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第三章 やりなおしの歌
第二十二話 やりなおしの歌4
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水族館まで二時間。最初は公式サイトを見ながら「楽しみだね」なんて盛り上がってたけど、結局二人とも眠ってしまった。
平日ということもあって比較的空いている館内に足を踏み入れると、最初は森に棲む生き物が出迎えてくれた。アユとかサワガニとか、アタシでも「川にいるイメージある」生き物もいれば、カワウソがいてびっくりした。確かに名前には「カワ」って入ってるけど……。
奥に進むとペンギンやマンボウなどが気温や気候といった環境別にコーナーが作られている。歩いて行くたびに自分が海の中へ、深く深く潜っていくような不思議な感覚。
小さい頃に来た時とは視線の高さや、読めない漢字が多かった説明文も読めるから何倍もおもしろい。
そして、水族館の目玉・巨大水槽が現れ、二人ともため息交じりに「すごいねぇ……」と言い合った。館内には座ってゆっくり鑑賞できるようにベンチが設置されている。ダダは座ると、おもむろにトートバッグの中に手を突っ込んだ。スマホを取り出して写真でも撮るのかなと思ったら、スケッチブックと鉛筆を取り出す。
「持って来たんだ⁉」
「うん」
隣に座って手元を覗きこむ。何もない白いページに手早く線が描かれて、命が吹き込まれていく。
「動いてるのは難しいけど、そこにいる休憩してるのなら描けそうだなって」
ほとんどの人が、優雅に泳ぐ一匹のジンベイザメに目を奪われているが、底の砂場には置物のように動かない魚たちが何匹もたむろしている姿にダダは注目した。
「動と静の対比、おもしろい」
「こういうのは水族館のいいとこだよねー。なんていうか、魚社会もいろんな種類がいて、いろんな色のがいて成立してるんだなって思うわ」
「オレも人間社会ならこの位置にいる気がする」
「んー、アタシはどれだろ……」
「キムキムは隣で寝てるやつ」
「そんなじっとしてる?」
「ううん。今みたいに隣にいてくれるから」
ダダはそれ以上何も言わなかったけど、そう評価してくれるのは悪くないと思った。
描き終わると次の水槽へ。気になる生き物がいたら、立ち止まってスケッチする。アタシはただただ絵を見ているだけなのに、全然退屈しないから不思議。こんな歩き方、ダダとじゃないと出来ないな。
北極圏エリアにたどり着くと、灰色の胴体に胡麻模様。呼吸するたび揺れる長いひげ、大きな黒目を潤ませている。
「アザラシ」
「ようやくいたじゃん!」
「まんまるでかわいい」
三頭ほどいるアザラシたちはみな上半身だけを水面から出してて、アタシたちを一瞬見た後、目をつむってしまった。TVでは元気に泳いでたというのに、まったく動く気配がない。
「お風呂入ってるみたいで気持ちよさそう」
水槽を眺めるダダの表情はいつになくリラックスしていた。
「ねぇ、ダダ。写真撮っても良い?」
「いいよ」
と横に避けるダダに、
「ダダとアザラシの構図で撮りたいんだけど」
「オレも?」
少し驚いているダダとアザラシを一緒にフレームに収める。
「なんかそのアザラシさー、ダダに似てる」
「そうかな?」
ダダが首を傾げると、アザラシは半分目を開いて首を傾げた。笑いながらシャッターのボタンを押した。
最後にグッズコーナーを覗く。入り口すぐにつまれたアザラシのぬいぐるみを見つけると、ダダは小走りで駆けていく。
「これ、買う」
「デカっ!」
ホンモノのアザラシのようにリアルな顔つきのぬいぐるみだ。POPには『約六十センチのビッグサイズぬいぐるみ! 抱き枕にピッタリ!』と書かれている。
「あの狭い部屋のどこに置くつもり?」
「抱いて寝る」
「でも、ダダ、寝袋じゃん」
「あっ……」
しょんぼり肩を落とす。
「でも、そろそろ布団買わなきゃね。あの寝袋じゃさすがに寒くなるし」
「いいの?」
「まぁ、ダダが家を出て一人暮らしってなっても、布団は一組あれば便利だろうし。その辺は気にしなくていいよ」
アタシがそう言った瞬間、ダダの瞳の奥が曇った。
「オレこれ買ってくる」
なんかマズいこと言ったかな? と心配したが、買って戻ってきたダダの表情はいつも通りで安心した。
平日ということもあって比較的空いている館内に足を踏み入れると、最初は森に棲む生き物が出迎えてくれた。アユとかサワガニとか、アタシでも「川にいるイメージある」生き物もいれば、カワウソがいてびっくりした。確かに名前には「カワ」って入ってるけど……。
奥に進むとペンギンやマンボウなどが気温や気候といった環境別にコーナーが作られている。歩いて行くたびに自分が海の中へ、深く深く潜っていくような不思議な感覚。
小さい頃に来た時とは視線の高さや、読めない漢字が多かった説明文も読めるから何倍もおもしろい。
そして、水族館の目玉・巨大水槽が現れ、二人ともため息交じりに「すごいねぇ……」と言い合った。館内には座ってゆっくり鑑賞できるようにベンチが設置されている。ダダは座ると、おもむろにトートバッグの中に手を突っ込んだ。スマホを取り出して写真でも撮るのかなと思ったら、スケッチブックと鉛筆を取り出す。
「持って来たんだ⁉」
「うん」
隣に座って手元を覗きこむ。何もない白いページに手早く線が描かれて、命が吹き込まれていく。
「動いてるのは難しいけど、そこにいる休憩してるのなら描けそうだなって」
ほとんどの人が、優雅に泳ぐ一匹のジンベイザメに目を奪われているが、底の砂場には置物のように動かない魚たちが何匹もたむろしている姿にダダは注目した。
「動と静の対比、おもしろい」
「こういうのは水族館のいいとこだよねー。なんていうか、魚社会もいろんな種類がいて、いろんな色のがいて成立してるんだなって思うわ」
「オレも人間社会ならこの位置にいる気がする」
「んー、アタシはどれだろ……」
「キムキムは隣で寝てるやつ」
「そんなじっとしてる?」
「ううん。今みたいに隣にいてくれるから」
ダダはそれ以上何も言わなかったけど、そう評価してくれるのは悪くないと思った。
描き終わると次の水槽へ。気になる生き物がいたら、立ち止まってスケッチする。アタシはただただ絵を見ているだけなのに、全然退屈しないから不思議。こんな歩き方、ダダとじゃないと出来ないな。
北極圏エリアにたどり着くと、灰色の胴体に胡麻模様。呼吸するたび揺れる長いひげ、大きな黒目を潤ませている。
「アザラシ」
「ようやくいたじゃん!」
「まんまるでかわいい」
三頭ほどいるアザラシたちはみな上半身だけを水面から出してて、アタシたちを一瞬見た後、目をつむってしまった。TVでは元気に泳いでたというのに、まったく動く気配がない。
「お風呂入ってるみたいで気持ちよさそう」
水槽を眺めるダダの表情はいつになくリラックスしていた。
「ねぇ、ダダ。写真撮っても良い?」
「いいよ」
と横に避けるダダに、
「ダダとアザラシの構図で撮りたいんだけど」
「オレも?」
少し驚いているダダとアザラシを一緒にフレームに収める。
「なんかそのアザラシさー、ダダに似てる」
「そうかな?」
ダダが首を傾げると、アザラシは半分目を開いて首を傾げた。笑いながらシャッターのボタンを押した。
最後にグッズコーナーを覗く。入り口すぐにつまれたアザラシのぬいぐるみを見つけると、ダダは小走りで駆けていく。
「これ、買う」
「デカっ!」
ホンモノのアザラシのようにリアルな顔つきのぬいぐるみだ。POPには『約六十センチのビッグサイズぬいぐるみ! 抱き枕にピッタリ!』と書かれている。
「あの狭い部屋のどこに置くつもり?」
「抱いて寝る」
「でも、ダダ、寝袋じゃん」
「あっ……」
しょんぼり肩を落とす。
「でも、そろそろ布団買わなきゃね。あの寝袋じゃさすがに寒くなるし」
「いいの?」
「まぁ、ダダが家を出て一人暮らしってなっても、布団は一組あれば便利だろうし。その辺は気にしなくていいよ」
アタシがそう言った瞬間、ダダの瞳の奥が曇った。
「オレこれ買ってくる」
なんかマズいこと言ったかな? と心配したが、買って戻ってきたダダの表情はいつも通りで安心した。
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