泥酔魔王の過失転生~酔った勢いで転生魔法を使ったなんて絶対にバレたくない!~

近度 有無

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第48話 人間の感情

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「ついに明日ですね」
「そうだな」

 出撃の日の前日の夜、ジークはオズの家に居た。
 今日は2人で対人戦を行って、明日に備えるようだ。

「じゃあ、始めるぞ」
「はい」
障壁バリア

 森に被害が出ない様にする為に障壁バリアを張ると当時に、2人の魔法がぶつかり合う。

 ドガァァン!!!

 ドガァァン!!!

 ドガァァン!!!

「ジーク、急に腕を上げたな。何かあったのか?」
「コツを掴んだんですよ」

 今の時点でオズとシークは互角である。
 以前までは、かなりの差があったのに、一気にその差が縮まっている。
 そうして、続いて近距離船が始まる。

 ドガァァン!!!

 ドガァァン!!!

 ドガァァン!!!

「笑う余裕があるんだな」
「アハハ、ハハハ!」

 ジークはオズと戦いながら笑っている。
 オズは始め、余裕の現われかと思っていたが、その笑いはだんだんと不気味さを増していく。

「ハハハ! ハハハハハハ!!!」
「おい、ジーク!」

(だんだんとスピードが上がってくる。これ以上やると、明日に支障が出るぞ)

 ジークはギアを何段階も上げ、ほぼ全力に近い攻撃を繰り出している。
 しかも、知性が失われたかの様にむやみやたらに攻撃し、地面や木々を殴ったので手から大量の血が出ている。
 その痛みすら感じていないかのように、ジークはオズに攻撃してくる。

(今日のこいつはおかしいぞ!)

「いい加減にしろ!」

 バーン!!!

「ジークに何があったんだ?」

 これ以上はまずいと判断をしたオズは、ジークを一撃で気絶さした。
 そうして、ジークの急激な進化と先ほどの正気を失ったような行動に違和感を感じていた。

「んんん。あれ私は気絶していたのか?」
「そうだ」
「私はまだまだですね」

(こいつ、もう傷が癒えているのか⁉)

 目を覚ましたジークは、先ほどまでの傷が無かったかのように全て治っていた。
 魔族とは言っても、あれほどのひどい傷だと後10分程は必要になるだろう。
 オズのジークに対する疑問が次々に膨らんでいく。
 そうして、ある1つの可能性が頭に浮かんだ。

「ジーク、お前もしかして……」
「どうしました? そんなに深刻そうな顔をして……もしかして、やっぱり私って弱いのですか⁉」
「いや、やっぱり何でもない」

 明日のゼシルのこともあるので、オズはそれを聞くことはせずに戦いが終わってから聞くことにした。
 ジークは、何事もないかのように立ち上がる。

「驚かせないでくださいよー」
「あ、弱いのは確かだぞ」
「そ、そんなぁ!!!」

 オズが付け足してジークに言うと、ジークはかなりへこんでいた。
 オズは、明日に備えて身体を休める為に家に入ろうとする。
 すると、ジークがオズを呼び止めた。

「魔王様!」
「なんだ?」
「あ、あの……あんなことされたのに、どうして人間の為にそこまでするのですか?」
「……」

 ジークの質問は、オズにとっては難しい質問であった。
 魔王が敵である人間に転生して、ある村の1人の男の子として生活する。
 魔族よりも弱く、短い命。何1つとしていいことが無い。
 それに加えて、人間になっても悪魔と言われる。
 魔王の時の心ならば、すぐにでも街を破壊し、全てを壊していただろう。
 しかし、今のオズにはある気持ちが芽生えていた。

「よくわからないけど、家族とか、Sクラスのみんなが悲しむ姿を見たくないんだ。この感じは魔王の時には、味わったことの無い気持ちなんだ」

 オズは、この『愛情』という気持ちを言葉にはできずとも、確かに感じ取っていた。
 魔王の時には組織として集団で行動をしていたが、それは人間に対抗するためであり、その他の意味は全く無かった。

「そう……ですか……」

 ジークは、歯切れ悪く答えた。
 ジークも家族がいるため、その気持ちはわかるだろうとオズは思っていた。

「それじゃあ、僕はこれで」
「ああ、お疲れ様」

 何かぎこちない雰囲気でこの場は終わった。
 オズは全く気にすることなく、明日に備えて身体を休めた。
 ジークが帰ってから、オズは今日話した感情についてずっと考えていた。
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