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ホラ吹きは冒険のはじまり
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私の生まれた村は、巨大な遺跡のほとりにあった。
よその人たちには迷宮とも呼ばれる。地表に露出している部分も城のように大きいが、その地下にはさらに迷路のような広い空間が広がっており、何十年かかっても調査が終わらない。
そこで回収された遺物の洗浄作業や、その他にも埋まっている周辺建築物の基礎の発掘作業などは、村人たちのちょうど良い小遣い稼ぎになっており、私も物心つく頃から考古学者たちの仕事を手伝っていた。
迷宮内の調査は学者たちに依頼された【冒険者】という、特別な資格を持っている人々が請け負い、普通の村人は立ち入りを禁じられている。
なぜなら内部には、謎の古代魔術(と思われるもの)により今なお稼働し続けている罠が無数にあり、また太古からの姿を残している特別な魔物が、独自の生態系を形成しているらしい。
よって腕の立つ専門家しか探索を許可されていない・・・・・・のだけれど。
うちの元気なじい様は、何度注意されても遺跡の中に押し入ろうとして、しょっちゅう騒ぎを起こしている。
じい様に悪気はない。だってじい様がほんの子供の頃には、遺跡に入ってはいけない決まりはなかったんだ。
それに何よりも――じい様は、その遺跡は我が家のものであると言い張っていたから。
じい様曰く、私たちの祖先は【アーデイティシル】と呼ばれる古代人の王族で、遺跡は王の宮殿なのだという。
その古代人はかつて世界を支配していたが、ある時、歴史から忽然と姿を消した。原因は疫病だとか大災害だとか言われているが、はっきりとはわからない。なにせ軽く千年以上は前のことだから。
現代で彼らの存在を証明するのものは、迷宮を孕んだ各地の遺跡のみ。
しかし王家はひっそりと生き残っていた。血脈は今も絶えていない。どんなに薄まろうがまだ続いている。
だから遺跡は我が家の所有物。
よそ者が勝手に入るなと。
こんなことを権威ある学者相手に怒鳴り散らす老人を、周囲がどう扱うか。
それは説明するまでもないだろう。
じい様はホラ吹きボケ爺の称号を手に入れた。
子供にまで馬鹿にされ、じい様が骨張った肩を震わせ、「嘘じゃない」と言い返す小さな姿。私は胸が痛かった。
じい様は本当に嘘つきなのか?
それは私の人生の命題になった。
じい様の話を支持する証拠の一つは、我が家の変遷が古代文字で綴られた伝記。
考古学者に見せたが偽造だと言われてしまった。
内容も定説と異なるし、伝記の紙質や素材が当時の時代にそぐわないそうだ。
前者はひとまず置いといても、後者については我が家の人々が記録を失わないよう、新しい紙に書き写していったからこそなのだが、それを偽造でないとする証拠は持ってない。原本はとうに朽ちて失われているのだ。
もう一つの証拠としては、我が家が全員、古代語の読み書き発音を完璧にできること。でもこれは弱い。
それよりさらに微妙な証拠は、私。
家族は他の民族とすっかり血が混ざって茶や黒といった色が多い中で、私の生まれながらの白髪と金色の瞳は、先祖返りだそうだ。私が生まれた時、じい様は飛び上がって喜び、変なふうに転んで足の骨を折ったらしい。
実際、古代人にはそういう容姿の特徴があったとする説もある。アーデイティシルは私たちが今住んでいる国の古い言葉で【白金に輝く人】という意味。それが髪と瞳の色のことを指している、のかもしれない。
ただ、こういう色味の人が他の民族にまったくいないわけではないし、単なる偶然と言えばそうとも言える。証拠にはなり得ない。
じゃあ、じい様はやっぱり嘘つき?
――ううん、その結論は早い。
実は、証拠というほどではないけれど、私はもう一つ秘密を持っている。
それは迷宮から引き上げられた遺物の洗浄作業を手伝う中で、見つけた。
私が、謎の魔術で他民族を圧倒した古代人の、先祖返りかもしれない証拠の欠片。
だからもっと、探してみたいと思った。
最終的に嘘だったという証拠が見つかっても構わない。
本当のことを知りたいと思った。
つまり、私は冒険に出たくなったのだ。
⛏
掘り返した土の匂い。時折、風にまじる砂。
古ぼけた土壁の家を出る。
振り返れば私を見送る家族が勢ぞろいしている。
じい様とばあ様、お父さんとお母さん、兄さんと兄さんのお嫁さんと、やっと歩き始めた甥と、姉さん。狭い家はいつもぎゅうぎゅうだ。
「忘れ物は?」
「矢は足りるのか?」
両親とも心配性。お母さんはポンチョをめくって、私のリュックの中身を何度も確認し、お父さんは腰の後ろに吊るした矢筒に限界まで、お手製の黒い矢を詰めようとする。ありがたいが、いざという時に矢を素早く抜けなくなることを考えてほしい。
「大丈夫だよ。全部きっちり用意してるっ」
「そうそう。リズはしっかりしてるから大丈夫だって」
私の一番の味方は姉さんのリザだ。年が二つしか違わず、友達みたいに仲がいい。私の髪を夕陽のような金赤色にしたら、リザとそっくりになる。
「なにも十六歳になってすぐ冒険者になることないのに」
「いつまでも言わないの。納得したことでしょ?」
リド兄さんはちょっと渋い顔。だけどセラ義姉さんがたしなめてくれた。義姉さんも最初は反対していたけどね。
家族内で物議を醸した私の進路だが、我が家で大きな発言力を持つ人のおかげで一応は承認されている。
言わずもがな、ダンタじい様だ。
「必ず成し遂げろ! すべての秘術を会得しお前が王家を再興するのだ! 栄光のアーデイティシルよ!」
今日も熱く拳を握り、じい様が雄たけびを上げた。
こういうことするから、皆に避けられる。
「王家再興はどうだか知らないけど、皆にじい様の話を信じてもらえるようにがんばって調べるねっ」
「おぉそうか! お前は自慢の孫だリズ! 必ずやご先祖様の威光を復活させるのだぞ!」
成り立っているか微妙な会話。人の話を聞いているのかは半々。これがうちのじい様だ。ちょっと迷惑だけど、純粋な信念の人なんだ。
すると、急にハリばあ様が手を伸ばし、私の顔を両側からぐみゅっと挟んだ。
皮が伸びてる柔らかい手にぐにゅぐにゅ揉まれる。
「大事ない、大事ない」
そう言って前歯の抜けた顔で笑う。
「行っといで。西の風は吹いてるよ」
西の風は希望の象徴。
私の行き先には希望があるってこと。なんでかな、ハリばあ様が言うと気休めじゃなくて本当だって思える。
他の家族も、あんまり話の通じないじい様までも、私の顔をぐにぐに撫で回して、お別れした。甥の小さなニーキは私の足をばんばん叩いてた。がんばれって言われてるんだと思うことにする。
「それじゃあ、行ってきます!」
白髪のおさげを後ろへ流し、私は駆け足で遺跡の村を出て行った。
よその人たちには迷宮とも呼ばれる。地表に露出している部分も城のように大きいが、その地下にはさらに迷路のような広い空間が広がっており、何十年かかっても調査が終わらない。
そこで回収された遺物の洗浄作業や、その他にも埋まっている周辺建築物の基礎の発掘作業などは、村人たちのちょうど良い小遣い稼ぎになっており、私も物心つく頃から考古学者たちの仕事を手伝っていた。
迷宮内の調査は学者たちに依頼された【冒険者】という、特別な資格を持っている人々が請け負い、普通の村人は立ち入りを禁じられている。
なぜなら内部には、謎の古代魔術(と思われるもの)により今なお稼働し続けている罠が無数にあり、また太古からの姿を残している特別な魔物が、独自の生態系を形成しているらしい。
よって腕の立つ専門家しか探索を許可されていない・・・・・・のだけれど。
うちの元気なじい様は、何度注意されても遺跡の中に押し入ろうとして、しょっちゅう騒ぎを起こしている。
じい様に悪気はない。だってじい様がほんの子供の頃には、遺跡に入ってはいけない決まりはなかったんだ。
それに何よりも――じい様は、その遺跡は我が家のものであると言い張っていたから。
じい様曰く、私たちの祖先は【アーデイティシル】と呼ばれる古代人の王族で、遺跡は王の宮殿なのだという。
その古代人はかつて世界を支配していたが、ある時、歴史から忽然と姿を消した。原因は疫病だとか大災害だとか言われているが、はっきりとはわからない。なにせ軽く千年以上は前のことだから。
現代で彼らの存在を証明するのものは、迷宮を孕んだ各地の遺跡のみ。
しかし王家はひっそりと生き残っていた。血脈は今も絶えていない。どんなに薄まろうがまだ続いている。
だから遺跡は我が家の所有物。
よそ者が勝手に入るなと。
こんなことを権威ある学者相手に怒鳴り散らす老人を、周囲がどう扱うか。
それは説明するまでもないだろう。
じい様はホラ吹きボケ爺の称号を手に入れた。
子供にまで馬鹿にされ、じい様が骨張った肩を震わせ、「嘘じゃない」と言い返す小さな姿。私は胸が痛かった。
じい様は本当に嘘つきなのか?
それは私の人生の命題になった。
じい様の話を支持する証拠の一つは、我が家の変遷が古代文字で綴られた伝記。
考古学者に見せたが偽造だと言われてしまった。
内容も定説と異なるし、伝記の紙質や素材が当時の時代にそぐわないそうだ。
前者はひとまず置いといても、後者については我が家の人々が記録を失わないよう、新しい紙に書き写していったからこそなのだが、それを偽造でないとする証拠は持ってない。原本はとうに朽ちて失われているのだ。
もう一つの証拠としては、我が家が全員、古代語の読み書き発音を完璧にできること。でもこれは弱い。
それよりさらに微妙な証拠は、私。
家族は他の民族とすっかり血が混ざって茶や黒といった色が多い中で、私の生まれながらの白髪と金色の瞳は、先祖返りだそうだ。私が生まれた時、じい様は飛び上がって喜び、変なふうに転んで足の骨を折ったらしい。
実際、古代人にはそういう容姿の特徴があったとする説もある。アーデイティシルは私たちが今住んでいる国の古い言葉で【白金に輝く人】という意味。それが髪と瞳の色のことを指している、のかもしれない。
ただ、こういう色味の人が他の民族にまったくいないわけではないし、単なる偶然と言えばそうとも言える。証拠にはなり得ない。
じゃあ、じい様はやっぱり嘘つき?
――ううん、その結論は早い。
実は、証拠というほどではないけれど、私はもう一つ秘密を持っている。
それは迷宮から引き上げられた遺物の洗浄作業を手伝う中で、見つけた。
私が、謎の魔術で他民族を圧倒した古代人の、先祖返りかもしれない証拠の欠片。
だからもっと、探してみたいと思った。
最終的に嘘だったという証拠が見つかっても構わない。
本当のことを知りたいと思った。
つまり、私は冒険に出たくなったのだ。
⛏
掘り返した土の匂い。時折、風にまじる砂。
古ぼけた土壁の家を出る。
振り返れば私を見送る家族が勢ぞろいしている。
じい様とばあ様、お父さんとお母さん、兄さんと兄さんのお嫁さんと、やっと歩き始めた甥と、姉さん。狭い家はいつもぎゅうぎゅうだ。
「忘れ物は?」
「矢は足りるのか?」
両親とも心配性。お母さんはポンチョをめくって、私のリュックの中身を何度も確認し、お父さんは腰の後ろに吊るした矢筒に限界まで、お手製の黒い矢を詰めようとする。ありがたいが、いざという時に矢を素早く抜けなくなることを考えてほしい。
「大丈夫だよ。全部きっちり用意してるっ」
「そうそう。リズはしっかりしてるから大丈夫だって」
私の一番の味方は姉さんのリザだ。年が二つしか違わず、友達みたいに仲がいい。私の髪を夕陽のような金赤色にしたら、リザとそっくりになる。
「なにも十六歳になってすぐ冒険者になることないのに」
「いつまでも言わないの。納得したことでしょ?」
リド兄さんはちょっと渋い顔。だけどセラ義姉さんがたしなめてくれた。義姉さんも最初は反対していたけどね。
家族内で物議を醸した私の進路だが、我が家で大きな発言力を持つ人のおかげで一応は承認されている。
言わずもがな、ダンタじい様だ。
「必ず成し遂げろ! すべての秘術を会得しお前が王家を再興するのだ! 栄光のアーデイティシルよ!」
今日も熱く拳を握り、じい様が雄たけびを上げた。
こういうことするから、皆に避けられる。
「王家再興はどうだか知らないけど、皆にじい様の話を信じてもらえるようにがんばって調べるねっ」
「おぉそうか! お前は自慢の孫だリズ! 必ずやご先祖様の威光を復活させるのだぞ!」
成り立っているか微妙な会話。人の話を聞いているのかは半々。これがうちのじい様だ。ちょっと迷惑だけど、純粋な信念の人なんだ。
すると、急にハリばあ様が手を伸ばし、私の顔を両側からぐみゅっと挟んだ。
皮が伸びてる柔らかい手にぐにゅぐにゅ揉まれる。
「大事ない、大事ない」
そう言って前歯の抜けた顔で笑う。
「行っといで。西の風は吹いてるよ」
西の風は希望の象徴。
私の行き先には希望があるってこと。なんでかな、ハリばあ様が言うと気休めじゃなくて本当だって思える。
他の家族も、あんまり話の通じないじい様までも、私の顔をぐにぐに撫で回して、お別れした。甥の小さなニーキは私の足をばんばん叩いてた。がんばれって言われてるんだと思うことにする。
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