落ち武者・歴史は知らない理系リーマン、化学チートで戦国を駆ける

ディエゴ

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包囲されたはじめての街

1590年6月8日・鬼煙作戦・本作戦

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かつて鬼脇谷で活躍していた三つ者の施設部隊総勢20名が板を携え、音もなく丘を降りていく。彼らの役目は茶室封鎖役だ。鬼煙を嗅がないよう全身を装束で覆っている。

すでに、敵将全員と茶頭・利休が入室を終えたのを確認している。

やがて、風魔の鳶猿隊が、鉤縄を使ってこちらも音もたてずに茶室の萱屋根に降りた。彼らも皆、全身を装束で覆っている。

一人は大甕を背負い、一人は大団扇を持っている。

背負った大甕を降ろす。

この茶室の天窓には窓はない。雨除けの屋根が付いているだけである。

大甕を逆さにし、底に開けた空気穴を今や蓋となった底部分を取り除き開放する。

甕を二人掛かりで支え天窓に向ける。あとは団扇役が音も気配も消し仰いでいくだけだ。

甕が空になったかどうかは、足と口を縛った鼠を時折甕に入れて確認する。鼠が動くうちはまだ鬼煙が入ってるというサインだ。

三刻(45分)ほど経った頃だろうか、茶室から声がした。

それまでも話声はしていたが、初めて聞く声だ。茶頭・利休だろう。

『今宵は、硫黄の香りが強うございますな』

どうやら、鬼煙が室内の者の元に到達したようだ。

幸いなのは、ここ箱根湯本も温泉街であるということだ。なので硫黄臭がすること自体は決して異常事態ではない。

『そうであるか!』

これは、天下人の声か。やはり、既にヒ素中毒を発症しているのか利休程臭覚は良くないようだ。

空の甕を背負って丘まで戻り、二つ目の甕の投下作業を開始した。

それから、更に二刻(30分)ほどした時、突然、叫び声が聞こえた。

『利休殿!どうなされた!』

どうやら茶頭が倒れたようだ。

『殿下!殿下!』という声も聞こえる。どうやら天下人も意識がないらしい。

残るは三人。このまま作戦続行と思った矢先、

躙り口に激突音が響いた。誰かが外に出ようとしたのだろうがこれは悪手だ。

鬼煙は下に溜まるので躙り口に頭を下げただけで大量に吸い込んだことだろう。

これで、残るは二人。

『勝手口が開かない』

二人は勝手口への体当たりを敢行しだしたが、これも悪手だ。運動による呼吸の激しさは鬼煙の吸引を促進する結果となるだろう。

そして、一人がついに叫んだ。

『天窓を破壊して脱出する』

一人がなんと天窓まで飛び上がり萱を掴んで顔を外に出そうとしてきた。

倒れた者を踏み台にでもしたのだろうか?

無論、顔目掛け甕の口をぶつけ団扇で、大いに鬼煙を吸ってもらった。これは間違いなく即死だ。

だが、これで最後の一人に天窓に敵がいることがバレてしまった。

最後の一人は、袱紗で顔を覆い、茶釜を持ち上げると、天窓目掛け熱湯をぶち上げてきた。予想もしない攻撃に甕を取り落とす。

こうなったら、壺に罅を入れての投下作戦に移行である。

鉤縄を伝って鬼煙入りの壺を入れた袋を降ろしてもらう。

取り出した壺にノミで罅を入れ、投下する。

壺出役、罅入れ役、投下役 の 三人体制である。

が敵もさるもの、また熱湯をかけ上げてくる。

やがて、熱湯がなくなったのか、天窓目掛け槍で突き始めた。

茶室は武具持ち込み禁止の筈なのにどこから出したんだ槍?

投下役は不意打ちの槍に目をやられ苦悶の表情で離脱した。

もう相手にも天井のどのあたりに敵がいるかわかっているらしく、

今度は罅入れ役の足元を突き始めた。

丘から応援の投下役が降りてくる。尚、鬼煙の充満している茶室内にはもはや誰も侵入不可能である。

なので、あくまでも天窓からの投下か射撃で仕留めるしかないが、天窓は射角が狭く射撃には不向きなことが判明している。

もう音を消す意味はないので、槍除けの鎧を装備した投下役が応援に来た。

何発くらい壺を投げ込んだだろうか?

いかに、口鼻を袱紗で覆っても、目や皮膚からも鬼煙は体内に侵入する。

さしもの偉丈夫も、力付きたのだろう。程なくして、茶室からの抵抗がなくなり、辺りは静寂を取り戻した。

応援の投下役が目視した槍先の形状からして、敵の槍は掛け棹、本来は、床の間に御軸を掛ける際に使用する棹さおであることが判明した。

これでようやく全員の制圧が完了、茶室内には入れないが、出入り口封鎖役の三つ者に任務完了を告げた。

この後、一時間待って茶道口、躙り口、下窓を開放。その後、防護装束に仮面を付けた監視役が室内に潜入、死亡の有無を確認する予定だ。

だが、仮に息のある者がいたとしても、最早、拘束は容易だろう。

重伍は夜鷹を使って連絡するため、お頭が決めた「作戦成功」の符号を書き始めた。「なんとも、珍妙な符号だな」と思いつつ。

”トラ、トラ、トラ!”
(史実での小田原陥落まで、あと28日)
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