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第三章 やりなおしの歌

第二十話 やりなおしの歌2

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 ダダと水族館に行く日にちが決まってもアタシはどこか信じられずにいた。それなのに、今、アタシといえば、一人、天王寺に出向き、服やアイシャドウを買って、両手に荷物を抱えている。楽しみにしているのか、緊張してるのか。醒めない夢の中にいる、地に足のつかない変な感じ。
 買い逃したものがないかフロアをうろついていると、CDショップを見つけた。黄色いフリージアのCD、本当に置いてるのかな? 興味本位で入ってみると、デカい店員さんお手製POP付き、エンド台にでかでかと展開されていた。推されている、ということなんだろうな。
 コーナーに貼られたアーティスト写真にはもちろんダダがいた。海をバックに三人が等間隔に砂浜に立っていて、ダダは横を向いている。いつも見ている顔なのに、写真になるとなぜか他人のように思えてしまう。
 置かれているCDの中に、一枚、まだ持ってないものがあった。ジャケットはもちろんダダの絵。『サイダーカプリチオ』という曲名通り、青地に白い気泡が描かれていて、真ん中には気泡に交じって女性がふわりと浮いている。かわいいじゃんと手に取り、眺めていると、制服を着た女の子二人組がやってきた。
「イエフリここにあるじゃん」
 と言いながらコーナーの写真を撮り終わると、まじまじとPOPについているイエフリの写真を見始めた。
「ソウタかタイスケだよねー。コウノさんとオヤジさんは顔怖すぎ」
「まじそれ」
「でもこの中ならやっぱタイスケがいい」
「あたしもー」
 ダダの話をバイト先以外で会話に出ていると不思議な感じだ。
「それにしても、タイスケ最近変わったと思わん?」
「ね! 変わったって言うか、単純に太っただけじゃね?」
「オンナかな?」
「絶対オンナだよ」
 オンナ、ねぇ……。間違ってないけど、間違ってるよな。アタシはただの友達だし。
「タイスケってファンの女の家を転々としてるって言われたしさ」
「あー、そういう噂、あったあった。見るからにヒモ男要素しかないもん」
「てか、バンドマンなんてそんなもんでしょ。プライベートクズばっか」
 ダダは、そんなヤツじゃねーし! 毎日一生懸命頑張ってるし。内心舌打ちしてしまう。二人組から目をそらし、アタシはレジへと向かい、『サイダーカプリチオ』のCDを購入した。
 にしても、今はネットがあれば歌なんてすぐ聴けるってのに。でもCDじゃないとダダの描くジャケットは手元に置いておけないもんなぁ。
 そーいや、イエフリの曲ってまだちゃんと聴いたことないな。ライブに行った日はダダのことでいっぱいだったし、ダダからもらったCDは飾ってるけど、再生機器ないから中身は触ってない。あんなに頑張って活動してるんだし、ちょっと聴いてみよう。そう思って帰り道に、家電量販店でCDコンポを買った。学校に置いてあったのはめちゃくちゃ重くて、デカかったのに、かなり薄くなっててびっくりしたし、持ち帰りも楽だった。
 家に帰って、早速聴いてみる。爽やかで、前向きな歌詞が多く、学校や青春をテーマにしている曲が多いから、学生人気があるのも頷ける。耳をすますとキーボードの音色が聴こえてきた。あんなに人と作品を作ることを嫌がってたダダが音楽を信頼できるメンバーと一緒に奏でているとは。高校生の時のアタシに、ダダに言ったらどれほど驚くだろう。アタシと離れていた間、ダダもきっといろんなことがあって今があるんだろうな。ああ、なんでその過程をアタシは見れなかったんだろう。また変えれない過去のことをウジウジ考えてしまう。
「あー、もう」
 CDを止めて、アタシはベッドに上がってふて寝した。
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