした矢筒に限界まで、お手製の黒い矢を詰めようとする。ありがたいが、いざという時に矢を素早く抜けなくなることを考えてほしい。

「大丈夫だよ。全部きっちり用意してるっ」
「そうそう。リズはしっかりしてるから大丈夫だって」

 私の一番の味方は姉さんのリザだ。年が二つしか違わず、友達みたいに仲がいい。私の髪を夕陽のような金赤色にしたら、リザとそっくりになる。

「なにも十六歳になってすぐ冒険者になることないのに」
「いつまでも言わないの。納得したことでしょ?」

 リド兄さんはちょっと渋い顔。だけどセラ義姉さんがたしなめてくれた。義姉さんも最初は反対していたけどね。
 家族内で物議を醸した私の進路だが、我が家で大きな発言力を持つ人のおかげで一応は承認されている。
 言わずもがな、ダンタじい様だ。

「必ず成し遂げろ! すべての秘術を会得しお前が王家を再興するのだ! 栄光のアーデイティシルよ!」

 今日も熱く拳を握り、じい様が雄たけびを上げた。
 こういうことするから、皆に避けられる。

「王家再興はどうだか知らないけど、皆にじい様の話を信じてもらえるようにがんばって調べるねっ」
「おぉそうか! お前は自慢の孫だリズ! 必ずやご先祖様の威光を復活させるのだぞ!」

 成り立っているか微妙な会話。人の話を聞いているのかは半々。これがうちのじい様だ。ちょっと迷惑だけど、純粋な信念の人なんだ。

 すると、急にハリばあ様が手を伸ばし、私の顔を両側からぐみゅっと挟んだ。
 皮が伸びてる柔らかい手にぐにゅぐにゅ揉まれる。

「大事ない、大事ない」

 そう言って前歯の抜けた顔で笑う。

「行っといで。西の風は吹いてるよ」

 西の風は希望の象徴。
 私の行き先には希望があるってこと。なんでかな、ハリばあ様が言うと気休めじゃなくて本当だって思える。

 他の家族も、あんまり話の通じないじい様までも、私の顔をぐにぐに撫で回して、お別れした。甥の小さなニーキは私の足をばんばん叩いてた。がんばれって言われてるんだと思うことにする。

「それじゃあ、行ってきます!」

 白髪のおさげを後ろへ流し、私は駆け足で遺跡の村を出て行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...