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嫁が来た(ジークフリード)

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去年、いきなり領地から両親がやって来た。

「暫くこっちに居るから、宜しく頼む。あ~昼間は殆ど出掛けているから気にしなくて良い。じゃあ」

と言って、50近いと言うのに父は母の腰を抱き寄せると、甘い空気を纏ったまま本館の階段を登って行ってしまった。

何時もだったら、俺の顔を見るたびに

「さっさと追い出して、貴族の令嬢と結婚しろ!貴族であれば子爵でも男爵でも最早構わん!」

と言ってくるのに、それがなかった。
それどころか、機嫌が良かった。
…………諦めたのか?
いくら言っても無駄だと気付いたか?
今回だけかも知れない。
まぁ、それでも何も言われないのなら気が楽だ。
昼間に出掛けると言っていたし、顔を合わせる事もそうそう無いだろう。
領地へ帰るまでの我慢だ。


甘かった。
両親が来てから1週間後の晩餐の席で、驚くべき事を告げられた。

「お前の結婚相手が見つかった。」

「…………は?」

「お前の結婚相手が見つかった。相手の令嬢は何とダリル侯爵の娘さんだ。」

「…………は?」

ケッコン?ダレガ?オレガ?ダリルコウシャク?

暫くカチャカチャと食器の音が食堂に響いた。

「……ダリル侯爵と聞こえたのですが……?」

「言ったからな。」

「……ダリル侯爵と言えば、「鮮血の鬼神」しか知らないのですが……?」

「……「鮮血の鬼神」である軍務大臣のダリル侯爵家令嬢が、お前の相手だ。」

カチャカチャ、カチャカチャ

……コイツラ俺に死ねと言ってるのか!?

ダリル侯爵と言えば、10年前の隣国との戦争を終わらせた英雄。
愛用のハルバートの一閃で、敵兵士の首を纏めて斬り飛ばし、血飛沫の中を駆け抜ける姿から「鮮血の鬼神」と呼ばれて畏れられている。
敵兵士からは「首斬りの悪魔」だったか……。


「……次女のミリア・ネーゼ・ダリル嬢が相手だ。身体が弱いらしく社交には殆ど出ていないらしいが、会ってみたところ可憐で作法もしっかりした令嬢だった。問題無いだろう。」

……大有りだ!!

次女の方と言えば「鮮血の鬼神」が溺愛していると言う方じゃないか!?
身体が弱いってどれくらい弱いんだ?
風邪でも死にそうになるくらいか?
それで死んだら、俺も鬼神に殺されるんじゃないのか!?

……こ、断らないと!

「侯爵夫人がこの話に大変乗り気で、どんどんお話しが進んでね。春先にご令嬢の誕生日があるらしくて、その日に輿入れされる事に決まったのよ。」

「ミリア嬢の方にも確認してある。「結婚は諦めていた」らしく、喜んで嫁いでくれるそうだ。良かったな。」

…………常駐してくれる医者を探した方が良さそうだ。


月日は流れ、嫁が来る日になった。
考えれば、此方から(両親が勝手にだが)申し込んだ婚姻を、こっちから破棄するなんて事が出来る筈も無かった。
侯爵家の方から破棄して貰いたくて、令嬢には1度も会いに行かなかった。
手紙も贈り物もしなかった。
これだけでも最低な男だろう。
貴族でも平民でも。
その上、式もお披露目の夜会も無しにしても侯爵家から破棄される事は無かった。

……何故だ?

溺愛している娘の結婚だぞ?
考えている内に令嬢を乗せた馬車が着いたようだ。


入って来たのはパンチェンウェルダマスレスティングベアの子供?だった。
いや、セバスが慌てて受け取りメイドに渡している。
なんだ、ぬいぐるみか……。
良かった。
大人のパンチェンウェルダマスレスティングベアは凶暴であれの3倍は大きいと聞く。
とてもじゃないが、家では飼えない。
視線を戻せば俺の前には美少女が立っていた。
ふわりと微笑む姿は確かに可憐だ。
肢体は折れそうな程に細い。
病弱らしいから、食も細いんだろう。

「君には何も望まない。」

俺は言いたい事だけを告げた。
自分でも最低な発言だと思っているのに、少女の微笑みが深まった気がした。

……喜んでいる?

なんだ、お互い様か?
少女の母親がメイドである事を思い出した。
平民の「男」が居るのかも知れない。
何故かムカムカした胸を無視して、俺はその場を後にした。


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