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第4章 サリエル編
誓い②
しおりを挟むここはどこだろう…
光はないけれどとても暖かい。
この感じどこかで…
そうだ。お母さんのお腹にいる時と似ている。
そうか。私は再び戻ってきたんだ。
そしてまた次の舞台に上がるまでゆっくりとここで浮かんでるんだ。
プカプカ
ゆらゆら
あったかい
プカプカ
ゆらゆら
プカプカ
ゆらゆら…
私の意識が暗闇に溶けてしまいそうになったその時、誰かの声が響いた。
「まだ終わりじゃない…!」
何を言ってるのだろう…。
舞台は幕を閉じた。
アンコールもないのだ。
「リラ! 戻ってこい…!」
くぐもった声が響く。
どこかで聞いたことのある声。
ずっと昔に聞いていた声だ。
「リラさんっ」
先ほどとは違う声が私の内側…真ん中の部分に響いた。
この声は…
この声は―…
「ラ…リウ…ス、さま…」
「リラさんっー!」
一段と大きく響いた声に私は閉じていた瞳をハッと開いた。それはまるで急に手を引かれ、薄暗い舞台裏からスポットライトの当たる舞台に引っ張り出されたような気分だった。ほの暗い場所から一気に明るい場所へと引っ張り出された私は眩しさに目を細めた。
(あれ…わたし…)
リラのぼやけた視界に夜空に浮かぶ月が映る。
「リラさん…! リラさん…っ!」
声のする方に視線を向けるとそこには目元に涙を浮かべた男性がこちらを心配そうに覗き込んでいた。
「ラ、リウス…さま……」
「リラちゃん!」
「リラちゃんっ!!」
リラがか細い声でラリウスの名を呟くと嬉しそうなそろった声が降ってきた。その言葉を皮切りに次々と名前を呼ばれ、リラは順々にその顔を確認する。
(ジル様、ギル様…アン様、シルキー様…ティーナ様、それにマディーナ様も…)
よく見知った顔ぶれにリラはぼやける頭のまま体を起こそうとした。ラリウスはすかさずリラの体に手を回し、上半身を抱き起こすとその存在を確かめるように強く抱きしめた。
「良かった…本当に、良かった…」
(…温かい)
リラはまだ現状を理解しきれていなかったがそのあたたかさに安堵を覚えた。少しの間リラはその温もりに身を任せていたが、ふとラリウスの体が傷ついていることに気づき、慌てて体を離した。
「ラリウス様怪我をっ…!」
体を離してラリウスの顔を正面で見た時、リラは初めて瞑られた瞳から流れ出る赤い液体に気がついた。
「っ! 目がっ…!」
ラリウスは慌てるリラの頬を両手で包み安心させるように優しく微笑んだ。
「私の怪我なんかいいんです。リラさんが戻ってきてくれましたから……。それだけで……私は充分なんです」
「ラリウスさ、まっ!?」
再び抱きしめられたリラは慌てたが、ラリウスは構わずリラの首元に顔を埋めた。その体温を、その存在を確かめるように。
「あ、あのっ……」
「……き…です」
「え……?」
「好き、なんです。…リラさんの事が……。あなたを…愛してます」
一呼吸置かれて耳元で呟かれた6文字の言葉はリラにとって、とても信じられないもので、その言葉の受け入れるのに少し時間がかかった。
「もう、二度と…二度と離しませんから……。だからずっと……ずっと私の側にいて下さい」
自然とリラの瞳から涙が一粒こぼれ落ちる。遥か昔からこの言葉を待っていた気がした。
「はい……」
リラは返事の言葉と共にラリウスの背中に手を回し、ギュッと抱き返した。
「ずっと…ずっとお側に居させて下さい」
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