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第3話
しおりを挟む商業施設ビルの一階まで3人で歩いて、フロアーで再び、新たなICレコーダーを手渡した。
「範囲はこのビル内限定で、大まかなルールは、さっきと同じ。
1時間後にここに集合。
アンケート項目は…。
『仮想通貨と現金、本当の意味で得なのはどちらか。』
簡単そうで、これはアンケートを聞く相手も考えなきゃならないはず。
さっきよりは、難しい項目だ。
ま、そこも踏まえて、数を優先するか意見時間を優先するかを考える事だな。」
「おお!ゲームレベルアップだな!
負けねーぞ!」
「うん。面白そう!」
「では、スタート!」
私は2人を送り出し、奈落の貰った荷物をロッカーに突っ込み、ビル二階のカフェに入った。
コーヒーを頼んで、すぐにイヤホンを付けて先程回収したICレコーダーを高速再生してチェックした。
槇の物は想定内通りの回答が殆どだった。
丁寧な質問に丁寧な回答。
面白みは、さほど感じられない。
そして、問題の奈落…。
同じように、高速再生でチェックを始めた。
「…っ!何言って…おいおい、グチか?えっ…秘密暴⁇…そこまで話さなくても…。」
思わず、最後まで聞いてしまった。
…何てこった…。
まるで、相手が奈落に魔法にかけられたように、言葉が次々と漏れ出している。
しかも、全てが笑い声が混じり、不快感や緊張感がなかった。
つまり…本音を聞き出せていると言う事だ。
初めて私は胸のざわめきを覚えた…それは、多分…嫉妬心…そして、完全なる敗北感。
どんなに勉強したって、手に入らない物…。
アンケートを集める事自体は、そう難しい事ではない。
ただ、本心を引き出すのは意外と難しい事だ。
何故なら相手に安心感と信頼感を抱かせる必要があるからだ。
それは、ちょっとした短時間で得られるほど簡単な者じゃないはずなんだ…もし、それが出来る人間がいるとしたら、それは天性の才能の持ち主だ。
私は自分の才能の無さに暫く、脱力した。
ピピピピ!
集合時間設定のアラームが腕時計から響いた。
ピッ。
「…時間だ。行くか。」
集合場所には2人とも先に到着していた。
先程みたいに、荷物は持っていないものの…奈落のポケットは何故か、こんもりと膨れ上がっていた。
「遅いぞー!爽!ウンチか?」
「爽さん。はい、ICレコーダー。」
「うるさい!奈落!
ありがとう。槇。
ほら、奈落もICレコーダー返却。
ってか、なんだそのポケットは?」
「おばちゃんがよ~、飴食べる?とか言って突っ込んで来るんだよ。
オッさんは、ガムいる~?とか。
OLの姉ちゃんは、チョコ突っ込むし。
そんなに貧乏で可哀想に見えるのかな?」
「昭和の子供の姿そのものだね。奈落。
哀愁漂ってるよ。うん。」
もう…これはICレコーダー確認しなくても、勝敗は既に決着が着いてるって事だ。
というか、こんなのにかなう奴いるのかよ!
全く!
私は思わず、頭をかいた。
「じゃあ、鍵を渡すから、そこのロッカーから荷物を出して来い。
飴やガムもついでに袋に入れろ。」
大きな紙袋を1つづつ持って、3人でタクシーに乗って一旦事務所に帰った。
事務所に着いて、袋の中身を開けると、出るわ出るわ。
スタッフTシャツにアイドルの色紙、番組オリジナルタオルにフィギュア、弁当まで入っていた。
「奈落は…ホームレスになっても裕福な生活出来そうだな。
ニートが欲しがるスキルだね。」
「槇ちゃん毒舌~!」
「そもそも、こんなスキルの奴がニートだの引きこもりにはならないだろうけどね。」
「爽まで…それ褒めてるつもり?」
「褒めてるよ。
実際、今回のゲームは圧倒的に奈落の勝ちだ。」
「えっ⁇マジ⁇」
「だろうと思った。
奈落にはピッタリの企画だからね。
僕の負けは初めから決まってたかな。」
「で、夕飯は…。」
「あー!だったら、『お湯~ランド』行こう!」
「…はあ?」
「さっき、タクシー降りる時に運転手さんが割引きチケットくれたんだよね!」
奈落はニンマリ笑って、チケットをヒラヒラさせた。
「もっと、いいもの…。」
言いかけて、私はやめた。
そうか…コイツ…。
私はまだ上層部に上がっていない分、給料は多くないし、今回のプログラムの手当ても上限があり、たかが知れてる。
少しでも、私の負担を減らそうとしていたんだ。
こんな…12歳のガキに気を遣われるなんて…。
負けただの、悔しいだの、才能が無いだの言い訳してる自分がバカらしくなった。
「よし!そこに行くぞ!
裸の付き合いだ!ここからは無礼講だ!」
半ばヤケクソ、けど…こんなに素直に楽しもうって気分になったのは初めてだった。
『お湯~ランド』は大衆向けの温泉施設。
地元民に愛される娯楽場所だ。
特に大きいわけではなく、身近な地元の憩いの場だ。
だから、入浴料もさほど高いわけではない。
簡単なフードコートもある。
夏休み期間中は空いてもいないが、混んでもいない。
料金を支払い、まずは浴衣を手に大浴場の脱衣場に入った。
「けど…大浴場なんて、実家の共同大浴場と変わらないだろう。
珍しくもない。
本当はホテルでの食事とかの方が良かったんじゃないか?」
「あ~あ、これだから爽はインテリメガネでダメなんだよ!
楽しむってのは、腹から笑えるのが1番だ!
気取ってたら、美味い飯も味半減だ!」
「爽さん、奈落に気取れってのが無理なんですよ。
常に自然体なんだから。
羨ましいくらいに自由人なんです。奈落は。」
「…自由人ね。…確かに。」
けど…私にとって1番手に入れられない…才能を持ってる…。
まだまだ、修行が足りないな、私も。
こんなんじゃ、暫く上層部昇格は無しかな…もっと成長しないと…人間として…。
「なーに、モタモタしてんだよ!
男なら!スパッと脱ぐ!スパッと!」
「フルチンで言うな!せめて隠せよ!」
「おお?仕方ねーだろ!
お子様チンに隠す意味無いからな!
こちとら、まだ爽や槇ちゃんみたいに大人のお宝持ってね~んだよ!」
「お宝ってね…奈落だって数本生えてきたろ。」
「こんなのまだまだ!早く大人になりてぇ。」
「くだらない事にこだわるな、奈落は。
どうせ数年したら、みんな同じ…わっつ!」
ズル!いきなり奈落が私の下着をずり下げた。
「おお!トランクスっ下ろし安い~!
って…デカッ!
爽、細い割りにこれ、デカいだろ!
剝けてんの?これ、剥けてんの?」
ゴチッ!
「気にしてんだから!ほっとけよ!」
思わず、奈落の頭上に怒りの鉄拳制裁を食らわしてしまった。
「痛えっ!
いーじゃん立派なら、自慢しろよ。」
「あははは!あははは!」
槇は腹を抱えて笑いだす始末だ。
大浴場に入ると奈落はいきなり、スタスタと太ったおじさんに近づいていった。
「こんちわ~おっきいお腹だねー!
背中流してあげるから、そのお肉触らせてよ!
なんか気持ち良さそう!」
「お!なんだ坊主!背中流してくれるのか?
よしっ頼んだ!このタオルで頼む!
腹ならいくらでも触っていいぞ!」
「サンキュー!
その腹だけに太っ腹ぁ!」
もう…そこから先は私も槇も、開いた口が塞がらない感じだった。
大浴場の人間がまるで家族のように和気あいあいと、語り出した。
まさに、ムードメーカーのプロだ。
風呂上がりに、おじさんはアイスを3人分奢ってくれた。
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