オタク姫 ~100年の恋~

菱沼あゆ

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夢の中で乙女ゲームの世界っぽいところに迷い込みました

王子を見つけました

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 ああ、落ち着く。

 この匂いと空気。

 本があるだけで、いつでも何処でも、家と変わらない感じがする。

 図書室に入った朝霞は、ようやくホッとする。

 この学校の中で、唯一、安心できる場所だ。

 朝霞の家は、一家で本好きなので、家中の何処にでも本棚があって、何処にでも本がある。

 退屈したら、親の本を読んだり、兄の本を呼んだり。

 兄が先生や友だちから借りてきた本を読んだり――。

 それにしても、兄も似たような環境下なのに、あの人は疲れないのだろうかな……、
と朝霞は思う。

 そんな感じで、楽しく書架を巡っていると、怪しい本を見つけた。

 黒魔術の本だっ。

 ちょっと借りてみたいが、周囲の目が気になるな、と朝霞は思った。

 キャラが崩れる崩れない以前の問題で。

 友だちと来ているのなら、

『あらー、こんなところに黒魔術の本なんかあるよー。
 ちょっと借りてみよーっ』
とか言って、勢いで借りられるのだが。

 こそっと借りるのは、なんだか本気っぽくて恥ずかしい。

 だが、仁美も、もうひとり、この学校に来ている幼なじみも体育会系で。

 昼休みに図書室に来るようなやからではなかった。

 朝霞はまるで、レジの人に見られまいと本を隠して買おうとする男子中学生のように、藍子たちが言っていた近代文学の本と、シリーズ物の海外ミステリーの間にその本を挟んでみた。

 だが、貸し出しの列に並んだあとで、

 あっ、でも、これだと、ピッてやる人にはバレてしまうな、
と気づいたのだが、今更、列から離れるのも変だった。

 っていうか、この列、なんでこんなに長んだ?
と思ったとき、男子生徒たちがヒソヒソ話しているのが聞こえてきた。

「あれっ?
 鬼龍院朝霞きりゅういん あさかだ。

 あの子も十文字のファンなのか?」

 誰だ、十文字って、と思っているうちに、順番が来た。

 どうやら、運動部らしい体格のいい女子たちが、きゃーと言いながら、本を抱えて退いたので、朝霞は慌てて本を出す。

 そのとき、彼女らにはばまれて見えなかった図書委員の男子生徒が見えた。

 彼は無言で、本を手に取ったが、呆然と見つめているこちらに気づき、

「……なに見てんだ?」
と無愛想に言ってきた。

 ……王子だ。

 王子がブレザーの制服を着て、黒縁の眼鏡をかけて、ここにいるっ!

 夢の中で、
『お前と100年の恋に落ちてしまうだろうがっ』
とキレていた王子そっくりの男がここにいるっ!

 そう思いながらも、

「あ、いえ。
 あの――。

 何処かでお会いしませんでしたっけ?」
と慌ててごまかすように朝霞が言うと、王子は、

「お会いしてる」
と言いながら、本のバーコードをピッ、とやる。

 その手つきに朝霞は思い出していた。

「あっ、ゲー……ッ!」

 ゲー? と周りの人たちが、こちらを見た瞬間、朝霞は王子にバーコードリーダーで額を小突かれていた。

 ひいっ、朝霞姫をっ、と周囲の生徒たちが固まる。

 だが、朝霞は額を押さえながら、心の中だけで叫んでいた。

 思い出したーっ!
 この人、あのゲームソフトの店の人だっ。

 えーと。
 ああ、そう。
 十文字さんっ、と朝霞は彼の名札を確認する。

 いつも下を向きがちに商品をレジに出すので、店員さんの顔はよく見ていないのだが。

 そうそう。
 確か、そんな感じの、ゲームのキャラっぽい名前だった、と思ったあとで、朝霞は気づいた。

 この人、なんであんな遠くの店にバイトに行ってるんだろう?
 私は人に買うとこ見られたくないからだけど。

 家があの店の近くとか?

 いや、待てよ。
 そういえば、うち、基本、バイト禁止か、
と朝霞は気づく。

 バイトは基本、休み中だけで、しかも、父兄のサインと学校への届け出がいるはずだ。

 そんなことを考えていたとき、王子の顔を確かめようと身を乗り出していた朝霞の前髪をピッ、と王子がバーコードリーダーでやった。

「おっ、お前の前髪と同じ本があるぞ」
と横にあるパソコンのディスプレイを見て、王子が言う。

 ええっ、と朝霞は覗き込んだ。

「絵本だ。
 眠り姫。

 お前らしいな」
と王子はそこでようやく、ふっと笑う。

 その横顔に、どきりとしながら、朝霞は思っていた。

 私らしいですか?
 どの辺がですか?

 貴方が見ている私は本物の方ですか?

 それとも……。

 いやまあ、店でも、ピッてやってくれるだけなのに、本物も偽物もないな、と思ったあとで、朝霞は気づいた。

 っていうか、王子に、黒魔術の本、ピッてしてもらってしまいましたよ……と。

 それにしても、何故、夢の王子は、この人と同じ顔なのでしょうね――?

 そんなことを考えながら、朝霞は教室に戻った。


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