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スパイ活動と保健室同盟(仮)

第4話

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「それより、珍しいね。
 放課後もここに来るなんて。
 やっぱり、同盟活動が楽しみでとか?」
「あ!いえいえ!ち、違います!
 加納先生にお聞きしたい事がありまして。」
「僕に?何だい?
 保険医として言える範囲でなら話すよ。」

 そう言って、白衣から手を出して椅子に腰かけた。

「その…1年に、早川さんって言う女生徒がいるらしいんですが…何組かご存知ですか?」
「早川…何人かいるけど…特徴は?」
「三つ編みでおさげ髪の…物事をハッキリ言うタイプの…。」
「ああ、1年C組の早川 明日香さん。
 図書委員会やってるらしくて、良く本で指を切ったって、絆創膏を貰いに来るよ。
 彼女が何か?」
「えっ、あ…いや、ちょっと。」

 僕は先生の切り返しに、思わず赤くなってしまった。

「へえ…有村君のタイプ?」
「ち!違います…そんなんじゃ…。
 その、僕をイジメてる相手に、止めるように言ってくれてたらしいので。」
「早川さんが…?
 確かにハッキリ物事は言うけど、争い事に入っていくようなタイプじゃないはずだけど…。
 中立維持って感じの生徒だと、僕は感じてるんだよ。
 冷静で…感情的なところは見た事がないかな。」
「そうなんですか…。」

 という事は、宮地が関わっているから感情的になったのかもしれない。
 もしかして…早川さんは宮地に好意を持ってるのかな?
 …ん…宮地の良いところが思い付かない…。

 いやいや、人の好みは色々だし…。
 最近、華京院に囲まれていたせいか、目が厳しくなったかな?
 何せイケメン率がハンパないからな。
 美男美女、頭もいい…レベル高すぎの中に、昨日まで居たんだ…。

 うん、宮地だってそんなに、顔は悪くない…普通だ…性格は悪いけど…。

 …無理だ…イジメられてる僕に、今現在の状況で宮地の良いところなんて浮かぶはずもない。

 やっぱり調査しないとわからない事が多いな。

「いいね。
 青春っぽくて。
 甘酸っぱい…想い出だよ。」
「いえ、だから別に恋愛感情はないんですってば。
 変な噂流さないで下さいよ、先生。
 そうでなくても、立場が弱いんですから僕は。」
「噂なんて流しませんよ!
 遠目で応援するだけです。」

 いや、その応援すら要らないんだけどね。
 でも…そう思って貰った方が、何かといいかも知れない…早川さんの事を調べていても不思議がられなくて済む…。
 このまま、否定も肯定もしないで、話しを進めてしまおう。

「あの…早川さんは図書委員ですよね。
 部活とかはやっていないんですか?」
「やってないんじゃないかなぁ。
 以前、手芸部に誘われていたみたいだけど。
 あ!そうそう、家が特殊製紙の工房らしくてね。
 そこで、作品を作ったりしてるから、わざわざ部活に入る必要がないとか言ってたかな。」
「特殊…製紙工房…。」
 
 紙と印刷…確かに家同士が関係していても全然おかしくない。
 中休みで言っていた、幼馴染みってのは間違いないって事だ。
 
「今日は図書室は本の虫干し日で閉鎖中だから、明日以降に行ってみるといいよ。
 何なら同じ委員会に入ってみたら?」
「あははは。
 まだそこまでは、考えていませんでした。
 とりあえず、ありがとうございます。
 明日以降に図書室に行ってみます。」
「いいですねえ。
 有村君、最近笑顔が増えましたよ。
 その調子で、学校生活を乗り越えて下さい。」
「加納先生のおかげです。
 先輩達と保健室同盟(仮)なんてやるくらい仲良くなれたし…ここの場所を提供して貰えなければ、こんな風に笑えなかったと思います。
 感謝してます。」

 僕は頭を下げて感謝の意を示した。

「そんな、そんな。
 大した事してませんよ。」

 加納先生は優しく笑ってくれた。
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