上 下
38 / 56

38.

しおりを挟む
キースはゲートを出ると、そこは地下道だった。
見慣れた通路にキースは思い当たった。

テルマの所に行く直前にいた隠れ家の地下道か…
このマントは姿が視えなくなるって言ってたな。

流石にもう神官はいないだろうが、一応、用心の為テルマに持たされたマントを羽織った。
キースは足音を立てないように歩き、地上に出た。

地下道の出口から外に出ると、街並みが一変していた。
隠れ家や周辺の建物は取り壊され、更地になっていた。

キースは通りに出る前にマントを脱ぎ、カバンに閉まった。
キースは急いで、通りにいた二人組の男達に声を掛けた。

「す、すみません、ここにあった建物とかって…」
「あぁ、ここいらな、ちょっと前に大きな火事があったんだよ」

「火事?こ、ここにいた人達は…?」

「あー…確か避難?移動?したんだっけか?」

「神殿が治療院に連れて行ったんじゃなかったか?あんま覚えてねぇな。夜中だったし。

何にせよ、神殿に楯突く奴等隠れていたって噂もあるし、まっ、兄ちゃんあんまり気にするな。こんな話をして神殿に目を付けられたら大変だぞ」

男たちはキースの質問に答えたが、早々に話を終わらせ、立ち去っていった。

キースはしばらく呆然と立ち尽くしていた。

な、なんてことだ…

神殿が今までしてきた悪事の証拠や、これから狙っている子供の情報が…
これから何を手掛かりにしたらいいのか…

キースは失意のまま歩き、人気のない広場のベンチに腰掛けた。

「はぁ…これからどうすっかなぁ」

キースは考えを纏めようと空を見上げた。

とりあえず他の隠れ家を訪ねてみるか…
逃げて生き残っている仲間がいれば…何かしら情報は手に入るだろう…

ターゲットになっている子供の情報は…
忍び込むか…?いや、危険だな。

ふと、ポケットに何かが入っているのに気付いた。

それはケースに入った眼鏡だった。

キースは眼鏡?と疑問に思ったが、テルマがくれた物ならと眼鏡を掛けた。
その瞬間、キースの周囲に大量の小さき者、精霊がキースを取り囲むように浮かんでいるのが視えた。

"クスクス、やっときづいたよ"
"おそいーおそいー"
"テルマ言わなかった言わなかった"

"キース 助ける?助ける?"
"力貸してあげるよ?"

精霊が次々に話を始めた。

「助ける?」

"うん、キース、助ける"
"ぼくたち できる"
"わたしたちにおねがいして"

「えっ、と俺の仲間の隠れ家の場所判ったりする?」

"わかるわかる"
"風の気 追えば わかる"

ほんの十数秒待っただけで、

"見付けた キース こっち"

精霊がそう言うとフワッと風が起こり、キースはベンチから立ち上がった。
そのまま背中を押されるような感覚をしながら精霊の先導で歩き出した。

"ついた ついた ここだよ"


そこは街の南方にある小さなアパートだった。

「ありがとう。助かったよ」

"楽しかった"
"バイバイ またね"
"僕たち いつも いるからね。眼鏡かけたらすぐに助けるよ"
"テルマったら余計な………モゴモゴ"

最後の方は良く聞き取れなかったが、キースは精霊に礼を言い、眼鏡を外した。

キースは深呼吸をして、意を決してドアをノックした。

コンコン

「はーい」

中から現れたのは見知った顔だった。
長年キース達を補佐してくれているふくよかな中年の女性だった。

「う…うそ………生きて………」

中から出てきた女性はキースの顔を見るなり目に涙を溜めた。

「あぁ…ソフィも元気そうだな」

仲間の姿にキースもじわっと涙が出てきたがグイッと拭った。

「さぁ、入って入って」

ソフィはキースを家の中に招き、周囲を警戒してからドアを閉めた。

キースを座らせ、お茶を出し、ソフィは正面に座った。

「お前さん、一体どこで何してたんだい?あぁ、責めているんじゃないよ。あの時は沢山の仲間が犠牲になったからね…。それに一緒にいた子供たちは?」

キースはソフィに矢継ぎ早に質問を受けた。

「子供たちと俺は古い知人に助けられた。子供たちは今は安全な場所で暮らしている。古い知人が面倒みてくれているんだ。俺もあの時怪我をして、しばらくの間そこで治療を受けていたんだ」

「そう、それなら良かったよ。うん、確かにお前さん健康そうになったね」

「なぁ、俺がいない間に何があった?それにあの隠れ家は?」

心配していた子達の安否が確認でき、ソフィから憂いの表情が消え、安堵の表情になったが、キースの質問に一転渋い顔になった。

「あそこはね、
お前さんも知っている通り、あの日あの場所で沢山の仲間が殺されただろう?

あの後、神官達は街の者に不浄の物があって処理したといっていた。それから、あのあたりの住人に施しをするっていって食べ物や酒を配ってね。みんな喜んで食べてたね。
なのに………その夜、大火事が発生してみんな死んでしまったよ。誰一人逃げられなかった。

神殿は死体も自分たちに不利な情報も目撃者も全部、全部まとめて燃やしてしまったよ。
神殿がそう言ったわけじゃないけど、私達なら神殿の知ってるだろう?」

キースは目を開き、ワナワナと震え、机に拳を振り降ろした。

「数年前の南のスラム街と一緒じゃないか!なんてことを…!!」


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:881pt お気に入り:147

異世界で至った男は帰還したがファンタジーに巻き込まれていく

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:342pt お気に入り:4

こんな政略結婚は嫌だったので、冒険者と共に旅に出ました。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:489pt お気に入り:5

神の手違いで呪われた人生を歩んだ俺は異世界でのんびり召喚士人生を歩む

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:2

チートな親から生まれたのは「規格外」でした

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:589pt お気に入り:519

処理中です...