28 / 61
第五章
国王の帰還⓷
しおりを挟む2階の奥の小さな部屋に私達は案内された。
小さな足がはみ出そうなベッドが2つ。
嵌め込みの窓、壁は意外と厚く作られていて防音が効いている。
天井はそれ程高くないが、背伸びして手が届くくらいなのでさして問題はない。
ランプの柔らかなオレンジ色の光がユラユラと揺れている。
「アル、アルは国から逃げたのですか?
そうは思いたくないのですが。」
私はベッドに腰を下ろして顎下で手を組み、周りくどい事をするのをやめて単刀直入に聞いてみた。
そろそろアルも眠気が来てしまうのでその前に、とも考えたのだ。
「んー、逃げたようで、逃げてないような。
上手く説明できね~べ。
まず、言えるのはオラ半分軟禁状態だったべよ。
んで、とりあえず城の外さ出て様子を見ようと…。」
「軟禁状態ですって⁉︎。
国王がですか?
随分と強硬手段に出てますね。」
「いやいや、だから半分だって。
理由をつけては毎回出られないようにされてただよ。
やれ、書類の山にサインやらハンコ一日中押せだの、やれ一日中衣装合わせだの。」
そうか、そこは詐欺師うんぬんのあたり。
思うに、アルには国の状況を見せないようにしていた訳だ。
確かにアルの食堂での反応に一致するか。
「その、噂の商人…詐欺師ですか?
あ、えっとアルは面識あるんですよね。
名前は…意味ないか。」
おそらく偽名を名乗ってる筈だ。
国を騙し取ろうなんて大掛かりな事を考える奴が、本名名乗るなんてバカな事はしないだろう。
「ふくよかな、派手な服の男だったべ。
どこの国のファッションだかわからねーけど、鳥の羽の付いた大きな帽子に真っ赤な提灯ブルマに白タイツ履いて。
で、指には派手な宝石を持ってた。」
「……ぅうん。」
明らかに怪しい奴だよね!そんな奴!
私なら初見で蹴飛ばして追い出してるよ!
くそッ、どうしてこうも警戒心が薄いかね。
下唇を噛んで言葉を飲み込んだ。
ここで何を言っても変わらないし、私の目的はアルをとにかく帰す事だ。
アルがこれから大変なのはわかる、わかるけど、私は…。
「とにかく、城へ戻って行動しないと。
国民は貴方だけが頼りなんです。
わかっているとは思いますが、国の決断は側近ではなく貴方がするべきなのです。
よろしくお願いします。
私に言えるのは、それだけですから。」
「うん、わかっとるべな。
状況もわかった事だし。
仲間と約束したべ。
もう、頼らずにやってみるって。
それ!」
おや、アルの瞳は悩んでるそれではなかった。
まるで、勝負に勝つ時の自信満々の勇者。
ばうぅん!
ベッドにダイブして、布団にくるまるアルを見てホッとした。
ああ、そうさ。
アルならきっと、なんとかなる。
大丈夫だ。
きっと大丈夫。
アルにはアルで考えがありそうだ。
良かった。
思いの外かたがつくのが早く済みそうだ。
ここを出たら別の国に入らなきゃ。
デルア国にはもう戻れない。
そして、アルとももうすぐで、お別れだ…。
アルはもうぐっすり眠り込んでいた。
私は嵌め込みの窓辺まで歩み寄った。
三日月が優しく辺を照らしている。
アルと別れた後はなるべく、『封印の祠』には近づかない街に行かねばなるまい。
真魔力の根源を封印したとはいえ、この肉体に宿る闇魔力の残骸は角と我が名を求める。
今なお、月の光を浴びただけで、手足のオーラが輝き出す。
私には安住の地などないのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる