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第四章【月燈の元で】
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駅から歩きながら、すふあとの生活を思い起こす。
タンス貯金の5万円を、全部バナナボートと牛乳に変えて満面の笑顔のすふあ。
雨の中で大はしゃぎし、長靴のまま家の中を走り回ったすふあ。
そういえば僕が風邪で寝ていたら、お店の商品を持ち去ろうとしてたこともあったな。風邪でつらかったのにお店まで謝りに行った。
思い出してイライラしながら帰宅すると、満面の笑顔のすふあに出迎えられた。昨日片づけたはずなのに散らかっている室内を見渡し、ため息を吐きながら夕食の支度を始める。その後ろで、今日あったことを楽しそうに語るすふあ。僕はつい言ってしまった。
「疲れてるんだ。家のこと何もしてくれないなら、せめて静かにしてくれよ」
すふあは一瞬、暗い顔に変わる。言い過ぎたかと後悔した瞬間、すふあは僕の想像を超えることを言った。
「よし、そんなに疲れてるなら仕事やめよう」
僕は一瞬で怒りが再燃し、怒鳴る。
「辞められるわけないだろう、働かなきゃ、ここに住む家賃も払えないし食べることもできなくなる。すふあの生活費だって僕が払ってるんだ」
すふあは、あっけにとられたようになったが、すぐに真顔に戻る。そして、優しそうな表情になって僕の頭を撫でながら言う。
「生きるものはなぁ、生きるものを糧にする。バナナもなぁ、牛乳を出す牛もなぁ、豚も鶏も魚も稲も麦も、みーんな生きてるんだぞぉ。みーんな、生きるために命を食べてる。それなのに、お金の為に命を売り買いするほうがおかしいぞぉ」
「それになぁ、生まれたところと、育ったところと、生きているところ。変わることはあるからなぁ。だったらここに住み続ける必要なんてないぞぉ」
何も言えなくなった僕に、すふあは優しそうな表情のまま言葉を続ける。
「たまもりは、いっぱい頑張ったし我慢もした。嫌なこと言われて、やりたくもないことやらされる。仕事、したいならすればいい。辞めたいなら辞めればいい。」
すふあは僕の頭をそっと抱きしめ、言葉を続ける。
「すふあは、どこに住んで何を食べるんだっていいぞぉ、たまもりと一緒なら」
その瞬間、すふあの胸のなかで、僕の目から涙が溢れ出す。
すふあは、僕にくつろぐように言うと、代わりにキッチンに立つ。以前すふあが料理をしたときは、食材選びも切り方も適当で、適当に炒めたそれはところどころ焦げていて、ところどころ生。砂糖と塩を間違える話はきいたことがあるが、砂糖とお酢を間違えて、食べられるものじゃなかった。
それを思い出しながら待っていると、卵焼きを作ってくれた。
見た目は問題ない、匂いも悪くない。意を決して一口かぶりつく。
「え!? 美味しい」
卵に少量の牛乳を混ぜたのだろう。トロリとした柔らかな食感は、プレーンオムレツのよう。とても美味しかった。
先に布団に入り、スヤスヤと寝息を立てるすふあ。寝返りと共に布団が乱れる。窓から差し込む月燈りが、すふあの陰影を色濃く照らす。
そっと手を伸ばし、その長い髪に触れる。
トクン
胸が鳴る
手が髪をなぞる
トクントクン
鼓動が速くなる
髪を滑り、肩に触れる
ドクンドクン
胸が張り裂けそうに高鳴る
肩から、前へゆっくりと指が滑る
月に照らされたすふあの白いトレーナー。その膨らみに指が滑る。トレーナーの柔らかな生地越しに、もっと柔らかで温かな感触が指に伝わる。
いけないことをしているという葛藤と、バレたら嫌われるだろうという恐怖。そういった背徳感を、本能が押し潰そうとしている。手に力を込めるか迷っていたその時…
「たまもりは、どうしてもしたいんだね」
目をつむったまま、すふあが言った。
反射的に手を引き、謝る。
「ごめん…」
「いいよ、男はみんな、したいものなんだろう?」
この心は愛だ。欲望のままに女性を抱くような男と、僕は違う。そう自分に言い聞かせていたのに、僕自信もそんな男と同じだと言われた気持ちになる。
「いいよ、しよう。私も、たまもりとしたい」
すふあは、ゆっくりと起き上がり、両手を僕の背中に回す。そして、すふあの柔らかな唇が、僕の唇に触れる。
恋愛経験も女性経験も無い僕に、この状態で理性が働くことは、あるはずかない。
愛とか、恋とか、愛おしいとか、幸せとか、喜びとか、興奮とか、欲望とか、緊張とか、不安とか、そういうものが全て混ざった “気持ちよさ” に支配された僕は、知るはずがなかった。僕の胸の中で艶かしい声をあげているすふあの気持ちを、決意を…
~ 大好きだよ、たまもり。私 は 絶対に忘れない ~
目が覚める。いつもと変わらない部屋。いつもと変わらない朝日。
いつもと変わらない一人の朝。
夢を見ていた気がする。長い夢。幸せだった夢。温かかった夢。
タンス貯金の5万円を、全部バナナボートと牛乳に変えて満面の笑顔のすふあ。
雨の中で大はしゃぎし、長靴のまま家の中を走り回ったすふあ。
そういえば僕が風邪で寝ていたら、お店の商品を持ち去ろうとしてたこともあったな。風邪でつらかったのにお店まで謝りに行った。
思い出してイライラしながら帰宅すると、満面の笑顔のすふあに出迎えられた。昨日片づけたはずなのに散らかっている室内を見渡し、ため息を吐きながら夕食の支度を始める。その後ろで、今日あったことを楽しそうに語るすふあ。僕はつい言ってしまった。
「疲れてるんだ。家のこと何もしてくれないなら、せめて静かにしてくれよ」
すふあは一瞬、暗い顔に変わる。言い過ぎたかと後悔した瞬間、すふあは僕の想像を超えることを言った。
「よし、そんなに疲れてるなら仕事やめよう」
僕は一瞬で怒りが再燃し、怒鳴る。
「辞められるわけないだろう、働かなきゃ、ここに住む家賃も払えないし食べることもできなくなる。すふあの生活費だって僕が払ってるんだ」
すふあは、あっけにとられたようになったが、すぐに真顔に戻る。そして、優しそうな表情になって僕の頭を撫でながら言う。
「生きるものはなぁ、生きるものを糧にする。バナナもなぁ、牛乳を出す牛もなぁ、豚も鶏も魚も稲も麦も、みーんな生きてるんだぞぉ。みーんな、生きるために命を食べてる。それなのに、お金の為に命を売り買いするほうがおかしいぞぉ」
「それになぁ、生まれたところと、育ったところと、生きているところ。変わることはあるからなぁ。だったらここに住み続ける必要なんてないぞぉ」
何も言えなくなった僕に、すふあは優しそうな表情のまま言葉を続ける。
「たまもりは、いっぱい頑張ったし我慢もした。嫌なこと言われて、やりたくもないことやらされる。仕事、したいならすればいい。辞めたいなら辞めればいい。」
すふあは僕の頭をそっと抱きしめ、言葉を続ける。
「すふあは、どこに住んで何を食べるんだっていいぞぉ、たまもりと一緒なら」
その瞬間、すふあの胸のなかで、僕の目から涙が溢れ出す。
すふあは、僕にくつろぐように言うと、代わりにキッチンに立つ。以前すふあが料理をしたときは、食材選びも切り方も適当で、適当に炒めたそれはところどころ焦げていて、ところどころ生。砂糖と塩を間違える話はきいたことがあるが、砂糖とお酢を間違えて、食べられるものじゃなかった。
それを思い出しながら待っていると、卵焼きを作ってくれた。
見た目は問題ない、匂いも悪くない。意を決して一口かぶりつく。
「え!? 美味しい」
卵に少量の牛乳を混ぜたのだろう。トロリとした柔らかな食感は、プレーンオムレツのよう。とても美味しかった。
先に布団に入り、スヤスヤと寝息を立てるすふあ。寝返りと共に布団が乱れる。窓から差し込む月燈りが、すふあの陰影を色濃く照らす。
そっと手を伸ばし、その長い髪に触れる。
トクン
胸が鳴る
手が髪をなぞる
トクントクン
鼓動が速くなる
髪を滑り、肩に触れる
ドクンドクン
胸が張り裂けそうに高鳴る
肩から、前へゆっくりと指が滑る
月に照らされたすふあの白いトレーナー。その膨らみに指が滑る。トレーナーの柔らかな生地越しに、もっと柔らかで温かな感触が指に伝わる。
いけないことをしているという葛藤と、バレたら嫌われるだろうという恐怖。そういった背徳感を、本能が押し潰そうとしている。手に力を込めるか迷っていたその時…
「たまもりは、どうしてもしたいんだね」
目をつむったまま、すふあが言った。
反射的に手を引き、謝る。
「ごめん…」
「いいよ、男はみんな、したいものなんだろう?」
この心は愛だ。欲望のままに女性を抱くような男と、僕は違う。そう自分に言い聞かせていたのに、僕自信もそんな男と同じだと言われた気持ちになる。
「いいよ、しよう。私も、たまもりとしたい」
すふあは、ゆっくりと起き上がり、両手を僕の背中に回す。そして、すふあの柔らかな唇が、僕の唇に触れる。
恋愛経験も女性経験も無い僕に、この状態で理性が働くことは、あるはずかない。
愛とか、恋とか、愛おしいとか、幸せとか、喜びとか、興奮とか、欲望とか、緊張とか、不安とか、そういうものが全て混ざった “気持ちよさ” に支配された僕は、知るはずがなかった。僕の胸の中で艶かしい声をあげているすふあの気持ちを、決意を…
~ 大好きだよ、たまもり。私 は 絶対に忘れない ~
目が覚める。いつもと変わらない部屋。いつもと変わらない朝日。
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