華京院 爽 16歳 夏〜『有意義』なお金の使い方! 番外編〜

平塚冴子

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第3話

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 商業施設ビルの一階まで3人で歩いて、フロアーで再び、新たなICレコーダーを手渡した。

「範囲はこのビル内限定で、大まかなルールは、さっきと同じ。
 1時間後にここに集合。
  アンケート項目は…。
『仮想通貨と現金、本当の意味で得なのはどちらか。』
 簡単そうで、これはアンケートを聞く相手も考えなきゃならないはず。
 さっきよりは、難しい項目だ。
 ま、そこも踏まえて、数を優先するか意見時間を優先するかを考える事だな。」
「おお!ゲームレベルアップだな!
 負けねーぞ!」
「うん。面白そう!」
「では、スタート!」

 私は2人を送り出し、奈落の貰った荷物をロッカーに突っ込み、ビル二階のカフェに入った。
 コーヒーを頼んで、すぐにイヤホンを付けて先程回収したICレコーダーを高速再生してチェックした。

 槇の物は想定内通りの回答が殆どだった。
 丁寧な質問に丁寧な回答。
 面白みは、さほど感じられない。
 
 そして、問題の奈落…。
 同じように、高速再生でチェックを始めた。

「…っ!何言って…おいおい、グチか?えっ…秘密暴⁇…そこまで話さなくても…。」

 思わず、最後まで聞いてしまった。
 …何てこった…。
 まるで、相手が奈落に魔法にかけられたように、言葉が次々と漏れ出している。
 しかも、全てが笑い声が混じり、不快感や緊張感がなかった。
 つまり…本音を聞き出せていると言う事だ。

 初めて私は胸のざわめきを覚えた…それは、多分…嫉妬心…そして、完全なる敗北感。
 どんなに勉強したって、手に入らない物…。
 
 アンケートを集める事自体は、そう難しい事ではない。
 ただ、本心を引き出すのは意外と難しい事だ。
 何故なら相手に安心感と信頼感を抱かせる必要があるからだ。
 それは、ちょっとした短時間で得られるほど簡単な者じゃないはずなんだ…もし、それが出来る人間がいるとしたら、それは天性の才能の持ち主だ。

 私は自分の才能の無さに暫く、脱力した。

 ピピピピ!

 集合時間設定のアラームが腕時計から響いた。

 ピッ。

 「…時間だ。行くか。」


 集合場所には2人とも先に到着していた。
 先程みたいに、荷物は持っていないものの…奈落のポケットは何故か、こんもりと膨れ上がっていた。

「遅いぞー!爽!ウンチか?」
「爽さん。はい、ICレコーダー。」
「うるさい!奈落!
 ありがとう。槇。
 ほら、奈落もICレコーダー返却。
 ってか、なんだそのポケットは?」
「おばちゃんがよ~、飴食べる?とか言って突っ込んで来るんだよ。
 オッさんは、ガムいる~?とか。
 OLの姉ちゃんは、チョコ突っ込むし。
 そんなに貧乏で可哀想に見えるのかな?」
「昭和の子供の姿そのものだね。奈落。
 哀愁漂ってるよ。うん。」

 もう…これはICレコーダー確認しなくても、勝敗は既に決着が着いてるって事だ。
 というか、こんなのにかなう奴いるのかよ!
 全く!
 私は思わず、頭をかいた。

「じゃあ、鍵を渡すから、そこのロッカーから荷物を出して来い。
 飴やガムもついでに袋に入れろ。」

 大きな紙袋を1つづつ持って、3人でタクシーに乗って一旦事務所に帰った。

 事務所に着いて、袋の中身を開けると、出るわ出るわ。
 スタッフTシャツにアイドルの色紙、番組オリジナルタオルにフィギュア、弁当まで入っていた。

「奈落は…ホームレスになっても裕福な生活出来そうだな。
 ニートが欲しがるスキルだね。」
「槇ちゃん毒舌~!」
「そもそも、こんなスキルの奴がニートだの引きこもりにはならないだろうけどね。」
「爽まで…それ褒めてるつもり?」
「褒めてるよ。
 実際、今回のゲームは圧倒的に奈落の勝ちだ。」
「えっ⁇マジ⁇」
「だろうと思った。
 奈落にはピッタリの企画だからね。
 僕の負けは初めから決まってたかな。」
「で、夕飯は…。」
「あー!だったら、『お湯~ランド』行こう!」
「…はあ?」
「さっき、タクシー降りる時に運転手さんが割引きチケットくれたんだよね!」

 奈落はニンマリ笑って、チケットをヒラヒラさせた。

「もっと、いいもの…。」

 言いかけて、私はやめた。
 そうか…コイツ…。
 私はまだ上層部に上がっていない分、給料は多くないし、今回のプログラムの手当ても上限があり、たかが知れてる。
 少しでも、私の負担を減らそうとしていたんだ。
 こんな…12歳のガキに気を遣われるなんて…。
 
 負けただの、悔しいだの、才能が無いだの言い訳してる自分がバカらしくなった。

「よし!そこに行くぞ!
 裸の付き合いだ!ここからは無礼講だ!」

 
 半ばヤケクソ、けど…こんなに素直に楽しもうって気分になったのは初めてだった。

 『お湯~ランド』は大衆向けの温泉施設。
 地元民に愛される娯楽場所だ。
 特に大きいわけではなく、身近な地元の憩いの場だ。
 だから、入浴料もさほど高いわけではない。
 簡単なフードコートもある。
 夏休み期間中は空いてもいないが、混んでもいない。

 料金を支払い、まずは浴衣を手に大浴場の脱衣場に入った。

「けど…大浴場なんて、実家の共同大浴場と変わらないだろう。
 珍しくもない。
 本当はホテルでの食事とかの方が良かったんじゃないか?」
「あ~あ、これだから爽はインテリメガネでダメなんだよ!
 楽しむってのは、腹から笑えるのが1番だ!
 気取ってたら、美味い飯も味半減だ!」
「爽さん、奈落に気取れってのが無理なんですよ。
 常に自然体なんだから。
 羨ましいくらいに自由人なんです。奈落は。」
「…自由人ね。…確かに。」

 けど…私にとって1番手に入れられない…才能を持ってる…。
 まだまだ、修行が足りないな、私も。
 こんなんじゃ、暫く上層部昇格は無しかな…もっと成長しないと…人間として…。

「なーに、モタモタしてんだよ!
 男なら!スパッと脱ぐ!スパッと!」
「フルチンで言うな!せめて隠せよ!」
「おお?仕方ねーだろ!
 お子様チンに隠す意味無いからな!
 こちとら、まだ爽や槇ちゃんみたいに大人のお宝持ってね~んだよ!」
「お宝ってね…奈落だって数本生えてきたろ。」
「こんなのまだまだ!早く大人になりてぇ。」
「くだらない事にこだわるな、奈落は。
 どうせ数年したら、みんな同じ…わっつ!」

 ズル!いきなり奈落が私の下着をずり下げた。

「おお!トランクスっ下ろし安い~!
 って…デカッ!
 爽、細い割りにこれ、デカいだろ!
 剝けてんの?これ、剥けてんの?」

 ゴチッ!

「気にしてんだから!ほっとけよ!」

 思わず、奈落の頭上に怒りの鉄拳制裁を食らわしてしまった。

「痛えっ!
 いーじゃん立派なら、自慢しろよ。」
「あははは!あははは!」

 槇は腹を抱えて笑いだす始末だ。

 大浴場に入ると奈落はいきなり、スタスタと太ったおじさんに近づいていった。

「こんちわ~おっきいお腹だねー!
 背中流してあげるから、そのお肉触らせてよ!
 なんか気持ち良さそう!」
「お!なんだ坊主!背中流してくれるのか?
 よしっ頼んだ!このタオルで頼む!
 腹ならいくらでも触っていいぞ!」
「サンキュー!
 その腹だけに太っ腹ぁ!」

 もう…そこから先は私も槇も、開いた口が塞がらない感じだった。
 大浴場の人間がまるで家族のように和気あいあいと、語り出した。
 まさに、ムードメーカーのプロだ。

 風呂上がりに、おじさんはアイスを3人分奢ってくれた。

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