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ソフィはお茶を啜り、窓の外の神殿の方を見た。

「ふぅ。お前さんが居なくなったあとも、何回か連れ去られてしまった。けど、今は、神殿も大人しくしている。その中に神殿の望んでいた力を持った子供がいたらしい。その子が1人いれば他の子供はいらないとかで、一旦子供集めは止めているみたいだ。その子以外の子供は神殿の地下に捕まっているらしい」

「その子達は…?」

キースは顔を上げ、ソフィを見た。
ソフィは首を振り、

「まだ。人手が足りなくてね。あの時何人も失ってしまったから………」

「そう…か………」

前回仲間を沢山失った原因は間違いなく俺にある…。
キースは沈痛な面持ちで

「その力が強い子は…」

「王宮にいるらしい」

「王宮?」

意外な場所にキースは変な顔をした。

「神殿の失態に王様がカンカンで絶対逃してなるものかと」

「失態って…」

「そっ、前回の…我々の救出作戦戦果だ。だからそんなに落ち込まないで」

ソフィはニコッと笑った。

「そう…だな…」

キースはお茶を飲んだ。お茶はまだほのかに温かかった。

さらにソフィの話が話してくれた内容によると、
新たに神殿に連れ出されたのは3回ほどで10人程度は捕まっているのだろうとのことだった。
そして彼らは神殿にの地下いるらしい。

そして、力の強い1人だけ王宮の地下に移されている。

「神殿の地下か…」

キースの一言に驚き、ソフィは注いでいたお茶のおかわりを溢してしまった。

「あぁっ。やっちまった。お前さん、また忍び込む気かい?」

キースは溢したお茶の片付けを手伝い、

「そりゃ見過ごせないだろ?今回は前みたいなヘマはしない。俺も色々と準備してきたから」

キースが新たな子供たちを助け出す算段をしていると、ソフィが神妙な面持ちで席を離れ、戸棚から一枚の図面を取り出した。

「そう。キース、私たちも人手不足だからって何もしなかったわけじゃない。神殿の内部構造が変わったんだ。」

キースは驚いた。

「えっ?この短期間に?」

「あぁ、そうさ。間諜スパイも苦労してる」

キースは図面を見た。
以前使用していた隠し通路は悉く埋められている。
地下室も増えていた。

新たな地下室と隠し通路には入口に大きな鉄格子が設置されて、大神官の常に身につけて保管している鍵がないと開けられないようになっているとメモ書きがされていた。

塔も今までは食事や世話をするために比較的自由に出入りが出来たが、やはり専用の鍵が必要な鉄格子が設置され、窓がはめ殺しの窓に変わっていた。

「むむむ…これは。かなり厳重に…。なるほど…。鍵が必要なのか…」

ソフィも溜め息をつき、
「そうなんだよ、大神官の鍵が問題なんだよね。
複製が出来ない代物らしい。大神官の警護も厳重。そもそも出歩かないようだ。部屋にとも思ったが、絶対侵入出来ないって報告があったよ。魔法か何かが掛けられているって。
大神官は鍵を四六時中常に身に着けているって噂があるらしいって報告もあった。

だから…手詰まりなのよね。

………大神官が他の上級みたいに夜のしていれば人を送り込めるんだけどねぇ

やってることは非道なのにそこは身綺麗なんだよね

まっ、そもそも、もう寝所から出てこられないって話もあるらしい…真実はわからないが」

「大神官…弱点か…」

思い返しても今の大神官には弱点らしい弱点がない。
というか、人っぽくないというか…

若かりし頃は冷徹な印象があったが、ラジィトと襲撃したときに見た大神官の姿も欲に眩んだ、ギラギラした感じだったが…。

テルマを召還したんだ。きっとただでは済まなかったのだろう…。

きっと大神官はもう名ばかりなのだろうな

だが、大神官という保管場所にしたことでこの国の人間は怯むだろう。

大神官とは象徴だから…
この国は神の代理人としての大神官が信仰の対象となっている。

「なら、この国以外の間諜を使えばどうかな…」

ポロッと考えが漏れ出てしまった。

「…!なるほどね。他所の信仰を持つ国か。よし、早速繋ぎをつけてみよう」

ソフィはハッとし、手紙をしたため、伝書鳩を飛ばした。

「さてと、ところでお前さん、今日、というか、当面の宿はどうするんだい?」

「………」

「さては考えていなかったな。やれやれ、お前さんは何処か抜けているからね。新しい情報が来るまで少し時間が掛かるからこの通りの先にある宿屋に滞在したらどうだい?日中はそこの食堂で働けばいい」

「い、いいのか…?」

取り敢えず戻ってきたものの、先のことを考えていなかったキースには渡りに船だった。

古くからの付き合いであるソフィにはキースのウッカリな性格は把握されていた。

「もちろん、オーナーが良いって言っているんだから駄目とはいわせないよ」

「オーナー?」

ソフィはニカッと笑った。

「私さね。さぁ、そうと決まったら行こうか。まぁ…お前さん、なんか雰囲気が変わったから通りを歩いていてもバレることはないだろう。」

そう言ってソフィはキースを連れ、宿屋に向かった。

道中、話を聞くと宿屋で働いているのはレジスタンスの仲間であるとのことだった。

レジスタンスは規模がそこそこ大きく、役割分担が決まっていて、実行部隊はチーム毎にいる窓口役しか知らない。後方支援部隊とは交流は禁止されている。裏切りや露見した場合の連座の被害を最小限にするためだ。

ソフィや彼らの大半は大事な人を神殿に連れ去られたり、不浄といって巻き込まれて大切な人を殺されてしまった人達で、
信仰自体は否定せず、神殿の在り方、やり口に異を唱えているのだった。

一方、キースように神殿はもとより、そもそもの大神官に不審を抱いているのはキースを含め数人であった。
そういう者達は拐われた本人だった。
たまたま運良くキースのように助かった者や逃げ出せた者達だった。拐かされた子ども達がどんな扱いを受けるのかを知っていた。
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