悪徳領主の息子に転生したから家を出る。泥船からは逃げるんだよォ!

葩垣佐久穂

文字の大きさ
25 / 37
脈動

熱烈な歓迎

しおりを挟む
「ヴィクターにレオン。俺たちはお嬢に忠誠を誓ってる。間違っても変なことをすれば客人だろうが、分かっているだろ」

「「はいぃ」」

「聖女組のルールは二つ。お嬢を泣かさない事。そして、お嬢の前で荒っぽい言葉を使わない事だ。守れるか?」

 声色、顔に似合わず、示された規則は可愛らしいものだった。

(言ってしまえばオリビアのファンクラブか)

 世話になる以上二人に断る理由もなく、快く受け入れる。明らかに圧を放っていた周囲は突然穏やかな顔つきになり、酒の入ったグラスを回し始めた。

「ほらお前らも、仲間が増えたら祝い酒って決まってんだよ」

「オットー前も祝い酒とか言って飲んでなかったか?」

「うるせぇ。嬉しいことがあったら全部祝い酒でいいんだ」

「暴論だぁ~」

 オリビアが連れてきた時からヴィクターとレオンを受け入れる気でいたのだろう。ある者は歌い始め。それを聞いたある者は音楽を奏でる。

「新たな仲間の誕生に。かんぱーい」

「「「かんぱーい!!」」」

 グラスがぶつかり合う音があちらこちらで聞こえる。雰囲気に飲まれ、この時ばかりはヴィクターも酒を口にした。

「お前らはどのぐらい旅してるんだ?」

「まだ始めたばかりだよ」

「俺なんて数日前までただの騎士見習いだったんだぜ」

「そんなら冒険話は無しかぁ」

「そんなことないよな。ヴィクター、話してやれよ」

「僕はいいよ、レオン頼んだ~」

「仕方ないな。よし」

 レオンが立ち上がると、オットーの隣に座っていた男が部屋の前方に向かう。

「おい、みんな。新たな仲間レオンが冒険譚を話すらしいぞ。ちゅうもーく」

「トーマスはとっとと引っ込めー」

 男は笑いながらレオンに場所を譲った。

「あれは俺がまだ騎士見習いをしてた頃.....。っとまあそんな感じでヴィクターの魔法がドカンと巨体を吹き飛ばしたわけよ」

「ハッそりゃすげぇ」

「英雄だ」

「英雄の勝利に乾杯」

「お嬢の友人バンザーイ」

 レオンが話終わると同時に宴会のテンションはマックスに。酔っ払いどもの大騒ぎはこの後一晩中続いた。

 あまりの熱気に耐えきれず、外に出て星空を眺めるヴィクターに男が近づく。

「どうですか?聖女組は」

「オットーさんも避難してきた口ですか。そうですね愉快で楽しそうです」

「そうでしょう。全部お嬢が作ったものなんです。俺たちみんな明日の飯にも苦労してて、宴会なんてした記憶もなかった。賊になる度胸もなかった。でもお嬢は俺らが食ってけるようにしてくれた。トーマスなんて元々賊になった村のやつで、殺されても文句言えねぇのにお嬢きたら助けて仲間に入れちまった。ほんとにずごい人だ」

 黙って空を見上げるままのヴィクターを見て、オットーは続ける。

「ちょっと前に仲間の村が二十を超えたんだ。ほんとの聖女様だよ。教会のお飾り司教よりよっぽど信じれる。ヴィクターも救われたんじゃないか?」

「救ってくれた。背を押してくれた。今でも救おうとしてくれてる」

「そうか、ここじゃ半分のやつは訳ありだ。詮索はしねぇ。救われたもの同士、仲良くやろうぜ」

 オットーは強くヴィクターの背中を叩き、騒ぎの中へ戻っていく。

「その酒高いのだろ。俺にも飲ませろ」

「オットーが飲んだら五秒でなくなる。お断りだね」

「なんだとぉ」




「うん。兄さんなら何とかする。僕は決断の責任を最後まで」

 つぶやきは夜闇に吸われ誰の耳に届くことなく消えていった。

 ヴィクターとオットーが話し始める少し前。トーマスは酒瓶を掲げながらレオンに近づいた。

「飲んでるか?」

「もちろん。楽しませてもらってる」

「こいつは、村で作ったワインだ。美味いぞ、飲むだろ」

「当然だ。備蓄全部からにしてやる」

「その意気だ」

 レオンの持つグラスにワインが注がれる。

「酔った時のことって忘れるよな」

「ああ、忘れるな。なんだしたい話でもあるのか?」

「もし、目の前に元盗賊がいたらどうするよ。騎士見習いだったんだろ」

「もう騎士とは関係ないし、なんなら俺も追われる身。今も盗賊ならまだしも、元ならなんもしないし、なんとも思わない。騎士の正義です守れないものがあるって気づいたからな」

 トーマスは瓶に残るワインを一気に飲み干した。

「俺はなぁ。貧乏な村の生まれだったんだ。毎年の税は厳しい、食べるものも少ない酷い生活だった。だけどなぁ、一人のバカが馬車襲って金目のもの取ってきちまったんだよ。そっからは村人総出で盗賊生活よ。飯は腹いっぱい食えるようになったし、税も余裕で払えた。人殺ししてない以外は悪党そのものだった。だけど、お嬢は俺たちを捕まえた時、なんて言ったと思う?手を取り合いましょうだぜ。俺はもう付いてくしかないと思ったね。この少女の慈悲を裏切らないように、引き戻してくれた恩を返そうとな」

「凄いな聖女様」

「レオン、お前もお嬢に助けられた口か?」

「今日あったのが始めてだ。街で噂を聞いたぐらいだな」

「そうか、時期に知れるだろう。お嬢がこれだけ慕われる訳をな」

 話が終わる頃には二人のグラスも瓶も空っぽになってしまっていた。

「まだいけるか?」

「余裕だ」

 連れ立って部屋の中心。最も盛り上がっている所へ追加の酒を求めて歩いていった。

 翌日の早朝。ヴィクターとレオンの様子を見に、いつもより早く村に来たオリビアは惨状を目にすることになった。

 転がる酒瓶にグラス。寝転び、壁にもたれ掛かり寝る人々。フラフラとおぼつかない足取りで、水場へと向かう数人の男。更には吐瀉物の跡。

「あれ?オリビア早いね」

 宴会には戻らず、用意された部屋で眠ったヴィクターが惨劇に巻き込まれることはなく、オリビアに恥ずかしい姿を晒すこともなかった。

「ヴィクター、これどういうこと?」

「僕たちを歓迎する宴会が思ったより盛り上がっちゃったみたいで」

「そう。風邪ひかないように回復してくるからちょっと待ってて」

 駆け足で部屋へと入ったオリビアは一人づつに手を添え癒しの力を行使していった。

「さすが」

「この人たち、私の力があるから大丈夫って思ってる節があるから心配」

「それだけオリビアが信頼されてるってことだよ」

「ならいいんだけど。そうだ、私朝ごはんにサンドイッチを持ってきたの。良かったら一緒に食べない?」

 都合よくヴィクターのお腹が大きな音で空腹を訴えた。

「フフっ。良かった多めに持ってきておいて」

「まだ食べるって言ってないよ」

「お腹がそう言ってるじゃない。それに断るつもりなんてないでしょ」

「なんでもお見通しだ。もちろん頂くよ」

 朝日と透き通った空気に包まれて、二人は静かな朝食をとる。間に言葉はなく、安寧を噛み締めるように食事を終えたあともしばらく村を眺め続けた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業SEの相馬海斗は、勇者として異世界に召喚された。だが、授かったのは地味な【システム解析】スキル。役立たずと罵られ、無一文でパーティーから追放されてしまう。 死の淵で覚醒したその能力は、世界の法則(システム)の欠陥(バグ)を読み解き、修正(デバッグ)できる唯一無二の神技だった! 呪われたエルフを救い、不遇な獣人剣士の才能を開花させ、心強い仲間と成り上がるカイト。そんな彼の元に、今さら「戻ってこい」と元パーティーが現れるが――。 「もう手遅れだ」 これは、理不尽に追放された男が、神の領域の力で全てを覆す、痛快無双の逆転譚!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

処理中です...