Mission 〜ケンカップルの尊い日常〜【束縛世話やき大学生社長×負けん気不器用大学生】

中野ヒト/擬人化色劇団

文字の大きさ
2 / 4

第二話

しおりを挟む
 とある日曜の朝――。
 蒼牙はイライラしながらベッドの前に立った。

「おい、玄夜! 起きろって! 今日は映画に行くんだろ! いつまで寝てんだよ!」

「……眠い。行きたきゃお前一人で行けよ。俺はもう少しベッドで……」

「バカヤロー! お前が行きてぇって言ってた映画だろうが! こっちは朝一の時間で予約とったんだよ! 早く起きやがれ!」

 蒼牙は怒りにまかせてがばり!と布団を引っぺがし、玄夜の頬を軽くペシペシと叩きながら言った。
 寝起きの悪い玄夜は、まだ眠たそうな不機嫌な顔で、

「…うぜぇなー!? テメー、何すんだよ! 行きたきゃお前一人で勝手に行けばいだろ!」

 プチっと。
 その言葉に蒼牙の怒りのスイッチが入った。
 寝汚く布団にしがみつく玄夜に、怒りを隠さずに言い放つ。

「…お前が予約取れって言ったくせに、その態度なわけな! よぉーくわかった! 俺はよく知らねぇアニメの映画だが、紅清の話じゃ、よく知らねぇで行っても映像美もすげぇから楽しめるって話だしな。155分間一人で楽しんでくらぁ! お前は光羽のネタバレでも食らって泣いてろや。じゃあな!」

「…!!!」

 蒼牙が踵を返し、ドスドスと不機嫌に玄関に歩いていく音を聞きながら、玄夜はがばっ!と跳ね起きた。
 時間通り起き、身支度をすませ、外出しようとしている蒼牙の背中に、部屋着姿でベッドの上から叫ぶ。

「おい! その映画行くの今日だったか!? ふざけんなよ! お前ファンじゃねぇだろ! 俺が行かなきゃ意味ねぇじゃねぇか! 俺が狙ってる入場特典第二弾が開始してんだぞ!?」

「…ああ!? …テメー、俺が惚れてるからっていい気になりすぎじゃねぇか!? 俺は予約もして、テメーのこと起こしただろうが! 起きねぇテメーが悪い。予約時間遅れるのとか絶対嫌だから、俺は先に出るぞ。間に合えば、来いよ。お前のラインに入場用のQRコード送っといたからな。ポップコーンとコーヒーは買っておいてやるよ。着替えはソファにかけてあるから」

「はぁ!? バカ言ってんじゃねぇよ! 一瞬も見逃せない大迫力の名作だぞ!? 途中でトイレ行く羽目になったらどうすんだよ! 155分だぞ!? コーヒーもポップコーンもやめとけよ! この映画だけは飲まず食わずがマストだろうが!」

「はぁ!!? バカ言ってんのはテメーだろ! どの口で俺に忠告とかしてんだよ!? もういい! マジで行くし、俺はそんな拷問みてぇな映画の見方は嫌だね。コーヒーとポップコーンとポテト買って優雅に見るわ。お前は途中入場して飲まず食わずで見ろよ! じゃあな!」

「…あ、ちょ! 待てよ!」

「散々待ったわ! もう待たねぇよ!」

 そう言い捨てると、蒼牙は靴を履いて、本当に外出してしまった。

「…おい、嘘だろ。本当に俺を置いていったのか、あいつ」

 布団の中で呆然と呟いた後。
 玄夜は大急ぎで支度を始めた。
 顔を洗って、蒼牙がソファにかけておいた服を慌てて着ると、玄関から飛び出した。
 ちらっと玄関の周りを見回したが、人っ子一人いなかった。

「…え? …マジで先に行ったのか?」

 実は玄関で待っているに違いない――と思っていた玄夜は、ちょっと傷ついた顔をして走りだした。
 
(…ヤベー。マジで怒らせたか?)

 わかっている。
 どう考えても自分が悪かった。
 ジャンプ派ではなくサンデー派の蒼牙の興味がない映画に誘って、予約も蒼牙がして、もちろん金も出してもらっている。

(…さすがに、謝まんねぇとヤベーかな)

 体力にだけは自信がある玄夜が、ノンストップで駅まで走っていると、



「おい、玄夜!」

「!!」



 呼ばれて振り返ると、駅前通りのコンビニから出てきた蒼牙に呼び止められた。
 蒼牙の顔を見て、本当は安堵したのに。
 口から飛び出す言葉はどうしてもこうなる。

「テメー! 本当に置いていきやがったな!」

「おかげで間に合いそうだろ。感謝しろよ」

 にやっと笑ってそう言うと。
 蒼牙は玄夜に向かって、下からふわりと何かを放り投げてきた。

「うおっ! 危ねぇな! 何すんだよ! ……それよりな、置いていくほど怒るなら――」

「バーカ。怒ってねぇよ。それ買っといてやろうと思ったんだ」

「あん?」

 放り投げて渡された物を指差し言われ、玄夜は手の中におさまったものを見た。

「ん? ボンタンアメ? 俺、こういうの食わねぇだろ?」

「なめてると尿意が抑えられるってネットで話題になってんだよ。ま、科学的根拠はとぼしいらしいが、おまじないみたいなもんだ。この夏は長時間物の人気映画が多くて品薄らしいぜ。みんな考えることは一緒ってこったな」

 そう言うと蒼牙は、玄夜の腰に手を当てて歩くように促しながら、

「せっかく間に合いそうなんだ。ほら、早く行くぞ」

「お、おぅ」

 怒っていると思っていた蒼牙に飴を渡された玄夜は、謝るタイミングを完全に失って、促されるままに歩き出した。
 映画館のトイレ対策まで気をまわしてくれる蒼牙に、さすがに礼くらいは言おうかと口を開きかけた矢先、

「あぁ!? テメーふざけんなよ!」

 蒼牙が玄夜の足元を見て叫んだ。

「テメー、なんでその靴履いてんだよ!? 玄関にこの前買った新しい靴おいてあっただろ!? ざけんなよ! 今日の服はあの靴ありきでコーディネートしてあったのによぉ!」

「…知るか! そんなこと言ってなかったじゃねぇか! 俺は履きなれた走りやすい靴で来たんだよ! 服なんて着てりゃなんでもいいだろ! お前はいちいちうるせぇんだよ!」

「あぁ!? お前に好きにさせてると、黒いTシャツとジーンズしか着ねぇから俺がコーディネートしてんだろ!? センスねぇんだから、せめて俺がコーディネートした服をスムーズに着ろよな! どうして履きやすいとこに置いておいてやっても、違うの履いてくんのかねぇ、テメーは!」

「…そ、それはお前が俺のこと置いていったせいだろ! そんだけこだわりてぇなら、最後までちゃんと面倒見ろよ! 置いていくんじゃねぇよ、ボケ!」

「あぁ!? テメーなぁ――」

「…っただろ!」

「あ?」

「…だからぁ、怒ったかと思ってびびっただろ!! ――悪かったよ! 謝ってやるよ! ボンタンアメもありがとな!」

「…お、おう」

 謝っているのか、切れているのかわからない口調だが。
 耳まで真っ赤にしている玄夜を見た蒼牙はにやりと笑って、

「ったく、可愛いなー。悪かったな、不安にさせちまった?」

「ふ、不安になんてなるかよ! ――ただ! ちょっと! 悪かったなって思ったんだよ、ちくしょー! 文句あるか!」

「…ははは、何なんだよ、テメーは! 随分エラそうな謝罪だな、おい」

 楽しそうに笑った後。
 蒼牙は玄夜の手をぎゅっと握りしめ。
 にやっと。
 男の色気のある笑みを浮かべ、恋人に顔を寄せて言った。



「ちょっと悪かったって思ってくれるなら、駅まででいいから離すなよ?」

「っち! しょうがねぇな!」



 顔を真っ赤にしながら、悪態をついているが。
 蒼牙がつないだ手を、ぎゅっと玄夜も握り返してきていた。
 ぶすっとしながらも、ごにょごにょと――。

「…今度はちゃんと起きるから、置いてくなよ。靴までちゃんと指定しろ。あんなこと言われたから、俺の恰好変なのかって気になってきちまっただろ」

「映画終わったら買ってやるよ。ま、元々素材がいいんだ。何着てたって似合うよ。安心しろ」

「…安心するか、バカ! 俺のことそんな風に言うのなんて、お前だけなんだぞ! 世間から見たら違うんだよ、ボケ!」

「ほっとけ。見る目ねぇんだよ、世間て。俺が可愛いんだから、それでいいだろ?」

「…お前、絶対変。俺が会った中で一番、変っ」

「おかげで、一番幸せだな。恋人が可愛けりゃ、他なんてどうでもいいさ」

「――……いいぞっ」

「ん?」

「……駅までじゃなくて、映画館まで、手、つないでていいぞ」

「ははははは!」

 蒼牙は玄夜の手をつないだまま笑い転げた。




「ありがとな。嬉しいよ」

「…お前、ホント良くそういうことポンポン言えるよな」




 俺は言えないから――。
 ごめん、と。
 ありがとう、を込めて。
 ぎゅっと蒼牙の手を強く握りしめた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※サークル『擬人化色劇団』の作品は、色を擬人化した当サークル専属劇団員が演じている設定です。→詳細はサイトへ

   【CAST】
 表紙:学生社長役 海堂蒼牙(青)
裏表紙:大学生役 幹影玄夜(黒)
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談?本気?二人の結末は? 美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。 ※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

【短編】初対面の推しになぜか好意を向けられています

大河
BL
夜間学校に通いながらコンビニバイトをしている黒澤悠人には、楽しみにしていることがある。それは、たまにバイト先のコンビニに買い物に来る人気アイドル俳優・天野玲央を密かに眺めることだった。 冴えない夜間学生と人気アイドル俳優。住む世界の違う二人の恋愛模様を描いた全8話の短編小説です。箸休めにどうぞ。 ※「BLove」さんの第1回BLove小説・漫画コンテストに応募中の作品です

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

孤毒の解毒薬

紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。 中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。 不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。 【登場人物】 西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。 白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。

発情期のタイムリミット

なの
BL
期末試験を目前に控えた高校2年のΩ・陸。 抑制剤の効きが弱い体質のせいで、発情期が試験と重なりそうになり大パニック! 「絶対に赤点は取れない!」 「発情期なんて気合で乗り越える!」 そう強がる陸を、幼なじみでクラスメイトのα・大輝が心配する。 だが、勉強に必死な陸の周りには、ほんのり漂う甘いフェロモン……。 「俺に頼れって言ってんのに」 「頼ったら……勉強どころじゃなくなるから!」 試験か、発情期か。 ギリギリのタイムリミットの中で、二人の関係は一気に動き出していく――! ドタバタと胸きゅんが交錯する、青春オメガバース・ラブコメディ。 *一般的なオメガバースは、発情期中はアルファとオメガを隔離したり、抑制剤や隔離部屋が管理されていたりしていますが、この物語は、日常ラブコメにオメガバース要素を混ぜた世界観になってます。

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

処理中です...