年の差婚

桃田産

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後継者

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 ロジェはシャルロットとのお見合い日ではないときも、度々彼女の部屋で休むようになった。

「すぅ、すぅ……」

 シャルロットは静かにソファに近づいた。眠っているロジェの顔は穏やかだが、顔色があまり良くないような気がする。休憩場所として部屋を使われることは全く気にしていないのだが、なんだか問題を抱えていそうで、このまま放っておいてもいいのか判断がつかなかった。

「うーん」

 シャルロットは腕を組んで悩んだ。
 
 しばらく唸り続けるが、一人で悩んだところで、どうすればいいのか分からない。なので、ロジェが起きたときの様子を見て、自分が取るべき行動を決めることにした。


「んんんっ……」

 ロジェが目を覚ました。顔色を見るとやっぱり悪いし、表情も暗いような気がする。シャルロットはソファの端に腰掛けると、覚悟を決めて口を開いた。

「ねぇ、ロジェ。何かあった?」
「! 何かって?」

 ロジェは体を震わせながらも、必死に何かを隠そうとしていた。本当は何があったのか知りたいが、あまり追い詰めすぎるのはよくないだろう。シャルロットは一歩引くことにした。

「別に話したくないならそれでもいいの。でも、話したくなったらいつでも聞くから、それだけは忘れないでね」

 にっこりと微笑みながら見つめると、ロジェの目にじわじわと涙が浮かんできた。シャルロットは流石にロジェが泣くとは思っていなくて、目を見開いて驚いた。
 
「シャルロット……」

 ロジェは唇を震わし、言葉を発するべきか、やめるべきか悩んでいる様子だった。シャルロットは静かにロジェの手を握り締めた。すると、ロジェは覚悟を決めて、自分が抱えていたものを話し始めた。

「実は……、令嬢たちから叔父様が結婚して子供を産めば、僕は厄介者として家から追い出されるはずだって言われて」
「え!?」

 予想外の話に、シャルロットは言葉を失くした。
 
「立場がなくなるあなたと、結婚したい人なんていないって」
「……」 
 
 ロジェはぽろぽろと涙を零した。
 ヴァロワ家の次期後継者であるロジェにそんな言葉を吐くとは……。失礼どころの話ではない。令嬢たちは一体何を考えているのか。まさか、ロジェとアルベールの仲が良くなくて、話さないはずだと思っていたのだろうか。理由は違うが、現に、シャルロットが居なければ、ロジェは誰にも言わずに一人で抱え込んでいたかもしれない。

「誰がそんなこと言ったの?」
「……言いたくない」

 告げ口するみたいで気が咎めるのか、ロジェは口を閉ざした。シャルロットはそれ以上深く聞かないことにした。相手を探ることよりも、落ち込むロジェを慰める方が先だと思ったのだ。

「いい?アルベール様はロジェを後継者に指名していて、国王陛下が承認されたのよ?結婚して子供が産まれても、変わることはないわ」
「でも、……生まれてくる子が、僕よりも優秀だったら?」

 幸せに暮らしていると思っていたロジェにも、不安に思うことがあったらしい。シャルロットはハンカチを取り出してロジェに手渡すと、この際だからと思っていることを吐き出させた。

「ヴァロワ家は魔獣と戦わないといけないでしょ?でも、僕は剣術があまり得意じゃなくて」

 シャルロットはロジェの気持ちを浮上させようと、小さな頭を必死に回転させた。

「戦いのことはよく分からないけれど、剣じゃないとダメなの?」
「え?」

 ロジェはパチパチと目を瞬いた。

「えっと、ほら、弓とか斧とか武器は色々あるじゃない?それに、魔法だって、ロジェも使えるかもしれないでしょ?」

 実は、魔法を扱える者は一部の人だけなのだが、そんなことなど知らないシャルロットは無邪気に提案した。

「うーん。確かにそうなのかな?」

 シャルロットの話を聞いて考え込んだお陰か、ロジェの涙はいつの間にか止まっていた。
 
「アルベール様に一度聞いてみたら?」
「んー、でも、剣の修行をやめて他のを習いたいって言ったら、がっかりされないかな……?」
 
 ロジェは不安がっていたが、シャルロットは自信をもって大丈夫だと言えた。言葉を交わしたのはほんの少しだけだが、アルベールがロジェのことを大切に思っているのは、本物だと感じたのだ。

「絶対、大丈夫よ!」
「う、うん」

 ロジェの不安は完全には拭えなかったが、シャルロットの勢いに押されて頷いた。


 

 それから、シャルロットはこのまま放っておくのも心配だったので、アルベールに手紙でロジェのことをさりげなく伝えることにした。格上の人に手紙を書くのは初めてだったので、いつもよりも時間をかけて丁寧にペンを走らせる。
 ロジェの話を聞いても怒ったり失望を露わにしないよう念を押すと、本の間に挟んで作っている押し花を添えておいた。

「これで大丈夫かな?」

 家に居れば母親に添削してもらうのにと思いつつ、メイドに手紙を託した。

「帰ったら、もう少し真面目に授業を受けよう」

 シャルロットは子供らしくそんなことを思いながら、使用していたペンを片付けた。
 
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