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王の対面・後編(天霧北都視点)

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「貴方がたが、我が義兄あにを『勇者』として、この世界に召喚したからですよ」

 彼女は――不知火しらぬい真南まなは、そう言った。
 彼女の人柄などは同学年・同級生だったから、存在自体も含めて知ってはいたけど、この世界に来るまでは異母兄妹だとは思わなくて。
 でも、召喚されて『勇者』となった俺に対し、『魔王』となった真南。

 彼女と、彼女の補佐官が見てきたこの世界の『真実』にして『在り方』は、やはり残酷だった。

「そもそも、この世界の仕組み――というよりは、『勇者』と『魔王』は、私たちを含め、夫婦や恋人、兄弟姉妹きょうだいといった関係性の者たちが喚ばれていました。それは知っていましたか?」
「……」

 陛下は何も返さないが、真南はその無言を肯定として捉えたらしい。

「夫婦や恋人は、元は他人だとばっさりと言えますが、兄弟姉妹きょうだいだけはそうはいかない。何てったって、血が繋がっているのだから」

 兄弟姉妹きょうだいであれば、幼少期から一緒に居たことで、その人となりは互いによく分かってるはず。
 それなのに、そんな兄弟姉妹きょうだいが右も左も分からない異世界で、『勇者』と『魔王』として、自らの『敵』として再会する。
 そして、それは夫婦だろうが恋人だろうが、何一つ変わらない。

「とある代では婚約したばかり。とある代では結婚し、新婚旅行中だった者たち。とある代では付き合い始めたばかりの初々しい者たち……可能な限り、歴代の魔王様たちが記録を残しておいてくれました」

 とある代では、元の世界では喧嘩中だった者たち。
 とある代では、デート中だった者たち。

 楽しく、思い出の一つになるはずだった出来事が、この世界への召喚という出来事により、失われてしまった。

「そんな彼らが決めたことは何だと思います?」

 とある代では、勇者が。
 とある代では、魔王が。

「とある代では、来世で再び巡り会えるようにと、心中を選んだ者たちもいました」
「……」

 ああ、気分が悪い。

「それが、どうした! 魔王は倒す! 倒さなければならないんだよ!」

 ヴィドルが叫ぶが、真南はこちら側に目を向けると不思議そうにして尋ねる。

「何で?」
「は?」
「何で、倒さないといけないの? 貴方がたの『勇者』召喚によって、私たち『魔王』は惹かれるようにして、この世界に召喚・・されただけだというのに」

 真南まおうは問う。

「何故、愛し合ったり、好意を寄せ合う二人を無理やり引き剥がし、命を懸けてまで戦わないといけない? もし、君が君の好きな人や親兄弟を殺さないといけないとしたら、君はそれを実行するのか?」

 つまりは、そういうことなのだ、と。
 異世界からの住人だからと、そんなの許されるわけがないし、そもそもそんなことするために生きてきた訳でもない。

「大切な友人を、君はその手で殺せるのか?」

 ヴィドルに、どれだけの友人が居るのかは分からない。
 けど、それは――……

「誰にでもあり、あったであろう『親兄弟や友人を殺したくない』という想いを、貴方たちは『召喚』という手によって、強制的に排除させているのが、現状だ」
「っ、そんなの言い訳だ! 結局、お前が死にたくないがための言い訳だろうが!!」

 ヴィドルが相も変わらず叫ぶが、真南まなの目は冷めたままだ。

「城の方でも言ったけどさ。何で、死にたがりでもないのに、殺されなくちゃならないの? 『死にたくない』って、普通は思って当たり前だよね?」

 誰だって、好き好んで殺してほしくはないし、死に怯える時だってある。
 もし、それを受け入れたとするのなら、それは覚悟したものか、狂気に満ちた者ぐらいだろうか。

「君は、私に殺される覚悟はあった? もし、私が人殺しを何とも思わなかったら、君はもうすでにこの場にはいないはずだ。そんな君に聞こう。君は私と対面したとき、『死にたくない』と思った?」

 あの時どう思ったのかを問われれば、俺には驚きしかなかった。
 尊敬や憧れのようなものを抱いていた同級生あいてが、魔王として目の前に居る。
 それは今も変わらないけど、ただ、その関係性が『同級生』から『異母妹いもうと』に変わっただけだ。

「そんなの……!」

 でも、ヴィドルの言葉はそこで止まる。
 彼をじっと見つめる真南の漆黒の目が、まるで何もかも見透かしているかのように見えているからだろう。

「……やれやれ。何故ここまで彼が魔王討伐に固執するのか分からなかったんですがね。『洗脳』も、ここまで来ると恐ろしいものですね。――ねぇ、陛下」

 そこで陛下に目を移せば、先程までの穏やかな表情は一切無く、恐ろしいぐらいの無表情と冷たい眼差しを真南に向けている。

「全て、知っていましたよね? 勇者と魔王の関係性についても、双方どちらかが記した手記が魔国に残されていたことも。そして、あの日私が何をしてきた・・・・・・のかも」
「あの日……?」
「君たちが我が居城へ来た日だよ」

 あの日と『何をしてきたのか』が関わることなんて、真南が神様をぶん殴りに行ったっていうアレぐらいしか……

「全て知っていながら、少しずつ少しずつ自分の息子に『魔王は倒さないといけない存在』として洗脳しつつ、着実に準備を進めて勇者を召喚し、それと同時に魔王も召喚・・・・・した。ここまで、何か間違ってますかね?」
「……」

 真南の問いに、陛下は何も答えない。

「そもそも、歴代の王族が知らない方がおかしいんですよ。魔王が死に、勇者が残った場合、その勇者が何らかの形でその事実を残していたはずなんですから」

 でも、俺はそれを見せられていない。
 だって、たとえあったとしても処分されているはずだと、思っていたから。
 けれど、もし――もし、その事実を知った『誰か』が、利用しているのだとすれば。

「……そのこと、どうやって知った? 魔王」
「どうだっていいでしょう? あの神と貴方がつるんでいないのは把握済みですからね。後は、ほとんど推測ですよ。まさか、自分から白状するとは思いませんでしたけど」

 そこで、ふと思い出す。
 そういや真南って、チート能力が無くとも、自力で俺たちのことを突き止められるだけの情報収集能力があったんだよな。
 たとえ、あの魔王補佐官と殴りに行った神というヒントを与える存在が居たとしても、真南が真実に辿り着くのにそう時間は掛からなかったと思うと、本当に末恐ろしい異母妹いもうとである。

「騙したのか」
「失礼なことを言わないでください。私が騙したのではなく、自らまっただけではないですか。それに、たかだか十七の小娘に、年上であらせられる陛下をあざむき、騙せるとでも仰りたいのですか?」

 嫌だもう。何この異母妹いもうと、怖い。

「いや、そんなことなんて、今はどうでも良いですよね。どうせ私をどう始末するのか、必死で考えてるところでしょうし」

 くすくすと真南は笑っているが、彼女が言っていることは、笑っていていいことではない。

「思っていた以上に、面倒だよね。異母妹いもうとちゃん」

 テオが小声でそう言うが、そう呑気に構えてもいられなくなった。

「だったらどうする? まさか逃げられるとは思ってないよな?」
「思ってますよ? だって私、『魔王』ですから」

 片や逃がす気がない。
 片や逃げる気満々。

 もう、これは口出ししてもいいよな?

「真南」
「はい?」
「それ以上、陛下を煽るのだけはめてくれ」

 俺の一言で言うことを聞いてもらえるとは思ってないのだが、どう返してくる?

「そうは言うけど、元凶その二が目の前に居るからね。それに、私は売られた喧嘩は買う主義なので」
「そんな主義、その辺に捨てておけ!」

 何やら文句を言いたそうな表情かおをされたが、そんな余裕は無かったらしい。

――」

 俺が声を掛けるのとほぼ同時。
 真南がノールックで、陛下の魔法を地面に叩きつけるかのように防ぐ。

「私、言いましたよね? 私は『魔王』だと。その魔王に魔法で勝てるとでも?」
「……」
「しかも、私の背後には貴方のお子さんも居るというのに、容赦ないですね。私がもし横にずれていたら、彼に直撃していたところですよ」
「……父上」

 まさか、と言いたげなヴィドルが声を掛けるが、陛下からの返事はなく。
 それに、ヴィドルは顔を引きつらせながらも、陛下に問う。

「嘘ですよね? 父上。父上が俺を殺そうとするはずが――」
「一体、お前は何を言ってるのだ?」
「え……」
「真実を知るものなど、私一人で十分。故に、お前たちには消えてもらわなければな」

 これが、きっと最終通告。

「な、何故! 何故なのですか! 父上!!」

 ヴィドルもヴィドルで食い下がるが、もう陛下の目は真南に向いている。

「これだから、男親って奴は……」

 そういや真南って、父さんのことはどう思っているんだろう。
 真南たち不知火家側からすれば、自分たちを裏切った上に、その証拠として俺という存在が居るのだから、敵視されててもおかしくは無かったんだよな。
 でも、実際――母親の方は知らないが――真南から敵対的な意志を感じたことはないし、それも今は関係ないわけで。

「――」
「……」

 相も変わらず、目の前で魔法の応酬が繰り広げられている。

「父上!」
「陛下!」

 ヴィドルと騎士たちが叫ぶが、全て魔法がぶつかり合う音に掻き消される。
 そして、真南は俺たちや騎士たちにも当たらないように防壁を張っているからか、どこか戦いづらそうで。

「っ、」
「真南……っ」

 魔法の余波か、崩れた壁の破片が飛んできて、真南の頬をかする。

「ねぇ、北都君・・・。少しばかり、自分たちで防壁展開しておいてくれないかな?」
「え……」
「さすがに、このまま真後ろの君たち守りながらは、少しばかりキツそうだから、さっさと終わらせたいんだよね」
「それは……」

 何と答えるのが正解なのだろうか。

「父上を殺す気なのか」

 ヴィドルが尋ねる。
 こいつにしてみれば――まあ、そうなるよな。

「実の親に殺気も向けられ、殺されかけたというのに、そう言うんだ」

 真南はそう言うし、それこそ先程の真南の問いの答えではないが、俺たちみたいな関係でも、『家族だから助けたい』と思ってしまうのは仕方がないことなのかもしれない。

「それは否定しない。だとしても、それでも俺の父であることには変わらない」
「……」

 この時の真南が何と思っていたのかは分からない。

「――そういえば、この国の次期国王は貴方という認識でいいのかな?」
「は? 何を言って――」
「いいから早く答えなさい。それで対処を変えるから」

 それはつまり、ヴィドルの一言で陛下の命がどうなるのか決まるということだろう。
 ただ――この場合、本当のことを言うのか、嘘を言うのかで、国の運命どころか、この親子の関係すらも終わりかねない。

「っ、俺が――俺が、次期国王だ」
「ヴィドル!?」

 アイリスたちがその答えにぎょっとするが、そんなのお構いなしに真南はすぐに問い返す。

「嘘じゃないよね?」
「……ああ」

 そう、と返すと、俺に視線が向いて、「じゃ、ちゃんと防壁張りなさいよ」と付け加えられる。
 真南の防壁が消える寸前で、俺が防壁を張れば、小さく笑みを向けられる。

「おしゃべりはもう終わりか? だが、さすがは魔王だな。どれだけの魔力を消費しても、顔色ひとつ変えないとは」
「お褒めいただきありがとう、国王陛下」

 褒めてないのは、きっと真南も分かってる。
 でも、そう言ったってことは、それだけの余裕が出てきたからか。

「でも――不自然すぎるほどの魔力使用による魔法の行使。ドーピングでもしましたか」
「ははは、いきなり何を言い出すかと思えば」
「私はその職業柄もあって魔力が増えたわけだけど、貴方の場合は違うでしょ? 純粋な人間に、魔王と対等に戦えるわけがない。それこそ――『勇者』でもない限りは」
「では、私が『勇者』か!」

 それもまた面白い! とばかりに、陛下がどこか狂ったかのように笑いながら真南にそう返すが、当の真南も鼻で笑って返答する。

「冗談はめて。私がこの代で認めた『勇者』は天霧あまぎり北都ほくと、ただ一人だよ。貴方が『勇者』とか、私は絶対に認めない」

 ――あ……。

「思われてるねぇ、お異母兄にいちゃん」

 テオがからかってくるが、俺の方はそれどころではない。

「嬉しいのは分かりましたから、今は防壁に集中しましょう!?」

 しっかりしてください、と言わんばかりのアイリスの切実そうな声も聞こえてくる。

「でも、あれはプロポーズみたいだよね」

 リリアナまでがそう言う。
 さすがにヴィドルは何も言ってこなかったが、何か言いたそうだったことだけは分かった。

「それでも、もし――『勇者』を名乗るってんなら、単独で『魔王わたし』を倒してみなよ。勇者ですら、仲間とともに来たというのに、貴方一人で何が出来る? 今でも最前線に立つ王ならともかく、一線を退しりぞいた貴方一人で一体どうするつもりなのか、ぜひ教えてもらいたいものだわ」
「……小娘が、減らず口を」
「その小娘に振り回されているのは、どこの何方どなたなんですかね?」

 完全に煽り合い、罵り合いである。

「そして、これを機に、『魔王』は魔法だけしか取り柄がないみたいな考えは改めてもらえると有り難いんですがね」
「――な」

 陛下の隙をつくかのようにして、放たれた魔法をかわし、姿勢を低くしたまま陛下へと迫る。

「っ、」
「さぁ、どうします?」

 陛下の首に、真南が短剣を突き付ける。

「――こんなことをして、正常な国交が望めると思うなよ」
「国交、ね。でも、先に手を出してきたのはそちらだし、我が国は我が国で貴方たち以上に自給自足も行っている。今後のことについて考えないといけないのは確かだけど、この国との付き合い方は次期国王とじっくり話して進めるから、貴方は気にしなくていいよ」
「……次期国王、か」

 陛下の目がヴィドルに向く。

「っ、」
「……」

 びくりと肩を揺らすヴィドルに、陛下は溜め息を吐く。

「全く、恐れ入ったぞ。魔王。本当に、一体どこまで読んでいた?」
「さぁ、どこまででしょうね」

 そう言って、真南は再びはぐらかす。

「でも、私はきちんと証拠はとっておく派だから、貴方たちが私たちを騙したり、私たちについて偽りを申したりすれば、今貴方が行った行為を証拠として、他国に提供することも辞さないので、大人おとなーしくしていてくださいね」

 笑顔を浮かべて言うようなことじゃないと思うんだが。

「あと、もし我が異母兄あにをただの兵器として利用するつもりだったり、もう用済みとばかりに処分するつもりでいるのなら、私は戦争も辞さないですし、手加減なんて生温なまぬるいこと、しませんからね?」

 真南も真南で本気なのだろう。
 だってもう、声も気もヤバいから。

「お互いのために、良い付き合いをしましょう? 国王陛下」
「……」

 だが、陛下は殺気は納めたが、表情はそのままで告げる。

「魔王。もし他の勇者がやってきたら、どうするつもりだ? お前の言い分では、うちの勇者を助けに向かわせることも出来ないぞ?」
「あら、ご心配なく。うちの部下たちはみんな優秀なので」

 そりゃ、数年、数十年とその座を開けていれば、いやでも働かないといけなくなるだろうからなぁ。

「でも、約束は守ってくださいよ? もし、少しでも破ったら、攻め込みますので」

 真南にそう言われ、陛下は溜め息を吐くと、こちらに目を向ける。

「なぁ、勇者よ。何やら面倒な身内が後ろ楯になってしまったな」
「あはは……」

 そこで真南に目を向ければ、いつの間に短剣をしまったのだろう。陛下からあっさりと離れていた。

「ああ、そうだ。そこの君」

 真南がヴィドルに声を掛ける――というか、ヴィドルで良いんだよな?

「そうそう、君」

 俺のことか? と確認するヴィドルに、真南は頷く。

「別に君が王になろうが、ならなかろうが構わないんだけど、王になるつもりなら頑張りなよ?」
「は?」
「『王様』ってのは、かなりのハードワークだからさ」

 陛下がうんうんと頷いているが、何でそんなに親しげなんだ。
 さっきまでお互いに殺し合おうとしてたよね?

「それじゃ、お異母兄にいちゃん。私、帰るから」
「はぁっ!? 泊まっていくんじゃなかったのかよ?」
「そうしても良いんだけど、いつ寝首をかれるか分からないしね。それに、まだ仕事溜まってるし」
「分かった。そっちが本音だな」

 後者を告げる際に遠い目をした真南に、俺はすぐにそう思った。

「まあ、そこの国王陛下が約束をたがわなければ、これからいつでも会えるし」
「でも、結局は口約束だろ。もし、反故ほごにでもされたら――」
「私が、そんなの許すわけないでしょ。それに、私は証拠はきちんととっておく派だからね。はい、音声認証・・・・の書類」
「は?」

 つか何だ、音声認証の書類って。

「声で登録しておける書類のことだよ。ちなみに、魔国製で作り方は企業秘密だから、間諜スパイを送っても無駄だし、何の情報も与えてあげないから」
「つまり、魔国が唯一持ってる製紙技術だと」
「その認識であってるよ。さすがファンタジー世界とでも言うべきなのかな」
「……もうやだ、この異母妹いもうと……」

 チート過ぎるだろ。
 つか、そういうのって、俺に与えられるものじゃないの!?

「言っておくけど、これは元からあったものであって、私が思いついて作った訳じゃないから」

 だとしても、やっぱり何かズルいと思ってしまう俺が居るわけで。

「まあ、みんなもいつでも遊びに来なよ。危害は絶対に・・・加えさせないからさ」

 それって、ほとんど脅しだよな。
 俺たちに危害を加えたらクビにするぞ、っていう……
 そのせいか、真南がにこにこと笑みを浮かべてるから、余計に怖いのは気のせいか。

「そういえば、異母妹いもうとちゃんに質問しつもーん
「……何ですか?」

 ああ、そういえば、真南はテオのこの呼び方に慣れてないんだったか。

「君の後……次代の魔王って、どうなるの?」
「さぁ?」
「分からないの?」
「順当に行けば、私の子供だろうけど、またどこかの国が勇者召喚なんてすれば、その時に呼ばれた人が魔王になるでしょうね」

 あれ? そうならないために、どうにかしてきたんじゃないのか?

「ちょっと待て。そんなことさせないために、神に会いに行ったんじゃないのか!?」
「そうさせてきましたよ?」

 じゃあ、どういうことなんだ?

「私たちの故郷からではなく、他の世界からも同じパターンで召喚させないようにとも言っておいたし」
「うん? つまり?」
「どうにも召喚方式にこだわってたから、理由を聞いてみたら、自分の世界の者たちだと罪悪感が出るからとかかしやがってね。だから、世界法則そのものを変えてきた」
「んんん……?」

 何か怖いこと、仰りませんでしたか?

「召喚された私たちのような異世界出身な存在だけではなく、この世界出身の勇者や魔王が生まれるようにしてきました。じゃなきゃ、召喚被害者はもっと増えるだろうし、また今までの繰り返しになられても困るからね」

 つまり、その神は彼女の怒りを買ってたわけだ。
 そして、世界法則すら変えてくる異母妹いもうとって…本当に怖い。
 つか、父さん。本当に何で今まで生きてたんだろうか。
 魔法が無くとも、危害を加えることは出来るのだから、真南ぐらいの実力があるのなら可能だっただろうに――と考えたところで、きっと母親や俺たちのことを思ったんだとか、犯罪者になってまで殺す価値もないないだとか思ったんだろうな、と思っておくことにする。

「……やはり、今代の魔王は今までで一番厄介そうだな。勇者よ」

 陛下が溜め息混じりに、そう言ってくる。
 きっと陛下よりも長い付き合いになるであろう俺にとっては、悩みの種でしかないわけだけど、彼女と戦わなくても良いと言うのなら、それはそれで良いことなのだろう。

「真南」
「はい?」
「またな」

 そう告げれば、そこで一瞬ぽかんとされる。

「うん、またね」
「気をつけろよ」
「転移だから、気をつけるも何も無いけどね」

 確かに来るときも転移だったし、帰りも転移を利用するわけだから、気をつけろと言われても困ってしまうのだろうが、失敗されても困るわけで。

「それでは、皆様。私はこれにて失礼させていただきます」

 綺麗に礼をして、真南は転移で帰っていく。

「やれやれ、少しばかり仕事が増えてしまったな」
「陛下……」
「いや、勇者のせいではないからな。ただ、あの魔王の相手をするとなると、他国の王たちも一筋縄ではいかないことだろう。普通に相手をすれば、言い負かされるのが目に見えておる」

 まあ、確かに俺もその点は否定できない。

「だから、頑張れよ。勇者」

 え、一体何を頑張れと!?
 でも、その答えを告げることなく、陛下は退席してしまった。えぇー……。
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