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王子の眠る白い城
第15話
しおりを挟む薄暗い北階段を足音が響かない程度に、上って行くと、2階は1階とは異なって、まだ廊下も明かりが点いていた。
ナースステーションから職員の会話の声も、少しばかり響いていた。
階段の壁に身を潜めながら、奈落が様子を伺った。
「おい、下手に動揺するなよ。
万が一、声を掛けられても、平常を装え。
看護士になりきれ。」
人差し指を口に当てながら、奈落が呟く様に言った。
「ん、わかってる。
話し掛けられなきゃ、大丈夫。」
「今のところ、廊下を行き来する人も居ないみたいだし…ナースステーションも、爺さんと話し込んでるみたいだし、こっちをそれ程、意識しないだろう。
さ、行くぞ!」
奈落と僕は2階に上がり、襟を正すと、背筋を伸ばして、廊下を歩き出した。
「誰も居ないんじゃあ。
知らない奴が部屋に入り込んで、怖いんじゃあ。」
「田中さん、ここは病院なんですよ。
部屋は大部屋の病室で、仕方ないのよ。
午前中に、ご家族がいらしたでしょ。」
「怖いんじゃあ…寂しいんじゃ…。」
ナースステーションの前を素知らぬ顔で、通り過ぎようとした時、患者と思われる首にコルセットをした爺さんと看護師の会話の内容が、耳に流れ込んで来た。
ナースステーションのカウンターの隅っこで、薄暗い白髪頭のラクダ色のパジャマを着た爺さんは、キョロキョロ、ブルブルと落ち着きなさそうにしていた。
看護師は相手をまともにする気は無いのか、あしらう口調と素振りを見せた。
無意識だった…。
足が勝手に爺さんの方へと向かった。
「あ、へっ?有村?」
奈落が僕の腕に手を伸ばしたが、届かなかった。
ナースステーションの看護師が、こちらに気が付いた。
「あら、ちょうどいい所に。
この、患者さんを病室に送ってくれる?」
よく見ると、看護師の帽子に二重の線が入ってる。
確か、ドラマとかで、この二重線は婦長さんだとか…。
「は、はい。
…あの、どの病室に…。」
「208号室の大部屋、ほらそこの曲がり角の。」
「わかりました。
じゃあ、案内して来ます。」
呆然とする奈落に、ゴメンと謝りのポーズをしつつ、僕はその爺さんを部屋へと誘導した。
「えっと…田中さん?
行きましょう。
今は休む事が必要な様ですよ。
家族が迎えに来てくれる時に、元気な姿を見せなきゃ。ねっ?」
「あ、お、おお?清介か?
なんじゃ、もう寝る時間か?
ああ、そうかそうか。
明日はまた、川釣りに行かねばならないの。」
少し、ボケてるのかな。
家族の誰かと僕を間違えてるみたいだ。
それなら、そのまま病室に連れて行こう。
僕はギュッと爺さんの手を両手で握り、腰をかがめて視線を合わせた。
「お爺ちゃん、明日の為にも早く寝よう。
僕、楽しみにしてるんだ。」
田中さんは僕の顔をジッと見て、目を細めた。
そして、優しく微笑んだ。
「ワシも楽しみじゃ。
風邪引かんようにせにゃならんの。」
田中さんは素直に僕の手を握り返して、病室へとついて来てくれた。
ゆっくりと田中さんをベッドまで送り届けた後、僕は急いで小走り気味に、奈落の元へ戻った。
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「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」
「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
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