忘却の魔法

平塚冴子

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『パンドラの箱』開放の世界

第1話

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「天外博士が脳内記憶のデータを集める為に、被験者を全国から掻き集めていたのは20年前の事です。」
階段を慎重に上りながら、金井と俺は聞き逃さないようにしっかりと耳に意識を集中させた。

「私は彼の手伝いでデータの収集と整理をしていました。
そんな時に、真鍋から力を貸して欲しいとの連絡が入りました。

自分の診ている患者の中に、特異な症状の子供がいて、自分の力ではどうにも出来ないと。
動きがあまり取れなかった私は、真鍋とその患者の少女を天外博士との研究施設に呼び寄せました。

真鍋の言う事には、初めは母親の死亡が原因での精神的障害と診ていたものの、明らかに変だと気が付いたと。
幼児能力の特異な症例で、幻聴や幻覚に似た物に悩まされ、彼女は毎日の様に嘔吐、頭痛、体力消耗してるとの事でした。
しかも、ベッドの上で寝ているだけで…。

私はその少女…アナスタシアにゆっくり、時間を掛けて自分の状態を話させました。
5歳の少女です。
支離滅裂や空想言語もありましたが、私は彼女の特異な性質を引き出すように、語りかけ続けました。

そして…10日後、私は情報による過度の脳の活性化により、現れる症状だと断定しました。
彼女には情報が見えていて、あちらこちから、それが脳に飛び込んで来ていた…制御の方法がわからず、精神は混乱していたのです。

治癒方法がある訳ではなかったものの、私は経験からヨガでよく使われる瞑想を進めました。
混乱する脳を鎮め、情報制限への足掛かりとする為に。
そして…それは効果的でした。
アナスタシアは普通の子供の生活が出来るまでに回復したのです。
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