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第2話
しおりを挟む事務所を出て、3人でタクシーに乗り込み、一路地元テレビ局へと向かった。
この日に備えて、地元テレビ局の見学許可を前もって得ていた。
「ほら、1日通行証。
これを首からかけろ。
あと、この腕章。」
「子供…記者…クラブ?」
「これ、おそらく偽装の為のものでしょう?
凝ってますね。
これなら、アンケートも集めやすい。」
「まあな。
こういうところは基本的に口が固い。
けど…子供相手だとその口元も緩む。
情報集にもよく使う手だ。
手の内として覚えておけ。」
奈落と槇は顔を見合わせて頷いた。
やる気満々で良かった。
このプランが正解かどうかは本当のところ、わからなくて不安だった。
コミュニケーションが目的なんだし、楽しんでもらわなきゃならなかったからだ。
このプログラムには槇も言った通り、適性を見る事も含まれる。
今日一日の感想やデータを上層部に提出。
上層部はそれを元に、1年ごとの正式な配属先を決める。
私のいる会社のこのセクションには…私以降に配属される者はまだいない。
おそらく、私との相性という点も障害となっているんだろう。
自分でも、それはよく分かっていた。
「爽!爽!んひっ!」
「⁉︎」
タクシーの中で、奈落が変顔を押し付けてきた。
「んだはは!今の顔最高ーだろ?」
「はあああ?」
なんだ?コイツは…勢いよく、勝手に俺の懐に飛び込んで来やがった…。
あ、なんかコイツ…雑種の毛の長い犬みたいだなぁ。
顔合わせるだけで、ハフハフ興奮して喜びやがる…。
確かに昔っから、甘え上手っぽい奴だとは思って見てたが、華京院に居て、こんなに警戒心が無くていいのか?
…私のペースが崩される…。
タクシーを降りて、テレビ局内のインフォメーションセンター前で2人にICレコーダーを手渡した。
「いいか、アンケートを紙にすると、荷物になるし、ビデオ録画は局内で禁止されている。
そこで許可を取って、目の前でICレコーダーに録音する事。
カウント数が出るから、数の多さはこれでわかる。
アンケートの総時間数も出るから、聞き出せた意見の長さもわかる。
で、1時間後にここに集合。
次の商業施設内で2つ目のアンケート項目で同じ様にアンケート調査する事。」
「プライバシーにはうるさいですしね。
そこはキチンとやらなきゃだね。奈落。」
「おう!任せとけ!」
いや…お前が一番心配なんだよ…。
「まず、今回のアンケートのお題は…。
『地方テレビ局に、未来は有るか?』だ。」
「…随分とシビアなアンケート内容ですね。
答えてくれるでしょうか?」
「槇ぃ~。甘いなぁ!
だから…だろ!シビアな内容だからこそ、子供特性を生かして意見を聞くんだよ!
なっ?爽!」
「えっ…ああ。正解だ。
まずは、未来性が有る無いか。
どちらかを聞いて、それについて個人的意見がある場合はその先を聞く。
…まあ、聞くと言うより、引き出せたらポイント的には高いな。」
私は内心驚いた…さっきまで犬コロの様にふざけていた奈落が、確信をついた事を槇に言ったのだ。
瞬時にアンケートの意味を理解した…。
これが、槇だったら何ら驚かなかった…けど…気が付いたのは奈落が先だった。
野生の勘としか思えないが…。
「ちなみに、ICレコーダーにはGPSも搭載されてるから、お前らの居場所は把握出来る。
あんまり遠くや、変なところ行くなよ。」
「了解しました。
では1時間後に。」
「ラジャーっす!」
返事をして、颯爽と2人は警備員のいるゲートを抜けて局内で奥に入って行った。
私は2人を待つ間、局内のラウンジでひと息つく事にした。
「落ち着くな…。」
独りになる事が嫌いではない…むしろ、他人と群れる事に少し抵抗がある。
親族以外の人間と仲良くして、話した記憶は物心付いた頃から無い。
華京院の中に居て、さらに私は異質なのかも知れない。
大家族生活の中にいて、私は親族や他人に心を覗かれるのが恐怖でたまらなかったからだ。
私以外の親族は自分をさらけ出して、感情をぶつけ合って切磋琢磨して行くのに…私にはそれがどうしても、出来なかった。
人間が…怖いのだ…。
…だから逆に、このアンケート調査会社が私に合っているのは、下手に自分の感情を入れないからだ。
坦々と数をこなすアンケート収集も、こちらをさらけ出さなくても、相手から自分の話しや意見を教えてくれる。
知識として、他人の感情の流れを研究出来る。
そして、自分を相手にさらけ出す事も無く、相手との交渉や、相手の喜ぶ話しも出来る様になった。
そうやって、上辺だけの付き合いだけは、得意になった。
カフェオレの缶コーヒーを一口飲み、腕時計に視線を流した。
もうそろそろかな。
時間的にはおそらく二桁行けば、いいくらいかな。
総回答時間数は20分あれば優秀な方だな。
ゆっくりと立ち上がって、私はロビーのインフォメーションセンター前に向かった。
「本当に、すいません。無理です。
おかしいです。」
「いや、私の目に狂いはない!
逸材だよ!売れるよ君!」
ゲートの向う側で槇がスーツ姿の男に絡まれていた。
…はあ、面倒だ。
「あの…子供記者クラブの者ですが…ウチのが何か?」
警備員に許可証を提示してゲートを通って、2人の間に割って入った。
「ああ、実は私、芸能事務所関係者で、是非スカウトに…。」
「やめた方がいいですよ。
彼の親、スクープ雑誌の編集長ですよ。
危険な情報ダダ漏れになりますよ。
彼は父親を尊敬してるから、こういう事をしてる訳ですし、損はあっても特は無いと思います。」
「ええっ!そうなの⁉︎
うわーそりゃ、どんなに映える子でも…受け付けないな…残念だけど諦めるよ。」
肩をガクンと落として、その男は奥へと消えて行った。
「凄い!完璧に上手く丸め込めましたね。
あんなに、アッサリと手を引くなんて。」
「まあ、1番芸能関係が嫌がるツボは抑えてるさ。
ん…けど…お前って、そんなに芸能向きなのか?」
「さあ?奈落と変わらないと思いますよ。
どこで、そう思って声を掛けてきたのか、全くわかりませんね。」
「…だな。
って、奈落…遅いな。
あいつも何処かで捕まってるんじゃ…。」
そう言って振り向いた途端、両手に手荷物を抱えた奈落が紙袋の通った腕を振り上げて、声を掛けて来た。
「おーい!悪い悪い!
持ってけだの、食ってけだの言われてさ。」
私の目は丸くなった。
この短時間で、相手の懐に入る事が出来たという事なのか?
「…野良犬…。」
「プッ!爽さん、面白いですね。
それ、奈落にピッタリ!」
「何だと~!
俺はインテリ犬だぁ!」
インテリ犬って、言ってる時点でバカ丸出しなんだが…。
とにかく、2人のICレコーダーを回収して、カウント数と総時間数をチェックした。
槇…28分、15人…ん、そこそこ良い数字。
奈落……‼︎
嘘だろ…48分、21人…って、数人同じ場所でアンケート取ったとしても…。
俺は奈落の結果に信じられない気分だった。
まさか…不正をしたとか?
とにかく、商業施設へ移動して、新たなICレコーダーを渡そう。
待ち時間の間に奈落の録音をチェックしないと。
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