冷遇され、虐げられた王女は化け物と呼ばれた王子に恋をする

林檎

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第二章 相思相愛編

アーリヤの助言

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「リスティーナ様って、ルーファス王子が好きなのね。」

「ッ!?」

アーリヤの言葉にリスティーナはかあ、と頬を赤くした。

「あら、分かりやすい反応。警戒心が強そうに見えるけど、意外と隙だらけなのね。」

アーリヤはクスッと笑い、

「決めた。私、あなたのこと、応援するわ。」

「えっ?」

アーリヤの言葉にリスティーナは弾かれたように顔を上げた。

「言ったでしょう?私は強い男が好きだって。形式上、私はあの人の妻だけど、別に彼を慕っているというわけではないの。だから、陰ながら、応援するわ。」

「あ、ありがとうございます…。でも…、私は…、」

リスティーナは彼にこの気持ちを伝えるつもりはなかった。
だって、気持ちを伝えてしまったら、彼の傍にいられなくなるかもしれない。
リスティーナはキュッと唇を噛み締めた。

「まあ、女心は複雑よね。…詳しくは聞かないでおくわ。」

アーリヤは深く追求することはなかった。その気遣いが嬉しかった。
アーリヤ様って、とてもいい人なのね。

「どうして、そこまで必死になっているのかと思ったら、好きな男の呪いを解こうとしていたからなのね。」

アーリヤの言葉にリスティーナはポッ、と頬を染めた。

「フフッ…、素敵…。素敵だわ。とても…、」

アーリヤはホウ、と熱い息を吐きながら、うっとりと呟いた。

「アーリヤ様?」

リスティーナが不思議そうにアーリヤの名を呼ぶと、アーリヤはニコッと何事もなかったように笑った。

「あら、ごめんなさい。私ったら…。つい感動してしまって…。」

アーリヤはそっと顔を伏せ、恥じいるように扇で口元を覆った。
その時、カーラがお茶のお代わりを注ぎながら、口を挟んだ。

「アーリヤ様は昔から、恋愛小説や観劇が好きですものね。こう見えて、意外とロマンチックなのですよ。」

カーラの言葉にリスティーナは意外だなと思った。
アーリヤ様にそんな可愛らしい一面があるだなんて知らなかった。
アーリヤはパチリ、と扇を閉じて、にこやかに笑った。

「私、あなたのような好きな男の為に頑張る女の子は好きよ。思わず、応援したくなる位に。そういう事なら、私も協力するわ。」

「ほ、本当ですか!?」

リスティーナの言葉にアーリヤはええ、と頷いた。

「ただし…、私は表立って力を貸すことはできないの。この国に嫁ぐことが決まった時、ルーファス殿下とは関わるなって父から厳しく命令されてるから…。父の命令には逆らえないわ。」

アーリヤはそう言って、沈んだ表情を浮かべた。
きっと、この人も王女という立場上、色々と苦労しているのだろう。
父に逆らえないのはリスティーナだって同じだ。
娘が父親に…、ましてや一国の王の命令に逆らえる訳がない。

「アーリヤ様…。」

「私は動くことはできないけど、知識や助言を与えることはできるわ。それでもいいかしら?」

「っ、はい!勿論です!…ありがとうございます!」

リスティーナは嬉しくて、アーリヤの手を握り、満面の笑みで感謝を伝えた。
アーリヤは目を細めながら、うっとりとした表情でスルッとリスティーナの指に自分の指を絡めた。

「?あの…?」

「あら、ごめんなさい。私の手と全然違うなって思って。真っ白くて、小さな手ね。私とは全然違う…。」

言われてみれば、アーリヤの手はリスティーナよりも大きくて、日に焼けた健康的な肌をしている。
手の皮膚も固くて、剣だこのようなものができている。ん?剣だこ?

「アーリヤ様の手にあるこれは…、剣だこですか?」

「そうよ。」

アーリヤは頷いた。剣だこって騎士や兵士のような剣を握る人にできるというあの?
ということは…、

「アーリヤ様は剣を嗜んでおられるのですか?」

「ええ。少しばかりね。」

「まあ…!素敵ですね。女性で剣が扱えるなんて、格好いいです。」

リスティーナの言葉にアーリヤは目を見開いた。

「あら…。リスティーナ様って女が剣を握ることに抵抗はないタイプ?」

「そんな事ありません。女性の身でありながら、剣が使えるなんて凄い事です。私の国ではまだ男尊女卑の考えが強く残っていて…。なかなか、女性が活躍する場がないのが現状なんです。」

リスティーナは故郷に残してきたもう一人の侍女の存在を思い出す。
彼女は国に婚約者がいたので残った。天才的な剣の使い手でありながら、女であるために騎士になる事ができなかった。それでも、夢を諦めずに突き進んだ強くて勇ましい子だ。
あの子は…、アリアは元気にしているだろうか。会いたいな…。
リスティーナは寂しさを押し隠し、笑顔で言った。

「ですから、私はそういった強い女性を尊敬しています。」

「…そう。」

アーリヤは俯いて、肩を震わせた。

「アーリヤ様?どうしましたか?」

またしても、ギュッと手を握られる。ゆっくりと顔を上げたアーリヤの表情はぞくりとする色気があった。

「決めたわ…。」

低い声でぼそりと呟くアーリヤにリスティーナがキョトンと目を瞬いた。
その時、コホン、と咳払いの音が聞こえた。それは、カーラが発したものだった。
すると、アーリヤはパッと手を離し、すぐにいつものにこやかな笑顔に戻った。

「ごめんなさい。私ったら…。べたべた触ったりして…。私、この国に嫁いでからあまり親しい友達がいなくて…、私の国では女性同士でこんな風にスキンシップするのは普通だったから、寂しくてつい…。」

アーリヤがシュン、と落ち込んだ顔をするのでリスティーナは慌てた。

「い、いえ!どうぞ、お気になさらず。アーリヤ様のお気持ち、私も分かります。私も故郷に残した大切な人達の事を思い出しては寂しくなることがあるので。」

「リスティーナ様は優しいのね。…ありがとう。」

アーリヤはホッとしたように微笑んだ。
良かった。もう落ち込んでないみたい。

「そうそう。さっきの話の続きだけど…、ルーファス王子の呪いを解く方法なら、私、心当たりがあるの。」

「えっ!?本当ですか!どんな方法ですか?」

アーリヤの言葉にリスティーナは勢いよく反応した。

「光の聖女様に頼んでみるのはどう?」

「光の聖女様に?」

光の聖女。それは、光の大精霊の加護を受けた女性に与えられる特別な称号。
光の精霊に愛された聖女は光の属性を持ち、治癒魔法や浄化魔法の力に特化している。
どんな傷や怪我も触れるだけで癒してしまうのだとか。
確かに光の聖女様なら、呪いを解くことができるかもしれない。

「幸運な事に、光の聖女はローゼンハイム国の聖教会に所属している。
ルーファス王子の呪いを解くためといえば応じてくれるのではないかしら?」

「成程…!確かにそうですね!」

そんな事、思い付きもしなかった。
アーリヤ様が協力してくれて、本当に良かった。
私だったら、気付かない事をアーリヤ様は指摘してくれる。

「早速、今日の夜にでも、殿下にお話ししてみます!」

「今日の夜?…へえ。ということは、ルーファス王子は今夜、あなたの所に行くのね。」

「あ…。」

しまった。言うつもりはなかったのに嬉しくて、つい余計な事まで言ってしまった。

「仲がいいみたいで安心したわ。今夜、頑張ってね。」

アーリヤに肩を叩かれ、耳元でこそっと囁かれる。
リスティーナはボッ、と顔を赤くした。

「じゃあ、今夜はしっかりと自分を磨いて、念入りに準備しないとね。長い間、引き留めて悪いことしたわね。」

「い、いえ!とんでもありません!こちらこそ、お邪魔してしまい、申し訳ありません。」

すっかり長居してしまった。そろそろ、部屋に戻らないと…。
リスティーナは立ち上がった。
アーリヤに『呪術全書』の本も貸してもらい、リスティーナは自分の部屋に戻ることにした。

「また、分からないことがあったら、いつでも声を掛けて頂戴。」

「はい!ありがとうございます。アーリヤ様。」

リスティーナは深々と頭を下げて心から感謝した。
アーリヤはこそっと小声で囁いた。

「後、ルーファス王子と何か進展があったら、教えてね。いい報告を待っているわ。」

「は、はい…。では、失礼します。」

アーリヤの言葉にリスティーナは戸惑いながらも頷いた。
アーリヤ様が応援してくれるのは嬉しいが残念ながら、私と殿下の仲が進展するなんてことはないだろう。そう思いながら、リスティーナはアーリヤの部屋から退出した。
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