忘却の魔法

平塚冴子

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仁科 加奈子と少年達

第9話

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「凶悪犯罪がこの世から消えないのは何故?
猟奇的犯罪者が産まれるのは何故?…そう、考えた事はありませんか?
全ては本人のせい?親のせい?環境のせい?
…いいえ…人間は本来、残酷で残虐で、欲望の為に殺しあう生き物です。
それは、歴史が証明しています。
どんなに否定しても、その歴史が覆る事はないのです。」

所長室を腕を組みながら、ゆっくり歩き、語りかけるように、仁科 加奈子が言った。

「確かにそうだが…人間はそこから、学び、平和的な考えを…。」
「思考の問題ではないのです。
データとしてすでに、記録されてしまってるのです。
大なり小なりの個人差の為に埋もれてるだけで。
殺戮の後の興奮、高揚、快感…1度でも味わった種族の中に、そのデータは残り、次の世代のDNA迄も引き継がれる…決っして消える事は無いのです。」
「なっ…!」

否定をしたかった…したかったけど、出来なかった。
正論だったからだ。
理屈だろうと屁理屈だろうと、それは現実なのだ。

「つまり…過去の罪を未来の子孫達は引き継ぐ…なんて残虐…。
現在の法律では、罪を償えば少年犯罪者はまともな生活を送れると…本当にそうでしょうか?」
両手を広げて、女優さながらに問いかけてくる。

「世間に出ても、叩かれる…それもまた、償いなんじゃ…。」
「それって、青少年の更生と真逆の対応ですよね。矛盾してますわ。
尚かつ、先ほど言ったように、1度でも味わった快楽の味はデータとして蓄積されてしまってるのです。
それを抑える精神力たるや、並大抵では不可能でしょうね。」
いやらしい流し目をこちらに投げかけた。

猟奇的犯罪者や殺人鬼の気持ちがわかる訳じゃないが、仁科 加奈子の話しを理解せざるを得ない。
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