暗殺貴族【挿絵有】

八重

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第4章 サリエル編

誓い③

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 抱き合うリラとラリウスに複雑な心境になる者もいたが、それよりもこのまま見守りたいという気持ちの方が大きく、皆優しい眼差しで2人を見つめていた。
 その時か細く弱い声がリラの名前を呼んだ。その声にラリウスはハッとしリラから体を離す。ラリウスの体から離れたリラは声の主の姿を確認すると、驚き目を見開いた。


「サリエルさん…っ!?」


 サリエルの体は傷だらけで所々血が滲んでおり、潰れた左目からは大量の血が流れ出ていた。明らかに一番傷を負っている彼はどこか安堵した様子でリラの側に来ると、ゆっくりとした動作でその場に座り込んだ。


「良かった……。可能性は低かったが成功したよう…ゴホッ…ゲホッ…」


 咳き込んだサリエルの口からゴボッと大量の赤い液体が流れ出た。咳き込み前のめりになった体を咄嗟にリラが支える。


「サリエルさん……! 大丈夫ですかっ……!?」

「……すまない」


 サリエルは苦しそうにお腹のあたりを手でおさえており、そこから大量の血液がジワジワと衣服に染み出していた。


「大変っ……血がー」

「だい、じょうぶ…だ……」

「そんなわけないじゃないですかっ! 早く止血をー」

「リラ」


 リラは周りに助けを乞おうとしたがそれを静止するよう少し大きめの声で名前を呼ばれた。


「いいんだ」

「え…」

「もう…良いのだ。リラ。お前はもう……私に関わらなくて良いのだ」


リラ。全て終わったら

もう お前に触れることは出来ぬのだな


「それにこの状態からの回復は…無理だ」

「そんなっ」

「だから、せめて…最期、までの時間は……私の方を見て……話を聞いてくれ……」


 サリエルに色々と酷い事をされたに関わらず、リラは純粋に自分に出来ることがあるならば何でもしてあげたいと思った。


「そのようなことでいいなら」


 リラはそう言うとサリエルの上半身をしっかりと抱える。その温もりにサリエルは嬉しそうに目を細めた。


「……リラ」

「はい」

「すまなかった」

「え……?」

「私は…お前の悲しむことばかり…してきてしまった…。奪ってばかりしていた…。初めはただただ…リラに幸せになって欲しかっただけだったのに…本当に最低な事をした…。
 私は…お前のことが…どうしても欲しくなってしまったのだ……」


 言葉の合間合間にサリエルの苦しそうな息遣いが混じる。


「リラ…私は…お前を愛していた…。でも…私は愛し方がわからなかった…間違えてしまった…。
 本当に…本当にすまない……」


 苦しそうに悲しそうに言葉を紡ぐサリエルの姿にリラの胸が締め付けられた。


「もう、謝らないでください。サリエルさんの気持ちは充分伝わりました。だから……」

「私を…赦(ユル)して、くれるのか……?」


 サリエルがそう問いかけると、リラは答えるように彼の手に自分の手をそっと重ねた。


「サリエルさんは私を助けてくれたじゃないですか……」




(まだ終わりじゃない…!)

(リラ戻ってこい…!)



「サリエルさんが私を……。私をここに引き戻してくれたんですよね」


 リラの言葉にサリエルは肯定するように優しく微笑んで見せた。


「でも…最終的にお前を戻したのは…あいつの声だ……」


 そう言ってサリエルはチラリとラリウスへと視線を送る。ラリウスは複雑そうな表情でサリエルを見返した。


「ラリウス…もう…リラを、傷つける…な」

「そんなこと…言われなくても…。二度と傷つけるような事しませんよ」

「……そうか」


 サリエルは小さくラリウスに笑い返すと、視線を再びリラへと向けた。


「リラ…」


 サリエルは囁くように名前を呼ぶと、震える手でゆっくりリラの頬へと手を伸ばした。力がほとんど残っていないサリエルの手はすぐにもリラの頬を滑り落ちそうで、リラはサリエルの手を支えるように自分の手を重ねた。


「私は…嬉しかった…お前に話しかけられて……」


 サリエルの脳裏に花のように笑う幼い少女が浮かぶ。


「楽しかったんだ…お前と…会話、するのが……」


 言葉が途切れサリエルを支えるリラの腕にズンと体重がかかった。


「サリエルさんっ…!」


 リラの頬に添えた手が暖かく濡れるのを感じ、サリエルは閉じかけた瞳を開いた。リラの顔を見上げると彼は少しばかり目を見開き、そして嬉しそうに目を細めた。


「…私の為…なんか、に…泣いてくれるのだ、な……」


 リラの瞳から流れ出た大粒の涙はサリエルの手についた血と混じり合い、頬をつたい落ちていく。


(涙とは…こんなにも暖かいものだったのか…)


「っく…サリエルさん…」


 リラは嗚咽が漏れそうなのを必死にこらえ、彼に最期の言葉を贈ろうと笑顔を作ってみせた。


(あぁ…。そうか……。
 これは…私が…欲したものと少し違うが…これもまた……)



「サリー。ありがとう」

(これもまた……)



(彼女の 愛 なんだ……)


 サリエルはもう声を発する力も残っていなかったが、言葉を返したくて震える唇をゆっくりとうごかした。



 ありがとう



 声にはならなかったがその言葉はしっかりとリラに伝わった。掠れゆく視界の中でリラの微笑みとアイリスの笑顔が重なる。




アイリス…

今度こそ幸せなお前の姿を見られるよう願っている

今度こそ…



「サリエルさん…?」


私が滅んでも私の想いは消えない

リラ。お前が私に気づかなくても…私は…

私の心はずっとお前と共にー…




「サリエルさんっ!」


サリエルは最期に幸せそうに微笑むとゆっくりとその瞳を閉じた。



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