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第三章 立志編
与えられた選択肢
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サウルスの肉を使ったスープは想像していたよりも普通の味だった。出汁が効いていて、自然と食が進む。
リスティーナが作ったスープには負けるがこれはこれで美味しい。
まさか、魔獣の肉がこんなに美味しいとは…。
「お代わりあるから、たくさん食べてね。あなたはまだまだ食べ盛りだから、たくさん食べて体力をつけないと…。」
そう言って、リーはお代わりをよそってくれた。
不思議だ。ここでは、食欲が沸くし、いくらでも食べられる。
まあ、この人たち程、大量には食べられないが。
ルーファスは思わずリー達を見た。
この三人…。細いのによく食べるな。エレンもシグルドもあの串焼き何本目だろうか。スープも何杯お代わりしたのか知らないし…、あの細い体のどこに入るのだろうか。
リーも女とは思えないほど、よく食べている。
そういえば、魔力の高い人間は食欲旺盛だと聞いたことがあったな。
魔力の高さと食欲は関連しているようで魔力を使った後は空腹になってしまうのだとか。
だから、魔術師等は戦ったり、魔法を使うときはきちんと食事摂取をして、腹を満たした状態で挑むのだとか…。空腹の状態だと、本来の力を出し切ることができないらしい。
「あそこに並べてる皮や爪と牙は処分するのか?」
「いいえ。皮は加工すれば装飾品になるし、爪や牙は武器に使えるの。ルーファス。よく覚えておくといいわ。魔獣の死体は金になるのよ。あなたも魔獣を倒すときは気を付けて撃退しなさい。エレンなんて、最初は魔獣の群れを黒炎魔法で焼き尽くしてしまったせいでせっかく仕留めた魔獣を全部灰にしてしまったんだから。」
「あれが金になるとか知らなかったんだよ。」
魔獣を倒すときのコツや魔獣の処理の方法など知った所で魔物のいない平和な今の時代では何の役にも立たないだろう。そもそも、魔物がいないのだから。
内心、ルーファスはそう思ったが口には出さなかった。
とりあえず、エレンの強さが桁違いだということはよく分かった。
魔獣一匹を倒すだけでも凄いのに魔獣の群れを一人で倒してしまうなんて…。
エレンはミノタウロスを一撃で仕留めていた。あの強さを見たら、エレンの実力は本物だと認めざるを得ない。だから、魔獣の群れをエレンが一人で倒したと聞いても納得してしまう。
ルーファスは俯いた。俺もこの人達のように強かったら、リスティーナを守ることができるのに…。
この人達の傍にいるのは…、正直、息苦しい。自分の弱さを痛感してしまうから。
彼らは選ばれた人間だ。ラシードやイグアスのような…。
彼らと自分ではスタート地点がまず違うのだ。自分がどれだけ努力したところで彼らには決して追いつけない。
ずっと…、羨ましかった。ラシードやイグアスのような人間が。
健康で丈夫な体と高い魔力と美貌…。どれもルーファスにはないものだった。
だけど…、どれだけ望んでもルーファスはそれを手に入れることができない。
それが現実だった。分かっていた。だから…、求める事を最初から諦めていた。
そう思ってた。リスティーナと出会うまでは。
リスティーナと出会ったことで知ってしまった。誰かを愛おしいと思う感情を…。彼女を守りたいと思った。だけど…、自分にはその力がない。
ルーファスはずっと抑えていたものが溢れだしそうになった。
「何、しけた面をしてやがるんだ。女みたいにぐちぐち悩む暇があるなら、体でも鍛えたらどうだ?」
シグルドの言葉にルーファスはビクッとした。グッと唇を噛み締める。
「あんたに…、何がわかるんだ!」
ルーファスはずっと溜め込んでいた感情が爆発した。
「あんたみたいに強い人間は弱い俺のことなんて分からないだろう!
健康で丈夫な体も…!魔力も…!俺は何も持っていない!弱い人間はどれだけ努力しても弱いままなんだ!体なんて鍛えたところで意味がない!」
ルーファスの叫びにシグルドは黙ったままだ。
「あんたの言う通り、俺は弱い人間だ。どれだけ足掻いても、願っても…、俺はあんたのように強くなれない!あんたには一生、分からないだろうな!この苦しみも!悔しさも!だって、あんたは強いから…!生まれつき強くて、選ばれた人間のあんたには俺の気持ちなんて…!」
ルーファスが話せたのはそこまでだった。ずっと黙っていたシグルドが一歩、踏み出してルーファスに近付いたかと思ったら、次の瞬間にはルーファスの身体は吹っ飛んでいた。そのまま地面に叩きつけられる。シグルドは拳を握りしめて、佇んでいる。
そこでようやく、自分がシグルドに殴られたのだと気づいた。
「分からない…?…ふざけんな。」
シグルドは低くそう呟くと、ギロッとルーファスを睨みつけた。
「いつまで悲劇のヒロインを気取っているつもりだ!お前を見ていると、苛々する!俺とお前は違う?
ああ!そうだろうな!お前みたいな意気地なしで根性なしな男と俺が同じなものか!」
シグルドが手を翳すと、ルーファスの身体が勝手に動き、まるで引力か何かで引き寄せられるようにシグルドの元に移動する。そのままシグルドにガッと乱暴に胸元を掴まれた。
「いいか!よく聞け!どうやら、お前は盛大な勘違いをしている様だから、教えてやる!お前は俺が最初から強かったと思っているみたいだがそれは大きな間違いだ!
俺は最初から強かった訳じゃない!昔の俺は身体が弱くて、一日中ベッドの上で寝込んでいるような男だった!一人ではまともに歩けないし、車椅子がないと外も出歩けない!
働くどころか人の手を借りないと生活ができない俺は村では役立たずだと罵倒され続けてきた!」
「え…?あ、あなたが…?」
信じられない。こんなにも強い人が昔は病弱だったなんて…。
「俺は諦めなかった!何年も何年も血反吐を吐く気持ちで耐え抜いたんだ!
全部、覚えている!顔と全身に広がった黒い痣…!周りの人間から向けられる恐怖と軽蔑の眼差し!
実の親や兄弟ですらも俺を嫌悪した!村の奴らは俺を化け物と呼んだ!目も見えなくなって、手足も動かすことができなくなっていった!食べてもすぐに気持ち悪くなって戻してしまう!毎夜、悪夢で魘されるから碌に眠れやしない!体中が痛くて痛くて眠れない時もあった!何度も死にたいと願った!」
ルーファスは目を見開いた。
それは…、俺が呪いにかけられた症状と同じ…。
まさか…、この人も…?俺と同じ…?
「それでも、俺が死ななかったのはリーナがいたからだ!家族にも見捨てられて、村人から呪われた化け物だと迫害されても、リーナだけは俺のたった一人の味方でいてくれた!だから、俺は生きると決めたんだ!この呪われた運命にも抗ってみせると!それなのに…、お前はどうだ?お前の惚れた女への気持ちはそれ程度のものなのか!?」
シグルドに投げ飛ばされ、ルーファスは呻いた。
「俺が弱いといったのは力じゃなく、その弱り切った心のことを言ってんだ!自分は弱いと思い込んでいるからお前はいつまでも弱いままなんだよ!そんなんじゃ、惚れた女は守れない!男なら、惚れた女は死んでも守り抜け!」
「ッ!」
ルーファスは地面の土に爪を立てた。
「よく聞け!お前は他の人間より、知識があるかもしれない。だが、それがお前の強さを阻む壁となっているんだ!常識に囚われるな!理論上で物を語ってもそこには必ず例外が存在する!
例えばの話…、たった一人の男が城を制圧し、王族を皆殺しにする。そんなことが果たして可能なのか?
今のお前はそんなことは不可能だと考えるだろう。大体の人間はそうだ。常識的に考えて、一人の人間が大勢の騎士と魔術師が警護をしている城を攻め落とすなんてできないと考える。
けどな…。それはあくまでも常識的に考えて、だ。例外は存在する。俺がそうだ!俺はたった一人で王城に乗り込んで国王と王妃、王女の首を取って、城にいる王族と貴族を全員討ち取ってやった。」
「なっ…!あなたが一人で…?一体、どうして…?」
「理由なんてどうでもいいだろう。それより、今はお前の話だ。お前は自分が弱いと思い込んでいるだけだ。自分は呪われてるからとか、病弱だからとか、色々と理由を付けて諦めているだけだ!」
「……。」
「俺は諦めなかった。何度も何度も挑戦し続けた。だから、俺は強くなれた!それに比べて、お前は何だ!?いつまでもぐちぐちと言い訳ばかりしやがって…!」
ルーファスはシグルドの言葉が耳から離れない。
「シグルド。もうその辺で。」
シグルドを止めたのはリーだった。
リーはルーファスに向き直ると、
「ルーファス。シグルドだけがあなたと同じだった訳じゃない。エレンも私も…、同じ思いをしてきたの。」
「ッ!?あ、あなた達二人も…?だ、だが…!今のあなた達は…、」
「あなたの言いたいことは分かるわ。自分と同じなら、あの黒い紋様の傷痕がないのはどうしてだと言いたいのでしょう?私達に傷痕がないのはただ一つ…、ある条件を満たしたからよ。」
「条件…?それを満たせば呪いは解けるのか!?教えてくれ!どうすれば、俺の呪いは解けるんだ!?」
「それは…、」
リーが何かを言いかけるがその言葉を遮るようにエレンがルーファスに話しかけた。
「ルーファス。今までの君には選択肢は与えられていなかった。だけど、今の君には選択肢が与えられてる。君が選ぶのは二つだけ。」
エレンはスッと二本の指を立てた。
「強くなるか、このまま諦めて何もしない。楽な方法は明らかに後者だけど、その代償は大きいよ。
今の弱い自分を受け入れて、何もしないで諦めてもいいけど、そうすれば確実に君は死ぬ。君が生きたいと願うなら、強くなるしか道はない。」
「それはつまり…、強くなることで呪いを解くことができるということか?」
「呪い、ね…。やっぱり、あっちではそんな風に言われてるのか。」
エレンはボソッと呟いた。
…?どういう意味だ?
「強くなったからと言って、今の苦しみから逃れられるとは限らない。だけど、このまま何もしないでいるよりは生き延びる可能性はある。…で、どうする?」
何だかよく分からないが…、言いたいことは分かった。
夢の中で強くなっても意味がないとか、どうしてそこまでして強くならないといけないのかとか色々と疑問は浮かぶが、ルーファスの選ぶ道はもう決まっていた。
彼らも自分と同じように呪いで苦しんでいたと知り、光が見えた。
このまま何も果たせないまま死ぬの何て絶対に嫌だ。強くなることで生き延びることができるというのなら…、俺は強くなる道を選ぶ。
「…強く、なりたい…。俺も…、あなた達のように強く…!」
ルーファスの答えにエレンは口元に笑みを浮かべた。
「そう…。」
「教えてくれ!どうやったら、あなた達みたいに強くなれる?どうやって、そこまで強くなれたんだ?」
「大丈夫よ。ルーファス。私も初めはできなかったけど、訓練すればできるようになる。きっと、あなたも強くなれるわ。」
そう言って、リーは微笑んだ。
「強くなれるだろうか?俺も…。あなた達のように…。」
「なれるかじゃない。なるんだよ。その為にわざわざ俺達が出向いてやったんだからな。」
シグルドの言葉にルーファスは内心首を傾げた。どういう意味だ?
「僕達が君を鍛えてあげる。」
そう言って、エレンはニコッと笑った。
リスティーナが作ったスープには負けるがこれはこれで美味しい。
まさか、魔獣の肉がこんなに美味しいとは…。
「お代わりあるから、たくさん食べてね。あなたはまだまだ食べ盛りだから、たくさん食べて体力をつけないと…。」
そう言って、リーはお代わりをよそってくれた。
不思議だ。ここでは、食欲が沸くし、いくらでも食べられる。
まあ、この人たち程、大量には食べられないが。
ルーファスは思わずリー達を見た。
この三人…。細いのによく食べるな。エレンもシグルドもあの串焼き何本目だろうか。スープも何杯お代わりしたのか知らないし…、あの細い体のどこに入るのだろうか。
リーも女とは思えないほど、よく食べている。
そういえば、魔力の高い人間は食欲旺盛だと聞いたことがあったな。
魔力の高さと食欲は関連しているようで魔力を使った後は空腹になってしまうのだとか。
だから、魔術師等は戦ったり、魔法を使うときはきちんと食事摂取をして、腹を満たした状態で挑むのだとか…。空腹の状態だと、本来の力を出し切ることができないらしい。
「あそこに並べてる皮や爪と牙は処分するのか?」
「いいえ。皮は加工すれば装飾品になるし、爪や牙は武器に使えるの。ルーファス。よく覚えておくといいわ。魔獣の死体は金になるのよ。あなたも魔獣を倒すときは気を付けて撃退しなさい。エレンなんて、最初は魔獣の群れを黒炎魔法で焼き尽くしてしまったせいでせっかく仕留めた魔獣を全部灰にしてしまったんだから。」
「あれが金になるとか知らなかったんだよ。」
魔獣を倒すときのコツや魔獣の処理の方法など知った所で魔物のいない平和な今の時代では何の役にも立たないだろう。そもそも、魔物がいないのだから。
内心、ルーファスはそう思ったが口には出さなかった。
とりあえず、エレンの強さが桁違いだということはよく分かった。
魔獣一匹を倒すだけでも凄いのに魔獣の群れを一人で倒してしまうなんて…。
エレンはミノタウロスを一撃で仕留めていた。あの強さを見たら、エレンの実力は本物だと認めざるを得ない。だから、魔獣の群れをエレンが一人で倒したと聞いても納得してしまう。
ルーファスは俯いた。俺もこの人達のように強かったら、リスティーナを守ることができるのに…。
この人達の傍にいるのは…、正直、息苦しい。自分の弱さを痛感してしまうから。
彼らは選ばれた人間だ。ラシードやイグアスのような…。
彼らと自分ではスタート地点がまず違うのだ。自分がどれだけ努力したところで彼らには決して追いつけない。
ずっと…、羨ましかった。ラシードやイグアスのような人間が。
健康で丈夫な体と高い魔力と美貌…。どれもルーファスにはないものだった。
だけど…、どれだけ望んでもルーファスはそれを手に入れることができない。
それが現実だった。分かっていた。だから…、求める事を最初から諦めていた。
そう思ってた。リスティーナと出会うまでは。
リスティーナと出会ったことで知ってしまった。誰かを愛おしいと思う感情を…。彼女を守りたいと思った。だけど…、自分にはその力がない。
ルーファスはずっと抑えていたものが溢れだしそうになった。
「何、しけた面をしてやがるんだ。女みたいにぐちぐち悩む暇があるなら、体でも鍛えたらどうだ?」
シグルドの言葉にルーファスはビクッとした。グッと唇を噛み締める。
「あんたに…、何がわかるんだ!」
ルーファスはずっと溜め込んでいた感情が爆発した。
「あんたみたいに強い人間は弱い俺のことなんて分からないだろう!
健康で丈夫な体も…!魔力も…!俺は何も持っていない!弱い人間はどれだけ努力しても弱いままなんだ!体なんて鍛えたところで意味がない!」
ルーファスの叫びにシグルドは黙ったままだ。
「あんたの言う通り、俺は弱い人間だ。どれだけ足掻いても、願っても…、俺はあんたのように強くなれない!あんたには一生、分からないだろうな!この苦しみも!悔しさも!だって、あんたは強いから…!生まれつき強くて、選ばれた人間のあんたには俺の気持ちなんて…!」
ルーファスが話せたのはそこまでだった。ずっと黙っていたシグルドが一歩、踏み出してルーファスに近付いたかと思ったら、次の瞬間にはルーファスの身体は吹っ飛んでいた。そのまま地面に叩きつけられる。シグルドは拳を握りしめて、佇んでいる。
そこでようやく、自分がシグルドに殴られたのだと気づいた。
「分からない…?…ふざけんな。」
シグルドは低くそう呟くと、ギロッとルーファスを睨みつけた。
「いつまで悲劇のヒロインを気取っているつもりだ!お前を見ていると、苛々する!俺とお前は違う?
ああ!そうだろうな!お前みたいな意気地なしで根性なしな男と俺が同じなものか!」
シグルドが手を翳すと、ルーファスの身体が勝手に動き、まるで引力か何かで引き寄せられるようにシグルドの元に移動する。そのままシグルドにガッと乱暴に胸元を掴まれた。
「いいか!よく聞け!どうやら、お前は盛大な勘違いをしている様だから、教えてやる!お前は俺が最初から強かったと思っているみたいだがそれは大きな間違いだ!
俺は最初から強かった訳じゃない!昔の俺は身体が弱くて、一日中ベッドの上で寝込んでいるような男だった!一人ではまともに歩けないし、車椅子がないと外も出歩けない!
働くどころか人の手を借りないと生活ができない俺は村では役立たずだと罵倒され続けてきた!」
「え…?あ、あなたが…?」
信じられない。こんなにも強い人が昔は病弱だったなんて…。
「俺は諦めなかった!何年も何年も血反吐を吐く気持ちで耐え抜いたんだ!
全部、覚えている!顔と全身に広がった黒い痣…!周りの人間から向けられる恐怖と軽蔑の眼差し!
実の親や兄弟ですらも俺を嫌悪した!村の奴らは俺を化け物と呼んだ!目も見えなくなって、手足も動かすことができなくなっていった!食べてもすぐに気持ち悪くなって戻してしまう!毎夜、悪夢で魘されるから碌に眠れやしない!体中が痛くて痛くて眠れない時もあった!何度も死にたいと願った!」
ルーファスは目を見開いた。
それは…、俺が呪いにかけられた症状と同じ…。
まさか…、この人も…?俺と同じ…?
「それでも、俺が死ななかったのはリーナがいたからだ!家族にも見捨てられて、村人から呪われた化け物だと迫害されても、リーナだけは俺のたった一人の味方でいてくれた!だから、俺は生きると決めたんだ!この呪われた運命にも抗ってみせると!それなのに…、お前はどうだ?お前の惚れた女への気持ちはそれ程度のものなのか!?」
シグルドに投げ飛ばされ、ルーファスは呻いた。
「俺が弱いといったのは力じゃなく、その弱り切った心のことを言ってんだ!自分は弱いと思い込んでいるからお前はいつまでも弱いままなんだよ!そんなんじゃ、惚れた女は守れない!男なら、惚れた女は死んでも守り抜け!」
「ッ!」
ルーファスは地面の土に爪を立てた。
「よく聞け!お前は他の人間より、知識があるかもしれない。だが、それがお前の強さを阻む壁となっているんだ!常識に囚われるな!理論上で物を語ってもそこには必ず例外が存在する!
例えばの話…、たった一人の男が城を制圧し、王族を皆殺しにする。そんなことが果たして可能なのか?
今のお前はそんなことは不可能だと考えるだろう。大体の人間はそうだ。常識的に考えて、一人の人間が大勢の騎士と魔術師が警護をしている城を攻め落とすなんてできないと考える。
けどな…。それはあくまでも常識的に考えて、だ。例外は存在する。俺がそうだ!俺はたった一人で王城に乗り込んで国王と王妃、王女の首を取って、城にいる王族と貴族を全員討ち取ってやった。」
「なっ…!あなたが一人で…?一体、どうして…?」
「理由なんてどうでもいいだろう。それより、今はお前の話だ。お前は自分が弱いと思い込んでいるだけだ。自分は呪われてるからとか、病弱だからとか、色々と理由を付けて諦めているだけだ!」
「……。」
「俺は諦めなかった。何度も何度も挑戦し続けた。だから、俺は強くなれた!それに比べて、お前は何だ!?いつまでもぐちぐちと言い訳ばかりしやがって…!」
ルーファスはシグルドの言葉が耳から離れない。
「シグルド。もうその辺で。」
シグルドを止めたのはリーだった。
リーはルーファスに向き直ると、
「ルーファス。シグルドだけがあなたと同じだった訳じゃない。エレンも私も…、同じ思いをしてきたの。」
「ッ!?あ、あなた達二人も…?だ、だが…!今のあなた達は…、」
「あなたの言いたいことは分かるわ。自分と同じなら、あの黒い紋様の傷痕がないのはどうしてだと言いたいのでしょう?私達に傷痕がないのはただ一つ…、ある条件を満たしたからよ。」
「条件…?それを満たせば呪いは解けるのか!?教えてくれ!どうすれば、俺の呪いは解けるんだ!?」
「それは…、」
リーが何かを言いかけるがその言葉を遮るようにエレンがルーファスに話しかけた。
「ルーファス。今までの君には選択肢は与えられていなかった。だけど、今の君には選択肢が与えられてる。君が選ぶのは二つだけ。」
エレンはスッと二本の指を立てた。
「強くなるか、このまま諦めて何もしない。楽な方法は明らかに後者だけど、その代償は大きいよ。
今の弱い自分を受け入れて、何もしないで諦めてもいいけど、そうすれば確実に君は死ぬ。君が生きたいと願うなら、強くなるしか道はない。」
「それはつまり…、強くなることで呪いを解くことができるということか?」
「呪い、ね…。やっぱり、あっちではそんな風に言われてるのか。」
エレンはボソッと呟いた。
…?どういう意味だ?
「強くなったからと言って、今の苦しみから逃れられるとは限らない。だけど、このまま何もしないでいるよりは生き延びる可能性はある。…で、どうする?」
何だかよく分からないが…、言いたいことは分かった。
夢の中で強くなっても意味がないとか、どうしてそこまでして強くならないといけないのかとか色々と疑問は浮かぶが、ルーファスの選ぶ道はもう決まっていた。
彼らも自分と同じように呪いで苦しんでいたと知り、光が見えた。
このまま何も果たせないまま死ぬの何て絶対に嫌だ。強くなることで生き延びることができるというのなら…、俺は強くなる道を選ぶ。
「…強く、なりたい…。俺も…、あなた達のように強く…!」
ルーファスの答えにエレンは口元に笑みを浮かべた。
「そう…。」
「教えてくれ!どうやったら、あなた達みたいに強くなれる?どうやって、そこまで強くなれたんだ?」
「大丈夫よ。ルーファス。私も初めはできなかったけど、訓練すればできるようになる。きっと、あなたも強くなれるわ。」
そう言って、リーは微笑んだ。
「強くなれるだろうか?俺も…。あなた達のように…。」
「なれるかじゃない。なるんだよ。その為にわざわざ俺達が出向いてやったんだからな。」
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