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一章
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第一章 世界は間違っている!
「世界は間違っている!」
大樹は叫んだ。
世界に争いはなくならない。自然破壊も進む一方。日本では、毎年3万人が自殺している。世界は間違いだらけだ。
「こんな世界は、間違っている!」
涙ながらに叫んでいるのは、ついさきほど同級生に告白し振られ、自分の部屋の机に突っ伏して泣いている高校一年生、石田大樹・16歳。
両親は父親の単身赴任で不在。家にいるのは現在彼だけだ。
石田大樹は、よくいる普通の高校生。ルックス、中の中。運動神経、中の上。勉強、下の上。
これといった取柄も無い。よく言えばスタンダードな高校生。悪く言えば、平凡。
―オレの人生結局だれかの複製品でしかないんじゃねえの?
そんな事を思ってしまう高校生。
特徴といえば、右目の眼帯くらい。
今から30分前
放課後の体育館の裏。そこに大樹はいた。
好きな女子に告白をする為に。
健全男子らしく大樹も女子に恋をした。今まで何度も告白しようとして勇気が出ずにあきらめてきた。
ついに告白することを決意して彼女の靴箱に手紙を入れた。
落ち着き無く体育館裏を行ったり来たり。
じっとしていられなかった。じっとしていると不安で胸が締め付けられ苦しくていられない。
「大事な話ってなんですか?」
ふいに、かけられた声に一瞬で体が固まった。
声の主は片手に手紙を持った少女。大樹が手紙を出した女子。
お淑やかなおとなしそうな印象受ける美少女。
「あ、あの」
極度の緊張でうまく口が回らない。心臓が激しく鼓動する。
「実は、オレ……」
大樹は緊張で思わず全身に力が入った。
しまった!
そう思ってもすでに遅い。大樹の右目にある映像が映し出された。
少女が頭を下げている。構図からすると大樹になにやら謝っている。
この状況で考えられるのは、『告白の拒絶』だった。
そこで景色が現実に戻る。
大樹の表情は一転、絶望に染まっている。
「やっぱり、何でもないんです。ほんとに、すいませんでした!」
大樹はあからさまに狼狽し頭を下げ謝る。
「あ、ちょっと……」
少女の声も聞かずその場から走り去った。痛む右目を押さえて。
大樹には、一つだけ他人と違う能力がある。
『未来を予知する瞳』
大樹の右眼は、数秒前の未来を視ることができる。
といっても視えるのは数秒後の未来のみ。今まで有効に利用できたことはほぼ無し。さらに代償として右眼に激痛が走る。
今回、無意識に使用し、振られる未来を見ることになった。
失恋の痛みと右目の痛みに号泣している。それが今の大樹の姿。
「やっぱりこんな世界は、間違っている!」
再度、大樹が叫んだ。
『そのとおりじゃー!』
突如、大樹の頭の中に謎の叫び声が響いた。
「ああぁああぁあああ」
鳴り響いた声のあまりの大きさに大樹は頭を抱えて床を転げ周った。
「なんじゃ、騒がしい奴じゃのう。こやつで本当に大丈夫じゃろうか、ぶつぶつ」
いつのまにか部屋の中に見慣れぬ人影が現れていた。
現れたのは見た目、20歳前後の女性。身長は180センチ近い長身で髪は血のような赤。瞳は髪の色と同じ赤。きつそうなイメージを受ける美人。
仁王立ちでたたずむその姿はどこか偉そうだ。
女性は頭を抱え転げている大樹の頭を踏みつけ無理やり静止させた。
「いいかげん、静まれ。ばか者!」
大樹はそこでやっと周りの状況に頭を働かせる。
―いてええ。なんなんだよ。いったい?
「ようやく、落ち着いて状況を飲み込み始めたか」
―さっきの馬鹿でかい声はこいつか? さっきから人の頭に足を乗せやがって)
頭を踏まれた状態で大樹は視線を上に向けた。
オーマイゴット!
大樹の両目がこれでもかと見開かれた。
理由は女性がパンツを履いていなかったから。
すぐに女性は大樹の視線に気付いた。
「痴れ者めが!」
女性は大樹を踏んづけていた足を数センチ上げ再度力強く踏み直す。
「ぎゃぁぁぁあああっ!」
あまりの痛みに大樹は女性の足を跳ねのけ再度転げまわった。
「また、これか。しかたないやつじゃ」
転げまわる大樹を見下ろしため息をつく。
「止まれ!」
女性の声に従うように転げまわっていた大樹の体が彼の意思に反して停止した。
「う、動けねえ。なんじゃこりゃあ」
「これでやっと、落ち着いて話ができるわい」
「あんた一体だれだよ! 人の頭を踏みつけやがったな。それ以前に不法侵入だろうが」
口しか動かせない状態で大樹は女性を睨む。
「黙れ」
「なんムグッ」
大樹の口が視えない力押さえられたようにしゃべれなくなった。
「質問は、ひとつひとつせい。まず、わしが誰かじゃったな」
「わしは」
ゴクリ。大樹が唾を飲む。
「神じゃ!」
自慢げに胸を張る。
(カミキターこれ! 救急車~、だれか黄色い救急車呼んでーー)
大樹が心で思った。
「だれが、キ●ガ●じゃ!」
女性が怒鳴った。
―心が読まれた?
心を見抜かれ大樹が驚愕の表情を浮かべる。
「そうじゃ。ヌシの心を読んだのじゃ。」
何かを悟ったように大樹の心が落ち着いていく。
(よし解った。だから、この拘束をといてくれ)
大樹は心で呟いた。
「うむ、意外と物分りの良い奴じゃ」
見えない拘束が解かれ大樹の体に自由が戻る。自由になった大樹はスクッと立ち上がりデッドの前に進む。
「よし! これは夢だ。それならもう一度寝よう。目覚めたら全部元通りのはず。失恋もなかったことに決まっている。ではお休み」
ベッドにうつ伏せに倒れこみ黙って目を閉じた。
「夢じゃないのじゃ!」
女性は、すばやく大樹の上にまたがると大樹の顎をつかみ真上に持ち上げ海老反りにした。
見事なキャメルクラッチが大樹に決まった。
「ぎにゃー、喉が、背骨が、腰が死ぬぅ、ギブ、ギブ、マジで!」
女性は手を離しベッドから降りた。
「い、痛い。てことは、夢じゃない!」
はっと顔を上げる。
「ようやく、話が……」
「分かった! 救急車が必要なのは俺だ! 明日病院に行こう。お休み」
再び目を閉じ寝ようとする。
「強情な奴じゃな」
再度、女性はベッドに上り大樹の胴に腕を回し持ち上げ直立させた。
「ほれ、さっさと起きんか!」
「離してくれ。あんたは俺の思春期の願望が夢の中で創りあげた幻想なんだろ。俺の性欲の権化だ」
ぶちっ。
女性は大樹を抱えたまま自ら後方に反り返るように倒れ込む。そのまま床に大樹の頭を激突させた。
ベッドの上から床に向けこれまた鮮やかなバックドロップを披露した。
「ぐぎゃぅ」
後頭部を抱え床にうずくまる。
「神を侮辱した罰じゃ!」
女性が立ち上がり得意そうに吐き捨てる
「さっきから一体なんなんだよ。あんた。プロレス同好会かなんかかよ!」
くらくらしながら大樹が立ち上がる。
「だから、神だといっておろうが」
女性が胸を張る。
「ああやはり、夢か」
くるりと大樹がベッドに向きを変えると女はすかさず大樹の腰に腕を回しバックドロップの体勢に入った。
「ストップ! うそ、うそ。だから持ち上げないでーー」
女性は腕を大樹の腰から離した。
「疑り深いやつじゃ。一向に話が進まぬではないか」
「わかった。とりあえず話を聞こう」
これ以上暴行されては命にかかわると思い大樹は女性の話を聞くことにした。
「ようやく、話を聞く気になったようじゃ。感心、感心」
女性がうんうんと頷く。
「で、一体自称神様が、俺に何のようだよ」
「自称ではない。正真正銘の神なのじゃ!」
「はい、はいで、その神様がなにゆえこの一庶民の私のところにきたのでしょうか。教えてくださいませ。神様」
半分馬鹿にしたように大樹が尋ねる。
「その口の利き方気に入らんがまあ、いい。話が進まんからな」
「神のような心で許そう。神だけに」
「寒っ!」
「ゴホンッ。場をなごませようとした気遣いを……。まあいい。本題に入ろう」
恥ずかしそうに女性が咳払いをし、話を続けた。
「ヌシは、先ほど世界は間違っていると叫んでおったな」
「ああ」
「では、世界を正しくしてみせよ」
「?」
突然の話に大樹は理解ができない。
「だ・か・ら、世界を正しくしてくれと言っておるのじゃ!」
もう一度大きめの声で女性が言った。
「カン拾いとか?」
「奉仕作業ではない」
「募金活動とか?」
「ボランティアでもない」
「では、なにをしろと?」
大樹が率直に質問した。
「過去に行って時代の過ちを修正してほしいのじゃ」
女性はいきなり唐突もないことを大樹に告げた。
「行ける訳ないだろうが!」
信じられないことを言われ大樹が怒鳴る。
「わしがヌシを連れて行く」
そう言って女性は胸を張った。形のいいバストが反る。
「それなら、あんたが直してくればいいことだろ」
「それは、できないのじゃ。そういう決まりじゃ。ところでヌシは、世界をどういった風に捉えておる?」
「世界って、なんだよ。突然、え~と」
大樹は突然の質問に困惑する。
「地球があって、宇宙が広がってるとかそういうことか?」
「まあ、概ね正解じゃ。じゃが、それは、この世界でのこと。わしが創った世界でのことなのじゃ」
「そんじゃ、世界が他にあるみたいじゃねえか」
「あるんじゃよ」
女性は自信を持って、言い切った。
「世界の成り立ちを少し話してやろう」
女性は勉強机に腰掛け話し始めた。
「はじめ世界には、わしたち神々しか存在しなんだ。でもそれじゃ、つまらん。ある神が呟いた」
「ふむ」
「で、神それぞれで世界を創りより良いものを創れるか競争することになったんじゃ」
「ふむふむ」
適当に相槌を入れる。
「その結果報告がそろそろあるのじゃ。で、ヌシこの世界の現状をどう思う?」
女性が大樹に問う。
「う~ん」
大樹は考えた。
繰り返される戦争。貧富の差。テロ活動。環境問題。などなど、最近のニュースが頭に浮かぶ。あまり良い状態だとは思わなかった。
「まずい感じ?」
「そう、まずいのじゃ。このままでは、上位どころか、ビリ候補決定!」
女性は声を大にし、天を仰いだ。
「まあ、あんたの力不足って事でしかたないんじゃねえ」
大樹は他人事のように答えた。そして、テーブルにあった缶ジュースを飲み始めた。
「馬鹿者! ビリをとることはヌシ等にも関係するんじゃぞ!」
そんな大樹の態度に女性が声を荒げる。
「どんな風に?」
興味なさそうに聞き返す。
「世界消滅!」
「ぶふぁ。ごほ、ごほ」
大樹は飲んでいたジュースを盛大に噴き出した。
「ちょ…汚!」
女性は、むせている大樹に批難の声をあげる。
「ごほっ。誰のせいだと思って。てか、世界消滅ってマジか?」
「マジじゃ!」
女性は堂々と言いきった。それを聞いて大樹はたじろいだ。が、
―ん、待てよ。まだこいつが神と決まったわけじゃないよな。
「聞こえておるぞよ。いいかげん神と納得したらどうじゃ」
「やっぱりあんた心が読めるのか?」
「神じゃからな」
―心が読めるなら神でもおかしくない。いや待て、もしかしたらただの超能力者かもしれない。
超能力者も実際信じてはいないが、神よりはまだ可能性はある。
「そ、それなら神にしかわからないことを言ってみてくれよ」
「それができたら信じるんじゃな」
「ああ」
大樹が頷く。
「約束じゃぞ」
そういうと女性は目を閉じた。そして、またすぐに目を開いた。
「石田大樹。小学二年生のころ、お泊り会でおねしょをし、夜の間にこっそり隣で寝ていた佐々木雄太の布団とすり替えた。右耳の後ろにホクロがある。特別な右目を持っている」
大樹は鏡で自分の耳の裏を確かめた。
「あ、ある。それに、おねしょのことはオレしか知らないはず。右目のことも」
「その眼は、天眼(テンゲン)といってな未来を視る目なのじゃ」
女性は続けた。
「そしてええ」
ごくり。大樹は唾を飲んだ。
「ヌシの卵子が受精したときの体位は、うしろやぐら、通称「立ちバック」じゃ」
ずるっ。大樹が派手にすっころぶ。
「さあ、両親に確認してくるとよい」
「できるかあ!」
大樹は起き上がると女性に怒鳴った。
「まあ、これでわしが神だとわかったじゃろ」
「ああ、少し納得できない気もしないけど、神だって信じてやるよ」
「ならさっそく」
神は詳しい説明に移ろうとする。
「でも、オレはやらないぜ。世界なんて終わればいいと思ってるし」
「なぜじゃ?」
「オレの心を読めばわかるだろうが、オレは今日振られたんだ。明日の希望なんて無い。そんな世界終わってしまってもいい」
そういうと大樹はまたベッドに倒れこんだ。口に出したことで失恋のショックが復活したようだ。
「なんじゃ。そんなことか」
大樹は変わらず倒れこんでいる。
「その恋、叶えてやるぞ」
大樹の耳がぴくっと動く。
「わしの頼みを成功したらその恋、叶えて進ぜよう」
シュパッ。
大樹は即ざに神の足元に正座した。
「なんなりと、命令してください」
「げ、現金な奴じゃな」
神は呆れたようにため息をついた。
「と、冗談はこれくらいにして、具体的に何をすればいいんだよ。オレは」
大樹は床から立ち上がり、ベッドに腰掛ける。
「では、もう一度言うぞ。ヌシに過去に行ってもらい歴史を修正してもらい今の世界を良い形に造り替えてほしいのじゃ。わしはそういった直接の関与はしていかんと最初の時点で決められてあるのでの」
「オレを過去に送るのはいいのかよ」
「まあ、ぎりぎりで大丈夫じゃろ。グレーゾーンというやつじゃな」
「あいまいだな。なんか」
「そこらへんはわしにまかせておけ」
どんと胸を叩く。
「じゃあ、オレは、どの時代に行って何をすればいいんだ?」
「そんなの知らん」
「はい?」
大樹がぽかんと口を開けて神を見る。
「それはヌシ自身が考えて行動するのじゃ。どの時代に行き何をすれば世界が正しくなるのか考えるのじゃ」
「丸投げかよっ! おいっ」
「では、明日また来るから、考えておくのじゃぞ」
神は部屋の窓を開け外に飛び出した。大樹の部屋は二階である。
驚いて大樹がすぐに窓から下を覗くと神はいつのまにか止まっていた赤いスポーツカーに飛び乗っていた。
「おい、どこいくんだよ」
大樹が窓から乗り出して叫ぶ。
「せっかくだから、自分の世界を体験してくるのじゃ。明日までにどうすればいいか考えておくのじゃぞ」
神は勝手なことを言ってそのままアクセル全開で走り出し、すぐに視界から見えなくなった。
こうして世界の存続は一人の少年の手に託された。
「どうすりゃいいんだよおおお」
少年のむなしい叫びが夕暮れの街に響いた。
『下手な考え休むに似たり』
大樹は歴史の教科書を持って机に突っ伏していた。
残された大樹はとりあえず歴史の教科書を眺め考えることにした。
だが、大樹の歴史の点数はお世辞にもいいとは言えない。。
「うがぁ~。オレが考えてもいい案なんて浮かばねエー」
叫ぶとほぼ同時に大樹の携帯が鳴ってすぐに切れた。
「ワン切りかよ! こんなときに」
着信履歴は黒武者 神流。同級生の女子。
活動的で活発な性格で女子、男子共にクラスでも人気者である。大樹とは小学校からの付き合いで今でもよく話す。
(そういえば、こいつ歴史得意だったよな)
大樹は携帯で神流に電話した。何回かのコール音の後、電話が繋がる。
『はい、もしもし』
『おー今暇か? ブラックブシドー』
ガチャ。ツーツー。
再度、かけ直す。
『はい、もしもし』
『冗談、冗談だって。それよりオレにワン切りしただろ!』
『んーしたけど、別に特に用はないから、なんとなくかけただけ』
『どうせ、通話料が掛かるからだろ』
『まぁね』
大樹は何か言ってやろうと思ったがそれを飲み込んだ。
『それでさ、神流、今暇か?』
『んー暇だけど』
『そうか、じゃあ、樫の木公園まできてくれ』
樫の木公園。
近くにある公園で、名前の通り、大きな樫の木がある公園である。また、その木の下で告白すると必ず両思いになれるというよくある伝説を持つ公園の一つでもある。
『え、でも、もう九時過ぎてるのに……』
『頼むよ。大事なことなんだ。公園で待ってるから、な?』
それだけ伝えて大樹が一方的に電話を切った。
「これでよし!」
小さくガッツポーズ。
「神流はなんだかんだ言っていろいろ助けてくれるからな。やっぱ持つべきものは友達だな」
大樹はすぐに出かける用意を始めた。
「切っちゃったよ。もう」
神流が通話の切れた携帯電話を見つめて呟いた
「でもなんでこんな時間に、あの公園に」
脳裏に公園の伝説が浮かぶ。
「こ、告白! まさかね、でももしかしたら……」
そそくさと神流はお気に入りの服に着替え始めた。
30分後 樫の木公園
夜の薄暗い公園。明かりは月明かりと外灯だけ。
神流が公園に着いたときすでに大樹は公園に到着していた。
神流の服装は青いショートパンツに黒のジャケットを羽織っている。すらっとした足が眩しい。走ってきた為かほんのりと顔が赤みがかっている。
「ごめん、待った?」
「ああ、こっちこそ悪かったな。突然呼び出して」
「で、大事な用事ってなに?」
神流はそういうと恥ずかしそうに目線を逸らす。
「ああ、それなんだけど……」
「うん」
「ちょっと恥ずかしいんだけど」
大樹が言いにくそうに言いよどむ。
「うん」
(ああ、やっぱり告白なんだ。どう返事をしよう)
神流の頭の中は想像でぐるぐる回転していた。
(別に大樹のことは嫌いじゃないけど、今までそんなこと考えたこと無かったし、でも、男友達の中では一番中良いし、いっしょにいると楽しいし)
そして、ようやく大樹が口を開いた。
「歴史ってどこを正したらよくなると思う?」
「え? なに?」
想定に無い質問に神流頭がさらに混乱する。
「だ・か・ら、歴史ってどこが今と違ったら世界が良くなってると思う?」
(大樹の奴なに言ってるの。あ、そうか、照れ隠しでこんなことを言ってんだな)
「よくわからないけど、織田信長が本能寺で殺されなかったら、結構変わってたんじゃない? 日本の歴史」
とりあえず、神流は浮かんだ考えを答えた。
「ああ!信長ね。思いつかなかったぜ」
それだとばかりに大樹が顔を明るくする。
「それで大事な用事って」
「ああ、それならもう解決したよ。サンキュー」
そういうと大樹は乗ってきた自転車にまたがった。
「え? 告白は? え?」
「じゃあ。また明日学校で。あ、薄着でいると風引くぞ」
それだけ言い残し、大樹は自転車をこいでさっさと公園から出て行ってしまった。
夜の公園に神流だけが残された。
「な、なんだったんだよ。一体!」
少女のむなしい叫びが夜の公園に響いた。
翌日、大樹は神流に学校で思い切り蹴飛ばされた。
「ボクを弄んだ罰だ!」
そのまま神流は怒りながら去っていった。
「オレなんかしたっけか?」
大樹は意味がわからず首を傾げた。
翌日 夕方 大樹の部屋
大樹は、部屋で織田信長の資料を読んでいた。学校の図書館で借りてきた本だ。
「ふむ、ふむ。1582年に信長を助けりゃいいってことか。でもそんなことオレ一人でやれったのかよ!」
そのとき、二階の窓が開けられた。
「いい考えは浮かびよったか」
予想通り神が遠慮なしに入ってきた。
「窓から入ってくるなよ」
大樹は呟いた。服装は昨日と変わりなかったが、両手には全国の特産品をぶら下げている。おまけに肩には白い狐が乗っかっていた。
「ずいぶん観光旅行満喫したみたいじゃないか」
大樹はせめてもの皮肉を込めて言ってみた。
「うむ、なかなか楽しめたぞ。経験することは新鮮じゃ」
そんなことは気にもとめず満足げに返事をする。
神はお土産を床に適当に置くと、机の上に腰を下ろした。
「ヌシの為に助っ人も連れてきてやったぞ」
神はどうだと言わんばかりに胸を張った。
「マジで?」
思わず大樹が聞き返す。
「マジじゃ」
「どんなやつ、強い?天使とか?」
大樹は突然の朗報に目を輝かせる。内心一人で戦国時代に行くことに不安を感じていたからなおさらだ。
「こいつじゃ!」
ビシッと指を差した先には肩に先ほどまで乗っていた白狐。
「狐じゃん!」
「白狐じゃ」
落胆に大樹は肩を落とした。
「狐じゃ役にたたねえっつーの!」
大樹は白狐を指差し文句を言った。
「役立たずなんて、心外やわ~」
大樹はその声に反応し振り返った。しかし、そこには白狐しかいない。
(あれ?)
大樹がそう思ったその時、狐から白煙が一気に広がり視界が真っ白になる。
「なんじゃこりゃ?!」
白煙はすぐにはれていった。煙がはれると白狐は姿を消し、替わりに着物姿の女性が姿を現した。きめ細かい白い肌。どことなく妖艶な印象をうける美人だ。着物は着崩れしていて、肌を大きく晒している。
「わては真白や。よろしゅ~」
陽気な声で挨拶をする。
そこに妖艶さはなかった。
「どうじゃ、強そうじゃろ」
「強いかどうかはわからないが、エロいな」
「鼻血でとるぞ」
神に指摘され大樹は鼻血を拭った。
「化け狐が相棒ってことか」
「真白ゆうてるやろ」
そういいながら真白が大樹の首に腕を回してきた。あまり女子に免疫のない大樹には刺激が強すぎる。
「ちょ、ちょっと離してくれ」
「つれへんひとやね」
ひとまず真白を引き離した。
「白狐という神獣のひとつじゃ」
「せやで、なかなか偉いんやで」
真白が得意げにする。
「まあ、いいやで、昨日、考えたのは、織田信長を本能寺から助けようと思うんだけど……」
大樹は神流の考えを自分で考えたかのように神に伝えた。
「うむ、最初の修正目標としてはいいかもしれんな。では、その時代に送るぞ」
神は、そういうと手のひらを大樹に向けた。
「え、ちょ、準備してから……」
「行くのじゃ」
うろたえる大樹を無視して神は二人を過去に飛ばした。
「人の話を聞け~~」
そのむなしい叫びは神に届かなかった。
「世界は間違っている!」
大樹は叫んだ。
世界に争いはなくならない。自然破壊も進む一方。日本では、毎年3万人が自殺している。世界は間違いだらけだ。
「こんな世界は、間違っている!」
涙ながらに叫んでいるのは、ついさきほど同級生に告白し振られ、自分の部屋の机に突っ伏して泣いている高校一年生、石田大樹・16歳。
両親は父親の単身赴任で不在。家にいるのは現在彼だけだ。
石田大樹は、よくいる普通の高校生。ルックス、中の中。運動神経、中の上。勉強、下の上。
これといった取柄も無い。よく言えばスタンダードな高校生。悪く言えば、平凡。
―オレの人生結局だれかの複製品でしかないんじゃねえの?
そんな事を思ってしまう高校生。
特徴といえば、右目の眼帯くらい。
今から30分前
放課後の体育館の裏。そこに大樹はいた。
好きな女子に告白をする為に。
健全男子らしく大樹も女子に恋をした。今まで何度も告白しようとして勇気が出ずにあきらめてきた。
ついに告白することを決意して彼女の靴箱に手紙を入れた。
落ち着き無く体育館裏を行ったり来たり。
じっとしていられなかった。じっとしていると不安で胸が締め付けられ苦しくていられない。
「大事な話ってなんですか?」
ふいに、かけられた声に一瞬で体が固まった。
声の主は片手に手紙を持った少女。大樹が手紙を出した女子。
お淑やかなおとなしそうな印象受ける美少女。
「あ、あの」
極度の緊張でうまく口が回らない。心臓が激しく鼓動する。
「実は、オレ……」
大樹は緊張で思わず全身に力が入った。
しまった!
そう思ってもすでに遅い。大樹の右目にある映像が映し出された。
少女が頭を下げている。構図からすると大樹になにやら謝っている。
この状況で考えられるのは、『告白の拒絶』だった。
そこで景色が現実に戻る。
大樹の表情は一転、絶望に染まっている。
「やっぱり、何でもないんです。ほんとに、すいませんでした!」
大樹はあからさまに狼狽し頭を下げ謝る。
「あ、ちょっと……」
少女の声も聞かずその場から走り去った。痛む右目を押さえて。
大樹には、一つだけ他人と違う能力がある。
『未来を予知する瞳』
大樹の右眼は、数秒前の未来を視ることができる。
といっても視えるのは数秒後の未来のみ。今まで有効に利用できたことはほぼ無し。さらに代償として右眼に激痛が走る。
今回、無意識に使用し、振られる未来を見ることになった。
失恋の痛みと右目の痛みに号泣している。それが今の大樹の姿。
「やっぱりこんな世界は、間違っている!」
再度、大樹が叫んだ。
『そのとおりじゃー!』
突如、大樹の頭の中に謎の叫び声が響いた。
「ああぁああぁあああ」
鳴り響いた声のあまりの大きさに大樹は頭を抱えて床を転げ周った。
「なんじゃ、騒がしい奴じゃのう。こやつで本当に大丈夫じゃろうか、ぶつぶつ」
いつのまにか部屋の中に見慣れぬ人影が現れていた。
現れたのは見た目、20歳前後の女性。身長は180センチ近い長身で髪は血のような赤。瞳は髪の色と同じ赤。きつそうなイメージを受ける美人。
仁王立ちでたたずむその姿はどこか偉そうだ。
女性は頭を抱え転げている大樹の頭を踏みつけ無理やり静止させた。
「いいかげん、静まれ。ばか者!」
大樹はそこでやっと周りの状況に頭を働かせる。
―いてええ。なんなんだよ。いったい?
「ようやく、落ち着いて状況を飲み込み始めたか」
―さっきの馬鹿でかい声はこいつか? さっきから人の頭に足を乗せやがって)
頭を踏まれた状態で大樹は視線を上に向けた。
オーマイゴット!
大樹の両目がこれでもかと見開かれた。
理由は女性がパンツを履いていなかったから。
すぐに女性は大樹の視線に気付いた。
「痴れ者めが!」
女性は大樹を踏んづけていた足を数センチ上げ再度力強く踏み直す。
「ぎゃぁぁぁあああっ!」
あまりの痛みに大樹は女性の足を跳ねのけ再度転げまわった。
「また、これか。しかたないやつじゃ」
転げまわる大樹を見下ろしため息をつく。
「止まれ!」
女性の声に従うように転げまわっていた大樹の体が彼の意思に反して停止した。
「う、動けねえ。なんじゃこりゃあ」
「これでやっと、落ち着いて話ができるわい」
「あんた一体だれだよ! 人の頭を踏みつけやがったな。それ以前に不法侵入だろうが」
口しか動かせない状態で大樹は女性を睨む。
「黙れ」
「なんムグッ」
大樹の口が視えない力押さえられたようにしゃべれなくなった。
「質問は、ひとつひとつせい。まず、わしが誰かじゃったな」
「わしは」
ゴクリ。大樹が唾を飲む。
「神じゃ!」
自慢げに胸を張る。
(カミキターこれ! 救急車~、だれか黄色い救急車呼んでーー)
大樹が心で思った。
「だれが、キ●ガ●じゃ!」
女性が怒鳴った。
―心が読まれた?
心を見抜かれ大樹が驚愕の表情を浮かべる。
「そうじゃ。ヌシの心を読んだのじゃ。」
何かを悟ったように大樹の心が落ち着いていく。
(よし解った。だから、この拘束をといてくれ)
大樹は心で呟いた。
「うむ、意外と物分りの良い奴じゃ」
見えない拘束が解かれ大樹の体に自由が戻る。自由になった大樹はスクッと立ち上がりデッドの前に進む。
「よし! これは夢だ。それならもう一度寝よう。目覚めたら全部元通りのはず。失恋もなかったことに決まっている。ではお休み」
ベッドにうつ伏せに倒れこみ黙って目を閉じた。
「夢じゃないのじゃ!」
女性は、すばやく大樹の上にまたがると大樹の顎をつかみ真上に持ち上げ海老反りにした。
見事なキャメルクラッチが大樹に決まった。
「ぎにゃー、喉が、背骨が、腰が死ぬぅ、ギブ、ギブ、マジで!」
女性は手を離しベッドから降りた。
「い、痛い。てことは、夢じゃない!」
はっと顔を上げる。
「ようやく、話が……」
「分かった! 救急車が必要なのは俺だ! 明日病院に行こう。お休み」
再び目を閉じ寝ようとする。
「強情な奴じゃな」
再度、女性はベッドに上り大樹の胴に腕を回し持ち上げ直立させた。
「ほれ、さっさと起きんか!」
「離してくれ。あんたは俺の思春期の願望が夢の中で創りあげた幻想なんだろ。俺の性欲の権化だ」
ぶちっ。
女性は大樹を抱えたまま自ら後方に反り返るように倒れ込む。そのまま床に大樹の頭を激突させた。
ベッドの上から床に向けこれまた鮮やかなバックドロップを披露した。
「ぐぎゃぅ」
後頭部を抱え床にうずくまる。
「神を侮辱した罰じゃ!」
女性が立ち上がり得意そうに吐き捨てる
「さっきから一体なんなんだよ。あんた。プロレス同好会かなんかかよ!」
くらくらしながら大樹が立ち上がる。
「だから、神だといっておろうが」
女性が胸を張る。
「ああやはり、夢か」
くるりと大樹がベッドに向きを変えると女はすかさず大樹の腰に腕を回しバックドロップの体勢に入った。
「ストップ! うそ、うそ。だから持ち上げないでーー」
女性は腕を大樹の腰から離した。
「疑り深いやつじゃ。一向に話が進まぬではないか」
「わかった。とりあえず話を聞こう」
これ以上暴行されては命にかかわると思い大樹は女性の話を聞くことにした。
「ようやく、話を聞く気になったようじゃ。感心、感心」
女性がうんうんと頷く。
「で、一体自称神様が、俺に何のようだよ」
「自称ではない。正真正銘の神なのじゃ!」
「はい、はいで、その神様がなにゆえこの一庶民の私のところにきたのでしょうか。教えてくださいませ。神様」
半分馬鹿にしたように大樹が尋ねる。
「その口の利き方気に入らんがまあ、いい。話が進まんからな」
「神のような心で許そう。神だけに」
「寒っ!」
「ゴホンッ。場をなごませようとした気遣いを……。まあいい。本題に入ろう」
恥ずかしそうに女性が咳払いをし、話を続けた。
「ヌシは、先ほど世界は間違っていると叫んでおったな」
「ああ」
「では、世界を正しくしてみせよ」
「?」
突然の話に大樹は理解ができない。
「だ・か・ら、世界を正しくしてくれと言っておるのじゃ!」
もう一度大きめの声で女性が言った。
「カン拾いとか?」
「奉仕作業ではない」
「募金活動とか?」
「ボランティアでもない」
「では、なにをしろと?」
大樹が率直に質問した。
「過去に行って時代の過ちを修正してほしいのじゃ」
女性はいきなり唐突もないことを大樹に告げた。
「行ける訳ないだろうが!」
信じられないことを言われ大樹が怒鳴る。
「わしがヌシを連れて行く」
そう言って女性は胸を張った。形のいいバストが反る。
「それなら、あんたが直してくればいいことだろ」
「それは、できないのじゃ。そういう決まりじゃ。ところでヌシは、世界をどういった風に捉えておる?」
「世界って、なんだよ。突然、え~と」
大樹は突然の質問に困惑する。
「地球があって、宇宙が広がってるとかそういうことか?」
「まあ、概ね正解じゃ。じゃが、それは、この世界でのこと。わしが創った世界でのことなのじゃ」
「そんじゃ、世界が他にあるみたいじゃねえか」
「あるんじゃよ」
女性は自信を持って、言い切った。
「世界の成り立ちを少し話してやろう」
女性は勉強机に腰掛け話し始めた。
「はじめ世界には、わしたち神々しか存在しなんだ。でもそれじゃ、つまらん。ある神が呟いた」
「ふむ」
「で、神それぞれで世界を創りより良いものを創れるか競争することになったんじゃ」
「ふむふむ」
適当に相槌を入れる。
「その結果報告がそろそろあるのじゃ。で、ヌシこの世界の現状をどう思う?」
女性が大樹に問う。
「う~ん」
大樹は考えた。
繰り返される戦争。貧富の差。テロ活動。環境問題。などなど、最近のニュースが頭に浮かぶ。あまり良い状態だとは思わなかった。
「まずい感じ?」
「そう、まずいのじゃ。このままでは、上位どころか、ビリ候補決定!」
女性は声を大にし、天を仰いだ。
「まあ、あんたの力不足って事でしかたないんじゃねえ」
大樹は他人事のように答えた。そして、テーブルにあった缶ジュースを飲み始めた。
「馬鹿者! ビリをとることはヌシ等にも関係するんじゃぞ!」
そんな大樹の態度に女性が声を荒げる。
「どんな風に?」
興味なさそうに聞き返す。
「世界消滅!」
「ぶふぁ。ごほ、ごほ」
大樹は飲んでいたジュースを盛大に噴き出した。
「ちょ…汚!」
女性は、むせている大樹に批難の声をあげる。
「ごほっ。誰のせいだと思って。てか、世界消滅ってマジか?」
「マジじゃ!」
女性は堂々と言いきった。それを聞いて大樹はたじろいだ。が、
―ん、待てよ。まだこいつが神と決まったわけじゃないよな。
「聞こえておるぞよ。いいかげん神と納得したらどうじゃ」
「やっぱりあんた心が読めるのか?」
「神じゃからな」
―心が読めるなら神でもおかしくない。いや待て、もしかしたらただの超能力者かもしれない。
超能力者も実際信じてはいないが、神よりはまだ可能性はある。
「そ、それなら神にしかわからないことを言ってみてくれよ」
「それができたら信じるんじゃな」
「ああ」
大樹が頷く。
「約束じゃぞ」
そういうと女性は目を閉じた。そして、またすぐに目を開いた。
「石田大樹。小学二年生のころ、お泊り会でおねしょをし、夜の間にこっそり隣で寝ていた佐々木雄太の布団とすり替えた。右耳の後ろにホクロがある。特別な右目を持っている」
大樹は鏡で自分の耳の裏を確かめた。
「あ、ある。それに、おねしょのことはオレしか知らないはず。右目のことも」
「その眼は、天眼(テンゲン)といってな未来を視る目なのじゃ」
女性は続けた。
「そしてええ」
ごくり。大樹は唾を飲んだ。
「ヌシの卵子が受精したときの体位は、うしろやぐら、通称「立ちバック」じゃ」
ずるっ。大樹が派手にすっころぶ。
「さあ、両親に確認してくるとよい」
「できるかあ!」
大樹は起き上がると女性に怒鳴った。
「まあ、これでわしが神だとわかったじゃろ」
「ああ、少し納得できない気もしないけど、神だって信じてやるよ」
「ならさっそく」
神は詳しい説明に移ろうとする。
「でも、オレはやらないぜ。世界なんて終わればいいと思ってるし」
「なぜじゃ?」
「オレの心を読めばわかるだろうが、オレは今日振られたんだ。明日の希望なんて無い。そんな世界終わってしまってもいい」
そういうと大樹はまたベッドに倒れこんだ。口に出したことで失恋のショックが復活したようだ。
「なんじゃ。そんなことか」
大樹は変わらず倒れこんでいる。
「その恋、叶えてやるぞ」
大樹の耳がぴくっと動く。
「わしの頼みを成功したらその恋、叶えて進ぜよう」
シュパッ。
大樹は即ざに神の足元に正座した。
「なんなりと、命令してください」
「げ、現金な奴じゃな」
神は呆れたようにため息をついた。
「と、冗談はこれくらいにして、具体的に何をすればいいんだよ。オレは」
大樹は床から立ち上がり、ベッドに腰掛ける。
「では、もう一度言うぞ。ヌシに過去に行ってもらい歴史を修正してもらい今の世界を良い形に造り替えてほしいのじゃ。わしはそういった直接の関与はしていかんと最初の時点で決められてあるのでの」
「オレを過去に送るのはいいのかよ」
「まあ、ぎりぎりで大丈夫じゃろ。グレーゾーンというやつじゃな」
「あいまいだな。なんか」
「そこらへんはわしにまかせておけ」
どんと胸を叩く。
「じゃあ、オレは、どの時代に行って何をすればいいんだ?」
「そんなの知らん」
「はい?」
大樹がぽかんと口を開けて神を見る。
「それはヌシ自身が考えて行動するのじゃ。どの時代に行き何をすれば世界が正しくなるのか考えるのじゃ」
「丸投げかよっ! おいっ」
「では、明日また来るから、考えておくのじゃぞ」
神は部屋の窓を開け外に飛び出した。大樹の部屋は二階である。
驚いて大樹がすぐに窓から下を覗くと神はいつのまにか止まっていた赤いスポーツカーに飛び乗っていた。
「おい、どこいくんだよ」
大樹が窓から乗り出して叫ぶ。
「せっかくだから、自分の世界を体験してくるのじゃ。明日までにどうすればいいか考えておくのじゃぞ」
神は勝手なことを言ってそのままアクセル全開で走り出し、すぐに視界から見えなくなった。
こうして世界の存続は一人の少年の手に託された。
「どうすりゃいいんだよおおお」
少年のむなしい叫びが夕暮れの街に響いた。
『下手な考え休むに似たり』
大樹は歴史の教科書を持って机に突っ伏していた。
残された大樹はとりあえず歴史の教科書を眺め考えることにした。
だが、大樹の歴史の点数はお世辞にもいいとは言えない。。
「うがぁ~。オレが考えてもいい案なんて浮かばねエー」
叫ぶとほぼ同時に大樹の携帯が鳴ってすぐに切れた。
「ワン切りかよ! こんなときに」
着信履歴は黒武者 神流。同級生の女子。
活動的で活発な性格で女子、男子共にクラスでも人気者である。大樹とは小学校からの付き合いで今でもよく話す。
(そういえば、こいつ歴史得意だったよな)
大樹は携帯で神流に電話した。何回かのコール音の後、電話が繋がる。
『はい、もしもし』
『おー今暇か? ブラックブシドー』
ガチャ。ツーツー。
再度、かけ直す。
『はい、もしもし』
『冗談、冗談だって。それよりオレにワン切りしただろ!』
『んーしたけど、別に特に用はないから、なんとなくかけただけ』
『どうせ、通話料が掛かるからだろ』
『まぁね』
大樹は何か言ってやろうと思ったがそれを飲み込んだ。
『それでさ、神流、今暇か?』
『んー暇だけど』
『そうか、じゃあ、樫の木公園まできてくれ』
樫の木公園。
近くにある公園で、名前の通り、大きな樫の木がある公園である。また、その木の下で告白すると必ず両思いになれるというよくある伝説を持つ公園の一つでもある。
『え、でも、もう九時過ぎてるのに……』
『頼むよ。大事なことなんだ。公園で待ってるから、な?』
それだけ伝えて大樹が一方的に電話を切った。
「これでよし!」
小さくガッツポーズ。
「神流はなんだかんだ言っていろいろ助けてくれるからな。やっぱ持つべきものは友達だな」
大樹はすぐに出かける用意を始めた。
「切っちゃったよ。もう」
神流が通話の切れた携帯電話を見つめて呟いた
「でもなんでこんな時間に、あの公園に」
脳裏に公園の伝説が浮かぶ。
「こ、告白! まさかね、でももしかしたら……」
そそくさと神流はお気に入りの服に着替え始めた。
30分後 樫の木公園
夜の薄暗い公園。明かりは月明かりと外灯だけ。
神流が公園に着いたときすでに大樹は公園に到着していた。
神流の服装は青いショートパンツに黒のジャケットを羽織っている。すらっとした足が眩しい。走ってきた為かほんのりと顔が赤みがかっている。
「ごめん、待った?」
「ああ、こっちこそ悪かったな。突然呼び出して」
「で、大事な用事ってなに?」
神流はそういうと恥ずかしそうに目線を逸らす。
「ああ、それなんだけど……」
「うん」
「ちょっと恥ずかしいんだけど」
大樹が言いにくそうに言いよどむ。
「うん」
(ああ、やっぱり告白なんだ。どう返事をしよう)
神流の頭の中は想像でぐるぐる回転していた。
(別に大樹のことは嫌いじゃないけど、今までそんなこと考えたこと無かったし、でも、男友達の中では一番中良いし、いっしょにいると楽しいし)
そして、ようやく大樹が口を開いた。
「歴史ってどこを正したらよくなると思う?」
「え? なに?」
想定に無い質問に神流頭がさらに混乱する。
「だ・か・ら、歴史ってどこが今と違ったら世界が良くなってると思う?」
(大樹の奴なに言ってるの。あ、そうか、照れ隠しでこんなことを言ってんだな)
「よくわからないけど、織田信長が本能寺で殺されなかったら、結構変わってたんじゃない? 日本の歴史」
とりあえず、神流は浮かんだ考えを答えた。
「ああ!信長ね。思いつかなかったぜ」
それだとばかりに大樹が顔を明るくする。
「それで大事な用事って」
「ああ、それならもう解決したよ。サンキュー」
そういうと大樹は乗ってきた自転車にまたがった。
「え? 告白は? え?」
「じゃあ。また明日学校で。あ、薄着でいると風引くぞ」
それだけ言い残し、大樹は自転車をこいでさっさと公園から出て行ってしまった。
夜の公園に神流だけが残された。
「な、なんだったんだよ。一体!」
少女のむなしい叫びが夜の公園に響いた。
翌日、大樹は神流に学校で思い切り蹴飛ばされた。
「ボクを弄んだ罰だ!」
そのまま神流は怒りながら去っていった。
「オレなんかしたっけか?」
大樹は意味がわからず首を傾げた。
翌日 夕方 大樹の部屋
大樹は、部屋で織田信長の資料を読んでいた。学校の図書館で借りてきた本だ。
「ふむ、ふむ。1582年に信長を助けりゃいいってことか。でもそんなことオレ一人でやれったのかよ!」
そのとき、二階の窓が開けられた。
「いい考えは浮かびよったか」
予想通り神が遠慮なしに入ってきた。
「窓から入ってくるなよ」
大樹は呟いた。服装は昨日と変わりなかったが、両手には全国の特産品をぶら下げている。おまけに肩には白い狐が乗っかっていた。
「ずいぶん観光旅行満喫したみたいじゃないか」
大樹はせめてもの皮肉を込めて言ってみた。
「うむ、なかなか楽しめたぞ。経験することは新鮮じゃ」
そんなことは気にもとめず満足げに返事をする。
神はお土産を床に適当に置くと、机の上に腰を下ろした。
「ヌシの為に助っ人も連れてきてやったぞ」
神はどうだと言わんばかりに胸を張った。
「マジで?」
思わず大樹が聞き返す。
「マジじゃ」
「どんなやつ、強い?天使とか?」
大樹は突然の朗報に目を輝かせる。内心一人で戦国時代に行くことに不安を感じていたからなおさらだ。
「こいつじゃ!」
ビシッと指を差した先には肩に先ほどまで乗っていた白狐。
「狐じゃん!」
「白狐じゃ」
落胆に大樹は肩を落とした。
「狐じゃ役にたたねえっつーの!」
大樹は白狐を指差し文句を言った。
「役立たずなんて、心外やわ~」
大樹はその声に反応し振り返った。しかし、そこには白狐しかいない。
(あれ?)
大樹がそう思ったその時、狐から白煙が一気に広がり視界が真っ白になる。
「なんじゃこりゃ?!」
白煙はすぐにはれていった。煙がはれると白狐は姿を消し、替わりに着物姿の女性が姿を現した。きめ細かい白い肌。どことなく妖艶な印象をうける美人だ。着物は着崩れしていて、肌を大きく晒している。
「わては真白や。よろしゅ~」
陽気な声で挨拶をする。
そこに妖艶さはなかった。
「どうじゃ、強そうじゃろ」
「強いかどうかはわからないが、エロいな」
「鼻血でとるぞ」
神に指摘され大樹は鼻血を拭った。
「化け狐が相棒ってことか」
「真白ゆうてるやろ」
そういいながら真白が大樹の首に腕を回してきた。あまり女子に免疫のない大樹には刺激が強すぎる。
「ちょ、ちょっと離してくれ」
「つれへんひとやね」
ひとまず真白を引き離した。
「白狐という神獣のひとつじゃ」
「せやで、なかなか偉いんやで」
真白が得意げにする。
「まあ、いいやで、昨日、考えたのは、織田信長を本能寺から助けようと思うんだけど……」
大樹は神流の考えを自分で考えたかのように神に伝えた。
「うむ、最初の修正目標としてはいいかもしれんな。では、その時代に送るぞ」
神は、そういうと手のひらを大樹に向けた。
「え、ちょ、準備してから……」
「行くのじゃ」
うろたえる大樹を無視して神は二人を過去に飛ばした。
「人の話を聞け~~」
そのむなしい叫びは神に届かなかった。
0
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