泥酔魔王の過失転生～酔った勢いで転生魔法を使ったなんて絶対にバレたくない！～

第58話 暴走

「お前はもう、負けているんだ」
「何を言っているんだ！」
「消去デリート！」

　シュゥゥゥ

「今度こそ当たったぞ！」
「こっちだ」
「なぜだ⁉」
「分かっていないのか？　お前はもう既に、僕の魔法を受けているんだよ」
「そ、そんなはずはない！」
「消去デリート！　消去デリート！　消去デリート消去デリート消去デリート消去デリート消去デリート消去デリート！！！」

　ジークは投げやりに魔法を使いまくる。
　しかし、一切オズには当たらない。
　それだけではなく、消去デリートによって何も消えていないのだ。

「当たってはいるはずだ！　どうして消えさえしなくなったんだ⁉」
「さっきから言っているだろ。僕の魔法を受けていると」
「オズ、どうして相手は動いていないの？」

　アリアは急に突拍子もないことを言い出した。
　オズは何も動揺することなく居るが、ジークはアリアの発言を気にしている。

「この女、何を言っているんだ⁉」
「まだ気付かないのか。お前は意識は僕に支配されている」
「なんだと⁉」
「魔王の支配デビルルールという魔法によってな」

『魔王の支配デビルルール』とは、言い換えると洗脳の様なものであり、相手の考えや行動を自分の思うがままに支配することができるという魔法だ。

「なんだその魔法は⁉　聞いたことが無いぞ！」
「そうだろうな。これはさっき習得したんだから」

　そう、この魔王の支配デビルルールはこの世に存在していない魔法だ。
　オズが転生条件を満たし、転生した後に新しく条件が付けられていた。
　オズにとっての条件は、魔族の王としての絶対的な力。
　すなわち、魔族食いをしたことによって、条件が満たされたのだ。

「これが転生の力……」

　アリアはオズの急速な進化を見て、自分を憐れんでしまう。
　自分は、転生すらできずに足手まといになっている。
　このことがアリアは許せなかったのだ。

「この私が支配されているだと……」
「お前は支配者にはなれない」
「うるさい！！！　ゼシルの脳さえ食べれば……ってないぞ！」
「僕が食べた」
「な、なんだと⁉　クソがぁぁぁ！！！」

　ガブッ！

「こいつ、自分を食っている⁉」
　ジークは自暴自棄になり、自分の身体を必死になって食べている。
　ジークは、自分の身体で魔族食いをしようとしているのだ。

「グハッ、な、何も変化が無いだと⁉」

　ジークはただただ自分の身体を痛めつけただけで、何も変化は起こらなかった。

「もう無駄だ。お前の負けだ。諦め―」
「お、オズ？」

　オズの雰囲気が急に変化した。

「モットタベル」
「ダメだ！」
「タベル……
「僕の中から消えろ！」

　変化したと思うと、オズは急に頭を抱えて倒れこんで何かを言っている。
　その姿は、オズともう1人の誰かが居るように見えた。

「ぐわあぁぁぁぁぁ！！！！！！！」
「オズ⁉」

　オズは急に叫びだすと、ジークに向かって走っていく。
　その姿はまるで、飢えた動物が餌に向かって行くように見える。

「な、何をする気だ⁉」

　ガブッ！

「た、食べている……？」

　グチャグチャ！

「ああぁぁぁぁぁぁ！！！」
「オズ！！！」

　オズはジークの所に向かうと、勢いよくジークを食べ始めた。
　ジークは痛みに耐えられずに泣き叫んでいる。

　グチャグチャ！

「止めてくれぇぇぇぇ！！！」

　グチャグチャ！

「ああぁぁぁぁぁぁぁ！！！」

　グチャグチャ！

「あぁ……」
「オズー！！！」

　アリアの呼びかけが聞こえない程、夢中になって食べている。
　ジークは大きな叫び声を発していたが、次第にその声は小さくなり、消えていった。

「ぐあぁぁぁぁぁ！！！！！！」
「これが、オズ、なの……？」

　オズは次第に大きくなっていき、何とも言えない奇妙な化け物というべき姿へと変わっていった。

「たす、けて……」
「オズ⁉」
「大人しく俺に支配されロ」

　化け物から、助けを求めるオズの声が聞こえた。
　オズは何者かに支配されてしまっているようだ。
　魔族食いの話には続きがあった。

　魔族食いをすることによって、強力な力を得ることができる。
　しかし、それ故におおきなリスクがある。
　それは、急激な進化に身体が追いつかなくなり、暴走してしまうことである。
　今のオズはまさにその通りになっており、オズの意識を奪い、ただの破壊の機械となってしまっている。

「オズはまだ生きてる！」
「透視スケルトン！」

　アリアは透視スケルトンを用いてオズの位置を把握した。

「全てを破壊するゾ」
「やめ……ろ……」
「しぶといナ」
「オズ、そこにいるんだね」

　アリアは、すぐに戦闘態勢を取った。

「待ってて。絶対に助けるから！」