手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

道化師と王子の密談その3

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「さっきまで、整理してたのは学校生活に限っていた…あああー!そうか!
学校外の事を忘れていた!」
久瀬がいきなり立ち上がり、声を上げた。
「学校外の事!?」
「虐待だよ!虐待!
彼は小学生から虐待を家族から受けてたんだよな!」
「そうだ…でも僕以外にそれを知る人は…。」
「だから!だからなんだよ!武本っちゃん!」
久瀬は僕の両肩をガッシリと掴んだ。
「助けたかったんじゃないか?
彼を…!救えるのは自分だけだと…!
彼を救うことで友達でいたかった…繋がっていたかったんじゃないのか?」
「…!!」 

虐待…彼の両親…救いたい…彼を…。
友達でいたかった…親友になりたかった…。
離されているけど…側にいたかった…。

だから僕は何をした?
僕がした事…僕がした事…。

周りが急に真っ暗になった。
久瀬の姿も無い。
これは…何処だ…何だ…?

『親が児童相談所から警察に通報されて、捕まったらしい。』
『あいつ、親から虐待受けてたのか…だからあんなに尖ってたのか。』
『可哀想に、これでもう安心ね。』
『でも、両親捕まったらどうなんの?児童保護施設?それって良かったの?』

あああ!あああ!
考えていなかったんだ…先の先までなんて…。
彼の為のだと信じたんだ…。
久瀬の言う通りだ!
助けたかったんだ…救いたいと…でも、そんなの勝手な思い込みにしかならなかったんだ!
僕の自己満足のせいで彼は…!彼は…!

『これは、お前がやった事と同じなんだ。』

僕の両手が真っ赤な血で染まった…。

「武本っちゃん!武本っちゃん!おい!
しっかりしろよ!わかるか!?」
久瀬が僕の身体を物凄い勢いで揺らしていた。
「あ…なんだ…意識が飛んだのか…?」
周りの風景はリビングに戻っていた。
「もー!ビックリした。
いきなり瞳孔開きっ放しだから、焦った。」
「すまない。でも、おかげで思い出した。」
「マジ!?」
「久瀬の言う通りだ!
僕は彼の両親を児童相談所に通報してる。」
「そうか…これで少しは進めたな。」

僕は一休みするために久瀬の分と自分の分のコーヒーを入れた。
「サンキュー。武本っちゃん。」
「いや…こちらこそ。」
口に入れたコーヒーが身体中に染み渡る。
時間は既に深夜12時になりかけていた。
「あ、すまない久瀬。
僕は先に風呂に入り終えてるから、お前風呂に入ってこい。
パジャマとかはサイズないからデカめのティーシャツと短パンでいいか?」
「サンキュー!でもちゃーんと着替え持って来たから大丈夫!」
久瀬はそう言うと風呂場へと向かった。

僕は久瀬を待つ間、1人で考察してみた。
彼が僕を憎んでいたのはおそらく、両親の逮捕が原因だろう。
それによって、彼は幸せどころか益々不幸になってしまっていてんだ…。
そして、その事で僕は彼を慕ってる事を同級生に知られてしまった。
僕を彼と同類とみなし、イジメのターゲットにした…記憶はないが、そう考えるのが妥当なところだろう。
つまり…倒れて地を流していた4人は、やはり僕をイジメていた…。
「痛っ…。」
身体に鈍痛が走った。
当たりだな…これは…。
頭では記憶を消しても身体に刻まれた記憶は忘れてないんだ。

『これは、お前がやった事と同じなんだ。』

アレはこう言う事だったんだ。
彼は僕のイジメた相手を刺した…僕の目の前で。
でも、助けた事になんてならないんだ。
それは…僕が児童相談所に通報したのと同じ…。
目の前で両親が警察に逮捕された彼の立場と同じだったんだ…。
やはり…忘れちゃいけなかったんだ…全ての原因は僕だ。
…僕がした事は許される事ではないんだ…。

雨は全てを知って僕を責めた…。
だから…雨が怖かった…。

僕の足が真っ暗でどす黒い泥の渦に埋まって行くのを感じた…冷たくて…重くて…。
次の《勉強会》があると言う事はこれ以上の何かがあると言う事だ…。
僕の記憶はなんて…絶望的で残酷なんだろう…。
本当に抜け出せるのだろうか…?

『大丈夫…先生の上に降る雨は止みます。』

彼女の声が聞こえて来た…。
本当に雨が止む事なんてあるのだろうか…。

「武本っちゃん!?」
「あ、もう上がったのか…?」
「おい…武本っちゃん…何を…。」
「えっ…。」
「顔が…真っ青だ…まるで…死人みたいに。」
「…!?」
「何を思い出した?何があった?」
久瀬が僕に顔を近づけた。
「いや…そんな…。
自覚ないんだが…そんなに変か?」
死人…みたい…?
「一旦やめよう。
田宮の言った通り危険だ。」
「危険…?」
「次の《勉強会》まで、過去は封印だ!
いいな!わかったな!」
久瀬の危機迫る表情に僕は言葉を失った。
過去を封印…。
それ程危険な何かが、もっとあると言う事なんだな。
僕は…どうなってしまうんだろう。
その夜は眠れなかった。
自分がわからない事が、こんなにも怖いなんて思ってもみなかった。

彼女の手が欲しい…彼女の匂い…彼女の声が…不安が募る度に僕は彼女を欲して行った。
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