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リズの焦りと喜び
しおりを挟む私の娘リズリンがサーシャを階段から突き落としたと聞いたのは、伯父様であるカルナーレ侯爵がリズリンを案じて部屋に来ていた時だった。
「リズ、姫様を探さなくて良いのか?」
「伯父様。もう私の事をそのように気軽にリズと呼ばないで下さい。私はこの国の王の側室ですよ?」
「こ、これは失礼した。」
「まぁ、良いでしょう。伯父様には側室に上がる際の恩もあります。2人きりの時は許します。」
「感謝します・・・リズ様」
伯父様は私に頭を下げて謝るとまた同じ質問をしてきた。
「それで、姫様を探さなくて良いのでしょうか・・・?」
「・・・ミラ、外に出ていて頂戴」
「承知致しました。」
ミラは私が実家から連れて来た侍女で、私に対して忠実だ。
この王宮で付いたベロニカもよく仕事が出来る子だが、やはり気を許せるのはミラだけだ。
ミラを外に出したのは他の人間に話が漏れないように、部屋の周りを人払させる為。
ミラが部屋から出て行くのを確認してから伯父様を見る。
「・・・伯父様は何か勘違いなさっていない?私がリズリンを心配していないとでも仰るの?」
「いや、そう言うわけではないが・・・やはり母であるリズが直接探す方が王様への印象も良いのではないかと・・・」
「伯父様、そのような事を私がせずとも私は侍女達にキチンと探すよう命じております。 私はリズリンの母ですが、王様の側室として日頃から身体のケアを1番にせねばなりません。草木や地面に這って探すような真似等したくありません。」
「そう・・・ですか・・・」
そう言って呆れたような顔をする伯父様を見てため息を1つ溢す。
「はぁ・・・私だってリズリンを可愛がっています。ですが、リズリンが王子であったなら・・・そう思うとどうしてもあの子を愛せる気持ちになれないのです。」
私は座っていた椅子から立ち上がり窓の前まで行く。
「あの日を境にクラウス様の態度も以前より冷たくなり、ただでさえ王子を懐妊するのが難しい状況の今。リズリンを見ているとより腹が立ってくるのです。」
窓のカーテンをギュッと握り引きちぎってやりたくなる衝動に駆られる
「今この状況で王子はメリルの子ただ1人。 ですが今懐妊中の王妃の子がもし王子であったなら!! 私の立場は地に落ちます!!」
語気を強めて伯父様の方をくるりと向くと、伯父様はギョッとした顔でこちらをみる。
「リズ・・・落ち着きなさい。」
「これが落ち着いていられますか? サーシャはもうあと二月もすれば臨月なのですよ!!」
私は伯父様の前にあるテーブルの前まで行きバンッと叩く。
「伯父様、何か策はありませんか?サーシャの子が姫となるか、それとも・・・」
死ぬか───
そう言葉にする前に部屋のドアをミラがノックする。
「リズ様っ!!リズ様!!リズリン様がっ!!!」
「入りなさい。」
ガチャリと開いたドアからなだれ込むように入ってきたミラは酷く慌てている。
「何があったというの?」
「リ・・・リズリン様が、王妃様を階段から突き落としたとの知らせが入りました!!!」
「何ですって!!」
「リズリン様も共に落ちたそうで、お怪我の治療の為に現在医務室にいらっしゃるそうです!!お支度を!!」
「わかったわ!!」
私は内心喜んだ。
すると伯父様から小さく声をかけられる。
「リズ様・・・月が回ってきたやも知れませんな。」
「はい、伯父様。リズリンに感謝しなくてはいけません・・・」
私と伯父様はお互いを見てニヤリと笑った。
「リズ様私も姫様が心配です。どうかご一緒させて下さい。」
「もちろんです伯父様。ぜひ一緒にいらして下さい。」
そう言って私と伯父様はミラに連れられて医務室まで急いだ。
「リズリン!!」
「姫様!!ご無事でございましたか!!」
医務室に到着すると、リズリンは額の上を少し切っていたが、私を見るなり嬉しそうに近寄ってきた。
「おかあさま!!」
「ああ!!リズリン!!無事で何よりです!!お母様は貴女が大怪我を負ったと聞いて、心臓が止まるかと思いましたよ。」
私はリズリンをギュッと抱きしめて頭を撫でる。
「ごめんなさい、おかあさま」
「良いのです。リズリンが無事なら・・・でも、額の傷が残らなければ良いのですが・・・」
私がそう言ってチラリと王宮医師を見ると、医師は慌てたように話し出した
「ご安心くださいませリズ様。リズリン様のお怪我は痕が残る事は御座いません。」
「そうですか・・・なら良いのです。 リズリンはこのまま部屋へ連れて帰っても良いのかしら?」
「もちろんです。」
「ありがとう・・・それと、」
私は悲しげな顔をして医師の方をもう一度見る。
「王妃様のご容体は?」
「申し訳ございません。私は王妃様を診察しておりませんので、詳しくは存じ上げないのです。」
「そうですか・・・」
「ですが・・・」
「なに?」
「破水されたと聞きましたので、おそらくご出産の準備に取り掛かっておられるかと思います。」
「まぁ!?まだ臨月でもないと言うのに?」
「はい・・・リズ様」
「リズリン、貴女はいけない事をしたのですよ? 王妃様のお腹の中には御子様が入っておられるのです。」
「・・・はぃ・・・でも!」
「リズリンッ!!」
「っ、はい・・・おかあさま」
「行きましょう。」
医師達は呆気に取られた顔をして私達を見送る。
私と伯父様、そしてリズリンとミラは足早に部屋へ戻りミラにドアの前で待機させて、伯父様と私とリズリンは入って慌ててドアを閉め、私はリズリンを強く抱きしめた
「リズリン!!良くやりました。」
「えっ」
「先程の場には多くの人がいたゆえ貴女を叱りつけましたが、母は嬉しく思います。」
「おかあさまっ」
「あぁ、リズリン。 母を想って王妃様を階段から突き飛ばしたのですか?」
「はい・・・おうひさまのあかちゃんがいなくなったら、おかあさまがよろこぶとおもって」
「そうです。あなたのおかげで悩みが1つ消えそうです。」
「よかった!」
「ですが、これからはそのような事をする前は母にキチンと言うのですよ?」
「はい。」
「リズリン・・・母はこれからはキチンと貴女を大切にすると誓うわ。」
「おかあさま、リズリンはうれしいです」
私とリズリンが強く抱きしめあっていると伯父様が悩ましい顔をして声をかけてきた。
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