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第五章
国王の帰還①
しおりを挟む「帰った帰った!
下衆な客はゴメンだよ!
こちとら金の為に質を落とす野暮な店じゃないんだ!」
「なんだとこのアマァ!」
「やめとけ!ザゼッタに逆らうとここいらで仕事ができねーぞ。」
一際大きな通りの店で何やら店主と客が揉めているようだ。
店の名前は『リンドウ』そして、女主人の名はザゼッタ。
間違いない、団長が紹介状を渡してくれたのはこの宿屋。
ザゼッタは女性の割に筋肉質で肩幅が広く、髪を後ろで1本にまとめた赤い半袖シャツに白いエプロン姿の店主だ。
屈強な男性客2人に一歩も怯まずに腕組みして仁王立ちしている。
「まったく、うちは酒は一滴たりとも出さないって看板にも書いてあるだろうに。
数少ない女子供も安心して泊まれる軽食宿屋。
他のお客様の迷惑になるような行為はお断りだよ。
酒呑んで暴れたいなら他んとこ行きな!
無事に生きて帰らせて貰える保証はないけどね。」
「いいぞ!ザゼッタ!
我らが母ちゃん!」
「ザゼッタに手ェ出してみろ、この街から出られなくしてやるからな!」
周りのガヤがエキサイトして叫び出した。
堂々たるその姿に、男達もタジタジで尻尾を丸くするかのように、その場から逃げ出した。
「これはこれは。
随分とタフな女性ですね。」
「そうか?死んだ母ちゃんと同じくらいだべ。」
「………。」
人間の母親は最強種なのか?
私の母親とは大違いだ。
か細く、繊細で透明感がある母親。
常に心を病んでいた……。
団長が私達に彼女の宿屋を紹介したのがこの件で理解できた。
あそこなら荒くれどもの餌食にならないようにと気を遣ってくれたのだ。
スケベジジイだが、根はいい人だったのだ。
ちょっとだけ、あのフルスイングを後悔した。
「『リンドウ』のザゼッタさんですよね。
サーカス団の団長さんから、これを。
一晩ご厄介になりたいのですが。」
私は騒動がひと段落したのを見計らって、ザゼッタに話しかけて、紹介状を手渡した。
「これは。
おやまぁ、クッキーサーカス団団長からだね。
以前怪我した女性団員をウチの宿で保護してね。
欲は深いが、愛情も深い男だったよ。
他の国や街でこの宿を宣伝してくれたりして、ウチも助かってるんだ。
団長の紹介なら無下に出来ないね。
どうぞ、入っておくれ。
簡単な食事しかないが、安眠は保証するよ。」
ザゼッタは親指で後ろの店を指差した。
赤い屋根のこじんまりした店だが、他の店と違って甲高い若い声や柔らかい女性らしき声が店内から聞こえて来た。
店内もこじんまりしていて、家庭的な雰囲気の中、マンドリンの曲が緩やかに流れていた。
一階は受付とその奥に軽食堂があり、そこで3.4人の客が食事をしながら会話をしていた。
ランプの灯りが更に部屋の内部を暖かく見せていて、本当にゆっくりリラックス出来る環境になっているらしい。
どんなにガタイのいい女性店主でも、こういう細かいところに気が回るんだな。
手入れの行き届いた店に私は感心した。
ザゼッタに案内されて私達は食堂のカウンター席に腰を下ろした。
「そだ、パンの残りがあるべな。
これ使ってなんか食わせてくれねーだべか?」
「おや、異国のパンだね。
硬いパンだが、グラタンスープにすると身体が温まって、リラックス出来ると思うよ。
そこのテーブルに座って待ってな。
すぐに作ってやるよ。
食事の後で部屋に案内するからね。」
ザゼッタはアルからパンを受け取ると、食堂奥のキッチンへと向かった。
1人で切り盛りしてるのか。
人間の女ってのは、凄いんだなぁ。
「見て見て、あの人すごく色白。
線が細くて、女の人みたいに見えるけど、やっぱり男性よね。」
「そうよね。
服装は完全に男だし。
でも、美しいわ。
切長で大きな瞳に吸い込まれそう。
目の保養ね。
ここに泊まって大正解!」
後ろのテーブルで、おそらく成人しているであろう娘2人がヒソヒソ話しをしている。
「ナナシの噂だべか?
やっぱり色白ってのは、モテるんだなぁ。
オラなら別に肌の色なんてどうでもいいんだけんど。
デルア王もナナシに負けず劣らずの白い肌でモテてたべ。
エルフの血が混じってるとか。
まあ、やつの場合は色白より青白い感じだども。」
「では、デルアビド王は長寿種になるんですね。
国としては良いのかもしれませんね。
長期政権が見込める。
ま、私なら褐色の肌の方が羨ましいですけどね。
陽の光の恩恵を受けてるし、躍動感がまさに生きてるって感じがしますし。
ま、美的感覚なんて人それぞれ多種多様ですからね。
別に白けりゃモテる訳でないでしょう。」
「ん、だども、やっぱ綺麗だべ。
ナナシの肌は。」
「ゲホッ!
それ、口説き文句ですよ。
無意識なのはわかるけれど。
後ろの娘に聞こえたら、何を想像するかわかりませんよ。」
「これ、口説き文句だべか。
勉強になったべ。」
全く、アルはどうも抜けている。
まさか、男好きとか?
いや、ないわ~多分。
てか、こいつ恋愛経験あるのかな?
ちなみに、私はあるぞ元魔王だけにな!
あんな事やこんな事、多種多様にね!
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