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今日は久々の紅清様のオフだ。
『俺は仕事が趣味みたいなものだけど、玄夜はちゃんと休みを取るんだよ』
常々そう言われているし、土日と祝日は休みにしてもらっているけれど。
「紅清様、ずるい……」
休みの日は。
いつも、ちょっと気分が沈む。
秘書も執事も取り上げられて、屋敷に立派な個室まであてがわれていると、紅清様に会う理由が一気になくなってしまうんだ。
「俺だって、仕事が趣味みたいなものなのに……」
紅清様のお側に仕えて、紅清様のお役に立ちたいと言う思いは、この胸の中でパンパンに育ちすぎていて。
もうとっくに。
仕事だなんて範囲を超えている。
俺は個室のベッドでふて寝しながら、何度見てもちっとも進まない壁掛け時計を睨んだ。
「あぁ、クソ。早く三時になれよー、ちくしょう」
あ、ヤバい。
切なくて、目の奥の涙腺がジリジリと焼けるように痛い。
鼻の奥までツンとしてきた。
……はぁ。
いい年した大の男が情けない。
紅清様に会う理由を奪われる休みって言うやつは、本当に無駄で長い。
「あー、もうっ! 何で紅清様はこうもホワイトで、人格者で、目下の者への思いやりに溢れた素敵なご主人様なんだよぉー!」
ぽふっと。
紅清様が俺のために買ってくださった柔らかい高級布団に顔を突っ伏すと、紅清様の甘いキスの感触が唇に甦って切なくなった。
紅清様は、俺に休みを与えている日に、呼びつけて用事を命じたりしない。
きちんと休養するようにと口を酸っぱくして言われているし、俺のプライバシーを尊重して、用もなく個室を訪ねてきたりもしない。
――だから、だから!
「早く三時のお茶の時間になれー!」
使用人として働くことは禁止されているけれど、俺に特に用事がなくて暇だったら、三時におやつを持ってお茶をしに行くことは許されている。
休み何て言われても、友人も――もちろん、恋人も――いない俺には、予定なんてそうそうない。
俺の私用のスマホに連絡が来るのなんて、遠方に住んでいる両親だけだ。
朝起きて、楽しみなのは。
紅清様に会える三時のお茶だけ――。
だから。
休みの日の午前は、紅清様の好きそうなデザートを買いに街に出る。
十分すぎるほど頂いている給金で紅清様へのおみやげを買うのは、俺にとっては至福のひととき。
最初のうちは、紅清様に渡されているカードで支払うようにとやんわりと言われたけれど。
それを俺が心から楽しみにしていると悟ると、俺のプライドに配慮しておみやげを嬉しそうに受け取ってくださるようになり、代わりに、お礼だと言ってランチやディナーをご馳走してくださるようになった。
かえってお金を使わせてしまうことになって、あまりに申し訳なくて丁重に断った時には、人差し指で額をつんっと突かれてしまった。
「こらこら。何でも遠慮すればいいってもんじゃないだろ? スマートな態度じゃないよ、それは。俺が玄夜からのスイーツのおみやげを突っ返したらどう思う? ありがたく頂くっていうのも、度量だよ」
にこっと笑ってそう窘められてからは、俺も紅清様を見習って、誘って頂いた食事や映画にありがたくついていくことにしている。
たしかに。
日頃の感謝の想いを込めて。
喜んで欲しい一心で買ってきたスイーツを。
突き返されたり、代金を払われたりしたら、泣きたいほど惨めで恥ずかしいだろう。
俺のご主人様は、まずは自分が手本となる振る舞いをして使用人を育てる、素晴らしい人格者なのだ。
「あ! やったぁ! 三時になった!」
俺はパァッと顔を輝かせた。
キッチンへ小走りに走ると、コーヒーを二杯淹れる。
冷蔵庫からケーキを取り出して慎重に皿にのせると、用意した全部とフォーク二本をトレイに並べた。
トレイを手に紅清様の書斎へ向かう時、自分の胸が喜びで高鳴っているのを感じた。
「へへへ。紅清様に会える」
毎日のように会っているのに。
いや、毎日のように会って、長い時間を一緒に過ごさせて頂いているからこそ。
数十時間、離れていた紅清様に会えるのが。
とてもとても嬉しい――。
紅清様の書斎の前に立つと。
気持ちを落ち着けるために、ふーっと息を吐いて気持ちを整える。
はやる気持ちを抑えながら、ゆっくりと扉を二回ノックした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※サークル『擬人化色劇団』の作品は、色を擬人化した当サークル専属劇団員が演じている設定です。→詳細はサイトへ
【CAST】
表紙:執事役 幹影玄夜(黒)
裏表紙:ご主人様役 朱鷺紅清(赤)
『俺は仕事が趣味みたいなものだけど、玄夜はちゃんと休みを取るんだよ』
常々そう言われているし、土日と祝日は休みにしてもらっているけれど。
「紅清様、ずるい……」
休みの日は。
いつも、ちょっと気分が沈む。
秘書も執事も取り上げられて、屋敷に立派な個室まであてがわれていると、紅清様に会う理由が一気になくなってしまうんだ。
「俺だって、仕事が趣味みたいなものなのに……」
紅清様のお側に仕えて、紅清様のお役に立ちたいと言う思いは、この胸の中でパンパンに育ちすぎていて。
もうとっくに。
仕事だなんて範囲を超えている。
俺は個室のベッドでふて寝しながら、何度見てもちっとも進まない壁掛け時計を睨んだ。
「あぁ、クソ。早く三時になれよー、ちくしょう」
あ、ヤバい。
切なくて、目の奥の涙腺がジリジリと焼けるように痛い。
鼻の奥までツンとしてきた。
……はぁ。
いい年した大の男が情けない。
紅清様に会う理由を奪われる休みって言うやつは、本当に無駄で長い。
「あー、もうっ! 何で紅清様はこうもホワイトで、人格者で、目下の者への思いやりに溢れた素敵なご主人様なんだよぉー!」
ぽふっと。
紅清様が俺のために買ってくださった柔らかい高級布団に顔を突っ伏すと、紅清様の甘いキスの感触が唇に甦って切なくなった。
紅清様は、俺に休みを与えている日に、呼びつけて用事を命じたりしない。
きちんと休養するようにと口を酸っぱくして言われているし、俺のプライバシーを尊重して、用もなく個室を訪ねてきたりもしない。
――だから、だから!
「早く三時のお茶の時間になれー!」
使用人として働くことは禁止されているけれど、俺に特に用事がなくて暇だったら、三時におやつを持ってお茶をしに行くことは許されている。
休み何て言われても、友人も――もちろん、恋人も――いない俺には、予定なんてそうそうない。
俺の私用のスマホに連絡が来るのなんて、遠方に住んでいる両親だけだ。
朝起きて、楽しみなのは。
紅清様に会える三時のお茶だけ――。
だから。
休みの日の午前は、紅清様の好きそうなデザートを買いに街に出る。
十分すぎるほど頂いている給金で紅清様へのおみやげを買うのは、俺にとっては至福のひととき。
最初のうちは、紅清様に渡されているカードで支払うようにとやんわりと言われたけれど。
それを俺が心から楽しみにしていると悟ると、俺のプライドに配慮しておみやげを嬉しそうに受け取ってくださるようになり、代わりに、お礼だと言ってランチやディナーをご馳走してくださるようになった。
かえってお金を使わせてしまうことになって、あまりに申し訳なくて丁重に断った時には、人差し指で額をつんっと突かれてしまった。
「こらこら。何でも遠慮すればいいってもんじゃないだろ? スマートな態度じゃないよ、それは。俺が玄夜からのスイーツのおみやげを突っ返したらどう思う? ありがたく頂くっていうのも、度量だよ」
にこっと笑ってそう窘められてからは、俺も紅清様を見習って、誘って頂いた食事や映画にありがたくついていくことにしている。
たしかに。
日頃の感謝の想いを込めて。
喜んで欲しい一心で買ってきたスイーツを。
突き返されたり、代金を払われたりしたら、泣きたいほど惨めで恥ずかしいだろう。
俺のご主人様は、まずは自分が手本となる振る舞いをして使用人を育てる、素晴らしい人格者なのだ。
「あ! やったぁ! 三時になった!」
俺はパァッと顔を輝かせた。
キッチンへ小走りに走ると、コーヒーを二杯淹れる。
冷蔵庫からケーキを取り出して慎重に皿にのせると、用意した全部とフォーク二本をトレイに並べた。
トレイを手に紅清様の書斎へ向かう時、自分の胸が喜びで高鳴っているのを感じた。
「へへへ。紅清様に会える」
毎日のように会っているのに。
いや、毎日のように会って、長い時間を一緒に過ごさせて頂いているからこそ。
数十時間、離れていた紅清様に会えるのが。
とてもとても嬉しい――。
紅清様の書斎の前に立つと。
気持ちを落ち着けるために、ふーっと息を吐いて気持ちを整える。
はやる気持ちを抑えながら、ゆっくりと扉を二回ノックした。
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※サークル『擬人化色劇団』の作品は、色を擬人化した当サークル専属劇団員が演じている設定です。→詳細はサイトへ
【CAST】
表紙:執事役 幹影玄夜(黒)
裏表紙:ご主人様役 朱鷺紅清(赤)
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