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短編
温泉旅行へGO!④(ギャグハー)
しおりを挟むナレーション:温泉街散策から宿に帰ってきた一行。夕食前に温泉に浸かろうという事になり、それぞれ男湯と女湯に別れたのだがー…
アン「ティーナ姉さま! 早く外のお風呂行きましょうっ」
ティーナ「アン。もう少し待ってくれるかしら。まだ髪の毛が洗えてませんの」
リラ「あ! 私もう洗い終わったのでアンちゃんと一緒に行きますよ。
ちょうど私も露天風呂に入りたかったですし」
ティーナ「じゃあお言葉に甘えてもいいかしら?」
リラ「はい。じゃあアンちゃん一緒に行こう」
アン「はーい!」
*****
アン「あ! あれなんですか?」
アンちゃんの指す方向に目を向けると、そこには大きな岩肌に穴が開いており、温泉が穴の先まで続いていた。
リラ「あれは洞窟風呂ってやつだと思うよ。私も初めて見るけど…」
アン「なんだか面白そうです! リラさん行ってみましょう」
リラ「うん。なんだかちょっと探検気分だね」
洞窟内に入ってみると中はほんのりと薄暗く、足元の温泉はうっすら白濁した濁り湯だった。
洞窟内の壁は岩肌がむき出しになっていて本当に洞窟探検している気分になる。
リラ「けっこう続いてるね。このまま進んでみる?」
アン「はい! どうせなら端まで行ってみたいです!」
リラ「よし! じゃあ行くぞー!」
アン「おーー! ですっ」
リラ「あっなんか外の明かりが見えるよ」
アン「行きましょうっ」
リラ「あっアンちゃん待って~」
バシャバシャとお湯を切りながら急いで進んでいくアンちゃんの後ろを追い、洞窟を抜けた。
リラ「うわっ…すごいっ…!」
洞窟を抜けた先は湯に浸かりながら、温泉街と近くの海を眼下に見下ろせるような造りになっていた。
アン「リラさんっリラさんっ! 海が見えますっ」
リラ「本当! すっごいここ眺めが良いね!」
興奮しているアンちゃんの隣に座り、少し冷えた体を温める。
リラ「アンちゃんも一回肩まで浸かって体温めよっか」
アン「はいっ」
2人で温泉の淵に肘をのせて、きれいな景色を眺める。
う~ん。なんて贅沢な時間だろう。
アン「う~…ちょっと熱くなってきました」
ジル「うわぁっなんかゲームのダンジョンみたいでテンションあがるんだけどっ」
ギル「それわかる! この岩肌とかそのまんまなのがいいよね!」
あ…。なんか聞き覚えのある声が…
露天風呂ってけっこう隣側の声聞こえるからね~
アン「今お兄様達の声が聞こえましたっ」
アンちゃんも声に気づいたらしく、立ち上がりバシャバシャと湯気の向こう側に行ってしまった。
リラ「あっアンちゃん! 2人とも男湯にいるから会えないー」
アン「ギル兄様ジル兄様っ」
ジル「おぉっ! アンだ!」
リラ「!?」
は? いや…ちょっと待って。
ここ女湯だよね?
…あ、そうか! 壁越しに話してるだけだよね!
ジル「と、いう事は…もしかして」
いや。ちょっと待って。
湯気の向こう側にアンちゃんよりも背の高い人影が見える気がするんだけど。
どうしようこれ。と考えているうちにその人影が湯気をかきわけて姿を現した。
ギル「あ! リラちゃん発見~!!」
そこには腰にタオル一枚だけ巻いて立つ同じ顔の少年。
いや、まじでタオル巻いてくれてて良かった。
ってそういう事じゃなくてー…
リラ「なっ……なんでっ!! ここ女湯なんですけどっ!?」
ギル「え? リラちゃん注意書きとか見てなかったの?」
リラ「え?」
ジル「洞窟風呂を抜けた先は混浴って書いてたよ~」
リラ「うそっ!?」
ジル「しかもけっこう大きめの文字で書いてたよ」
リラ「だって洞窟の中薄暗かったし、それにコンタクト外してぼんやりとしか見えなかったんだもん」
ギル「へぇ~リラちゃん視力良くないんだね。今俺らの顔見えてる?」
ギル君とジル君は距離的に2~3mくらい離れている場所に立っている。
リラ「…ぼんやりとわかるくらい」
ジル「結構悪いんだね。ちなみ俺達視力2.0。リラちゃんの姿ばっちり見えております!」
リラ「わざわざそんな事言わなくていいし! 私もう戻るからっ」
アン「えっ…! リラさんもう少しここにいましょうよっ」
リラ「え、でもー」
ジル「そうだよ~! それにここお湯が透明じゃないから見えないし、もう少しいいじゃん」
ギル「それに、もうすぐここから海に沈む夕日が見れるよ?」
リラ「んーー…。じゃあ、夕日を見るまでは…」
ジル「やったーー!!」
リラ「ちょっ…!! ジル君そんなにはしゃいだらタオル取れるから! 自重して!」
ジル「そんな心配しなくても、俺ら見られても全然平気だから!」
ギル「いつでもOKだよ!」
リラ「私が平気じゃないから。こんなところでトラウマ作る気ないから」
だからさっさとお湯に浸かって、と言えば2人は素直にその体をお湯に沈めた。
……2人がこんなふざけた性格じゃなければ、その程よく筋肉の付いた体にドキリとするんだろうな。
この2人性格で損してるよなぁ…
そんなことを考えてるとスススとジル君がこちらに近づいてきた。
リラ「えっ、ちょっとあんまり近寄らないでくれる?」
ジル「え~? なんで~?」
ニヤニヤしながら近づいてくるジル君に私は体をお湯に沈めたままその場から離れる。
けど、その後をジル君が追ってくる。
ジル「もしかしてムダ毛の処理が甘すぎたから見られたくない~とか?
大丈夫だよ! それさえも萌えられるから!」
リラ「あんたの頭が大丈夫じゃないわっ!」
ジル「酷いっ! 俺は至って普通の健康優良児だよ~」
もう追ってくる姿がただの変態にしか見えない。
リラ「もう! 小学生男子みたいなイジワル止めてよ!」
ジル「いやぁ、嫌がられれば嫌がれるほど楽しくてね~」
リラ「変態っ! ちょっとアンちゃんやっぱり戻ろー…」
そう言ってアンちゃんの姿を探すけど見当たらない。
ギル「アンならのぼせそうだったから、先に戻らせておいたよ」
リラ「えっ!? じゃあ私もー」
ギル「それはダメ。せっかくのチャンス逃さないよ?」
ヤバイ。変態が1人増えた。
リラ「何のチャンスよっ! あっち行って」
2人にシッシッとしながら後退していたら、ドンと誰かにぶつかり、支えられる形で肩が大きな手で包まれた。
マディーナ「お前らしつこい男は嫌われるぞ」
リラ「っ! マ、マディーナさん!?」
マディーナ「よ。お前混浴に来るなんて結構大胆なんだな」
リラ「ち、違います! これには訳がっ」
そう言って後ろを振り返ると、褐色で厚めの胸板が目に入る。
見慣れない大人の男性の裸に一瞬心臓が跳ねた。
ギル「マディーナ。さりげなくリラちゃんの体に触るなよ」
ジル「そーだ! そーだ! 変態は離れろー!」
マディーナ「あっお前! タオル引っ張るなよ!」
ギル「やっちゃえジル!」
3人が騒いでる隙に私はその場から離れることにした。
……温泉に浸かってるのになにこの疲労度。
今のうち女湯の方に戻ろうかな…
シルキー「あ」
リラ「え」
立ち上る湯気の中バチリと視線が合ったその人物は、一瞬の硬直の後、勢いよくお湯に体を沈めた。
シルキー「なっなんで…! なんでリラがいるの!?」
リラ「あはは…シルキー君も注意書き見逃してたんだね…。ここ、混浴だってさ……」
シルキー「最悪だ……」
リラ「いや、本当にそうだよね。まぁ、でもここからの景色は最高なんだよねぇ」
シルキー「……確かに綺麗だね」
そう言って海の方を見つめるシルキー君の横顔をチラリと見た。
少し濡れた金髪から滴る水滴、白い肌にほんのり上気してピンクに染まる頬。
リラ「……はぁ」
シルキー「……なに。人の顔見てため息つかないでよ」
リラ「いや…なんか女としてシルキー君の色気に敵わないのが悲しくて…つい」
シルキー「……喧嘩売ってる?」
リラ「売ってない売ってない! 褒めてるの!」
シルキー「いや、絶対褒め言葉じゃないでしょ」
そう言って少しむくれてみせるシルキー君がこれまた可愛いんだけど、それを言ったらまた怒りそうだから黙っておこう。
シルキー「……僕だって男なんだけど」
リラ「え? 知ってるよ」
シルキー「……そうだね」
リラ「ちょっと! なにその残念な人を見る目はっ」
シルキー「うん。本当に残念な人だよ」
ラリウス「ここからの眺めは美しいですね」
リラ「ラ、ラリウスさん!?」
ふと掛けられた声に振り向けばいつの間にそこにいたのか、爽やかな笑顔のラリウスさんが立っていた。
あ……意外に逞しい体をしていらっしゃる。
って私何考えてるんだ!
ラリウス「となり、いいですか?」
リラ「えっあっ…はい」
あまりにも自然に、爽やかに聞かれたもんだから普通にOKしてしまった。
私の返事を聞くとラリウスさんはいつものと変わらない様子で、私の隣に来てお湯に浸かった。
……いや。非常に心臓に悪いんですがっ…!
シルキー「……僕の時とだいぶ反応が違うね」
ラリウス「おや? そうなんですか?」
そう言って首を傾げこちらを覗き込むラリウスさん。
眼鏡を外し、艶やかな黒髪から水滴を垂らすラリウスさんはいつもと雰囲気が違う。
やっぱり心臓に悪い…!
リラ「ち、違います! シルキー君変な事言わないでよ!」
シルキー「はいはい」
なんだか拗ねてるよな物言いのシルキー君。
さっきの私の発言に本気で怒ったのかな?
リラ「ごめん。別にシルキー君の事女っぽいて思ってないよ。
むしろ意外に筋肉ついてて男らしいなぁって思ったよ?」
シルキー「っ……! 別に僕はさっきのことはっ…!
っ~~僕もう上がるから」
リラ「あっ待って…てもう行っちゃった」
ラリウス「何かあったんですか?」
リラ「それが…私がシルキーの色気には敵わないなぁって言ったのが嫌だったみたいで…」
ラリウス「あぁ、そういう事ですか」
リラ「あとでちゃんと謝っておきます」
ラリウス「…それは大丈夫ですよ。シルキーは怒ったわけじゃありませんから」
リラ「え、でも…」
ラリウス「難しい年頃なんですよ」
リラ「そんなものですか…」
ラリウス「えぇ。…それにしても私はあなたの方がよっぽど色っぽいと思いますよ?」
リラ「あははっ! またご冗談を」
私がそう言うとラリウスさんはニコリとだけ笑ってみせた。
うーん。その笑顔はどういう意味なんだろう。
ジル「あーー! ちょっとそこ2人でイチャイチャしてるの!」
ギル「さすがラリウス兄さん抜け目ないねっ!」
マディーナ「はぁはぁ……なんかドッと疲れた…」
騒がしい2人と、なんとかタオルを死守したマディーナさんがこちらに歩いてきて、私の周りに腰を降ろした。
なにこの状況。早くあがりたい。
ラリウス「あなた達少し騒ぎすぎですよ」
ジル「だってマディーナがリラちゃんにセクハラしてたから」
マディーナ「はっ!? いや俺はそんなことー」
ギル「いや、しっかりと肩を抱いてたよ」
ラリウス「なるほど…肩を、ですか」
マディーナ「ちょっ! リラが俺にぶつかって倒れたらいけないと思ったからで、不可抗力なんだって! な!リラ?」
リラ「えぇ、まぁ…」
マディーナ「いや、なんで納得いってないみたいな顔すんの!?」
ラリウス「……マディーナ?」
マディーナ「だから誤解だってば! あ! それよりもうすぐ日が沈むぞ!」
マディーナさんの言葉にみんな海へと目を向けた。
ジル「おぉ、綺麗…」
ギル「うん。なんか夕日見ながら湯に浸かるっていいね~」
マディーナ「本当だな…。ついでにお酒もあれば最高なんだがな~」
ラリウス「どうせこの後の夕食で沢山飲むんでしょう?」
マディーナ「あぁ、まぁな」
リラ「ラリウスさん」
ラリウス「はい」
リラ「こんな素敵な場所に連れてきて下さりありがとうございました」
ラリウス「いいえ。こちらこそ一緒に来て下さりありがとうございます」
ゆっくりと水平線に沈んでいく太陽。
赤、紫、青のグラデーションに変化する空。
立ち上る湯気。
一瞬一瞬が絵になるような美しさだった。
ジュドー「あ! ラリウスさまここにいらっしゃいました、かっ!?」
リラ「あ、ジュドーくん」
私の姿が目に入り、固まるジュドーくん。
あぁ、これは混浴とは知らなかったパターンだな。
ジュドー「な、なななんお…まえがっいいいっててて」
意味不明な言葉を口にすると、いきなりジュドー君がバッシャーンとお湯の中に倒れこんだ。
時間差で顔のあたりのお湯がうっすら赤く染まる。
リラ「…え? えええええ!?」
マディーナ「あちゃーこいつには刺激強すぎたか」
そう言ってマディーナさんがジュドー君をお湯のなかから起こす。
ジル「完全にのびちゃってるよ」
ギル「いや、いくらなんでも免疫なさすぎでしょ」
マディーナ「仕方ないな。連れてあがるか」
ラリウス「そうですね。時間的にもちょうどいいですし、私達もあがりましょう」
リラ「じゃあ、私そろそろ戻りますね」
ラリウス「えぇ、また夕食の時に」
背中の方でジル君とギル君が、もう上がるの~?と騒いでたけど、気にすることもなく私は女湯の方に戻っていった。
アン「あ! リラさん戻ってきた!」
ティーナ「あら、ちょうど良かったですわ。迎えに行こうと思ってましたの」
リラ「すみません! お待たせしました」
ティーナ「アンから聞きましたわ。この先混浴だったのでしょう? 大丈夫でした?」
リラ「……まぁ、色々ありましたけど大丈夫です」
ティーナ「そう…なら良いのですけれど…。ギルとジルはデリカシーがありませんから心配で」
さすがお姉さん!わかってらっしゃる!
でも詳しく話すとギル君とジル君この後こっぴどく叱られそうだし、ここは黙っておいてあげよう。
リラ「ラリウスさんもいたし、大丈夫でしたよ! 心配して下さりありがとうございます」
ティーナ「あら、お兄様もいらしたのね…。そう…ならあの2人もそんなに無茶はしませんわね」
リラ「はい。あ、じゃあそろそろ夕食の時間みたいですし、あがりましょうか」
アン「アンお腹すきました」
リラ「私も。夕食楽しみだね」
アン「はいっ!」
ナレーション:なんやかんやありながらも無事(?)にお風呂をあがれたリラ。あとは食って寝るだけ!なはず。そしてあと1回で終わるはず。…はず。
という事で次回は「さっさと食って寝るよ☆旅館の夜」をお送りします。
応援ありがとうございます!
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