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第一話
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Mission
大学二年生の海堂蒼牙と幹影玄夜は、蒼牙の借りているマンションで同棲生活中だった。
――ある日の夕方。
「ただいまっ。おい! 玄夜!」
蒼牙の低く不機嫌な声がマンションに響きわたった。
玄夜はテレビを見ながらちらっと蒼牙に視線を向け、負けず劣らず不機嫌な顔で無言で応じた。
その様子にますます不機嫌になった蒼牙は、蒼墨の髪を逆立てながらドスドスと室内を一直線に歩き、手にしていたコンビニのビニール袋を乱暴にテーブルに置いた。
中に入っていた二人分の弁当が、悲鳴を上げて少し崩れた。
「おい! テメーまた俺に黙ってバイトの面接受けたんだってな!」
「毎回毎回邪魔すんじゃねぇよ! テメーに文句言われる筋合いねぇだろうが!」
「何の金がいるんだよ! 家賃だって食費だって俺が払ってんだから、仕送り丸々小遣いだろうが! 足りなきゃ俺がやるって言ってんだろ! いくら欲しいんだ!?」
「そういうことじゃねぇだろうが! 俺はお前のヒモじゃねぇんだよ! 好きに働いて、好きに稼いで何が悪ぃんだよ! まさか、俺の卒業後の就職まで口出す気じゃねぇだろうな!?」
「はぁ!? お前どっかに就職する気でいんのか!? 俺と結婚して専業主婦になるんじゃねぇの!?」
「なるわけねぇだろうが、バカ! 俺は男なんだよ! そんな人生納得行くか! みっともねぇ!」
「なんでだよ!? 俺が甲斐性なしだっていうのか!?」
「そんなこと言ってねぇだろうが! 何でわかんねぇんだよ!」
「まぁいい! わかった、そんなに働きたきゃ俺の会社に勤めろ! いいな!?」
「勝手に決めんじゃねぇよ! なら、別れる!」
「……なっ!! ――て、てめぇ!」
ガン!と殴られたようなショックに、頭の回転が速いはずの蒼牙も、思わず言葉が消し飛んで激怒の顔のまま硬直した。
数秒の沈黙と、にらみ合いの後。
蒼牙は青みがかった艶やかな髪をわしゃわしゃとかき回した後、はぁーっと深い溜息をついた。
大学在学中にIT企業を立ち上げ社長として経営している蒼牙は、激情のままに怒鳴り散らそうな自らを、自制心を総動員して抑え込んだ。
しばらく無言で怒気をやり過ごし。
いくぶん落ち着いた声で冷静に言った。
「まぁいい。卒業後のことでケンカするのはやめようや。とりあえず、飯食おうぜ」
「ふん! つっかかってきたのはテメーだろうが!」
言い争いなど日常茶飯事の二人は、とりあえずケンカをやめ、弁当を食べ始めた。
「だいたい、テメーは俺が働くことの何が気にいらねぇんだよ」
「はぁ!? テメーそんなの決まってんだろうが!」
「決まってねぇよ! 毎度毎度、意味わかんねぇんだよテメーは!」
それを聞いた蒼牙は箸を止めた。
真顔で玄夜を見つめ。
てらいもなく言い放った。
「玄夜といっしょにいられる時間が減っちまうからに決まってるだろうが! 玄夜と過ごす時間が減るくらいなら、死に物狂いで働くぜ、俺は!!」
「………ぶふぅーッ!」
びっくりした玄夜は、口の中の食べ物を思わずぶちまけた。
「うおぉぉぉッ!? ――かかったじゃねぇか! きったねぇなぁ、テメー! 何しやがる!」
「……うる、うる、うるせぇわ! テメー恥ずかしいこと真顔で言うんじゃねぇよ! 恥を知れ!」
蒼牙はにやっと不敵に笑うと、
「何だよ、俺は恥ずかしいことを言ったつもりはねぇぞ。何度だって、誰の前でだって言ってやる。紅清の前で叫んだっていい」
「……わかった。もうバイトはあきらめるから、人前でそんな恥ずかしいことを言うのだけは絶対やめてくれ、頼むからっ」
玄夜は顔を真っ赤にしながら、ぼそぼそとそれだけ言った。
(――やべー! くそっ! ときめいちまったっ!)
意外と感情が出がちな黒い瞳をそらして、玄夜は無言で米を掻き込んだ。
束縛しがちな彼氏なのに、文句なしに愛されているため、玄夜はどうしようもなく蒼牙から離れられないのだ。
(だぁぁぁぁぁぁ! このクソ彼氏! その勝ち誇ったニヤケ面やめやがれっ!)
目をそらしていても視野の端にとらえてしまう存在感のある蒼牙の顔に、心の中で悪態をつくのが精一杯な玄夜なのであった。
**********
二人が喧嘩してから数日後のことだった。
「玄夜、今日焼き肉食べ行こうぜ」
「(やった!るんるん)おぅ、いいぜ!」
蒼牙と同棲するまでは、貧乏アパート住まいでなかなか豪華に焼き肉など食べられなかった玄夜は、単純に目を輝かせて喜んだ。
大学が終わってから、二人は待ち合わせをして、蒼牙お気に入りの少し高めの焼き肉店へ向かった。
注文した料理が届き、ガツガツと食べてお腹が落ち着いてきた頃――。
蒼牙が切り出した。
「玄夜、あのさ、一応確認したいんだけどよぉ」
「なんだよ?」
「お前、今の俺の会社は興味ねぇんだよな? それなりのポスト用意するっつっても、魅力感じねぇんだろ?」
玄夜はうんざりした顔で蒼牙をにらみ、
「またその話かよっ。俺にIT系の仕事なんて勤まるわけねぇじゃねぇか。頭痛くならぁ」
「じゃあ、何の職につくつもりなんだ?」
玄夜はきっぱりと答えた。
「警察」
「……はっ!?」
「だからぁ! 警察の試験受けようと思ってる!」
「警察ぅぅ!? はぁ!? お前本気かよ!? 警察学校って完全寮生活なんだぞ!?」
「それくらい知ってるわ! 別にお前に文句言われる筋合いねぇだろ!」
「あるわ! これはあるだろ! 俺はどうなるんだよ!? 別れるのか!?」
「んなこと言ってねぇだろうが! 本気で俺のこと好きなら、数ヶ月くらい待ってろよ!」
「なんで!? なんで警察なんだよ!?」
「俺はお前と違って、机に座って毎日仕事するなんて考えただけで気ぃ狂っちまう。体を使う仕事がしてぇんだ。警察なら安定もしてるし、人の役にも立つし、格好いいから純粋に憧れもあるしな。俺に向いてんだろ!」
「…………。」
頭の回転が早い若き起業家の蒼牙は、しばらく頭を抱えて考えをめぐらせた。
その間にも、玄夜はかまわずパクパクと肉を口に放り込んでいた。
数分間じっと考えた後――。
蒼牙は顔を上げた。
「……じゃあ、体力仕事で、人の役に立って、格好良い職ならいいんだよな?」
「まぁそうだけど、安定してるそんな職、都合よくそうそうねぇだろ。とりあえず、警察か消防受けるよ」
寮生活が長すぎる自衛隊だけは、さすがに受けないつもりだった。
恋人が完全寮生活の進路を考えていると知った蒼牙の決断は早かった。
きっぱりと決心した顔で、
「お前の考えはわかった。ちょっと一本電話かけさせてくれ」
そう玄夜に断ってから、蒼牙は電話をかけた。
「――紅清、今日話した件だけど、マジで頼むわ。――おう、おう、今月中にもうちょい話しつめて、改めて話す。――おう、俺もできうる限り今まで通り仕事するから。――そうか、ありがとな、――じゃその方向で頼むな」
電話を切ると、蒼牙は玄夜に向かってテキパキと流れるように言い放った。
「俺、今の会社は基本的に紅清に任せることにした。そんで、新しく探偵事務所を開く。探偵と言っても業務内容的には私設警察だ。警察ではなかなか動いてくれないし、一般の探偵に頼んだら高額の依頼料が発生するストーカーや脅迫被害なんかの解決を低価格で請け負っていく。利益はたいして上がらないだろうが、新米警官の給料くらいは稼げるだろ。社会奉仕事業の一環として、お前と細々やってけりゃそれでいい」
「……ぶふぁ!」
驚きすぎた玄夜は、口の中に入っていた米やら肉やらを噴き出してしまった。
口を拭いながら、
「……はぁ!? ……お、おま、お前いきなり何言ってんだぁ!?」
「いきなりじゃねぇよ。この前お前とケンカしてから、ずっと考えてた」
「……だ、だってお前、あと五年でビル建ててやるって息巻いてたじゃねぇか!?」
「いや、お前にいい生活させてやりてぇから、ビルは建てるよ。経営権は手放さねぇし、今まで通り俺でなけりゃできねぇ業務はこなすさ。ついてきてくれてる従業員の生活も背負ってるわけだから、無責任に会社を放り捨てるわけじゃねぇ」
「……え、いや、だったら、そんなわけわかんねぇこと始めねぇで、そのまま今の会社の社長やってりゃいいじゃねぇか!」
玄夜は自分はもっともなことを言っているつもりなのだが、ぐるんぐるんと脳味噌が回転する音が聞こえそうなほど集中し始めた蒼牙の耳には届かない。
「卒業まで、あと丸二年あるから、探偵業を研究して今の会社の利益で機材を揃える。十分間に合うだろ」
「エェェ!? おま、エェェ!? そんなことできるわけねぇだろ!?」
「なんとかなるだろ。つーか、お前をそばにおいとくために必要ならやってみせるさ。知らなかったのか? お前の彼氏ってすげぇんだぞ」
「…………。」
男前に艶やかに笑う蒼牙に、玄夜は息を飲んだ。
やると言ったらやる男の蒼牙がどこまで考えているのか。
頭の中でどこまで計画が進んでいるのか。
凡人の玄夜には知るよしもなかった。
玄夜はしばらく言葉を探して、やっとのことで言い返した。
「………お、お前が本当に探偵事務所を開いたからって、俺が勤めるって決めたわけじゃねぇからな!」
「くっくっく! それでいいぜ。俺は顧客のニーズを掴むのが得意でね。恋人のニーズくらい、完璧に掴んでみせるさ。お前が就活時期になるまでに、他に比べるものがねぇくらい、お前にとってめちゃくちゃ面白そうな魅力的な事業にしてみせるぜ。俺のそばから離れようなんて、玄夜は考えることすらできねぇだろうよ。見てなっ!」
「…………。」
玄夜は呆然として、不敵にニヤリと笑う彼氏の顔をまじまじと見やった。
(……俺は、とんでもない男に惚れられちまったのか――いや、惚れちまったのか)
大好物の焼き肉も、さすがに喉を通らない。
目の前にいる彼氏の艶っぽい笑みに、目が釘付けになってしまった。
【続く】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※サークル『擬人化色劇団』の作品は、色を擬人化した当サークル専属劇団員が演じている設定です。→詳細はサイトへ
【CAST】
表紙:学生社長役 海堂蒼牙(青)
裏表紙:大学生役 幹影玄夜(黒)
大学二年生の海堂蒼牙と幹影玄夜は、蒼牙の借りているマンションで同棲生活中だった。
――ある日の夕方。
「ただいまっ。おい! 玄夜!」
蒼牙の低く不機嫌な声がマンションに響きわたった。
玄夜はテレビを見ながらちらっと蒼牙に視線を向け、負けず劣らず不機嫌な顔で無言で応じた。
その様子にますます不機嫌になった蒼牙は、蒼墨の髪を逆立てながらドスドスと室内を一直線に歩き、手にしていたコンビニのビニール袋を乱暴にテーブルに置いた。
中に入っていた二人分の弁当が、悲鳴を上げて少し崩れた。
「おい! テメーまた俺に黙ってバイトの面接受けたんだってな!」
「毎回毎回邪魔すんじゃねぇよ! テメーに文句言われる筋合いねぇだろうが!」
「何の金がいるんだよ! 家賃だって食費だって俺が払ってんだから、仕送り丸々小遣いだろうが! 足りなきゃ俺がやるって言ってんだろ! いくら欲しいんだ!?」
「そういうことじゃねぇだろうが! 俺はお前のヒモじゃねぇんだよ! 好きに働いて、好きに稼いで何が悪ぃんだよ! まさか、俺の卒業後の就職まで口出す気じゃねぇだろうな!?」
「はぁ!? お前どっかに就職する気でいんのか!? 俺と結婚して専業主婦になるんじゃねぇの!?」
「なるわけねぇだろうが、バカ! 俺は男なんだよ! そんな人生納得行くか! みっともねぇ!」
「なんでだよ!? 俺が甲斐性なしだっていうのか!?」
「そんなこと言ってねぇだろうが! 何でわかんねぇんだよ!」
「まぁいい! わかった、そんなに働きたきゃ俺の会社に勤めろ! いいな!?」
「勝手に決めんじゃねぇよ! なら、別れる!」
「……なっ!! ――て、てめぇ!」
ガン!と殴られたようなショックに、頭の回転が速いはずの蒼牙も、思わず言葉が消し飛んで激怒の顔のまま硬直した。
数秒の沈黙と、にらみ合いの後。
蒼牙は青みがかった艶やかな髪をわしゃわしゃとかき回した後、はぁーっと深い溜息をついた。
大学在学中にIT企業を立ち上げ社長として経営している蒼牙は、激情のままに怒鳴り散らそうな自らを、自制心を総動員して抑え込んだ。
しばらく無言で怒気をやり過ごし。
いくぶん落ち着いた声で冷静に言った。
「まぁいい。卒業後のことでケンカするのはやめようや。とりあえず、飯食おうぜ」
「ふん! つっかかってきたのはテメーだろうが!」
言い争いなど日常茶飯事の二人は、とりあえずケンカをやめ、弁当を食べ始めた。
「だいたい、テメーは俺が働くことの何が気にいらねぇんだよ」
「はぁ!? テメーそんなの決まってんだろうが!」
「決まってねぇよ! 毎度毎度、意味わかんねぇんだよテメーは!」
それを聞いた蒼牙は箸を止めた。
真顔で玄夜を見つめ。
てらいもなく言い放った。
「玄夜といっしょにいられる時間が減っちまうからに決まってるだろうが! 玄夜と過ごす時間が減るくらいなら、死に物狂いで働くぜ、俺は!!」
「………ぶふぅーッ!」
びっくりした玄夜は、口の中の食べ物を思わずぶちまけた。
「うおぉぉぉッ!? ――かかったじゃねぇか! きったねぇなぁ、テメー! 何しやがる!」
「……うる、うる、うるせぇわ! テメー恥ずかしいこと真顔で言うんじゃねぇよ! 恥を知れ!」
蒼牙はにやっと不敵に笑うと、
「何だよ、俺は恥ずかしいことを言ったつもりはねぇぞ。何度だって、誰の前でだって言ってやる。紅清の前で叫んだっていい」
「……わかった。もうバイトはあきらめるから、人前でそんな恥ずかしいことを言うのだけは絶対やめてくれ、頼むからっ」
玄夜は顔を真っ赤にしながら、ぼそぼそとそれだけ言った。
(――やべー! くそっ! ときめいちまったっ!)
意外と感情が出がちな黒い瞳をそらして、玄夜は無言で米を掻き込んだ。
束縛しがちな彼氏なのに、文句なしに愛されているため、玄夜はどうしようもなく蒼牙から離れられないのだ。
(だぁぁぁぁぁぁ! このクソ彼氏! その勝ち誇ったニヤケ面やめやがれっ!)
目をそらしていても視野の端にとらえてしまう存在感のある蒼牙の顔に、心の中で悪態をつくのが精一杯な玄夜なのであった。
**********
二人が喧嘩してから数日後のことだった。
「玄夜、今日焼き肉食べ行こうぜ」
「(やった!るんるん)おぅ、いいぜ!」
蒼牙と同棲するまでは、貧乏アパート住まいでなかなか豪華に焼き肉など食べられなかった玄夜は、単純に目を輝かせて喜んだ。
大学が終わってから、二人は待ち合わせをして、蒼牙お気に入りの少し高めの焼き肉店へ向かった。
注文した料理が届き、ガツガツと食べてお腹が落ち着いてきた頃――。
蒼牙が切り出した。
「玄夜、あのさ、一応確認したいんだけどよぉ」
「なんだよ?」
「お前、今の俺の会社は興味ねぇんだよな? それなりのポスト用意するっつっても、魅力感じねぇんだろ?」
玄夜はうんざりした顔で蒼牙をにらみ、
「またその話かよっ。俺にIT系の仕事なんて勤まるわけねぇじゃねぇか。頭痛くならぁ」
「じゃあ、何の職につくつもりなんだ?」
玄夜はきっぱりと答えた。
「警察」
「……はっ!?」
「だからぁ! 警察の試験受けようと思ってる!」
「警察ぅぅ!? はぁ!? お前本気かよ!? 警察学校って完全寮生活なんだぞ!?」
「それくらい知ってるわ! 別にお前に文句言われる筋合いねぇだろ!」
「あるわ! これはあるだろ! 俺はどうなるんだよ!? 別れるのか!?」
「んなこと言ってねぇだろうが! 本気で俺のこと好きなら、数ヶ月くらい待ってろよ!」
「なんで!? なんで警察なんだよ!?」
「俺はお前と違って、机に座って毎日仕事するなんて考えただけで気ぃ狂っちまう。体を使う仕事がしてぇんだ。警察なら安定もしてるし、人の役にも立つし、格好いいから純粋に憧れもあるしな。俺に向いてんだろ!」
「…………。」
頭の回転が早い若き起業家の蒼牙は、しばらく頭を抱えて考えをめぐらせた。
その間にも、玄夜はかまわずパクパクと肉を口に放り込んでいた。
数分間じっと考えた後――。
蒼牙は顔を上げた。
「……じゃあ、体力仕事で、人の役に立って、格好良い職ならいいんだよな?」
「まぁそうだけど、安定してるそんな職、都合よくそうそうねぇだろ。とりあえず、警察か消防受けるよ」
寮生活が長すぎる自衛隊だけは、さすがに受けないつもりだった。
恋人が完全寮生活の進路を考えていると知った蒼牙の決断は早かった。
きっぱりと決心した顔で、
「お前の考えはわかった。ちょっと一本電話かけさせてくれ」
そう玄夜に断ってから、蒼牙は電話をかけた。
「――紅清、今日話した件だけど、マジで頼むわ。――おう、おう、今月中にもうちょい話しつめて、改めて話す。――おう、俺もできうる限り今まで通り仕事するから。――そうか、ありがとな、――じゃその方向で頼むな」
電話を切ると、蒼牙は玄夜に向かってテキパキと流れるように言い放った。
「俺、今の会社は基本的に紅清に任せることにした。そんで、新しく探偵事務所を開く。探偵と言っても業務内容的には私設警察だ。警察ではなかなか動いてくれないし、一般の探偵に頼んだら高額の依頼料が発生するストーカーや脅迫被害なんかの解決を低価格で請け負っていく。利益はたいして上がらないだろうが、新米警官の給料くらいは稼げるだろ。社会奉仕事業の一環として、お前と細々やってけりゃそれでいい」
「……ぶふぁ!」
驚きすぎた玄夜は、口の中に入っていた米やら肉やらを噴き出してしまった。
口を拭いながら、
「……はぁ!? ……お、おま、お前いきなり何言ってんだぁ!?」
「いきなりじゃねぇよ。この前お前とケンカしてから、ずっと考えてた」
「……だ、だってお前、あと五年でビル建ててやるって息巻いてたじゃねぇか!?」
「いや、お前にいい生活させてやりてぇから、ビルは建てるよ。経営権は手放さねぇし、今まで通り俺でなけりゃできねぇ業務はこなすさ。ついてきてくれてる従業員の生活も背負ってるわけだから、無責任に会社を放り捨てるわけじゃねぇ」
「……え、いや、だったら、そんなわけわかんねぇこと始めねぇで、そのまま今の会社の社長やってりゃいいじゃねぇか!」
玄夜は自分はもっともなことを言っているつもりなのだが、ぐるんぐるんと脳味噌が回転する音が聞こえそうなほど集中し始めた蒼牙の耳には届かない。
「卒業まで、あと丸二年あるから、探偵業を研究して今の会社の利益で機材を揃える。十分間に合うだろ」
「エェェ!? おま、エェェ!? そんなことできるわけねぇだろ!?」
「なんとかなるだろ。つーか、お前をそばにおいとくために必要ならやってみせるさ。知らなかったのか? お前の彼氏ってすげぇんだぞ」
「…………。」
男前に艶やかに笑う蒼牙に、玄夜は息を飲んだ。
やると言ったらやる男の蒼牙がどこまで考えているのか。
頭の中でどこまで計画が進んでいるのか。
凡人の玄夜には知るよしもなかった。
玄夜はしばらく言葉を探して、やっとのことで言い返した。
「………お、お前が本当に探偵事務所を開いたからって、俺が勤めるって決めたわけじゃねぇからな!」
「くっくっく! それでいいぜ。俺は顧客のニーズを掴むのが得意でね。恋人のニーズくらい、完璧に掴んでみせるさ。お前が就活時期になるまでに、他に比べるものがねぇくらい、お前にとってめちゃくちゃ面白そうな魅力的な事業にしてみせるぜ。俺のそばから離れようなんて、玄夜は考えることすらできねぇだろうよ。見てなっ!」
「…………。」
玄夜は呆然として、不敵にニヤリと笑う彼氏の顔をまじまじと見やった。
(……俺は、とんでもない男に惚れられちまったのか――いや、惚れちまったのか)
大好物の焼き肉も、さすがに喉を通らない。
目の前にいる彼氏の艶っぽい笑みに、目が釘付けになってしまった。
【続く】
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※サークル『擬人化色劇団』の作品は、色を擬人化した当サークル専属劇団員が演じている設定です。→詳細はサイトへ
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