幸福は君の為に

周乃 太葉

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17/恋愛聴取

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飲み屋にて

「ここ、いいね」

「ここは俺の友達の店なんで、気兼ねなく飲めますよ。酒も肴も美味しいですよ」

「じゃあ~」

サン・シェリヴことイーサンはお酒と何品か頼んだ。それを見たオトビス・アングラードことパトリスもお酒とおつまみを頼んだ。

「乾杯」

「乾杯」

「今日は楽しかったよ。君の話は興味深いね」

「いや、俺の方こそ。先生」

「先生なんて堅苦しい、俺のことはイーサンでいいよ」

「あ、じゃあ俺はパトリスで。芸名じゃあれなんで」

「パトリス君か、改めて、よろしくね」

「イーサンさん、よろしくです」

イーサンはおつまみを摘みながらニヤニヤとパトリスを見た。

「ふふ、で、君、恋してるんだって?」

「いきなりですか?」

「いやぁ、さっきから気になって気になって。対談の途中からずっと妄想を繰り広げていたよ。人気絶頂の俳優が恋する相手はどんななのかな~って」

「いや~…そんな期待されても普通ですよ?」

「普通とは?」

イーサンの目がキラキラと期待に満ちていて、パトリスは観念した。

「幼馴染です。もうずっと会っていないですけど」

「幼馴染!いいね~。おや?ずっと会っていないの?なんで?」

「まぁ、仕事が忙しいってのもありますし、ちょっと会いづらいっていうか…まぁ、離れている期間の方が長くて、片想いっていうか、囚われている感じですかね?まぁ、こっち来て他に恋愛しなかったわけじゃないんですけど…」

「うんうん。それで、なんで会いづらいの?」

「いや、まぁ、そこは…」

「いいじゃん、教えてよ」

「まぁ、ここだけの話にしてくださいね?彼女、魔道具職人なんですけど、昔、まだ見習いだった頃、俺が調子乗っちゃって事故を起こしちゃって、彼女の大切なものを壊しちゃったんです。それ以来気まずくて…」

「そうなんだ。ね、ね、彼女はどんな人なの?」

「ずっと会っていないんで、今はどうなっているかわからないんですけど、共通の友人、まぁ、こいつも幼馴染なんですけど、によると変わらず、相変わらず真面目で一生懸命修行に励んでいるみたいです」

「へぇ~。どんなとこ好きになったの?」

パトリスはイーサンの質問で昔のことを思い返してみた。

「えぇ…と。俺、最初、アイツの手から作られる魔道具がキラキラして見えて、で、その作っている真剣な顔がさらにキラキラして見えて、一緒にいる時間がとても暖かくて、大切に思えて、そしたらいつの間にか…って感じですかね?」

「おぉ、意外と語るね」

「まぁ、あんなロマンチックな話を書くイーサンさんにはきっと叶いませんけどね。今度はイーサンさんの話聞きたいです」

「俺?俺は、昔俺を救ってくれた恩人に最近再会してなんだかんだで今はラブラブだよ。今度結婚するんだ。やーっと彼女の家族に了承を得てね」

「あれ?もしかしてさっき話してた実体験ってイーサンさん本人ですか?」

「まぁ、幼少期の部分だけね」

「へぇ~。参考までに、話とどう違うんですか?」

「俺の場合は幼少期に1度会っただけで、おとなになってから再会したのは本当に偶然だよ。彼女も幼少期のことは覚えていなくて、ちょっとしたアクシデントがあって、お互いすべて打ち明けて…って感じ。再会してすぐに俺は彼女に惚れちゃったんだけどね。色んな話を書いてきたけど、いざってなると全然うまくいかないものだね。周りに…神様に究極のお節介を焼かれてしまったよ」

イーサンも色々と思い出して、苦笑した。
そんな様子を見て、パトリスは意外に思った。

「ふふ、なんですかそれ。いや~意外ですね、イーサンさんこそ百戦錬磨って感じなのに」

「いやいや、君こそ。そんな初心な恋心を大切にしているなんて。彼女には会いに行かないの?」

パトリスは食べていたおつまみをヴッと喉につまらせ、ゴホゴホと咳き込んだ。そして、目線を逸して自信なさげに答えた。

「いや~今の俺見て幻滅されたら…とか思うと尻込みしちゃって」

イーサンはモゴモゴしてるパトリスご面白くなってもう少しからかってみることにした。

「えぇ~?でも、そんなこと言っていると彼女に恋人とか出来ちゃうんじゃないの?もしかしてもう既婚者?」

パトリスはイーサンに向かってキリッと言い切った。

「いや、それはないです。情報はもらっているんで」

「そこキリッとしても格好良くないよ?ふふふ」

イーサンは笑いが堪えなくなってきていた。
パトリスがまたズーンと落ち込み始めた。

「最近、幼馴染からは彼女はモテるっていらない連絡が来るんですよ。今も積極的にアプローチしている奴がいるって…」

「おや?悠長にしている暇はないんじゃない?」

「わかっているんです。でも、彼女、色恋興味ないって話も聞くんで、まだ猶予あるかなって…」

「おやおや、天下のオトビスが情けないことを」

ついにパトリスは机に頬をつけ、指をイジイジし始めた。

「はぁぁ~俺、どうしたらいいですかね?彼女が気になって幼馴染に写真もらっちゃうのも、近況を聞いちゃうのもやめられない。でも、会いにいくのは怖い…はぁ」

「はは、結構重症だね。うーん…まぁ、君次第だよね。どうみても」

「わかっているんですけどね~」

「俺、彼女に興味出ちゃったな。職人街にいるんだっけ?」

イーサンの言葉にパトリスが慌ててガバっと起き上がった。

「ダメですよ。イーサンさんはいい男だから彼女が惚れたら嫌だ。それに彼女いい子だからイーサンさんが惚れても困る」

「俺には俺の彼女がいるから。俺は彼女じゃないとダメだから。それはないよ、安心して」

パトリスは納得できるような…できないような微妙な顔をして、写真を取り出した。

「うぅぅ…まぁ、イーサンさんなら信用できるかな…。これ彼女の写真です。彼女は職人街のヴィムじいさんの魔道具工房にいます。オリビアっていいます。はぁ~会いたい」

「ん?あれ…?どっかで…」

イーサンは何か引っかかったが、酔いも回っていたので、考えることを放棄し、ただただ写真の中の隠し撮りされた小さく写っている作業中の女性の横顔を眺めていた。

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