落ち武者・歴史は知らない理系リーマン、化学チートで戦国を駆ける

ディエゴ

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包囲されたはじめての街

1590年5月1日・戦場最前線

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「なあ、二曲輪って名前、随分早く城下に浸透したな?」

今は、雄二と工房からの帰路の途中である。

『あぁ、それは夕が頑張って街中に広めてくれたからな』
『なんと言っても、夕は俺たちの表の顔だから』

夕と聞いただけで思わず身構えてしまう。

「夕か、最近見かけないがそんなことやってたのか?」

『呼びました?』

突然、後ろ、それもうなじ辺りから声がした。

「ゆ、夕!お前、後ろから現れるの止めろ!」

『うふふふ、後ろを取られるほうが悪いのです。もし私が暗殺者だったら、そんなこと言う間もなくもう殺されてますよ』

・・・悔しいが、言い返せない。

「それで、何の用だ?」

『何の用とは随分ですね。私は呼ばれたから出てきただけですよ。例え姿が見えなくても、私は二曲輪様の護衛として常に傍にいることをお忘れなく』

「表の顔のお前が、俺の護衛なのか?」

『あら?私が表の顔をやっているのは、誰よりも気配遮断・姿隠蔽の術に長けているからです。その証拠に、私が護衛してること今の今まで気が付かなったでしょ?二曲輪様?』

・・・・・言い返せない。

『これからも、護衛してますから、安心して活躍してくださいね。二曲輪様!』

夕はそう言うと、初めからそこにいなかった様に姿を消した。

あいつ、絶対、時空魔法使えるだろ?

やはりこの世界に魔法はあるんだ。自分が魔法使えないのは努力不足だ。もっと魔法練習頑張ろう。

一方、隣の雄二は、孝太郎が夕にビビったり、いなくなった途端に拳を握りしめてる姿を、何とも言えない気分で眺めていた。


*鋳物師・治郎右衛門の工房*
互いに備蓄が豊富な包囲戦だからなのか、攻防軍ともにマッタリとした雰囲気が漂う小田原界隈で、ここは戦場の最前線のような喧騒と緊迫の只中にあった。

理由は勿論、ガラスの蒸留器製造である。すでにガラス管他小物類は全て手下の職人に任せ、治郎右衛門と弟・佐助は大型の釣り鐘サイズの器の製造に専念していた。

一口に釣り鐘大の器というが、ガラスでこれを作るのは、非常に大変である。

以前、焼酎醸造所に収めた品の1.5倍の大きさなのだ。

4月22日に試作品プレゼンを孝太郎に行ってから10日、二人かかりで毎日毎夜製造を続けてきた。

『おい、流すぞ!』

溶解したガラスを別の特大サイズの窯の中にある型に流し込む。

ガラス器の製造で大変なのはここからだ。 ここからが開始と言っても言い過ぎではない。

型に入れてからの温度管理こそがガラス製造の肝なのである。

それも、何度で何時間とかデジタルに決められるものではない。そもそも温度を測る術はないのだが・・

天候・湿度など微妙な環境変化で仕上がりが変わり、失敗すれば割れたりヒビが入ってしまう。

治郎右衛門達は製造に成功した時の、天気、窯にくべた薪の量は全て記録している。

これに職人の勘を加え、細心の注意のもと生産に勤しんでいた。

今、型が入っている特大窯は温度管理用に作った特殊な窯である。

今回の為に、これを窯を10個増設した。

これまで、試作品も含めて8つ製造した。成功率は7割といったところだ。

新型炮烙玉の作業場を城下に四か所。一か所で作業するのは危険過ぎるので、城下にそれぞれ場所を離して作業する。これで一か所で事故が起きても誘爆を防ぐのだ。

一か所の作業場に設置する大型ガラス器は4つ。後、8個必要なのだ。

治郎右衛門兄弟の奮闘は続く。
(史実での小田原陥落まで、あと66日)
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