19 / 66
包囲されたはじめての街
1590年4月12日・この世界・時代のお金の話
しおりを挟む
館の別室で女達が恐るべき暗殺計画を練っている頃、
「へーーーーーーーくしょん!!」
誰か噂してるな。
俺は雄二からこの世の中での、通貨要はお金の事を教えてもらっていた。
というのも、醸造所や職人街に足を運び仕事を頼む際に対価の話をすると、異口同音に、
『報酬なんていらない。食料と酒を安定供給してくれれば良い。それよりも、絶対に戦に勝ってくれ!』
と言われたからだ。
現状、小田原は確かに包囲されているが、広大な城内には大きな農地があり、酒の蔵元もある、小売店も営業しているのだ、なのに何故、彼らは金銭でなく食料の直接供給を求めるのだろう?
それに対する雄二の説明はこうだ。
まず、お金だが、この世界には二種類ある。
第一は大陸から輸入して使用している硬貨。これは日ノ本の国であれば他の領主の地でもそのまま使用できる。
もう一つは、北条領内限定の北条札という紙幣。
隣国・武田家が甲州金という金貨を発行していたのを参考に、ご隠居様(氏政)が当主時代に、硬貨より軽く運搬に便利な紙を使用したお金を考案し発行したそうだ。
この紙幣は関八州およそ200万石の当主である北条本家が保証している紙幣である上、税の三割までは北条札での納税を認めていたので、領内では大変普及していたという。
がしかし、その北条札の効力を保証していた北条氏が今、小田原を包囲され滅亡の危機にあるのだ。北条札と銀や大陸銭を交換してくれる両替商は猿の小田原征伐の天下への号令の報を聞くや領内から姿を消した。
その結果、北条札はもはや紙切れ同然となり、他領に伝手のある人、資産の多くを大陸硬貨で保有していた人(主に商人)は、早々に領内を離れ、今、小田原はじめ北条の領内にいる領民は皆、他に行き場のない人々だという。
そもそも、戦に負ければ、財産などいくら持っていても敵に略奪されるに決まっているから、この、街が包囲されている状況下では皆、損得度外視で協力してくれる。
ということだった。
ところで、この北条札と両替商の説明の中で、雄二が一つ変な話をしてくれた。
両替商がいなくなった、昨年の12月初旬、河越、八王子、下田湊といった領内の街に、闇両替屋が現れたという。
この両替屋は北条札と銀を平時の半額のレートで両替に応じていた。
領民たちの多くは暴落する北条札に困り果てていたので、皆、群がるように両替をしてもらったそうだ。
が、闇両替が去り、暫くすると、彼らが両替した銀は陶器に色を塗った偽物であることが分かった。
元々価値が暴落している北条札を偽銀を作ってまで、闇両替屋はなぜ求めたのだろう?
雄二は、これはおそらく伊賀者の仕業だろうと言う。
では、伊賀者は北条札を何に使用したのか?
雄二の推測では、堺など大きな街で北条札での取引を商人に持ち掛けるのに使用したのではないかとのことだ。
暴落している北条札での取引に応じる商人はいる訳ないが、北条札をみたことがあるかどうかは相手の反応を見れば容易に判断できる。
北条札を知っているということは北条と取引がある商人ということであり、そこからは、あらゆる手段で、いつ何をどれくらい北条に卸したか調べる事が可能だろう。
先代(孝太郎が転移する前の風魔小太郎)が”堺での取引は危険”と文をよこしたのが、12月下旬だったので、時系列的にこのような推察が成り立つとのことだった。
当初はお金の話を聞くだけのつもりだったのだが、伊賀者の厄介さ狡猾さを改めて知らされ、背筋がぞっとしてしまった。
(史実での小田原陥落まで、あと85日)
「へーーーーーーーくしょん!!」
誰か噂してるな。
俺は雄二からこの世の中での、通貨要はお金の事を教えてもらっていた。
というのも、醸造所や職人街に足を運び仕事を頼む際に対価の話をすると、異口同音に、
『報酬なんていらない。食料と酒を安定供給してくれれば良い。それよりも、絶対に戦に勝ってくれ!』
と言われたからだ。
現状、小田原は確かに包囲されているが、広大な城内には大きな農地があり、酒の蔵元もある、小売店も営業しているのだ、なのに何故、彼らは金銭でなく食料の直接供給を求めるのだろう?
それに対する雄二の説明はこうだ。
まず、お金だが、この世界には二種類ある。
第一は大陸から輸入して使用している硬貨。これは日ノ本の国であれば他の領主の地でもそのまま使用できる。
もう一つは、北条領内限定の北条札という紙幣。
隣国・武田家が甲州金という金貨を発行していたのを参考に、ご隠居様(氏政)が当主時代に、硬貨より軽く運搬に便利な紙を使用したお金を考案し発行したそうだ。
この紙幣は関八州およそ200万石の当主である北条本家が保証している紙幣である上、税の三割までは北条札での納税を認めていたので、領内では大変普及していたという。
がしかし、その北条札の効力を保証していた北条氏が今、小田原を包囲され滅亡の危機にあるのだ。北条札と銀や大陸銭を交換してくれる両替商は猿の小田原征伐の天下への号令の報を聞くや領内から姿を消した。
その結果、北条札はもはや紙切れ同然となり、他領に伝手のある人、資産の多くを大陸硬貨で保有していた人(主に商人)は、早々に領内を離れ、今、小田原はじめ北条の領内にいる領民は皆、他に行き場のない人々だという。
そもそも、戦に負ければ、財産などいくら持っていても敵に略奪されるに決まっているから、この、街が包囲されている状況下では皆、損得度外視で協力してくれる。
ということだった。
ところで、この北条札と両替商の説明の中で、雄二が一つ変な話をしてくれた。
両替商がいなくなった、昨年の12月初旬、河越、八王子、下田湊といった領内の街に、闇両替屋が現れたという。
この両替屋は北条札と銀を平時の半額のレートで両替に応じていた。
領民たちの多くは暴落する北条札に困り果てていたので、皆、群がるように両替をしてもらったそうだ。
が、闇両替が去り、暫くすると、彼らが両替した銀は陶器に色を塗った偽物であることが分かった。
元々価値が暴落している北条札を偽銀を作ってまで、闇両替屋はなぜ求めたのだろう?
雄二は、これはおそらく伊賀者の仕業だろうと言う。
では、伊賀者は北条札を何に使用したのか?
雄二の推測では、堺など大きな街で北条札での取引を商人に持ち掛けるのに使用したのではないかとのことだ。
暴落している北条札での取引に応じる商人はいる訳ないが、北条札をみたことがあるかどうかは相手の反応を見れば容易に判断できる。
北条札を知っているということは北条と取引がある商人ということであり、そこからは、あらゆる手段で、いつ何をどれくらい北条に卸したか調べる事が可能だろう。
先代(孝太郎が転移する前の風魔小太郎)が”堺での取引は危険”と文をよこしたのが、12月下旬だったので、時系列的にこのような推察が成り立つとのことだった。
当初はお金の話を聞くだけのつもりだったのだが、伊賀者の厄介さ狡猾さを改めて知らされ、背筋がぞっとしてしまった。
(史実での小田原陥落まで、あと85日)
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル
ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。
しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。
甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。
2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる