【R-18】冷徹な公爵が迎えた隣国の令嬢※現在不定期連載

みるく

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メイドの話

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わたしは、アーベライン邸の侍女リリー
こちらのお屋敷に来てもう5年になります。

旦那様は表情の変わらない方で、正直付き合いにくい方です。
ですが、仕事さえキチンとしていれば叱られる事もなく、私達従者を困らせるような方でもありません。
執事長のハリーさんは、旦那様が産まれる前からこちらにお仕えしていらっしゃって、旦那様を心から理解していらっしゃる方です。


わたしがこの屋敷に来て1年程経った時に一度ハリーさんに尋ねた事があります。
「執事長は旦那様がお笑いになるのを見たことがありますか?」
「うーん。旦那様が5歳の頃まではよく笑っていらっしゃったなぁ。」
5歳・・・
「またあの笑顔を拝見したいもんだなぁ」
思い出しているのかとても幸せそうに話す執事長。
旦那様がよく笑う・・・そんな顔見てみたいなー。



そしてそれから4年・・・
旦那様は隣国のご令嬢方とのパーティーに出掛けられました。
表情からは行きたいのか行きたくないのかさっぱりわかりませんでしたが、ハリーさんが
「お嫌そうに行かれたなぁー」
と言っていたので嫌々行ったようです。

ハリーさんは旦那様に早く春が訪れるのをずっと心待ちにしていて、自分が執事を引退する迄に必ずや旦那様の隣に立つ方を見たいと常々言っています。
正直、雇われている身でこんな事を思う事すら許されないですが、旦那様のあの調子ではなかなか見つからない気がします。
夜は娼館へ入り浸り、早朝に帰宅する日が多いのです。
それを許してくださる心の広いご令嬢がいるのか・・・




旦那様が居ない間はメイドや執事の人数が少し減ります。
久しぶりに纏めてお休みも頂けてとっても幸せです!

旦那様が行かれてから2週間と少し経った頃旦那様と一緒に行った執事のマルクスからハリーさんに手紙が届きました。
あちらからは早馬でも時間がかかるので、マルクスの愛鳥の出番です。
世間では珍しい大きな鳥で、クチバシは大きく眼光が鋭いのですが、比較的穏やかな鳥です。
この愛鳥はとても速く飛ぶので早馬よりも愛用されています。

「なんと・・・」
手紙を読みながら目を見開き手が震えはじめました。
「ハリーさん、どうされたんですか?」
「旦那様に・・・奥様が出来たようだ。」
「え?・・・・・えええええ!」
理解するまでに時間が掛かりました。
あの旦那様に何があったのでしょう!?
「しかも、マルクスが曰くこのまま帰宅するから奥様も連れ帰るとある。」
「えええ!!」
もう、何が何やら。
「急ぎ皆んなを集めて屋敷中の掃除、旦那様のお部屋を磨き上げベッドもご夫婦で寝られるように大きいものと交換する。」
「はい!ちなみにご帰宅はどの位で?」
「3日程だそうだ。残りの1週間程は奥様が環境に慣れるためにゆったりと過ごされるらしい。」
「旦那様が・・・そこまでお考えになるなんて。」
「最後に、」
「まだ!まだ私達を驚かせる何かがあるんですか!?」
これ以上はもう驚かない!絶対。

「旦那様に、笑顔が戻られたと」
「笑顔・・・・笑顔!?」
一瞬笑顔が何のことだかわからなくなりました

クラクラとした頭を押さえつつハリーさんと別れ皆んなを集めて事情を説明、料理長にはご帰宅後の料理の献立を考えるように伝え、皆んな大慌てでお帰りを待ちました。


そしてとうとうその日がやって来ました。
午前中には先ぶれの手紙が届き旦那様は夕方に帰宅すると書いていて、皆んなドキドキです。
ハリーさんなんてあのお手紙の後からずっと浮き足立ってます。
「そろそろ帰ってこられる。」
マルクスが馬で一足先に帰ってきてその後外で待機するからと屋敷を出た。

ハリーさんはそれはもう笑顔で
「さぁ!皆んな、旦那様と奥様のお帰りだ。キチンとご挨拶をするように。」
ズラッと皆んなが扉の両端に並ぶと新米のメイド2人がコソコソと話してる
「奥様ってどんな方かしら?」
「旦那様の好みがわからないものね。」
「旦那様と違って表情がある方だと良いんだれど。」
「貴女達、静かに。」
「「も、申し訳ありません!!」」
まったく。
まぁ、確かに気になるわね。
侍女長なんて手紙3回くらい読み返してその後失神したんだもの。


あ。
外が騒がしくなってきた。
ガチャリと扉が開く
「「「『お帰りなさいませ』」」」
一斉に頭を下げて顔を上げると、旦那様の隣になんとも愛らしい女性が。
そう思っていると旦那様と奥様の前にハリーさんが出る
「旦那様、奥様長旅お疲れ様でございました。」
「こんな大層な出迎えは初めてだな。」
そう言いながらハリーさんに上着を渡す旦那様は、手紙と違って無表情。
あれ?笑顔があるんじゃ?

「長旅からご帰宅の旦那様を今か今かと皆待ちわびていたのです。」
「・・・それは俺じゃなくてアリスを待ちわびていたのでは?」
アリス、奥様のお名前ね。
身体は華奢で小さく、大きな瞳はキラキラと輝いている。
旦那様が見初めるだけあると思う。

「もちろん、奥様の事。マルクスからの手紙を頂いた時からずっと待ちわびておりました。」
とっても嬉しそうなハリーさん
「そうか。 アリス、皆に挨拶しなさい。これから少しずつ名前を覚えていけば良い。」
「はい、クロヴィス様。 えっと・・・アリス・ウィドーソンです。至らぬ事ばかりだと思いますが、仲良くしてください。」
ふわりと笑う奥様の笑顔は私を含めギュッと心を掴まれた。
可愛い!!
保護欲をそそる姿に、胸の奥がキューンとなる。
20歳のご令嬢だと聞いていたけれど、本当に20歳もいってるのかしら?
新米メイド達は可愛い可愛いとはしゃいでいるので、それを小さく嗜める。

「アリス、お前は今日からウィドーソン姓ではなくアーベラインだ。」
「あっ!はい。申し訳ありません。」
顔を赤くして頬を両手で包み隠す奥様はまさに天使だと思いました。

「アリス・アーベライン、です」
そう奥様が言い直したとたん、旦那様のお顔が、・・・笑った。
辺りがざわつく。
慈愛に満ちた、お優しい微笑みに奥様への愛が溢れてる。

流石にハリーさんもびっくりしたようで
「旦那様・・・お顔が」
と、絞り出すように口から出る
多分あれ、口につもりじゃなかったんだと思う。

「顔?」
旦那様は奥様と首を傾げる。
奥様は旦那様が冷徹で笑わない公爵様という噂を知らないのかしら。

ハリーさんは慌てて
「いえ、このお休みの間に随分と心の疲れも取れたようで何よりです。」
と誤魔化した。

そして、旦那様と奥様をサロンへ誘導し、奥様付きの侍女と執事見習いと言う親子にこれから使う部屋の案内を任せ他の者に任せた執事長と侍女長。
その2人を含めここに残った者で円陣を作った。
「皆んな、先ほどの旦那様を見たな?」
口を開いたのはハリーさん
「「「「はい。」」」」
「あのようなお顔をされる坊ちゃ、いえ旦那様久しぶりです。」
侍女長は若干パニックになっているのかつい昔の呼び名が出てしまったようだった。

「我々はプロだ。狼狽えず完璧に仕事をするように。 特に、右も左もわからない奥様には過ごしやすい環境を整えて差し上げるんだ。」
ハリーさん、まるで奥様を逃すなと言っているようです。
「旦那様のあの幸せそうな顔を見ただろう。 とうとうこの家にも春が来た」
皆んな目に涙をためる。
「さぁ、仕事だ!マルクスから聞いたがこの道中は奥様と旦那様は別室でお休みだったようだから、本日が初夜だ。 皆んなさっさと仕事を終えて旦那様のお部屋には極力近付かないように。他の者にもそう伝えてくれ。」
「「「「はい」」」」
こういう時貴族の方は大変だな、と思う。
だって屋敷のみんなに夜の事情が筒抜けになるんだから。

その後すぐ私達は解散して自分の持ち場に戻った。
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