華京院 爽 16歳 夏〜『有意義』なお金の使い方! 番外編〜

平塚冴子

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第2話

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 事務所を出て、3人でタクシーに乗り込み、一路地元テレビ局へと向かった。
 この日に備えて、地元テレビ局の見学許可を前もって得ていた。
 
「ほら、1日通行証。
 これを首からかけろ。
 あと、この腕章。」
「子供…記者…クラブ?」
「これ、おそらく偽装の為のものでしょう?
 凝ってますね。
 これなら、アンケートも集めやすい。」
「まあな。
 こういうところは基本的に口が固い。
 けど…子供相手だとその口元も緩む。
 情報集にもよく使う手だ。
 手の内として覚えておけ。」

 奈落と槇は顔を見合わせて頷いた。
 やる気満々で良かった。
 このプランが正解かどうかは本当のところ、わからなくて不安だった。
 コミュニケーションが目的なんだし、楽しんでもらわなきゃならなかったからだ。

 このプログラムには槇も言った通り、適性を見る事も含まれる。
 今日一日の感想やデータを上層部に提出。
 上層部はそれを元に、1年ごとの正式な配属先を決める。
 私のいる会社のこのセクションには…私以降に配属される者はまだいない。
 おそらく、私との相性という点も障害となっているんだろう。
 自分でも、それはよく分かっていた。

「爽!爽!んひっ!」
 「⁉︎」

 タクシーの中で、奈落が変顔を押し付けてきた。

「んだはは!今の顔最高ーだろ?」
「はあああ?」

 なんだ?コイツは…勢いよく、勝手に俺の懐に飛び込んで来やがった…。
 あ、なんかコイツ…雑種の毛の長い犬みたいだなぁ。
 顔合わせるだけで、ハフハフ興奮して喜びやがる…。

 確かに昔っから、甘え上手っぽい奴だとは思って見てたが、華京院に居て、こんなに警戒心が無くていいのか?
 …私のペースが崩される…。

 タクシーを降りて、テレビ局内のインフォメーションセンター前で2人にICレコーダーを手渡した。

「いいか、アンケートを紙にすると、荷物になるし、ビデオ録画は局内で禁止されている。
 そこで許可を取って、目の前でICレコーダーに録音する事。
 カウント数が出るから、数の多さはこれでわかる。
 アンケートの総時間数も出るから、聞き出せた意見の長さもわかる。
 で、1時間後にここに集合。
 次の商業施設内で2つ目のアンケート項目で同じ様にアンケート調査する事。」
「プライバシーにはうるさいですしね。
 そこはキチンとやらなきゃだね。奈落。」
「おう!任せとけ!」

 いや…お前が一番心配なんだよ…。

「まず、今回のアンケートのお題は…。
『地方テレビ局に、未来は有るか?』だ。」
「…随分とシビアなアンケート内容ですね。
 答えてくれるでしょうか?」
「槇ぃ~。甘いなぁ!
 だから…だろ!シビアな内容だからこそ、子供特性を生かして意見を聞くんだよ!
 なっ?爽!」
「えっ…ああ。正解だ。
 まずは、未来性が有る無いか。
どちらかを聞いて、それについて個人的意見がある場合はその先を聞く。
 …まあ、聞くと言うより、引き出せたらポイント的には高いな。」

 私は内心驚いた…さっきまで犬コロの様にふざけていた奈落が、確信をついた事を槇に言ったのだ。
 瞬時にアンケートの意味を理解した…。
 これが、槇だったら何ら驚かなかった…けど…気が付いたのは奈落が先だった。

 野生の勘としか思えないが…。

「ちなみに、ICレコーダーにはGPSも搭載されてるから、お前らの居場所は把握出来る。
 あんまり遠くや、変なところ行くなよ。」
「了解しました。
 では1時間後に。」
「ラジャーっす!」

 返事をして、颯爽と2人は警備員のいるゲートを抜けて局内で奥に入って行った。

 私は2人を待つ間、局内のラウンジでひと息つく事にした。

「落ち着くな…。」

 独りになる事が嫌いではない…むしろ、他人と群れる事に少し抵抗がある。
  親族以外の人間と仲良くして、話した記憶は物心付いた頃から無い。
 華京院の中に居て、さらに私は異質なのかも知れない。
 大家族生活の中にいて、私は親族や他人に心を覗かれるのが恐怖でたまらなかったからだ。
 私以外の親族は自分をさらけ出して、感情をぶつけ合って切磋琢磨して行くのに…私にはそれがどうしても、出来なかった。
 人間が…怖いのだ…。

  …だから逆に、このアンケート調査会社が私に合っているのは、下手に自分の感情を入れないからだ。
 坦々と数をこなすアンケート収集も、こちらをさらけ出さなくても、相手から自分の話しや意見を教えてくれる。
 知識として、他人の感情の流れを研究出来る。
 そして、自分を相手にさらけ出す事も無く、相手との交渉や、相手の喜ぶ話しも出来る様になった。
 そうやって、上辺だけの付き合いだけは、得意になった。

 カフェオレの缶コーヒーを一口飲み、腕時計に視線を流した。
 もうそろそろかな。
 時間的にはおそらく二桁行けば、いいくらいかな。
 総回答時間数は20分あれば優秀な方だな。

 ゆっくりと立ち上がって、私はロビーのインフォメーションセンター前に向かった。

「本当に、すいません。無理です。
 おかしいです。」
「いや、私の目に狂いはない!
 逸材だよ!売れるよ君!」

 ゲートの向う側で槇がスーツ姿の男に絡まれていた。
 …はあ、面倒だ。

「あの…子供記者クラブの者ですが…ウチのが何か?」

 警備員に許可証を提示してゲートを通って、2人の間に割って入った。

「ああ、実は私、芸能事務所関係者で、是非スカウトに…。」
「やめた方がいいですよ。
 彼の親、スクープ雑誌の編集長ですよ。
 危険な情報ダダ漏れになりますよ。
 彼は父親を尊敬してるから、こういう事をしてる訳ですし、損はあっても特は無いと思います。」
「ええっ!そうなの⁉︎
 うわーそりゃ、どんなに映える子でも…受け付けないな…残念だけど諦めるよ。」

 肩をガクンと落として、その男は奥へと消えて行った。

「凄い!完璧に上手く丸め込めましたね。
 あんなに、アッサリと手を引くなんて。」
「まあ、1番芸能関係が嫌がるツボは抑えてるさ。
 ん…けど…お前って、そんなに芸能向きなのか?」
「さあ?奈落と変わらないと思いますよ。
 どこで、そう思って声を掛けてきたのか、全くわかりませんね。」
「…だな。
 って、奈落…遅いな。
 あいつも何処かで捕まってるんじゃ…。」

 そう言って振り向いた途端、両手に手荷物を抱えた奈落が紙袋の通った腕を振り上げて、声を掛けて来た。

「おーい!悪い悪い!
 持ってけだの、食ってけだの言われてさ。」
  
 私の目は丸くなった。
 この短時間で、相手の懐に入る事が出来たという事なのか?
  
「…野良犬…。」
「プッ!爽さん、面白いですね。
 それ、奈落にピッタリ!」
「何だと~!
 俺はインテリ犬だぁ!」

 インテリ犬って、言ってる時点でバカ丸出しなんだが…。

 とにかく、2人のICレコーダーを回収して、カウント数と総時間数をチェックした。

 槇…28分、15人…ん、そこそこ良い数字。
 奈落……‼︎
 嘘だろ…48分、21人…って、数人同じ場所でアンケート取ったとしても…。

 俺は奈落の結果に信じられない気分だった。
 まさか…不正をしたとか?
 とにかく、商業施設へ移動して、新たなICレコーダーを渡そう。
 待ち時間の間に奈落の録音をチェックしないと。
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