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第二章 君の手は握れない

第十四話 君の手は握れない5

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 とにかくメガネが最優先だ。天王寺についてすぐにメガネ屋に行き、フレームを選ぶ。
 初めてメガネ屋に足を踏み入れたが、こんなにフレームあるんだーとウロウロ。形も色も少しずつ違って、レンズの薄さまで選ぶらしい。桂っちも視力が良いから初めて入ったらしく、興味津々になっている。眩しいくらいに赤い縁が目を惹くデザインのメガネをかけ、
「店長見てください! 似合いますか?」
「いつもより賢く見えるわー」
「それじゃあ、いつもはアホに見えてるってことですかぁ!」
「そこまで言ってねーし。てか、意外と似合ってるじゃん」
「え! ホントすか~!」
 なんてふざけあっている一方、ダダと駿河はメガネをかけている者同士、いろいろ話しながら真剣に選んでいる。
「お二人とも。タイスケさんがフレーム何個か選んで今悩んでらっしゃるんですが、一緒に見てもらっていいですか?」
「ねぇ、どれがいい?」
 今まで使ってたものに近い黒い細縁の楕円型、深みのある茶色のべっ甲のウェリントン型、フレームなしだけど弦の部分が太く、チェック柄が印字されているもの……ファッションショーのように何個もかけて見せてくれる。
「タイスケさん! どのメガネもカッコいいっす!」
「咲さんもそう思いますよね! 一緒に選べるなんて夢のようです……!」
 二人ともまだまだファン気分が抜けてねぇな~なんて、呆れていると、
「キムキムはどう?」
「んー。なんか見慣れたこともあって黒縁のが一番しっくりきてたかなー」
「じゃあ、オレ、黒のにする」
「ちょっ、ちょっ、そんな簡単で良いワケ⁉」
 アタシの一言で本当に黒縁のメガネを購入した。一時間ほどで出来上がるらしい。超早くてビックリだ。

 メガネが出来るまで服を見てまわる。最初は四人で見てたけど、いつの間にか桂っちと駿河っち、アタシとダダの組み合わせでまわっていた。
 ワイワイ話しながら服を選んでいる二人を見ていると、付き合えてよかったじゃんって思う。別に友達同士でもあの二人ならいつまでも仲良く交流を続けてただろう。けど、恋人同士になって壁がなくなって、本当の意味で肩の力抜いて付き合えてるというか。二人を見守ってた身として、微笑ましくなる。
「キムキム」
「わっ! びっくりすんじゃん!」
 ダダが後ろからにゅっと顔を出す。
「服買わないの?」
「今日は良いかなーって」
「そう」
 今、二人分の生活費をアタシが出している。来月辺りからは、ダダからちゃんと徴収するつもり。今月と来月はとにかく節約しないといけないのだ。
「ダダは……めっちゃ持ってんじゃん」
「うん。久しぶりに買えるから」
 腕に服の山が出来ている。といっても、ここは他のブランドと比べて価格帯はかなり安い。その上一足先にセールも始まり、普段よりさらにお得になっている。
「結構首元よれたり変色したりしてたかんねぇ」
 洗う時に何とかしてあげようとしたが、長年放置された汚れは全く取れず。首元のヨレも素人のアタシじゃなくてもお手上げなくらい緩んでしまって元の形には戻せなかった。
「キムキムは、メンズ服だったらどんなの好き?」
「えー? あんま考えたことないわ~。その人自身が好きな服、似合うって思って着てるんならそれで良くね派」
「なるほどー」
 アタシに訊いてくるってことは、また「変だ」と言われるかもしれないということを気にしてるんだろうか。なにか、気の利いたことを……。
「ダダの私服、どれも似合ってて良いんじゃない? なんというか、自分の体形とか髪色とかわかって選んでて、そのー……あの二人も言ってた通り、かっ、カッコいいから!」
 あー、意気込むとダメだわ。何言ってんだろ、アタシ。ダダもちょっとびっくりした顔して、こっち見てるし……。
「とにかくダダは人の意見に流されなくたって大丈夫ってこと!」
 アタシは無理やり締めると、ダダの少し眉が下がる。
「わかった……ありがと」
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