しあわせの魔王〜ポンコツ勇者と天才魔王のふしぎな建国記録〜  アルバ国攻略編

平塚冴子

文字の大きさ
26 / 61
第五章

国王の帰還①

しおりを挟む

「帰った帰った!
 下衆な客はゴメンだよ!
 こちとら金の為に質を落とす野暮な店じゃないんだ!」
「なんだとこのアマァ!」
「やめとけ!ザゼッタに逆らうとここいらで仕事ができねーぞ。」
 
 一際大きな通りの店で何やら店主と客が揉めているようだ。
 店の名前は『リンドウ』そして、女主人の名はザゼッタ。
 間違いない、団長が紹介状を渡してくれたのはこの宿屋。

 ザゼッタは女性の割に筋肉質で肩幅が広く、髪を後ろで1本にまとめた赤い半袖シャツに白いエプロン姿の店主だ。
 屈強な男性客2人に一歩も怯まずに腕組みして仁王立ちしている。

「まったく、うちは酒は一滴たりとも出さないって看板にも書いてあるだろうに。
 数少ない女子供も安心して泊まれる軽食宿屋。
 他のお客様の迷惑になるような行為はお断りだよ。
 酒呑んで暴れたいなら他んとこ行きな!
 無事に生きて帰らせて貰える保証はないけどね。」
「いいぞ!ザゼッタ!
 我らが母ちゃん!」
「ザゼッタに手ェ出してみろ、この街から出られなくしてやるからな!」

 周りのガヤがエキサイトして叫び出した。
 堂々たるその姿に、男達もタジタジで尻尾を丸くするかのように、その場から逃げ出した。

「これはこれは。
 随分とタフな女性ですね。」
「そうか?死んだ母ちゃんと同じくらいだべ。」
「………。」

 人間の母親は最強種なのか?
 私の母親とは大違いだ。
 か細く、繊細で透明感がある母親。
 常に心を病んでいた……。

 団長が私達に彼女の宿屋を紹介したのがこの件で理解できた。
 あそこなら荒くれどもの餌食にならないようにと気を遣ってくれたのだ。
 スケベジジイだが、根はいい人だったのだ。
 ちょっとだけ、あのフルスイングを後悔した。

「『リンドウ』のザゼッタさんですよね。
 サーカス団の団長さんから、これを。
 一晩ご厄介になりたいのですが。」

 私は騒動がひと段落したのを見計らって、ザゼッタに話しかけて、紹介状を手渡した。

「これは。
 おやまぁ、クッキーサーカス団団長からだね。
 以前怪我した女性団員をウチの宿で保護してね。
 欲は深いが、愛情も深い男だったよ。
 他の国や街でこの宿を宣伝してくれたりして、ウチも助かってるんだ。
 団長の紹介なら無下に出来ないね。
 どうぞ、入っておくれ。
 簡単な食事しかないが、安眠は保証するよ。」

 ザゼッタは親指で後ろの店を指差した。
 赤い屋根のこじんまりした店だが、他の店と違って甲高い若い声や柔らかい女性らしき声が店内から聞こえて来た。
 店内もこじんまりしていて、家庭的な雰囲気の中、マンドリンの曲が緩やかに流れていた。
 一階は受付とその奥に軽食堂があり、そこで3.4人の客が食事をしながら会話をしていた。
 ランプの灯りが更に部屋の内部を暖かく見せていて、本当にゆっくりリラックス出来る環境になっているらしい。
 どんなにガタイのいい女性店主でも、こういう細かいところに気が回るんだな。
 手入れの行き届いた店に私は感心した。
 ザゼッタに案内されて私達は食堂のカウンター席に腰を下ろした。

「そだ、パンの残りがあるべな。
 これ使ってなんか食わせてくれねーだべか?」
「おや、異国のパンだね。
 硬いパンだが、グラタンスープにすると身体が温まって、リラックス出来ると思うよ。
 そこのテーブルに座って待ってな。
 すぐに作ってやるよ。
 食事の後で部屋に案内するからね。」

 ザゼッタはアルからパンを受け取ると、食堂奥のキッチンへと向かった。
 
 1人で切り盛りしてるのか。
 人間の女ってのは、凄いんだなぁ。
 
「見て見て、あの人すごく色白。
 線が細くて、女の人みたいに見えるけど、やっぱり男性よね。」
「そうよね。
 服装は完全に男だし。
 でも、美しいわ。
 切長で大きな瞳に吸い込まれそう。
 目の保養ね。
 ここに泊まって大正解!」

 後ろのテーブルで、おそらく成人しているであろう娘2人がヒソヒソ話しをしている。

「ナナシの噂だべか?
 やっぱり色白ってのは、モテるんだなぁ。
 オラなら別に肌の色なんてどうでもいいんだけんど。
 デルア王もナナシに負けず劣らずの白い肌でモテてたべ。
 エルフの血が混じってるとか。
 まあ、やつの場合は色白より青白い感じだども。」
「では、デルアビド王は長寿種になるんですね。
 国としては良いのかもしれませんね。
 長期政権が見込める。
 ま、私なら褐色の肌の方が羨ましいですけどね。
 陽の光の恩恵を受けてるし、躍動感がまさに生きてるって感じがしますし。
 ま、美的感覚なんて人それぞれ多種多様ですからね。
 別に白けりゃモテる訳でないでしょう。」
「ん、だども、やっぱ綺麗だべ。
 ナナシの肌は。」
「ゲホッ!
 それ、口説き文句ですよ。
 無意識なのはわかるけれど。
 後ろの娘に聞こえたら、何を想像するかわかりませんよ。」
「これ、口説き文句だべか。
 勉強になったべ。」

 全く、アルはどうも抜けている。
 まさか、男好きとか?
 いや、ないわ~多分。
 てか、こいつ恋愛経験あるのかな?
 ちなみに、私はあるぞ元魔王だけにな!
 あんな事やこんな事、多種多様にね!
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

崩壊寸前のどん底冒険者ギルドに加入したオレ、解散の危機だろうと仲間と共に友情努力勝利で成り上がり

イミヅカ
ファンタジー
 ハートとお気に入り登録、ぜひぜひお願いいたします!  ↓簡単なあらすじは''もっと見る''へ!↓  ここは、剣と魔法の異世界グリム。  ……その大陸の真ん中らへんにある、荒野広がるだけの平和なスラガン地方。  近辺の大都市に新しい冒険者ギルド本部が出来たことで、辺境の町バッファロー冒険者ギルド支部は無名のままどんどん寂れていった。  そんな所に見習い冒険者のナガレという青年が足を踏み入れる。  無名なナガレと崖っぷちのギルド。おまけに巨悪の陰謀がスラガン地方を襲う。ナガレと仲間たちを待ち受けている物とは……?  チートスキルも最強ヒロインも女神の加護も何もナシ⁉︎ ハーレムなんて夢のまた夢、無双もできない弱小冒険者たちの成長ストーリー!  努力と友情で、逆境跳ね除け成り上がれ! (この小説では数字が漢字表記になっています。縦読みで読んでいただけると幸いです!)

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...