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風影の禁剣
風を斬る剣、戦を読む目
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「この半年で、随分変わったな」
木漏れ日の中、徐慧が腕を組みながら玲華を見下ろす。
その目には、どこか満足げな光が宿っていた。
玲華は荒い息を整え、木剣を握りしめる。
額には汗が滲み、全身の筋肉が心地よい疲労感を訴えていた。
しかし以前のように、すぐに息が上がることはない。
「まだ……終わってません!」
玲華は地面を蹴った。
ヒュンッ!!
影のように俊敏な動きで間合いを詰め、一気に剣を振るう。
それは、この半年で磨き上げた玲華の最も得意な技――風刃。
己の速さを最大限に活かし、剣にその勢いを乗せて振り抜く一撃。
その速さは、人の目では追えぬほど。
「ほう……」
徐慧の目が細まる。
カンッ!!
鋭い音が響く。
剣を振るうよりも速く、徐慧の木剣が玲華の刃を弾いた。
玲華は反動を利用し、すぐさま後方に跳ぶ。
(やっぱり……まだ師匠には届かない)
しかし、剣を握る手には確かな手応えがあった。
以前とは違う。今の自分は戦えている。
「いい目をするようになったな」
徐慧が楽しげに笑う。
「速さを活かした一撃か。いい剣だ」
玲華の剣戟は、単なる素早い斬撃ではない。
踏み込みの瞬間、身体を捻ることで、刃にさらに加速を乗せる。
身体の回転、重心の移動、剣の軌道をすべて計算し、最も鋭い一閃を生み出す技。
風のように舞い、一瞬の閃きで敵を切り裂く。
まるで風が刃を生み出すかのような鋭さだった。
徐慧は木剣を軽く回し、目を細める。
「だが、まだまだ甘ぇな」
次の瞬間、彼の気配が掻き消えた。
「っ……!」
悪寒が背筋を走る。
瞬時に剣を振るう。
カンッ!!
寸前で防いだ。
徐慧の木剣が、玲華の肩を狙っていた。
「ほう、今のは悪くなかったな」
徐慧は口角を上げる。
「だが、お前の風刃。まだ完璧じゃねぇ」
「……?」
次の瞬間、視界から徐慧が消えた。
気づいた時には、木剣の先が喉元に突きつけられていた。
玲華は息を呑む。何が起こったのかすら、わからなかった。
「速さはいい。だが、その先が足りねぇんだよ」
徐慧の声が、すぐ目の前から聞こえる。
玲華は息を呑む。
この半年で、自分は確かに強くなった。
しかし、まだ何かが足りない。
「あと半年もあれば、俺を倒せるかもしれねぇな」
徐慧の言葉に、玲華は目を見開いた。
「本当……ですか?」
「ああ。ここまでくれば、あとは実戦を積むだけだ」
―――実戦。
その言葉が胸に響く。
師匠はもう、自分を単なる弟子ではなく、一人の剣士として見始めているのかもしれない。
玲華の胸の奥に、揺るぎない覚悟が生まれる。
しかし、肩で息をする自分とは対照的に、徐慧は涼しい顔で木剣を肩に担いだ。
「悪くねぇが、さすがにそろそろ息が上がってきたな」
徐慧が、ちらりと玲華を見やる。
「そろそろ休憩するか」
その一言に、玲華は思わず安堵の息をついた。
林を抜ける風が心地よく、木漏れ日がちらちらと揺れる。
玲華はその場に腰を下ろし、差し出された湯気の立つ茶碗を受け取った。
剣を振るい続けた身体に、じんわりと染み渡る温もりが心地よい。
「……師匠、さっきの戦い、私のどこが甘かったんですか?」
玲華が茶を啜りながら問うと、徐慧は横になったまま、腕枕で空を仰いだ。
「お前さんの剣は、速さが売りだな。だが、それだけじゃダメだ」
「……どういうことですか?」
玲華は眉をひそめる。
速さを活かした一撃、それが《風刃》。
自分の最大の武器のはずなのに、まだ何かが足りないという。
「例えばだな――」
徐慧は指で小石を拾い、それをぽいっと放った。
「――お前、軍を率いて戦うことになったとしよう。敵は倍の兵力、しかも堅陣を敷いている。さて、どうする?」
「え?」
玲華は一瞬、戸惑った。
戦いといっても、剣の修行の話ではない。軍略の話だ。
「……正面から突っ込んだら、まず勝ち目はないですね」
「ほう? ならどうする?」
徐慧は興味深げに玲華を見た。
もともと、剣の修行の合間に何気なく話していた軍略の話題だった。
だが、玲華の考えや答えが意外と鋭く、話しているうちに徐慧もいつの間にか楽しんでしまっていた。
「敵の兵力が倍なら、まともに戦っても勝てません。なら、敵が陣を崩さざるを得ないように仕向けるべきです」
「ふむ、例えば?」
「……敵が兵を分散せざるを得ない状況を作るとか。奇襲を仕掛けて動揺させるとか……」
玲華は腕を組み、さらに思考を巡らせる。
「敵の指揮官が慎重な性格なら、焦らせるために陽動をかける。逆に短気なら、罠を仕掛けて誘導する……」
「ほう?」
徐慧の目が面白そうに細まる。
玲華の発想は、実に柔軟だった。
兵法の正式な教えを受けたわけでもないのに、まるで経験者のように考えている。
「なかなか筋がいいな。お前、本当に役人の娘か?」「うるさいです」
玲華はむっとした表情を浮かべる。
徐慧が話の流れでからかってくるのは、いつものことだ。
「まあ、実戦経験がない分、甘いところもあるが……発想は悪くねぇ」
徐慧は起き上がり、湯飲みを手に取った。
「剣も同じだ。敵がどんな動きをしてくるのか、どう動けば敵が崩れるのかを考えながら戦うんだ」
「……!」
玲華ははっとした。
これまで自分は、ただ速く斬ることだけを考えていた。
だが、敵の動きを読んで、一歩先を取る――
まるで戦場の駆け引きのように、剣も使えるのではないか?
「師匠……」
「お前さんの風刃は、確かに速ぇ。だが、それを『ただの速い剣』で終わらせるか、『策』にするかは、お前次第だな」
玲華は唇を引き結び、拳を握った。
剣の修行だけではなく、知恵も磨くこと。
それが、次の段階へ進む鍵なのかもしれない。
「……もう少し、考えながら戦ってみます」
「ははっ、いいぞ。その意気だ」
徐慧は茶を飲み干し、満足げに笑った。
この半年、玲華は剣だけでなく、考え方も成長している。
それが、話していて楽しい理由だった。
「さて――休憩も終わりだな。次は、さらに速い攻撃を試してみるか?」
「はい!」
玲華は立ち上がり、木剣を握った。
心の中に、新たな目標が灯る。
剣と知恵を磨くこと――それが、強くなるための道。
木漏れ日の中、徐慧が腕を組みながら玲華を見下ろす。
その目には、どこか満足げな光が宿っていた。
玲華は荒い息を整え、木剣を握りしめる。
額には汗が滲み、全身の筋肉が心地よい疲労感を訴えていた。
しかし以前のように、すぐに息が上がることはない。
「まだ……終わってません!」
玲華は地面を蹴った。
ヒュンッ!!
影のように俊敏な動きで間合いを詰め、一気に剣を振るう。
それは、この半年で磨き上げた玲華の最も得意な技――風刃。
己の速さを最大限に活かし、剣にその勢いを乗せて振り抜く一撃。
その速さは、人の目では追えぬほど。
「ほう……」
徐慧の目が細まる。
カンッ!!
鋭い音が響く。
剣を振るうよりも速く、徐慧の木剣が玲華の刃を弾いた。
玲華は反動を利用し、すぐさま後方に跳ぶ。
(やっぱり……まだ師匠には届かない)
しかし、剣を握る手には確かな手応えがあった。
以前とは違う。今の自分は戦えている。
「いい目をするようになったな」
徐慧が楽しげに笑う。
「速さを活かした一撃か。いい剣だ」
玲華の剣戟は、単なる素早い斬撃ではない。
踏み込みの瞬間、身体を捻ることで、刃にさらに加速を乗せる。
身体の回転、重心の移動、剣の軌道をすべて計算し、最も鋭い一閃を生み出す技。
風のように舞い、一瞬の閃きで敵を切り裂く。
まるで風が刃を生み出すかのような鋭さだった。
徐慧は木剣を軽く回し、目を細める。
「だが、まだまだ甘ぇな」
次の瞬間、彼の気配が掻き消えた。
「っ……!」
悪寒が背筋を走る。
瞬時に剣を振るう。
カンッ!!
寸前で防いだ。
徐慧の木剣が、玲華の肩を狙っていた。
「ほう、今のは悪くなかったな」
徐慧は口角を上げる。
「だが、お前の風刃。まだ完璧じゃねぇ」
「……?」
次の瞬間、視界から徐慧が消えた。
気づいた時には、木剣の先が喉元に突きつけられていた。
玲華は息を呑む。何が起こったのかすら、わからなかった。
「速さはいい。だが、その先が足りねぇんだよ」
徐慧の声が、すぐ目の前から聞こえる。
玲華は息を呑む。
この半年で、自分は確かに強くなった。
しかし、まだ何かが足りない。
「あと半年もあれば、俺を倒せるかもしれねぇな」
徐慧の言葉に、玲華は目を見開いた。
「本当……ですか?」
「ああ。ここまでくれば、あとは実戦を積むだけだ」
―――実戦。
その言葉が胸に響く。
師匠はもう、自分を単なる弟子ではなく、一人の剣士として見始めているのかもしれない。
玲華の胸の奥に、揺るぎない覚悟が生まれる。
しかし、肩で息をする自分とは対照的に、徐慧は涼しい顔で木剣を肩に担いだ。
「悪くねぇが、さすがにそろそろ息が上がってきたな」
徐慧が、ちらりと玲華を見やる。
「そろそろ休憩するか」
その一言に、玲華は思わず安堵の息をついた。
林を抜ける風が心地よく、木漏れ日がちらちらと揺れる。
玲華はその場に腰を下ろし、差し出された湯気の立つ茶碗を受け取った。
剣を振るい続けた身体に、じんわりと染み渡る温もりが心地よい。
「……師匠、さっきの戦い、私のどこが甘かったんですか?」
玲華が茶を啜りながら問うと、徐慧は横になったまま、腕枕で空を仰いだ。
「お前さんの剣は、速さが売りだな。だが、それだけじゃダメだ」
「……どういうことですか?」
玲華は眉をひそめる。
速さを活かした一撃、それが《風刃》。
自分の最大の武器のはずなのに、まだ何かが足りないという。
「例えばだな――」
徐慧は指で小石を拾い、それをぽいっと放った。
「――お前、軍を率いて戦うことになったとしよう。敵は倍の兵力、しかも堅陣を敷いている。さて、どうする?」
「え?」
玲華は一瞬、戸惑った。
戦いといっても、剣の修行の話ではない。軍略の話だ。
「……正面から突っ込んだら、まず勝ち目はないですね」
「ほう? ならどうする?」
徐慧は興味深げに玲華を見た。
もともと、剣の修行の合間に何気なく話していた軍略の話題だった。
だが、玲華の考えや答えが意外と鋭く、話しているうちに徐慧もいつの間にか楽しんでしまっていた。
「敵の兵力が倍なら、まともに戦っても勝てません。なら、敵が陣を崩さざるを得ないように仕向けるべきです」
「ふむ、例えば?」
「……敵が兵を分散せざるを得ない状況を作るとか。奇襲を仕掛けて動揺させるとか……」
玲華は腕を組み、さらに思考を巡らせる。
「敵の指揮官が慎重な性格なら、焦らせるために陽動をかける。逆に短気なら、罠を仕掛けて誘導する……」
「ほう?」
徐慧の目が面白そうに細まる。
玲華の発想は、実に柔軟だった。
兵法の正式な教えを受けたわけでもないのに、まるで経験者のように考えている。
「なかなか筋がいいな。お前、本当に役人の娘か?」「うるさいです」
玲華はむっとした表情を浮かべる。
徐慧が話の流れでからかってくるのは、いつものことだ。
「まあ、実戦経験がない分、甘いところもあるが……発想は悪くねぇ」
徐慧は起き上がり、湯飲みを手に取った。
「剣も同じだ。敵がどんな動きをしてくるのか、どう動けば敵が崩れるのかを考えながら戦うんだ」
「……!」
玲華ははっとした。
これまで自分は、ただ速く斬ることだけを考えていた。
だが、敵の動きを読んで、一歩先を取る――
まるで戦場の駆け引きのように、剣も使えるのではないか?
「師匠……」
「お前さんの風刃は、確かに速ぇ。だが、それを『ただの速い剣』で終わらせるか、『策』にするかは、お前次第だな」
玲華は唇を引き結び、拳を握った。
剣の修行だけではなく、知恵も磨くこと。
それが、次の段階へ進む鍵なのかもしれない。
「……もう少し、考えながら戦ってみます」
「ははっ、いいぞ。その意気だ」
徐慧は茶を飲み干し、満足げに笑った。
この半年、玲華は剣だけでなく、考え方も成長している。
それが、話していて楽しい理由だった。
「さて――休憩も終わりだな。次は、さらに速い攻撃を試してみるか?」
「はい!」
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